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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
群馬を二分する強豪同士の"新・群馬クラシコ"がなんと3回戦で実現。県7連覇を狙う前橋育英と、7年ぶりの頂点を目指す桐生第一の激突は、太田市運動公園サッカー・ラグビー場です。
この6年間で3度の埼玉スタジアム2002の選手権ファイナルへ進出。以前にも増して全国的な強豪としての地位を固めつつある前橋育英。ヴィッセル神戸内定の櫻井辰徳(3年・東松山ペレーニア)を擁し、例年通り注目を集めている今大会も、初戦で桐生西を20-0の大差で下すと、2回戦で当たった伊勢崎商業も4-1で退け、このビッグマッチへ。「選手権はしっかり結果を残さないといけないし、育英は圧倒的な力で勝たないとダメだと思っています」とはセンターバックの稲村隼翔(3年・FC東京U-15深川)。7連覇へ向けて、第一関門であり、最大の関門に立ち向かいます。
この6年間の選手権予選で育英に敗れる事、5回。若月大和(FCシオン/スイス)が在籍していた昨年度も準決勝で0-1と屈するなど、肝心な所でタイガー軍団に敗退を突き付けられてきた桐生第一。今大会の初戦となった先週の2回戦では、高崎商科大附属を19-0と圧倒して、待ち望んでいたこの一戦へ。「高校に入学した時から『育英に勝つ』と自分に言い聞かせてやってきました」と入澤祥真(3年・前橋SCジュニアユース)が話せば、「組み合わせが決まった最初は、正直『マジか』みたいになりましたけど、たぶん相手も思っていることは一緒だろうと思ったので、この一戦に調整して臨めました」とはキャプテンの落合遥斗(3年・前橋SCジュニアユース)。このチームで学んできたことの全てをぶつける覚悟は整っています。県総体、高校総体と開催がなかったため、共に早期敗退を強いられた新人戦の結果が反映された、3回戦という早過ぎる両雄の頂上決戦。試合前からピッチ上へ漲る強烈な緊張感。注目の80分間は桐生第一のキックオフでスタートしました。
先にセットプレーのチャンスを掴んだのは育英。8分に櫻井のクロスから右CKを奪い、キャプテンの熊倉弘貴(3年・FCステラ)が蹴り込んだキックは、桐一のGK竹田大希(2年・前橋SCジュニアユース)がパンチングで弾き出すも、まずは育英の惜しいチャンスを経て、早くも動いたスコア。
11分に落合が倒されて獲得した桐一のFK。その落合が自ら蹴ったボールがニアを抜けると、ワンバウンドした軌道に飛び込んだ浅田陽太(2年・前橋SCジュニアユース)のシュートは、そのまま右スミのゴールネットへ吸い込まれます。「相手のストーンがゴールに寄り気味だったので、ニアに速いボールでその手前を突いて、それがうまく流れたのでゴールに繋がったと思います」とはアシストの落合。桐一が1点のリードを奪いました。
以降もゲームリズムは桐一。13分にはレフティの倉上忍(2年・前橋SCジュニアユース)が右CKを蹴り込み、DFのクリアに丸山琉空(2年・TFA)が合わせたヘディングはゴール右へ。14分にも相手ゴールキックのこぼれを拾った入澤が、GKを見ながら放った40mロングは枠の上に外れるも、「自分が点を決めて勝ちに導きたいという気持ちは誰よりも強かった」という9番がゴールへの意欲を。21分にも小林凌大(2年・前橋SCジュニアユース)と落合の連携で得た左CKを、落合がゴール前の密集を外して蹴り入れ、走り込んだ松尾琉雅(3年・FCジュントス)のボレーはDFにブロックされましたが、セットプレーを中心に続く桐一の攻勢。
さて、ボランチには新井悠太(3年・前橋FC)と熊倉弘貴を並べ、注目の櫻井を前線で起用した育英はなかなか攻撃のリズムが生まれず、フィニッシュの遠い展開に。加えて29分には相手との接触で負傷した新井が交替を余儀なくされ、替わって入った笠柳翼(2年・川崎チャンプ)が左サイドハーフへ、左サイドハーフでスタートした中村草太(3年・前橋FC)が前線へ、前線の櫻井がボランチにそれぞれスライドして、反撃態勢を整えます。
30分は育英。櫻井の左FKに稲村が合わせたヘディングは、竹田がしっかりキャッチ。33分は桐一。落合の右FKは、育英の右サイドバックを務める岡本一真(2年・横浜F・マリノスJY)が確実にクリア。34分は育英。熊倉弘達(3年・FCステラ)が残し、櫻井が少し運んで左足で枠へ収めたシュートは竹田がキャッチ。37分は育英。左サイドバックの相川陽葵(3年・東急Sレイエス横浜)が縦に蹴ったボールを、鈴木雄太(3年・グランセナ新潟FC)が収めてスルーパスを送り、走った中村にはわずかに届かなかったものの、少しずつ踏み込まれた育英のアクセル。
ところが、次の得点を記録したのも桐一。40+5分。左サイドでスローインの流れから、浅田が繋いだボールを入澤は胸トラップで弾ませると、そのまま左足一閃。豪快なジャンピングボレーは右スミのゴールネットへ突き刺さります。「胸トラした時点で良い所に置けたので、『ゴールはこの辺にあるんかな』みたいな感覚で打って、良い所に飛んでくれたので、それは良かったと思います」と語るストライカーの強烈な一撃。桐一が2点のアドバンテージを手にして、最初の40分間は終了しました。
後半最初の歓喜は「自分は去年から出ていて、去年の先輩たちの想いもあったので、絶対勝ってやろうと思っていました」と口にしたアンカーによって。43分。桐一が左サイドで得たCK。落合が鋭いボールを蹴り込むと、「『なんかメチャメチャフリーだな』と思って、ニアを越えて来れば絶対決められると信じて走っていました」と振り返る金沢康太(2年・FELEZA FC)はやはりまったくのフリー。「なんか自分でもちょっと怪しかったんですけど、入って良かったです(笑)」という少し当たり損ねたシュートは、ゴールネットへ転がり込みます。0-3。ライバル決戦は予想外のスコアに。
小さくないビハインドを追い掛ける育英は、45分に中村、笠柳と繋いだ流れから、鈴木がマーカーを外してシュートまで持ち込むも、ボールはバーの上へ。53分は桐一も右サイドを突破した入澤のクロスに、10番を背負う寶船月斗(2年・前橋SCジュニアユース)がシュートを打つも、育英のGK牧野虎太郎(3年・Wings U-15)が丁寧にキャッチ。57分は育英に決定機。櫻井が左へサイドチェンジを送り、交替で左サイドバックに入っていた中島修斗(3年・Forza'02)を経由して、中村のカットインシュートは竹田がファインセーブ。ゴールを許しません。
ようやく育英に上がった追撃の狼煙は60分。熊倉弘達が中央へ付けたボールを、鈴木は前を向きながら少し時間を作って絶妙のスルーパス。飛び出した中村は冷静にGKを外し、無人のゴールへシュートを流し込みます。2トップが素晴らしい連携を見せて、きっちり結果を。1-3。明らかに変わったピッチ上の空気感。
62分は育英。櫻井の右CKをセンターバックの徳永崇人(2年・FC古河)が高い打点のヘディングで残すも、シュートには至らず。65分も育英。熊倉弘達のパスから岡本が完璧なクロスをファーへ届けるも、鈴木が頭で合わせたシュートは枠の左へ。67分に桐一は1人目の交替として、スコアラーの入澤と吉田遥汰(2年・前橋FC)を入れ替え、前線からのプレス強度向上に着手しましたが、69分も育英。中島の左ロングスローから、こぼれを拾った櫻井の強烈ミドルは右ポストにヒット。「跳ね返しても、跳ね返しても、どんどん来るので、我慢強くやっていました」とは落合。残された時間は10分間とアディショナルタイム。
71分は桐一に2人目の交替。小林を下げて箱田侑汰(3年・ザスパクサツ群馬U-15)をピッチへ送り込み、中谷優太(3年・セブン能登)、丸山、箱田、倉上を並べた4バックにシフトして、取り掛かるゲームクローズ。直後に落合が蹴った右FKへ、ニアに突っ込んだ浅田のヘディングはわずかにゴール右へ逸れ、75分にも寶船のラストパスから、吉田が抜け出したドリブルは牧野の果敢なセーブに阻まれるも、4点目への意欲も鮮明に。
追い込まれた育英はストロングヘッダーの徳永を前線に残し、パワープレーも辞さない形で最後の勝負へ。76分には中島の右ロングスローから、最後は徳永が打ったシュートも枠の右へ。80分にも笠柳がライン裏へ潜るも、倉上が大きくクリア。直後に熊倉弘貴が蹴り入れた右CKも、桐一DFが大きくクリア。「『最後はゴール前』と田野先生に言われていましたし、来たボールは前にクリアすれば月斗たちが拾ってくれると信じていたので、そこは思い切ってプレーできました」とは金沢。アディショナルタイムの掲示は7分。最終盤。420秒が分ける明と暗。
80+2分は桐一。ピッチ右寄り、ゴールまで約25mのFK。「自分でも前半は飛ばし過ぎかなと思っていて、『行けるだろ』と思ったんですけど、攣るのが早かったですね」と振り返った通り、60分前後には足を攣って一度ピッチに倒れていた落合は、この時間帯で強烈なシュートを枠へ打ち込み、牧野が辛うじて触ったボールはクロスバーに弾かれましたが、圧倒的な勝利への渇望を前面に。
80+4分は育英。右サイドから岡本が懸命にクロスを上げ切ると、少し前から最前線に上がっていた稲村が頭で競り勝ち、ボールは鈴木の足元へ。鋭い反転から打ち込んだシュートは、GKを破ってゴールネットを揺らします。2-3。常に負けることの許されないタイガー軍団の執念。1点差。1点差。叫ぶベンチ。吠える選手たち。白熱のアディショナルタイム。
80+7分は育英。もはや連投でゴール前を脅かし続ける中島の右ロングスローが投げ込まれ、殺到する育英の人垣と跳ね返したい桐一の人垣が混在するも、竹田が丁寧にキャッチすると、程なくして太田の青空に吸い込まれたタイムアップのホイッスル。「桐一に入学してから育英にカップ戦で勝ったことがなかったですけど、自分たちが勝つことはイメージしていましたし、チームの雰囲気も凄く良かったので、今年は勝ってやるぞという気持ちは強かったです」と落合が話した桐一の大願成就。2-3で粘る育英を振り切って、"新・群馬クラシコ"を制する結果となりました。
とにかく熱い一戦でした。「なんか、頭が一瞬真っ白になって、『ああ、勝ったんだな』と思って嬉しかったです」という金沢の言葉が、桐一の選手たちの偽らざる想いなのではないでしょうか。加えて、「育英が相手だから自分たちのやり方を変えるのではなくて、自分たちのやり方でやりながら、相手の短所を突くというのは試合前から話していて、そこはうまくハマったかなと思います」と落合が言及したように、本来の戦い方を貫いて勝利を収めたことも、ここからの大きな自信になるはずです。
とはいえ、「自分は桐一に入学してから、育英を倒して全国に出るというのが一番の目標だったので、まず育英を倒すという目標は3年目にして達成できたことは良かったと思いますけど、まだ準々決勝に勝ち上がっただけなので」と落合が冷静に語り、「まだ3回戦に勝っただけですし、次の常盤も簡単に勝てるような相手じゃないので、しっかり気持ちを入れて、またチームでやることを徹底して、次も絶対勝ちたいと思います」と2年生の金沢も地に足の付いた言葉を口にした通り、ここからの3試合がさらなる勝負。7年ぶりの全国へ。桐一の進撃はまだまだ続きます。
もう1つだけ、育英の話を。整列するまでは涙をこらえていた櫻井が、挨拶を終えて泣きながら抱き付いたのが、スタンドから試合を見守っていた部長の大野篤生(3年・Wings U-15)でした。9月のプリンス関東で膝を負傷し、この予選の欠場が決まっていた大野は、自分にできることを全力でやりたいというスタンスの下、チームを陰から支える役割に専念していました。自身の悔しさを押し殺しつつ、泣き崩れる選手たちに声を掛ける姿は、前橋育英の部長としても、1人の男としても素晴らしい振る舞いだったことを、最後に付け加えさせてください。
土屋
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