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2021年柔道ワールドツアー2つ目の「グランドスラム」、タシケント大会の開幕が5日に迫った。この大会の模様はJ SPORTSで生中継される。
今大会最大の話題はなんといっても日本代表の大量参加。女子は全7階級、男子は4階級に合計11人の代表選手が送り込まれ、このうち5名が来る東京五輪の代表選手である。この日本選手大量参加の一方で、1月にワールドマスターズ、2週間前にグランドスラム・テルアビブとビッグイベントが終わったばかりで海外勢の、特に女子の陣容は全体的に薄め。つまり今大会は日本選手の現在地の確認はもちろんのこと、何よりその強さ自体を堪能できる大会となる可能性が高い。普段海外の試合はあまり観ないというライトなファンでも感情移入しやすい、観やすい大会になるのではないだろうか。
約1年ぶりに実戦の場に出る五輪日本代表選手5名の出来が、そのまま今大会の注目ポイント。特に女子は前述の通り強豪の参加が少なく(韓国が一線級を揃えて投入して来ているがそもそもこの国の女子はここ数年全体として不調で、脅威レベルは高くない)、かなり力を出しやすい状況。つまりはこの1年間何を積んで来たかが詳らかになるということ。五輪本番に向けて見逃せないチェックポイントとなる大会である。
阿部詩選手
52kg級の若き絶対王者阿部詩は、ブランク期間の前半を心肺系のトレーニングに注ぎ込み、後半以降は実戦感覚を養うとともに、低い担ぎ技や捨身技などの新技開発にも積極的に取り組んで来たとの情報。打点の高い背負投や袖釣込腰、内股など高い軌道の技が得意な阿部が一転低く潜り込む技も使いこなすとなれば、相手にとってはまさに驚異。今大会はアモンディーヌ・ブシャー(フランス)とマイリンダ・ケルメンディ(コソボ)のライバル2人が欠場、唯一面倒な相手と目されたオデッテ・ジュッフリダ(イタリア)も阿部のエントリーを受けてか突如出場を取り消している。トーナメント内に阿部の敵になるレベルの選手はおらず、「やりたいように」戦える大会のはず。しっかり勝つことが至上命題だが、「何でも出来る」柔道を目指す阿部の戦い方がこの1年間でどう進化しているのか、その内容に注目したい。
63kg級の田代未来は優勝必須。唯一のライバルと目されるクラリス・アグベニュー(フランス)がおらず、1次エントリーの段階で姿のあったリオ五輪王者ティナ・トルステニャク(スロベニア)も先週末の田代エントリーを受けてか、週明けに出場を取り消した。田代に迫るレベルの選手はゼロ。逆に言えば取りこぼし、もっと言えば苦戦すら許されない厳しい状況ではあるが、ミッション完遂に期待したい。
70kg級の新井千鶴は、大会中断前のグランドスラム・デュッセルドルフではキャリア最高とも言えるパフォーマンスを見せて圧勝している。強気の組み手に冴えた足技、威力のある内股に手堅い寝技とついに才能完全開花の感があった。まずはあの柔道が継続出来ているかどうかに注目したい。この階級もライバル選手の影が薄く、つまりは新井の指向する柔道がストレートに表現されるはず。パワーファイター打ち揃う70kg級にあって「やりたいことをやる」ためにこの1年間体幹トレにリソースを費やし、力を蓄えて来た新井が「何をやりたいのか」がよくわかる1日になるはず。筆者個人としては、今大会の女子代表のうちもっとも楽しみなのはこの新井である。昨年1度みせた「開花」に、太鼓判を押させる大会にして欲しい。
78kg超級の世界王者・素根輝は代表内定が早かったため、この大会が1年3か月ぶりの実戦。この中断期間に各地で繰り広げた素根のハードワークは業界の語り草、目撃したものからは「凄まじい量と質」との感想が相次いでいる。視察に訪れた増地克之代表監督も「止めないとどこまでも稽古してしまう」と舌を巻いたとのこと。国際大会の様相とこの稽古ぶりを考えると、素根はこの期間で遅れをとるどころか、さらに周囲を引き離している可能性すらある。この階級も大出世のホマーヌ・ディッコ(フランス)が出場せず、イダリス・オルティス(キューバ)も素根のエントリーを受けてか出場を取り消しており、素根の勝利自体は間違いない。上背に劣る素根が、イリーナ・キンゼルスカ(アゼルバイジャン)ら大型選手に「形上優位に見える時間帯」をいかに与えずに勝つか、本人も課題にしてきたはずのこの点に注目。
永瀬貴規選手
男子唯一の五輪代表選手、2015年アスタナ世界選手権81kg級王者の永瀬貴規はこれが昨年2月のグランドスラム・デュッセルドルフ以来の実戦。膝の大怪我から復帰、ハイレベル大会5連勝を経て五輪代表権を得た永瀬であるが、実は集大成になるはずであったこの大会では躍進著しいタト・グリガラシヴィリ(ジョージア)の前に思わぬ初戦敗退を喫している。ご存じの通りグリガラシヴィリは以後も勝ちまくっていまや五輪金メダル候補に挙げられるところまで番付を上げたが、いかな永瀬といえど「初戦負け」の十字架を背負ったまま過ごす1年間は心身に堪えたはず。もちろん優勝を狙う大会だが、まずは初戦をしっかり勝ち、メダル争いに加わることで「いつもの永瀬」を取り戻すことが最大の命題と言えるのではないだろうか。ライバルは2018年の世界王者サイード・モラエイ(モンゴル)、変幻自在の柔道でもっかランキング1位のマティアス・カッス(ベルギー)、テルアビブ大会を制して絶好調のシャロフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン)。
文:古田 英毅(柔道サイト eJudo)
古田 英毅
「eJudo」編集長。国内の主要大会はほぼ全てを直接取材、レポートを執筆する。自身も柔道六段でインターハイ出場歴あり。2019年東京世界選手権から、全日本柔道連盟の場内解説者も務める。J SPORTSワールドツアー中継ではデータマンを担当。
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