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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

Jリーグレポート 2016年02月22日

変化という名の継続。広島のシャドーに見る無限の可能性(FUJI XEROX SUPER CUP 2016 広島×G大阪@日産)

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この日も中盤で、時には最後方で自在にチームを操った森﨑和幸は393試合。塩谷司のクロスを完璧な嗅覚でゴールに変えた佐藤寿人は376試合。通算で4度目となるカップを横浜の空に掲げた青山敏弘は251試合。昨年のJリーグ王者としてFUJI XEROX SUPER CUPに臨んだサンフレッチェ広島のスタメンには、J1リーグ戦出場試合数を見ると三桁に届く選手がズラリと並ぶ。その中で際立つ"4試合"という数字。ただ、その"4試合"の男がリーグ連覇を狙う紫熊軍団にとってのラストピースに、堂々と名乗りを上げている。


「今年は昨年のチーム内の得点王だったドウグラスが移籍したことで、また一つポジションが空いた部分で、チームを創り直して戦わないといけない」と指揮官の森保一監督が会見でも言及したように、今シーズンの広島を語る上で得点ランク2位の21ゴールを記録し、チームのリーグ制覇に大きく貢献したドウグラスの退団は語り落とせない。今までにも高萩洋次郎、石原直樹といわゆる2シャドーのポジションを務めていた絶対的な主力が離脱してきた歴史を持つ彼らから、またもや2シャドーの一角が抜けた格好になるが、「変わらない方がやりやすさというのもあるんですけど、残念ながらウチのチームは変わっていくので」と苦笑しながら前置きした森﨑和幸は、続けて「でも、ウチはそれを前向きに捉えて、選手が変われば多少個性も変わってきますし、チームとしてやるサッカーというのは決まっているので、そこに色々な個性が入ってきて、それで毎年結果を出しているのかなと思うので、今後がまた楽しみかなと思いますね」と言い切ってみせる。事実、強化部はドウグラスの後任候補として、昨シーズンのJ1で9ゴールを叩き出したピーター・ウタカを清水エスパルスから、FIFA U-17ワールドカップの出場経験も有する宮吉拓実を京都サンガからそれぞれ獲得。シャドー問題の解決に余念がなかった。


ところが、Jリーグの球春を告げるFUJI XEROX SUPER CUPのスタメンリストに2人の名前はない。代わりに柴﨑晃誠と佐藤寿人に挟まれる格好で、その名を印刷されていたのは茶島雄介。前述した"4試合"の男であり、先発平均年齢が30歳を超えるチームでは最年少となる25番が、この重要な一戦のシャドーに森保監督から指名されたのだ。とはいえ、プレシーズンではその起用も納得のパフォーマンスを積み重ねてきている。出場した練習試合では実に4試合でゴールを奪い、その数はチーム最多。本人は「練習試合で得点を重ねていることは凄く良かったですけど、練習試合と公式戦は違うので、公式戦で早く結果を出せるようにしたいですけどね」と言及したが、プレシーズンでの好調がこの日のスタメン起用を指揮官に決断させたことは疑いようのない事実である。


予兆はあった。Jリーグ王者として挑んだ昨年末のFIFAクラブワールドカップでは、3試合に出場して3アシスト。一躍その名を全国のサッカーファンに知られることとなる。ただ、本人は「ある程度のプレーはできたと思うんですけど、点を取ることやアシストするという結果を残すという所で、最後の精度やアイデアが足りなかった」と新たな課題に直面する。「そのゴールやアシストという結果にこだわることで、プレーの精度を上げて行こうということで今年はやってきた」という意識の変化が、練習試合での得点量産に繋がり、この晴れ舞台でのスタメン獲得にも繋がった。


「前半はどちらかというと広島ペースでのんびりした感じで進んだ」とG大阪の長谷川健太監督も話した通り、両チーム合わせてシュート3本という前半はお互いに慎重な姿勢を崩さない。茶島も「ガンバとやる時は自分が出ていない時も含めて上手く守ってくるので、0-0の段階ではなかなかシャドーの所にボールが良い形で入らないことが多かった」と振り返るが、14分には右サイドでボールを持ったミキッチのスルーパスからエリア内へ侵入すると、遠藤保仁を切り返しで外して中央へ折り返す。最後は井手口陽介にカットされたものの、決定機の1つ手前まで創出すると、27分にもミキッチのパスを塩谷がダイレクトではたいたボールを、茶島はそのまま中央へ。ここもDFのカットに遭い、森﨑和幸のミドルは枠を越えてしまったが、決して多くはなかったチャンスシーンにもしっかり顔を出す。さらに2本のCKも任されるなど、一定のパフォーマンスを披露して最初の45分間を終える。


後半は一気に試合が動き出す。51分に塩谷のクロスから佐藤が先制点を奪い、57分にも途中出場の浅野拓磨がPKを豪快に沈め、広島が2点のリードを奪う。一方のG大阪も68分には阿部浩之のピンポイントクロスから、宇佐美貴史が完璧なヘディングで追撃弾。スコアが激しく揺れ動く中で、森保監督は69分に2枚目の交替を決断する。センターラインでスタンバイするのはピーター・ウタカ。既に浅野は投入されており、個人的には25という数字が交替ボードに掲示されると思っていたが、実際に掲示された数字は30。ウタカと交替したのは柴﨑だったのだ。チームは火曜日にホームで戦うことになるACLの初戦を控えており、それを見越した柴﨑の交替であることは当然考慮されるべきだが、茶島に対する森保監督からの信頼を感じると共に、彼自身もウタカとの連携を公式戦でアピールする機会を与えられることになる。


72分に2シャドーがシンクロする。最終ラインでボールを持った千葉和彦は、右サイドにパスを出すようなボディアングルから、角度を付けて中央へ縦パスを送る。「試合展開的にウチが勝っていて、相手が前に出てくるという状況になったら、絶対僕のシャドーの所は空く」と話した茶島はギャップにフリーで潜ると、スムーズなトラップで前を向きつつ、少しドリブルで運んでから強いパスを左へ。受けたウタカの強烈なシュートは東口順昭のファインセーブに阻まれたものの、カウンターの形から2シャドーだけで持ち込んだフィニッシュに、広島の新たな形への香りが漂う。結果としてこの一連で奪った連続CKの2本目を茶島が蹴り込み、「遠藤選手がちょっと触った所だったと思うんですけど、自分の頭の中にはシュートしかなかった」というウタカが鮮やかなボレーを叩き込んで、広島は4度目のFUJI XEROX SUPER CUPを獲得することとなった。


ミックスゾーンでもプレー同様に明晰な言葉を紡ぐ森﨑和幸は、ちょうど10歳年下に当たるユースの後輩について「さらに自信を深めて行っていると思いますけど、ここからがこの世界は大変だと思うので、とにかく継続して良いパフォーマンスを出してくれたら良いかなと思います。プレーに迷いがなくなったというか、遠慮なくできるようになってきましたし、自分の判断で動き出しとか出てきているので、あとは彼に足りないのはゴールかなと思いますね。まずはチームの勝利に貢献するようなプレーをしつつ、あそこのポジションというのはゴールやアシストを求められているので、チャジ自身もわかっていることだと思いますけど、毎試合出た試合で結果を出せるようになって行って欲しいですね」と期待を寄せる。「前を向いた時に良い選択ができなかったですし、最後に得点に絡むプレーができなかったので、自分的にはそんなに良くなかったと思う」とは茶島本人。『得点に絡むプレーをすること』。わかりやすいが、おそらくはアタッカーなら誰もが求め続ける永遠の課題でもある。


例えばドウグラスは徳島でも京都でもストライカーを務めていたし、ウタカだって得点を重ねることで世界各国を渡り歩いてきた生粋のストライカーだ。さらに、森﨑和幸が「晃誠も最初の頃はポジション取りとかは難しそうにやっていましたけど、やり続けることで今ではボランチの選手というよりは前目の選手という風になってきましたね」と笑ったように、柴﨑も元々はボランチの選手。ここ数年における広島の2シャドーの活躍は、「監督のマネジメントのおかげかなと思っている」とやはり森﨑和幸が口にした通り、森保監督の慧眼に拠る所が小さくない。実は茶島もそもそもユース時代や大学時代はボランチを任されていた選手だ。ある意味ではプロになってから、シャドーのポジションにコンバートされた選手だとも言える。彼にシャドーの感触を聞いてみると、「適応すればやりやすいとは思いますけど、特殊は特殊ですね。あまり自由に動いてという感じではなくて、しっかり間に立って待っているという感じですけど(笑)、だいたいこのへんだなというポジショニングは凄く大事だと思います」と話した後に、「実際に試合に出て感じを掴むという所ではだんだん慣れてきた部分はありますけど、ユースの時も同じような形でプレーしていて大枠の所ではわかっていたので、すんなりやれているとは思います」と、ユース時代から積み上げてきたシステム自体の理解度への矜持を覗かせた。


思えば昨シーズンの開幕前に、ドウグラスと柴﨑晃誠の2人がJリーグ王者のシャドーポジションを務めることになる未来を予想した人がどれだけいただろうか。そして、そのドウグラスが21ゴールを積み重ね、リーグベストイレブンに輝くことを予想した人がどれだけいただろうか。「今は1トップ2シャドーの所では3セット分ぐらいの拮抗したレベルの高いポジション争いができている。練習の中で力を見せてくれている選手が非常に多い中、スタメンを決めるのは簡単なことではない」と話す森保監督が率いる紫熊軍団へ、もし12月に再びシャーレを掲げる日が訪れるとして、その中心にまずは"5試合目"を目指す茶島を筆頭としたまだ見ぬヒーローが続々と登場していたとしても、このチームならまったく不思議はない。    


土屋

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