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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
5年ぶりに復活したキリンカップのファーストマッチは欧州の強豪が激突する好バウト。ボスニア・ヘルツェゴビナとデンマークの一戦は豊田スタジアムです。
2010年のワールドカップ、2012年のEUROと共にプレーオフまで進出しながら、あと一歩という所で本大会出場を逃したものの、2014年は欧州予選を堂々突破して勇躍ブラジルへ。グループステージではイランを3-1で下し、見事にワールドカップ初勝利を手にしたボスニア・ヘルツェゴビナ。残念ながらこの夏にフランスで開催されるEUROも、アイルランドにまたしても予選プレーオフで屈する形になりましたが、「ボスニア式のサッカーを是非やりたいということで、私が初めてボスニアリーグから選んだ選手というのを試してみたかったので、今回はこのメンバーになりました」と話したのはチームを率いるメフメド・バジュダレビッチ監督。ベルギーやギリシャと鎬を削ることになるワールドカップ予選に向けてこの一戦も大事な強化の場であることは間違いありません。
2大会ぶりの出場となった2010年のワールドカップでは、本田圭佑と遠藤保仁のFK2発に沈む格好で日本に敗れ、グループリーグ敗退。その2年後のEUROも"死の組"に放り込まれ、オランダにこそ勝ったものの、ドイツとポルトガルに競り負けてやはりグループリーグ敗退。以降の2014年ワールドカップ、2016年EUROは揃って本大会出場を逸するなど、近年は少し難しい時期が続いている印象のあるデンマーク。それでも今回も招集されているクリスティアン・エリクセン(トッテナム・ホットスパー)やピエーミル・ホイビュア(FCシャルケ04/GER)など若いタレントも着実に成長を遂げている中で、ポーランドやルーマニアと同居した次のワールドカップ予選こそは勝負の大会と言っても過言ではないでしょう。欧州勢の直接対決を見ようと、日本代表戦より一足早く集まったフットボールジャンキーは14001人。"第1試合"は16時4分、デンマークのキックオフでスタートしました。
3分のファーストチャンスはデンマーク。左でボールを持ったサイドバックのリサ・ドゥーミシ(ブロンビーIF)がアーリークロスを放り込み、モアテン・ラスムッセン(オーフスGF)のヘディングはクロスバーの上に外れたものの、4分にもボスニアのGKイブラヒム・シェヒッチ(カラバグ/AZE)のキックミスを拾ったトマス・デレーニー(FCコペンハーゲン)が枠内ミドル。ここはシェヒッチが自ら責任を持ってキャッチしましたが、まずはシモン・ケアー(フェネルバフチェ/TUR)とヤニク・ベスタゴー(ベルダー・ブレーメン/GER)の両CBの間に、アンカーのアンドレアス・クリステンセン(ボルシア・メンヘングラートバッハ/GER)が落ちて、3枚でビルドアップするような形を採ったデンマークが攻勢に打って出ます。
一方のボスニアも徐々にパスワークを披露し始めると、14分にはスムーズな連携で獲得した左CKをレフティのイゼト・ハイロビッチ(エイバル/ESP)が蹴り込み、ニアに突っ込んだミラン・ジュリッチ(ACチェゼーナ/ITA)のヘディングは枠の左へ。16分にもハイロビッチが今度は左CKをマイナスに送り込み、走り込んだメドゥニャニンのダイレクトシュートはDFにブロックされたものの、4-2-3-1気味の布陣でゲームに入ったボスニアもセットプレーから窺う先制点。
ところが、そのセットプレーでスコアを動かしたのはデンマーク。22分にホイビュアのアーリークロスを相手DFがクリアミスして手にした左CK。スポットに立ったエリクセンがショートで蹴り出したボールをドゥーミシが戻すと、エリクセンは右足一閃。ニアサイドを襲ったボールはシェヒッチが懸命に弾き出しましたが、ここに詰めたケアーが左足で難なくゴールネットへ押し込みます。キャプテンマークを託されたCBが"嗅覚"で挙げた貴重な一撃。デンマークが1点のリードを奪いました。
追い掛ける展開となったボスニアも24分に惜しいシーンを。ハリス・ドゥリェビッチ(サラエボ)のパスからジュリッチの強烈な枠内ミドルは、プレミア王者が誇る守護神カスパー・シュマイケル(レスター・シティ/ENG)がファインセーブで応酬し、こぼれを拾ったオグニェン・ブラニェシュ(スポルティング・ヒホン/ESP)のアーリークロスに再度飛び込んだジュリッチのヘディングはゴール左へ外れるも、198センチの超大型ストライカーが狙う"シュマイケル破り"。31分にもハイロビッチの左CKを、エリア内でトラップしたハリス・メドゥニャニン(ハポエル・テルアビブ/ISR)のシュートはクリステンセンがタックルで回避しましたが、右のブラニェシュと左のセアド・コラシナツ(FCシャルケ04/GER)のオーバーラップも迫力の出てきたボスニアに増えていく手数。
それでも落ち着いて相手をいなしながら、逆にサイドアタックに推進力の生まれ始めたデンマークがゲームをコントロールし始めると、次の得点を記録したのも北欧のレッドバイキング。41分にエリクセンが絶妙のキープから1つタメて左へ流し、上がってきたドゥーミシが低いクロス。ニアでラスムッセンが潰れたこぼれをビクトル・フィッシャ(アヤックス/NED)は冷静にゴール左スミへ流し込みます。スタメンリストに名を連ねていたラッセ・ビベ(ブレントフォードFC/ENG)のアクシデントで、急遽キックオフからピッチに立った11番が日出ずる国で大仕事。「前半は正直言ってあまり良い内容ではなくて、相手にやられてしまいました」とバジュダレビッチ監督が話せば、「前半はこちらが良く相手に対応していたと思います」とはデンマークのオーゲ・ハーライデ監督。前半はデンマークが2点のアドバンテージを握って、最初の45分間は終了しました。
後半は両チームにスタートから交替が。リードしているデンマークは左サイドハーフのデレーニーに替えて、マイク・イエンセン(ローゼンボリBK/NOR)を右サイドハーフに送り込み、その位置にいたホイビュアが左へスライド。一方のボスニアは一気に2枚替え。ドイスボランチのスルジャン・グラホバツ(ラピッド・ウィーン/AUT)とアネル・ハジッチ(エスキセヒルスポル/TUR)を同時に下げて、アルミン・ホジッチ(ディナモ・ザグレブ・CRO)とマリオ・ブランチッチ(ダルムシュタット/GER)を投入し、1トップ下に入っていたメドゥニャニンをブランチッチとボランチに並べ、ホジッチをジュリッチの下に置いて反撃態勢を整えます。
すると、46分にはラスムッセンの決定的なシュートをシェヒッチが何とか掻き出した直後から「この後半の交替に関しては事前に考えていたもので、非常にうまく行ったと思います」とバジュダレビッチ監督も認めたボスニアが踏み込むアクセル。48分にはコラシナツ、ホジッチと繋ぎ、少しドリブルで運んだハイロビッチが右へ付けると、ブラニェシュのクロスはシュマイケルに好キャッチされたものの、鋭いサイドアタックを。49分にもメドゥニャニンのパスからドゥリェビッチが枠の右へ外れる果敢なミドルを放つなど、明らかに変わったゲームリズム。
勢いを成果に結び付けたのは52分の"ズマイェヴィ"。ホジッチを起点にハイロビッチが右へ付け、後半開始直後から再三にわたってオーバーラップを繰り返していたブラニェシュがピンポイントでクロスを上げると、ジュリッチはほぼスタンディングながら高い打点で完璧なヘディング。ボールはシュマイケルもほとんど動けず、右スミのゴールネットへ吸い込まれます。東欧のハイタワーがさすがのヘディングで追撃弾。点差はたちまち1点に縮まりました。
流れを引き戻したいデンマークは61分に2枚替え。フィッシャとホイビュアをベンチへ下げ、ラッセ・シェーネ(アヤックス/NED)とベテランのウィリアム・クビスト(FCコペンハーゲン)を投入し、中盤ダイヤモンド気味の4-4-2に近い布陣から、クリステンセンをアンカーに置き、その前に右からシェーネ、イエンセン、クビスト、エリクセンを配し、最前線にラスムッセンを頂く4-1-4-1気味の布陣で全体のバランスを整えに掛かりましたが、「後半になって我々が集中力をより高めて、フットボールの精神で戦うことができた」(バジュダレビッチ監督)ボスニアの衰えない意欲。64分には左CKをハイロビッチがショートで蹴り出し、コラシナツのミドルは大きく枠を外れたものの、65分には右のハイサイドを取ったホジッチがマイナスに折り返し、走り込んだドゥリェビッチのダイレクトシュートはわずかに枠の左へ。漂う同点の香り。
そんな中で70分にボスニアを襲ったアクシデント。デンマークはカウンターからエリクセンが左サイドを単騎で仕掛けると、対応したブラニェシュはたまらずファウル。オーストラリアのベンジャミン・ウィリアムズ主審がイエローカードを提示し、17分にも1枚もらっていたブラニェシュには続けてレッドカードが。好リズムの続いていたボスニアは残り20分近くを1人少ない10人で戦わざるを得なくなってしまいます。
しかし、「相手が1人退場になって10人になった途端にこちらの試合がおかしくなりました」とハーライデ監督も嘆いたように、むしろ攻勢を強めたのは数的不利のボスニア。73分には右サイドバックに落ちていたハイロビッチとマテオ・スシッチ(FCシェリッフ・ティラスポリ/MDA)を入れ替えると、76分にはジュリッチが倒されて獲得したFK。中央やや右、ゴールまで約20mの距離からメドゥニャニンが直接狙ったキックはカベに当たり、こぼれに反応したコラシナツのボレーは大きく枠外も惜しいチャンス。80分にもドゥリェビッチの仕掛けで奪った左FKをエリクセンが蹴り込むも、DFが何とかクリア。82分にはドゥリエビッチとミロスラフ・ステパノビッチ(ジェリェズニチャル)もスイッチして最後の勝負へ。
84分にスタンドを包んだ歓声はボスニアによって。「ボスニアの将来を背負って立つ逸材だと思います」と指揮官も名指しで期待を寄せるホジッチが右から絶妙のサイドチェンジを送ると、左サイドを駆け上がったコラシナツはマーカーをぶっちぎってマイナスにグラウンダーでクロス。やはり絶妙のコースを取って走り込んできたジュリッチが左足で押し出したボールは、鮮やかにゴールネットへ飛び込みます。ジュリッチは頭と足でドッピエッタ。「2点取り返すために非常に団結を強めて、さらに選手の個性を出すように激励しました」とバジュダレビッチ監督もしてやったり。10人のボスニアがとうとうスコアを振り出しに引き戻しました。
「なるべく引いて守ろうとしたんですけど、それがうまくいかず、ボスニアはかなりペナルティボックスの中にクロスをたくさん入れるようになってきて、それをに私たちが対応できなかった」とハーライデ監督も悔やんだデンマークは、86分にドゥーミシとピーター・アンガーセン(FCコペンハーゲン)をスイッチ。88分には右サイドバックのヘンリク・ダルスゴー(ズルテ・ヴァレヘム/BEL)がアーリークロスを放り込むも、シェヒッチが難なくキャッチ。89分にもシェーネが浮き球でラインの裏へスルーパスを落とすも、奮闘のつ続くボスニアのCBエディン・コカリッチ(メヘレン/BEL)が懸命にクリア。90+1分のチャンスもデンマーク。エリクセンの右FKをニアでクビストがフリックするも、コラシナツが大きくクリアすると、これがこのゲームのラストチャンス。双方譲らず。ファイナルへの切符はPK戦へと委ねられることになります。
思わぬエクストラタイムは集った観衆にとってもお得感満載。デンマーク1人目のラスムッセンがど真ん中に蹴り込むと、ボスニア1人目のブランチッチが右スミを狙ったキックは、シュマイケルが横っ飛びでスーパーセーブ。早くも1人目で点差が付きますが、デンマーク2人目のベスタゴーが左に蹴ったキックを今度はシェヒッチがファインセーブ。後半終了間際に投入されたボスニア2人目のラデ・クルニッチ(FCエンポリ/ITA)はGKの逆を突いて左スミへきっちり沈め、2人目を終えて1-1のタイスコアに。
デンマーク3人目のクリステンセンが中央を狙ったキックはクロスバーの上へ外れ、ボスニア3人目のホジッチが思い切り蹴ったキックもやや高くなったものの、クロスバーを叩いたボールはゴールの中へ。ボスニアが手にした1点のリード。デンマーク4人目のシェーネは左へ確実に流し込み、ボスニア4人目のステバノビッチもやや右寄りの中央へあっさりゴール。外せば終わりのデンマーク5人目はエリクセン。10番を背負うエースは落ち着いてGKとは逆の左スミへ成功。セミファイナルもいよいよクライマックス。
決めれば終わりのボスニア5人目はもちろんメドゥニャニン。「メドゥニャニン選手を下げることによって、チームに大きなものを与えてくれたと思います。特にプレーの構成というか、創り上げていくという部分で彼の役割は非常に大きかったと思います」とバジュダレビッチ監督もそのパフォーマンスに言及したキャプテンが、左に飛んだシュマイケルを尻目に中央へ蹴り込んだボールが揺らすゴールネット。ピッチに広がった蒼き歓喜の輪。2点のビハインドを10人で跳ね返し、最後はPK戦を制したボスニアが7日のファイナルへと勝ち上がる結果となりました。
「前半も後半も一連の同じ試合なのに、サッカーというのは不思議なもので、時々こちらが有利になる状況でも、それがかえって仇になってうまくいかないことがあります」とハーライデ監督も首を傾げた一戦は、5年ぶりのキリンカップ復活を祝うにふさわしいオープニングマッチになったと思います。それもやはり「スパヒッチは前回のスペイン戦でレッドカードをもらって出られませんでしたし、ジェコもスペイン戦の前半で怪我をしてしまって全治4週間ということで、残念ながら連れてくることができませんでした。ピャニッチも足首に不安を抱えていて、どうやら手術をするようなことを言っていました」と指揮官も明かした3人の絶対的な主力を欠きながらも、この90分間プラスエクストラに全力で挑んだボスニアの姿勢があったからこそ。「この試合はスペクタクルな内容だったのではないでしょうか。勝利は妥当なものだったと思います」というバジュダレビッチ監督の言葉にも頷ける、ボスニアの鮮やかな"逆転勝利"でした。 土屋
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