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SUPER GT 第6戦:石浦宏明(No.38 ZENT CERUMO GR Supra)「色んなことが積み重なって自分たちに追い風が吹き始めた」
SUPER GT あの瞬間 by 島村 元子38号車 ZENT CERUMO GR Supra
「SUPER GT あの瞬間」と題して、レース内容をドライバー自身に振り返ってもらう本企画。一部映像化し本コラムの最終ページで視聴可能である一方、本コラムでは余すことなく全文を紹介する。
いよいよ終盤に突入する今シーズン。そんな中、厳しい戦いが続き、予想外の結果に甘んじてきたNo.38 ZENT CERUMO GR Supraが、ついにオートポリス戦で表彰台の一角を手にした。予選10位から怒涛の追い上げを見せて2位獲得。躍進の裏側には、どのようなドラマがあったのか。石浦宏明選手が戦いを振り返る。
──予選10位から見事な追い上げで2位表彰台獲得。「ようやく!」という気持ちですか?
石浦:今シーズン、なかなか厳しい戦いが続き、調子が良かったレースでタイヤが外れる(※1)など色んなことが重なりました。『これほど運が良くない年もあるんだな』と感じていたのですが、ここに来て急に追い風が吹いたようになり、『悪いときもあれば良いときもあるんだな』という感じです。
※1:第2戦富士、予選3位スタートするもレース序盤に左リヤタイヤが外れ、ピットイン。このままリタイヤに終わった。
──さすがに結果が出ないレースが続いていたので、焦りはなかったですか?
石浦:正直、かなり焦りはありました。やはりトヨタ、TRDの皆さんからもすごく期待してもらっている体制なので、当然ここまでの戦いで焦りが蓄積していくことは自然なことでした。その中で今回オートポリスに関しては、エンジン交換によるペナルティ(※2)があったので、焦っても仕方がないような逆に開き直るくらいの気持ちでした。
※2:第5戦SUGOでのトラブルにより、今回、シーズン3基目のエンジンを搭載。規則上、GT500クラスは年間使用可能なエンジンは2基であることから、決勝レース中に5秒のペナルティストップが課せられることが事前に決まっていた。
──思うようなレース展開ができないことで、ファンの皆さんをヤキモキさせたことでしょうね。
石浦:実際、色んなものに頼りたくなるほど調子が悪かったので、お祓いに行きました。(コンビを組む)立川(祐路)さんに『石浦、前厄(※3)だろ?』って言われて(苦笑)。『ちゃんと厄除けをしたのか!?』__『すみません』って……。チーフメカニックがお祓いに行ってくれたのですが、別の日に僕も同じところに行って、少しでもパワーになればなと。それくらいもう追い詰められた気持ちでいました。
※3:石浦選手は1981年生まれ、40歳。今年は前厄の年にあたる。
──エンジン交換によるペナルティが事前に決まっていた今大会に向けて、チームではどのような戦略を立てていたのですか?
石浦:今シーズンはFCY(フルコースイエロー)も導入されていますが、前回のレースでもセーフティカー(SC)が出ていたので、今回もSCが出る可能性があるという認識でした。(チームの状況としては)SCはすごくチャンスになるので、SCが出てチャンスが来たときにそれを活かして(前のクルマを)どんどん抜いていけるようなクルマや戦略にしておかないと、せっかく運が巡ってきても戦えないと意味がないと思っていました。逆に、SCが出なければ最後尾に追いつくくらいまでのところしか行けないようなビハインドになるので、”SCが出たときにどうやって這い上がっていくか”みたいな…… どちらかというと確率では低かったかもしれませんが、そこに懸けるしかないという感じでした。
ペナルティを消化してコースに戻る38号車
──一方、オートポリス戦は2年ぶり。レースでは難しい展開になることも多いと言われますが、特に意識した点は?
石浦:オートポリスはタイヤにすごく厳しいサーキットです。ただ単純に摩耗だけでなくピックアップがついてしまったりと、過去にもそういう経験がありました。以前、本山(哲)選手が乗っていた23号車が後方からスタートして逆転優勝した(※4)こともあり、そのときもタイヤがうまく機能していたんです。オートポリスならではのレースが過去にあったことや、その頃から立川さんも自分もレースに出ている経験があったので、そういうことが起こりうるオートポリスで、いかにしっかり自分たちがタイヤ性能を引き出してチェッカーまで走れるか、それができれば意外なことが起こる可能性もあると思っていました。
※4:2011年第7戦。No.23 MOTUL AUTECH GT−R(本山哲/ブノワ・トレルイエ)が予選12位から大逆転の優勝を果たしている。
──予選では、タイヤ選択がカギになりましたか?
石浦:2種類のタイヤがあるのですが、予選で前に行くためのタイヤもある中、決勝で安定して走れる__自分たちが公式練習走行の時点からしっかりと確認ができているタイヤを(予選用に)選択しました。ハンデ(サクセスウェイト)も軽かったので、このタイヤでも予選を通過するだろう思っていたのが本音です。なので、Q1で敗退したときは自分もショックでしたし、チーム全体が暗い雰囲気になってしまったので、自分としてはすごく責任も感じ、なかなか寝られないツラい夜を過ごしました。
今のSUPER GTにおける難しさは、予選シミュレーションができる練習走行の時点で予選で使わない方のタイヤでしか走れないことなんです。自分もそこでアタック(シミュレーション)をしたのですが、すごくフィーリングが良かったものの、予選ではまた違ったタイヤで行くので……。そこでどうセッティングが変わるのかは想像の世界でしかなかったのですが、正直自分も予選は通るだろうと思っていたのにまさか(敗退)……だったので。決勝がああいう形で良かったので元気になりましたけど(苦笑)、元気を失っていたのが正直なところです。
──コンビを組む立川選手とは、予選後どういう話になりましたか?
石浦:『こんなにもなかなかうまくいかないことってあるんだなぁ』みたいなことを予選のあとにも話していて……。でも日曜日になったら自分の気持ちも切り替わっていたし、チームのメカニックさんたちもひとつひとつ丁寧にやらなきゃいけないことを確認していて、レースい向けてしっかりと準備している雰囲気が伝わってきたので、『諦めちゃいけないな』と思い直してレースに挑みました。
今シーズンから体制が変わったのですが、どうしても噛み合うまでには時間がかかると思うんです。その中で(新たに就任したチーフエンジニアの田中)耕太郎さんはベテランなので、どんなときでも落ち着いてやってくれていますし、メカニックひとりひとりの動きにも目を配り、全員に指示を出してくれます。成績が出ていないときでも焦ることなくやってくれることでみんな落ち着いていたし、次に向けてどう活かしていくのがいいのか、ということをひとつひとつ積み重ねている感じでした。夏以降、新しい体制が少しずつ機能しはじめているなということをチーム全員が感じていたし、その中でやっと結果がついてきたというところですね。
──事前に決まっていたペナルティをタイミング良く消化し、その後はFCY(フルコースイエロー)やSC(セーフティカー)の導入などもあり、結果的に他車とのギャップを最小限に留める形になりました。外的要因による追い風をうまく味方につけることができたと思いますか?
石浦:オフィシャルから、自分たちにペナルティストップの指示が出されたタイミングと、GT300クラス車両のクラッシュ(※5)した映像がほぼ同時みたいな感じだったので、ペナルティの消化が間に合うかどうかチームとしても際どいタイミングになりました。これが本当に消化できれば大チャンスになるし、ピットクローズドになれば自分たちだけが取り残されてしまう。その数十秒に大きな分かれ目があったので、『なんとかお願いします!』という気持ちで祈っていたら、ピットストップペナルティ5秒を終えてちょうどピットから出ていった直後、FCYからSCに切り替わり……そこでピットがクローズドになったわけですが、そのタイミングと僅差だったので、これは急に追い風にかわったぞと。
あのタイミングで僕らがピットに入れるかどうかは、その前にペナルティを出されたクルマたち(No.14 ENEOS X PRIME GR Supra、No.37 KeePer TOM’S GR Supraの2台が同じペナルティを先に消化)がすぐに入ってくれるかどうかでもあり、それ次第で自分たちの運命が変わっていたので、急に『色んなことが積み重なって自分たちに追い風が吹き始めたぞ』という感じがしました。『運が悪かったのは、もう終わったかな』みたいに思いましたね。
※5:8周目、第1ヘアピンでNo.22 アールキューズ AMG GT3によるクラッシュが発生した。
──ルーティンのピットインは28周終わり。これは予定どおりですか?
石浦:セーフティカー(走行)中にピットウィンドウが開いたので、SC明けに(ピットへ)入るかそれとももう少し引っ張る(タイミングを遅くする)かがチームに判断が求められました。結構な台数がSC明けと同時に入ったので、あえて次のGT300クラスの集団まで追いつくところまでクリアで走れそうだったので、数周引っ張りました。ただ、戦略としてはあまりうまくいかなくて。実際、ピットから出たときには最後尾に落ちていたので、タイミング自体は完璧ではなかったですね。
──とはいえ、それが石浦選手の「オーバーテイクショー」の始まりでもありました。このときのクルマの様子は?
石浦:クルマのフィーリングはすごく良かったです。ただ、自分たちが速いという感覚はさほど持っていませんでした。ところが急に前に何台もクルマが見えてきて……。公式練習でのペースでまったく走れていないクルマたちが目に飛び込んできたんです。タイヤ含め、困っているというか何かしら問題を抱えているクルマが何台もいるんだな、ということをすぐ認識できました。そういうクルマたちに引っかかるクルマも出てくるので、そのクルマをうまく自分たちがかき分けていけたら、大きくジャンプアップできるチャンスはあるとすぐにわかったので、とにかく1周でも早く1台でも多く自分が引っかからずにかき分けていくことができれば、もっと前の集団まで行けると思いました。
なるべくロスせず抜いて行こうと思い……ちょうど遅いペースに引っかかっているクルマを抜くときには結構チャンスがあるんです。相手も前に引っかかっているので本来のパフォーマンスで走れない。そこに追いつくので、うまくGT300クラスの車両が絡む瞬間を突けば、オーバーテイクするチャンスが作りやすいのでそこを狙うべく、頭をフル回転させてがんばっていました。
次々にオーバーテイクしていった石浦選手
──次々うまく抜くことができて、気持ちも高揚したのでは?
石浦:たまたま前のクルマを抜きたいときに、最終コーナーでGT300クラスの車両に引っかかることが多かったんです。そこで、自分はあえて大きく間を離しました。抜きたい相手はその前のクルマに詰まっているので、一度離してから加速していくとこちらはストレートでスピードが伸びるので、抜けるということが何度かありました。逆に自分だけ引っかかるパターンが少なく、『今週はツイているぞ!』という感覚でした。それをうまく利用できましたが、抜く過程で、自分と同じくらい調子がいいクルマ__3号車(CRAFTSPORTS MOTUL GT−R)がいて、単独で走っているペースがすごく速そうだったので、その調子がいいクルマ(3号車)も序盤のうちにパスできたのは、最後の成績に大きく影響したと思うので、うまくいったと思います。
──順調にポジションアップする中、終盤に向けてチームとどういうやりとりをしていましたか?
石浦:7位、6位とポジションが上がる中、集中して走っていることもあり、チームとはあまりコミュニケーションがありませんでした。淡々と走っていて、その時のポジションが何番手かよくわからずにひたすら前のクルマを抜くことに集中して走っていました。その集団を抜けたあと、『前に誰もいないけど、誰がいますか?』って聞いたら、『1号車(STANLEY NSX−GT)まで7秒。でもペースがいいから追いつけるよ』と言われて。
そのあとの情報で、『2番手集団(No.64 Modulo NSX−GTを筆頭に、No.39 DENSO KOBELCO SARD GR Supra、No.23 MOTUL AUTECH GT−R、1号車が競っていた)のペースが落ちてきているので、もしかしたらすごく上まで行けるかもしれないぞ』と耕太郎さんに言われて。そこでまた”ヤル気スイッチ”が入りましたね。『表彰台も行けるってこと!?』とまたそこから集中してペースを上げてきました。
──狙っていたとおりのレース展開となり、2位表彰台を獲得。大きな成果といえますね。
石浦:レースではタイヤのピックアップしにくい状態で走れたので、オーバーテイクができて、2位まで上がっていくこともできました。これは、それができるタイヤとクルマのセットアップになっていたということがすべてだと思います。すごく意識はしていたことですが、それが完璧に出来上がっているかどうかはレースをしてみないとわからない部分もありました。結果、狙ったとおりになっていたのはエンジニア含め、ブリヂストンさんの助言もあったし、そういう力が合わさった上でのパフォーマンスだったと思います。
表彰台で手を振る石浦宏明選手(最左)
──レースを終え、ともに健闘した立川選手とまずどんな話をしたのでしょうか?
石浦:『おいおい、俺、(スーツから)着替えていたのにさぁ……表彰台に上がりそうになったから、慌ててレーシングスーツに着替えてきたよ』って立川さんが(笑)。実はコレ、(レース後半で)追い上げて表彰台に乗るときの(チーム内での)”定番”(の会話)なんですけどね(笑)。立川さんは(スティントが終わると)着替えてお弁当を食べながら僕が走っているのを観ているので、”お決まりの挨拶”なんです。『急に表彰台まで上がるからさぁ』っていう会話でしたが、久しぶりにそんな会話ができて嬉しかったです。
──あらためて、今回の戦いのターニングポイントはどこにあったと思いますか?
石浦:やはりSCですね。あれが最初に出ていなければ、抜いていたとしてもポイント圏内に届くかどうかだと思います。事前にもわかっていましたが、(ペナルティのピットストップで)5秒止まるということは、ピット(イン/アウトのタイム)ロスと合わせると30秒以上を失ってしまいます。レースでの自分のスティントは30数周しかないので、それを1周1秒くらい速く走ったとしても、最後尾に追いつくくらいのイメージなので、SCが出てなければ表彰台は多分なかったと思います。
──何度もレース中に披露したオーバーテイクですが、自分の中で印象に残っているのはどのシーンですか?
石浦:1コーナーで勝負することが多く、インから抜いたりアウトから抜いたり、色んなパターンがありました。17号車(Astemo NSX−GT)と14号車(ENEOS X PRIME GR Supra)を抜いたときは、まとめて2台をオーバーテイクしたので自分としてはすごく気持ち良かったですね。あとは、最後に表彰台が見えているときは、より前へ前へ……という気持ちがあるので、(53周目に)64号車(Modulo NSX−GT)を抜いたときは(第2ヘアピン先、通称)”ジェットコースター(・ストレート)”の下りで外から抜きました。
普通は抜くようなコーナーじゃないんですが、とにかく1周でも無駄にしたくないので無理くりねじ込んでいった感じでした。ちょっとリスクはありましたが、自分の中ではうまくコントロールできていたので思い切っていったので、そこでもし64号車を抜いていなければ、(54周目に)23号車(MOTUL AUTECH GT−R)が失速したタイミングで前に出られていなかったし、後々まで色んなことに影響していたと思うので、いいテンポで抜けたことが2位へ繋がったと考えると、それが良かったのかなと思います。
残り2戦で優勝を目指す
──待ちわびた結果を手に、迎える残り2戦。ズバリ目標は?
石浦:今回結果が残り、これをいいチャンスにしていかなければいけないのですが、オートポリスで戦略なども含め、決して完璧だったわけではありません。まだまだ残された課題もあるので、そういうところも含めて全部まとめていくことができれば、残り2戦で優勝争いができると思っています。次のレースでは規則で(サクセス)ウェイトが(第6戦の)半分になりますが、自分たちはオートポリスのとき(22kg)とそんなに変わらないウェイト(26kg)でいけるので、そういう意味でもクルマのバランスもわかっているし、そのメリットを活かしたいですね。また、(車両開発やチームへの技術支援を行う)TRDの人たちも苦しみながらもいろいろ対策してくれて、3基目のエンジンもいい性能を出してくれています。去年は最高位が2位だったので、こういう武器を活かしながらなんとしても残り2回で優勝したいと思います。
──最後に、この企画恒例の今日あった”ちょとした幸せ”を教えてください。
石浦:コロナが収まってきて、色んな仕事が始まり急に忙しくなり……最近は休みなく出張などで色んなところに行ってました。今日は久しぶりに午前中で帰ってきて、さっき娘たちの幼稚園のお迎えに行けたんです。何ヶ月ぶりかに(迎えに)行って手をつないで帰ってきたのですが、『あぁ、なんかいいなぁ』と久しぶりに小さな幸せを感じました。娘3人はレースにまったく興味がないので、子どもたちと遊んでいると一切レースを忘れて気持ちの切り替えもできるしレースと違う気持ちになれてリフレッシュできるので、いいですね。
この前のレースでは、表彰式が始まってから『パパ、出てるよ』と言われて、うわぁ〜って声を上げてそこだけ見てたらしいんですが、レース中は全然観てなくて、興味もないみたいで(苦笑)。赤いクルマだっていうのはわかっていても、23号車と38号車の違いはあまりわかってないっていう程度ですね(笑)。
【SUPER GT あの瞬間】
第6戦:石浦宏明選手(No.38 ZENT CERUMO GR Supra)
文:島村元子
島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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