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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
Tリーグファンにとっては3ヶ月近く待った"球春"の到来。國學院久我山と東京朝鮮のT1開幕戦はおなじみの大井ふ頭中央海浜公園スポーツの森 第二球技場です。
高校選手権の全国準優勝という大きな結果を受けて立ち上がった新チームは苦戦の連続。インターハイ予選は1次トーナメントで都立駒場に、選手権予選は初戦で帝京にそれぞれ敗退を突き付けられ、T1リーグも得失点差で成立学園に一歩及ばず2位に終わるなど、「自分に経験がなかった分、子供たちに辛い想いをさせたなと思っています。色々な意味で大変だったなという1年でしたね」と清水恭孝監督も口にしたように、厳しい1年となった昨シーズンの國學院久我山。迎えた今シーズンは既に新人戦を経験しており、「開幕戦にしては結構チームづくりが進んでいるのかなと思っています」とは新キャプテンの平田周(2年・FC東京U-15むさし)。リーグタイトル奪還に向けて、勝利のみを目指す90分間に挑みます。
リャン・ヒョンジュ、キム・テウとU-19北朝鮮代表にも選出された攻守の軸を擁し、悲願の全国出場を視野に捉えられるような力を有しながら、こちらもインターハイ予選は準々決勝で成立学園に0-3で敗れ、選手権予選は準決勝で駒澤大学高に0-4で敗れるなど、惜しい所までは勝ち進んだものの全国切符はまたもお預けとなった東京朝鮮。昨年から主力を務めているムン・インジュ(2年・埼玉朝鮮中)を10番でキャプテンに任命した今シーズンは、T1へ主戦場を置く1年に。こちらも勝利でシーズン開幕を飾りたい所です。2月の大井にはまだ冬を感じさせる冷たい北風が。楽しみな一戦は久我山のキックオフでスタートしました。
勢いよく飛び出したのは東京朝鮮。開始1分経たない内に、チャ・ガンス(2年・東京朝鮮第五中)のパスからプ・チウ(2年・東京朝鮮第五中)が放ったシュートはゴール右へ外れましたが、2分にもエリア内へ侵入したプ・チウの際どいシュートは平田がファインセーブで何とか回避。直後に右からムン・インジュが蹴ったCKも平田がキャッチしたものの、東京朝鮮がまずは手数を繰り出します。
「立ち上がりは単純に硬かったですね」と清水監督も話した久我山も4分には左サイドでFKを獲得しましたが、内田祐紀弘(2年・Forza'02)のキックに飛び込んだ宮本稜大(1年・東急SレイエスFC)はわずかに届かず。逆に5分は東京朝鮮。ハ・ジュノン(1年・東京朝鮮第一中)が左へ流し、プ・チウのクロスにキム・ヒョンジュン(1年・東京朝鮮第一中)が合わせたバックヘッドはクロスバーの上をかすめて枠外へ。あわやというシーンにどよめくスタンド。
以降も「やっぱり開幕戦の難しさが出たかなという感じ」と平田も言及した久我山はボールこそ握りながら、なかなかスイッチの入れ所を見つけ切れませんでしたが、26分に内田のフィードから井上翔太(1年・ジェファFC)が残し、永藤楓(2年・Forza'02)が叩いたシュートはクロスバーを越えるも、ようやく決定機を1つ掴むと、27分にもセンターバックの上加世田達也(2年・Forza'02)がここもフィードを狙い、抜け出した宮本のクロスは東京朝鮮のセンターバックを務めるチョン・リュンギョン(2年・東京朝鮮中)が何とかクリア。30分にもやはりセンターバックの中野英寿(2年・ジェファFC)が三たびフィードを蹴り込み、井上のパスに走った宮本がGKと交錯。こぼれを拾った永藤のシュートも枠の左へ外れてしまったものの、シンプルなフィードに見い出す攻略の糸口。
39分も久我山。右から井上が中へ付けると、スムーズなターンで前を向いた鵜生川治臣(2年・前橋JY)は思い切ったミドルを放ち、飛び付いた東京朝鮮のGKチュウ・サンホン(2年・神奈川朝鮮中)がファインセーブでわずかにコースを変えたボールは右ポスト直撃。42分は東京朝鮮。プ・チウが粘って獲得した右CKをムン・インジュが蹴り入れ、ファーでリュウ・ユウォン(2年・千葉朝鮮中)が折り返したボールはDFが懸命にクリア。45分も東京朝鮮。右からキム・ヒョンジュンがロングスローを投げ入れ、ニアでプ・チウが逸らしたボールをハ・ジュノンがシュートまで持ち込むも、ここもDFが体でブロック。「もうちょっと色々な動きがチームとしてできれば良かったですね」とは平田。トータルでやや攻守に東京朝鮮の良い所が上回った印象の45分間は、スコアレスでハーフタイムに入りました。
後半はスタートから久我山に交替が。鵜生川に替えて、「どんどん仕掛けて行って、攻撃の起点になれるようにしていこうと思っていました」という木下陽(2年・S.T.FC)をそのまま1トップ下へ投入すると、51分にはその木下が内田のスローインを受けて、そのままスルスルとエリア内をドリブルで抜け出しフィニッシュ。チュウ・サンホンもファインセーブで応酬し、宮本のボレーはDFに阻まれたものの、「シュートがあまりなかったので『自分が打とう』と思って、思い切り行きました」という木下の積極性がゲーム自体にテンポアップを。
56分は久我山。木下のパスから左サイドバックの竹浪良威(2年・FC東京U-15むさし)のミドルはゴール右へ。57分は東京朝鮮。キム・ヒョンジュンが溜めて、右サイドバックのカン・アスン(2年・東京朝鮮第五中)が上げたクロスから、リ・リョンジェ(2年・東京朝鮮第一中)が放ったワントラップボレーは枠の右へ。60分に久我山は2人目の交替。永藤を下げて、北澤快(2年・東京ヴェルディユース)をそのまま左ウイングへ送り込み、着手するサイドの推進力アップ。探り合う先制の香り。白熱の大井。
63分は東京朝鮮。右からムン・インジュがFKを蹴り込むも、竹浪が的確にクリア。65分は久我山。竹浪のパスを引き出した木下は、1人剥がしてドリブルからシュートまで打ち切るもチュウ・サンホンがキャッチ。66分は東京朝鮮。チャ・ガンスの左CKは前キャプテンの14番を引き継いだ三富嵩大(2年・横河武蔵野FC JY)がきっちりクリア。68分は久我山。竹浪の左クロスはDFに当たり、井上が頭で残したボールに宮本が走るも、カバーに戻ったチョン・ユギョン(1年・東京朝鮮第一中)が一瞬早くクリア。69分も久我山。高橋黎(1年・ジェファFC)を起点に、三富とのワンツーで北澤がエリア内へ潜るも、飛び出したチュウ・サンホンが果敢にキャッチ。「前半は真ん中にボールを入れる回数が少なかったなと思ったので、『取られても良いから中のパスをどんどん入れていかないと"らしく"ないよ』という話をした」と清水監督。高まった中央への意識。
70分の歓喜は「完全に彼で流れが今日は変わったかなと思います」と指揮官も認める後半から登場した11番によって。中央で前を向いた木下は「稜大は足が速いという特徴があるので、『うまくスピードに乗れるようにスペースに出そう』と思って早いタイミングで出しました」と絶妙のスルーパス。抜け出した宮本のシュートはチュウ・サンホンもファインセーブでストップしますが、こぼれにいち早く詰めた井上のシュートがゴールネットへ飛び込みます。「普段は凄くマジメなタイプなんですよ」と平田も言及した木下のお膳立てが見事成果に。久我山が1点のリードを奪いました。
ビハインドを負った東京朝鮮は73分に1人目の交替。チャ・ガンスに替えてホン・リジン(1年・東京朝鮮第一中)を投入すると、76分にも2人目の交替としてカン・アスンとキム・リキ(2年・神戸朝鮮中)をスイッチさせ、チョン・リュンギョンが右サイドバックへスライドし、キム・リキはセンターバックへ。76分にはホン・リジンが長いFKを蹴り込むも、平田がさすがの飛び出しからパンチングで回避。1点差のままで残された時間は10分間とアディショナルタイムへ。
80分は久我山。内田が送った縦パスから、スムーズなターンで前を向いた木下の左足シュートは枠の左へ外れるも、81分に東京朝鮮がハ・ジュノンとパク・チュンボム(1年・東京朝鮮中)を、83分に久我山が井上と澤田雄大(2年・FC多摩)をそれぞれ入れ替えると、85分にはデジャヴのようなシーンが。ここも内田が打ち込んだ縦パスを、木下は5分前より美しいターンで前へ振り向きながら、すかさずスルーパスをグサリ。反応した宮本のシュートは確実にゴールネットを揺らします。「上手いタイミングでファーストタッチができたので、ちょうど顔を上げてタイミングよく出せました。めったにできないプレーです」と笑った木下のアシストに、指揮官も「ほとんどパーフェクトだったと思います」と最高級の賛辞を。両者の点差は2点に広がりました。
何とか1点を返したい東京朝鮮も必死の反撃。87分にムン・インジュが入れた右FKにプ・チウがヘディングで飛び付くも、「パワフルでエネルギッシュな感じをチームに与えられたらいいのかなと思っています」と語るキャプテンの平田がファインセーブで仁王立ち。直後にチャ・ガンスが蹴った左CKも平田がパンチングで掻き出すと、90分にホン・リジンが蹴り込んだFKをキム・リキが頭で合わせるも、ボールはゴール右へ。どうしても久我山ゴールを陥れられません。
すると、宮本と川野裕大(2年・横浜F・マリノスJY追浜)の交替を経て、ダメ押しの一撃も11番を起点に。90+2分、ボールを運んだ木下は「相手が攻撃に意識が向いていて、スペースが空いていたので出しました」とここも完璧なスルーパス。独走状態となった三富は冷静に左スミのゴールネットへボールを送り届けます。「1年生からトップチームでやろうという目標で入学したんですけど、全然うまく行かなくて、悔しさを晴らし切るようなイメージで、『ラスト1年は絶対にチャンスが来るから頑張ろう』と思ってやっています。意識はそんなに変わっていないですけど、自信はちょっと付いたかなと思います」と口にした木下は全3ゴールに絡む大車輪のハイパフォーマンス。「苦しいゲームながらも最後に勝ち切れたのは1つ自分たちが今まで積み重ねたものが出たんじゃないかなと思います」と清水監督も語った久我山が、後半に3ゴールを奪い切って開幕勝利を手繰り寄せる結果となりました。
新チームの始動からこの開幕戦の時期までを問われ、「基本的にはインサイドキックしかやっていないです。合宿でも1時間ずっとやったりとか、止める蹴るを全体的にやっていました」と笑顔で明かした清水監督は続けて「毎年そうなんですけど、負けたからとか勝ったからとかで変わることは私たちはなくて、ただ『時間が去年よりあるよね。だから時間を掛けよう』と。技術レベルであったり、原理原則であったり、1対1の対応とかそういったものをずっと細かくやって、ベースになるモノに時間を掛けました」ときっぱり。例年以上に時間のあったこの秋と冬で、既に一定のベースアップは図れているようです。このリーグ戦に関しても「勝ち点40を目指そうと。優勝をというよりも40を目指せば優勝ラインにいるはずなので、40を目指すために一喜一憂せずに、その間のカップ戦も含めて1個1個やっていきましょうという話をしていて、それは本人たちが一番わかってくれていると思います」と指揮官は明確なスタンスを。「今年はまず東京でわかりやすい結果を絶対に残さないといけないですよね。ここまで先輩たちが何年も選手権に出て、久我山というチームをより多くの人に見てもらえるようになったので、今年自分たちが結果を残すか残さないかでまた久我山というチームの未来や存在が変わるんじゃないかなというぐらいの重要度というか、それぐらい責任のある1年かなという風に捉えています」と言葉を紡いだのは平田。ある意味で久我山にとって勝負の年となりそうな1年が、大井から幕を開けています。 土屋
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