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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
2年ぶりか、24年ぶりか。新人戦、インターハイと県内二冠を達成している桐生第一と初の全国を狙う西邑楽のフレッシュなセミファイナルは群馬高校サッカー界の聖地・敷島です。
ここ4年は全国屈指の強豪とも言うべき前橋育英と交互に冬の全国出場権を獲得し、今や県内では2強と称されるまでに存在感を放っている桐生第一。昨年の選手権予選はこのセミファイナルで育英に完敗を喫しましたが、今シーズンは新人戦、インターハイ予選と共に育英を破って、タイトルを獲得。今大会も準々決勝では「ウチは先週死んでるんで。凄い試合で勝った気がしなかった」と田野豪一監督が話し、「自分たちも勢いに飲まれて受け身になってしまった部分があって、精神的にも身体的にもしんどかったですね」とチームキャプテンの井上翔太(3年・AZ'86東京青梅)も認めた常盤との激闘をPK戦の末に制してこのステージまで。県内三冠を手に入れるべく、まずはこの大事な80分間へ臨みます。
過去5年の選手権予選で4度のベスト16進出。2年前はベスト4まで勝ち進むなど、近年は県内でも間違いなく好チームという評価を高めている西邑楽。迎えた今シーズンは県総体のベスト16で常盤にPK戦の末に敗れ、インターハイ予選もやはりベスト16で共愛学園に0-3と完敗を喫したものの、今大会は初戦で前橋に2-1で競り勝ってベスト16の呪縛から解き放たれると、先週の共愛学園戦も押し込まれる展開を強いられながら、1点を守り切ってウノゼロで群馬4強へ。久々のファイナル進出に向けて勢いは十分です。両者は一昨年も昨年も選手権予選でも対峙しており、前者はセミファイナルで、後者はベスト16でどちらも桐生第一が勝利を収めていますが、ある意味では3年連続の対戦が実現した因縁のカード。1400人もの観衆を集めたセミファイナルは桐一のキックオフでスタートしました。
ファーストシュートは桐一。3分に右から井上がロングスローを投げると、こぼれを拾った井上の右クロスに、飛び込んだ滝沢和司(3年・リトルジャンボSC)のボレーは西邑楽のGK栗田拓実(3年・大泉FC)にキャッチされたものの、早くも決定的なシーンを創出。5分にも右から蹴った金子凌大(3年・前橋ジュニア)のFKはDFのクリアに遭いましたが、9分にも金子のパスを受けた木暮一樹(3年・前橋ジュニア)のクロスに滝沢和司が頭で合わせ、ボールは栗田にキャッチされるも、まずは「パスを動かしてランニングを増やして崩していこうという話をしていた」(一宮憲太・3年・AZ'86東京青梅)桐一がゲームリズムを掴みます。
14分も桐一。左SBの堀越零王(3年・前橋ジュニア)が裏へフィードを送り、滝沢和司が必死に走るも、西邑楽のボランチを任された石原拓実(3年・館林第一中)が良く戻ってカバーし、最後はCBの岡部令(3年・太田強戸中)が大きくクリア。18分も桐一。左から滝沢昴司(3年・リトルジャンボSC)が入れたFKは、中央でオフェンスファウルの判定。22分も桐一。井上の右ロングスローに、ニアへ走り込んだ滝沢昴司がヘディングで枠へ飛ばすも、栗田がしっかりキャッチ。スコアを動かすまでには至りません。
押し込まれる西邑楽は、それでも岡部とキャプテンの刈田遼嗣(3年・太田休泊中)のCBコンビを中心に、時には両SHの三次涼斗(3年・FCおおた)と品川優太(3年・FC邑楽)も最終ラインに組み込まれながら、懸命に高いラインをキープ。「前回の試合のビデオを見たらあまりラインコントロールはしていない感じだったんですけど、今回は合わせてきてやってきたのでちょっと戸惑いもあった」とは井上。高い集中力を携えながら、西邑楽の耐える時間が続きます。
24分も桐一。アンカーの島田祐輝(3年・坂戸ディプロマッツ)が左へ振り分け、滝沢昴司のクロスは西邑楽の左SB金子貴哉(3年・邑楽郡邑楽中)が懸命にクリア。25分も桐一。井上の右ロングスローがこぼれると、島田の左足ミドルはクロスバーの上へ。28分も桐一。金子のパスから滝沢昴司が右アーリーを放り込み、滝沢和司が走るも飛び出した栗田が果敢にキャッチ。31分も桐一。金子のパスを受けた木暮が1人外してミドルを放つも、ボールは大きく枠外へ。「差し込み方もちょっとトレーニングしてきたんだけど、あまり効果はなかったかな」と田野監督。なかなか漂わないゴールの雰囲気。
35分に突如として訪れた先制機。一宮が左からピンポイントのクロスを送り、走った井上はラインの裏へ。その井上がDFと交錯して倒れると、加藤正和主審はペナルティキックを指示。その上、倒してしまったDFにレッドカードが提示されます。PKはまだわかるとしても、明らかに厳しい一発退場の判定。西邑楽はPKを献上した上に、残り45分近い時間を10人で戦うことになってしまいます。
ところが、この絶体絶命のピンチで魅せたのは西邑楽の守護神を任されている栗田。滝沢和司が短い助走から左スミを狙うと、完全に読み切った栗田は横っ飛びでビッグセーブ。ピッチ内にこぼれたボールを井上が詰めるもDFが阻み、一宮のシュートもDFが弾き出し、何とかボールを押さえたのは栗田。どよめくスタンド。両者のスコアは変わりません。
37分は桐一。堀越のパスから島田が打ったミドルはクロスバーの上へ。39分も桐一。一宮の右CKはDFが掻き出し、熊谷立輝(3年・前橋ジュニア)のミドルはDFがブロック。40分は西邑楽のファーストシュート。橋本翼(3年・館林多々良中)のロングスローがこぼれると、金子のミドルは大きく枠を外れたものの、ようやく記録された"1本目"。40+1分は桐一。井上の右ロングスローを三次がクリアし、拾った堀越のミドルは栗田がキャッチ。「ボールは握るとは思いました。ただ、入らなかったね」と苦笑したのは田野監督。最初の40分間はスコアレスでハーフタイムに入りました。
1人少ない状況で思い切った采配を振るってきたのは西邑楽ベンチ。後半開始時の決断は何と一気に3枚替え。三次、島村昂哉(3年・FC伊勢崎境)、深野颯太(2年・邑楽郡明和中)という前線の3枚を下げて、望月涼太(3年・大泉FC)、伊藤勝哉(3年・邑楽郡板倉中)、大杉準之仁(3年・館林第一中)をそのまま揃って前線に投入し、前からのプレスと縦へのパワーアップに着手します。
48分には桐一にチャンス。木暮が左へフィードを通し、抜け出した滝沢和司のラストパスを滝沢昴司がゴールに流し込みましたが、ここはオフサイドの判定。49分には桐一も1人目の交替として熊谷と奈良勇希(3年・前橋ジュニア)を入れ替えると、53分には西邑楽も足が攣った石原に替えて、田代拳心(2年・館林第四中)の投入で使い切った4枚の交替カード。直後の右CKも桐一。一宮が鋭いボールを蹴り込み、滝沢昴司のドンピシャヘッドは左ポストを直撃。水際で踏みとどまる"東毛のデンマーク"。
58分も桐一。堀越が裏へ蹴り込み、滝沢和司が走るも全力で飛び出した栗田がきっちりクリア。直後も桐一。高い位置でボールを奪った奈良が、そのまま打ち切ったミドルは栗田がキャッチ。「負けている時やなかなか点が取れない時に1個上がるよというのは言われています」という一宮をボランチで木暮と並べ、右SBの金子をCBに、アンカーの島田を右SBへそれぞれスライドさせて、4-1-4-1から4-2-3-1へシフトした桐一ですが、掴み切れないゲームの流れ。
逆に60分には西邑楽にもチャンスの芽が。栗田が蹴ったゴールキックに最前線の伊藤が競り勝つと、望月のドリブルは大きくなってゴールキックとなりましたが、久々の相手陣内でのプレーに沸き上がる応援席。すると、62分にはこの日最大のチャンス。バイタルでボールを収めた田代のパスから、受けた武藤大征(3年・太田休泊中)は左へラストパス。開いた望月の目前で桐一のCB宇賀神裕人(3年・ウイングス鹿沼)がカットして、シュートまでは持ち込めなかったものの、わずかに見え掛けた攻撃の光明。
こじ開けたのは「今は練習から徹底している」(田野監督)クロスで。66分に左サイドへ展開した流れから、滝沢和司が後ろへ戻すと、堀越は右足でアーリークロス。ファーサイドで待っていた滝沢昴司が頭で撃ち抜いたボールは、ゴール右スミへ力強く飛び込みます。「チャンスがある中で相手の気持ちの強さというのが出て、1点が遠かった」(井上)中で10番がさすがの大仕事。とうとう桐一のスコアボードに1の数字が踊りました。
ビハインドを追い掛ける展開となった西邑楽でしたが、「たぶん今までは14と7を真ん中にしていたはずだったけど、14を1枚であとはみんな下がっていたからね」と田野監督も話したように、数的不利もあって最前線で構える伊藤へのサポートも少なく、反撃の手数を繰り出せず。逆に桐一も69分には、ルーズボールを拾った滝沢昴司のミドルがDFに当たってコースが変わるも、栗田がファインセーブで回避。72分にも井上のショートパスを奈良が落とし、滝沢昴司が叩いた決定的なシュートはわずかに枠の左へ。桐一が押し込む構図は変わらず、ゲームは最後の5分間とアディショナルタイムへ。
78分には西邑楽にセットプレーのチャンス。左から伊藤が蹴ったFKに、いち早く反応した田代はシュートを打ち切れず、再び伊藤が左アーリーを蹴り込むも、ファーに入った刈田は折り返せず。79分に滝沢昴司と松家諒(3年・AZ'86東京青梅)の交替を挟み、80+2分にその松家が放った決定的なシュートも、栗田はビッグセーブで1点差は譲らず。桐一も80+4分に井上を下げて岡野将也(3年・AZ'86東京青梅)をピッチヘ解き放ち、取り掛かる最終盤のゲームクローズ。
80+5分は西邑楽のラストチャンス。右サイドへ執念でボールを運び、伊藤が上げたクロスに望月が飛び込むも、桐一のGK休石陸(3年・前橋ジュニア)がしっかりキャッチすると、84分12秒に吹き鳴らされたタイムアップのホイッスル。「やっぱり選手権は苦しいしうまく行かないよ」と田野監督も苦笑した通り、難しい試合を突き付けられながらも桐一が最小得点差のウノゼロで勝ち切り、2年ぶりのファイナルへと勝ち上がる結果となりました。
2年ぶりの戴冠へ王手を懸けた桐一の転機は、全国に乗り込んだインターハイの2回戦。高知代表の明徳義塾に「もう全然攻撃が機能しなかったという所と、色々な緊張も含めてだろうけど9年ぶりぐらいだったので、俺も含めて初出場みたいな感じだった」と田野監督も振り返った0-4という大敗を喫し、チームは自信喪失。その直後の合宿は井上も「みんなやりたいことをやって、言いたいことを言って、グチャグチャで本当に苦しくて、どうしていいか本当にわからなかったし、あの期間は何も成長していないと思う」と相当厳しい状況だったことを回想。ただ、夏が明けると目の前のリーグ戦に集中しながら、「苦労したけど子供たちが前を向いて頑張ってくれた」(田野監督)ことで再びチームの輪は取り戻されつつあり、「今はみんな『優勝するぞ』という気持ちなので、右肩上がりに気持ちが乗っている」(井上)という所までメンタルも含めたコンディションは整ってきているようです。「インターハイで自分の中にも生徒の中にも相当後悔があるので全国は出たいね。とにかく純粋に選手権へ出たいです」と田野監督が話せば、「新チームになってから三冠を獲りたいとみんな思っていたものの、それが本当にできるかはみんなわからなかったですけど、1つずつ大会を通して、目の前の試合を戦って、新人戦を獲って、インターハイを獲って、だんだん三冠が現実に近付いてきて、みんな意識はしていると思うので、来週も全力でやるしかないです」と井上も決意を口に。苦しみながら「1試合1試合大きくなっている」(井上)桐一の全てを懸けた決戦はもう1週間後に迫っています。 土屋
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