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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
港町の地域密着型クラブが首位に立つ新鋭をホームで迎え撃つ一戦。Y.S.C.C.横浜とレノファ山口FCの初顔合わせはニッパツ三ツ沢球技場です。
Jリーグ初挑戦となった昨シーズンは試練の1年。13チーム中の13位、すなわち最下位という現実を突き付けられることになったYS横浜。気持ちも新たに臨んだ今シーズンはアウェイで戦った開幕戦の琉球戦で早くも初勝利を記録すると、ここまでは2勝2分け3敗の8位と確実に成長の跡が。ただ、ここまでニッパツでは1分け3敗といまだ勝利がなし。クラブ会員の子供の声援も多いホームの雰囲気に関して「アウェイだとない雰囲気なので、ウチらしいと言えばウチらしくていいと思います」と話したのは守護神の高橋拓也。ゴールデンウィークの真っ只中にスタジアムへ駆け付けたサポーターに、勝ち点3を届けるための90分間へ挑みます。
新しいリーグに生まれ変わったJFLで4位に入り、前身も含めればクラブ創立66年目でJリーグというステージへ辿り着いた山口。そんな"新参者"が続ける快進撃は衝撃の開幕5連勝。7節では長野の意地の前に連勝こそ止まったものの、前節の琉球戦は1-3からの大逆転劇を演じ、ホームの維新公園は熱狂の渦に。「『自分たちもできるんだ』ということを意識しながら、どんどん挑戦していって次の練習に取り組んでいる」と好調の要因を説明するのは宮城雅史。アウェイとはいえ、好調の流れをストップさせるつもりは毛頭ありません。気温は27.0度と横浜は完全な夏日に。ビール片手に観戦する方も目立つゲームは、YS横浜の選手がミニボールをスタンドに投げ入れるシーンを経て、13時ジャストにキックオフされました。
ファーストシュートは4分の山口。庄司悦大のパスから福満隆貴がミドルループにトライ。ボールはわずかにクロスバーの上へ消えたものの、いきなり惜しいシーンを創出すると、5分にも福満を起点にCBの池永航がオーバーラップから右アーリーを送り込み、J3得点ランクトップの島屋八徳が合わせたヘディングは枠の右へ外れましたが、まずは「立ち上がりは良かった」と上野展裕監督も認めたように、山口がゲームリズムを掌握します。
一方の横浜は9分、左でサイドバックの小澤光が短く付け、回った三浦雄介がクロスを送るも山口のGK一森純がキャッチ。なかなかフィニッシュまでの形を創れませんでしたが、15分を過ぎたあたりからプレスの掛け方に変化を。「立ち上がりは相手のCBに対してウチのFWがプレッシャーを掛けに行って、前から取ろうという意図があったが、相手のGKも含めたビルドアップの中でボランチを前に向かせるのが上手くて、自分たちのプレッシャーより相手のビルドアップ能力の方が高かったので、1つプレッシャーのラインを下げてボランチを自由にさせないようなプレスに変えました」とは守護神の高橋拓也。これには「相手も前から来る意識があったので、そこはもういい感じでいなせていたんですけど、相手がちょっとわかってきて下がってきてからが攻め手がなかった」と山口のCB宮城も同調。アウェイチームのボランチに制限を掛けたホームチームが、ジワジワと奪いに掛かる主導権。
20分はYS横浜に決定機。右へのシンプルな展開から友澤剛気が外へ付けると、上がってきた右サイドバックの渡邉三城は枠内シュート。ここは一森が足でのファインセーブで凌ぎましたが、厚みのあるアタックに沸いたスタンド。27分に友澤のパスを受けた三浦が右へ振り分け、「ボールを触ってナンボかなというのはある」という今季初出場の工藤由夢が上げたクロスはDFのクリアに遭うも好トライ。28分にも平間直道の左FKがゴール前を襲い、飛び込んだ宗近慧より一瞬速く一森が足で掻き出したものの、「相手がうまく前にボールが入らなくなったので、相手のCBが困っているのもわかりましたし、自分たちのゲームにちょっとずつなっていっているのもわかりました」と高橋。引き寄せたYS横浜の時間帯。
31分もYS横浜。工藤が裏へスルーパスを繰り出し、走った井上和馬のシュートはマーカーが体でブロック。32分もYS横浜。平間の左CKは一旦跳ね返されるも、工藤が残したボールを宗近が枠へ飛ばすと、ここは一森がファインセーブで回避。33分もYS横浜。渡邉の正確なフィードにセットプレーの流れで前線に残っていた宗近が頭で競り勝ち、友澤の決定的なシュートはクロスバーの上へ外れましたが、YS横浜は「奪い所がハッキリして、チームとして機能し始めた」(有馬賢二監督)流れの中、先制まであと一歩というシーンが続きます。
「最初の方は繋げていたにもかかわらず、だんだん繋げなくなっていって押し込まれていった部分が多かった」と小塚和季も振り返った山口は、33分に早くも1人目の交替を。「足首を捻挫していて、本当はもっとやれる選手ですし本人も悔しいでしょうけど、連戦も続いているということもあって」鳥養祐矢を早々に諦め、チェ・ジュヨンをそのまま右SHの位置へ送り込み、何とか反撃したい意思を早めの采配に滲ませますが、35分には「ボールに触れているイメージはあった」という工藤のラストパスから、井上がわずかに枠の左へ外れるダイレクトシュートまで。40分には山口も黒木恭平の左スローインを岸田和人がフリックで流し、福満が中央に潜りながら右へ素晴らしいパスを送るも、チェ・ジュヨンのトラップが大きくなってしまい、ボールは高橋がしっかりキャッチ。「相手の高い位置からのプレスをかわすことができなかったので我々のピンチになったと思う」とは上野監督。15分過ぎからホームチームがリズムを掴んだ前半は、スコアレスのままでハーフタイムに入りました。
勢いを持って後半に入ったのは「首位相手に自分たちのゲームができていることに自信を持つことと、試合の入りは前半と同じように球際を戦っていこうと」(高橋)ピッチへ飛び出したYS横浜。47分には三浦、井上とボールが回り、小澤の左クロスはDFがブロックしましたが、サイドアタックから良い形を。直後に平間が入れた左CKはオフェンスファウルを取られたものの、ホームでの勝ち点3獲得に燃えるYS横浜が積極的に立ち上がります。
それでも、山口は48分にフィニッシュを創出。福満が粘って繋ぎ、庄司の縦パスを島屋が落とすと、黒木のミドルはクロスバーを越えましたが、ようやくスムーズな連携からシュートまで。50分にも右から廣木雄磨が斜めにパスを打ち込み、庄司が残したボールを岸田がシュート。ボールは枠の左へ外れるも、両サイドバックが攻撃に絡み始めた山口にも反撃の色が。YS横浜も50分には10番を背負った吉田明生がGKの位置を見ながら40m近いロングを狙うも、戻った一森ががっちりキャッチ。変わり始めたゲームの潮目。
55分に小塚のパスから福満が打ち切ったシュートは宗近が体でブロックするも、山口に歓喜の瞬間が訪れたのは56分に島屋と平林輝良寛をスイッチした3分後。右サイドから黒木がFKを蹴り込むと、DFのクリアに反応したのは「ボールがちょっと悪かったのでこぼれてくる所を予測して」動いていた宮城。躊躇なく振り抜かれた右足から描かれた軌道は、ゴールネットへ一直線に突き刺さります。「アレはちょっと自分でもビックリしました。ジャストミートで言ったら、自分のサッカー人生ノミネートトップ2か3に入るくらいかなと」自身も驚くゴラッソは貴重な先制弾。59分にアウェイチームが1点のアドバンテージを手にしました。
「相手に決定機をあまり創られていない中でセットプレーから失点をした」(高橋)YS横浜。62分には友澤が右へ流したボールを、渡邉は高速グラウンダーで中央に放り込むもDFが何とかクリア。63分にはまたも渡邉のクロスから、逆サイドへ走り込んだ小澤のヘディングはクロスバーの上へ。両サイドバックがフィニッシュに絡むダイナミズムを披露するも、同点とはいきません。
すると、69分に山口を襲ったアクシデント。やや前半から苛立つことの多かった岸田が、2枚目のイエローカードを提示されてしまい退場処分に。残された20分以上を10人で戦うことになってしまいます。これを受けて「向こうが1人退場した中で、押し込んで攻撃をという形でメンバーを先に替えました」という有馬監督は一気に3枚替えを決断。井上、工藤、三浦を下げて、梅内和磨、佐々木雅人、山本真也をピッチへ解き放ち、吉田をボランチへ落としながら、梅内と佐々木を最前線に置いて勝負に出ます。
「人数が1人欠けてもやることは変わらない」(小塚)山口は、73分に4-4-1の1トップに入った福満が左サイドからカットインしながら、シュートを狙うも高橋がキャッチ。80分はYS横浜。平間がDFラインの裏へ落としたボールを、吉田が反転しながら放ったシュートは一森が丁寧にキャッチ。直後の81分には上野監督も小塚に替えて、そのままボランチへ菊本侑希を投入。残された10分あまりを潰し切ろうというメッセージを選手交替に託します。
82分はYS横浜。吉田の配球から山本が左クロスを送り、こぼれを小澤が狙ったシュートはDFがブロック。85分もYS横浜。梅内が右へ展開し、吉田のクロスはファーサイドで廣木が懸命にクリア。88分もYS横浜。梅内とのパス交換から山本が左クロスを上げ切り、友澤が潰れると走り込んだ吉田は至近距離から決定的なシュートを放ちましたが、一森が抜群の反応でファインキャッチ。「溜めて追い越していってと本当に理想の崩しだったと思う」と有馬監督も認めたものの、どうしてもゴールを陥れるまでには至りません。
右サイドを抜け出した佐々木のシュートが右サイドネット外側に突き刺さり、メインスタンドでは一瞬ゴールと判断して喜んだサポーターに落胆が広がった直後の89分には、上野監督もフィールドプレーヤー最後の交替で、福満と松本翔をスイッチして逃げ切り態勢へ。90+1分には平間のパスから友澤が蹴り入れた左クロスは一森がキャッチ。90+3分にも平間が右へボールを送り、梅内が1人を振り切って打ったシュートはDFに当たって枠の右へ。「ウチの方がチャンスを多く創っていた」(高橋)中でも縮まらないゴールへの距離。
90+3分に平間が蹴った右CKはDFのクリアに遭い、左から山本が上げたクロスも一森が確実にキャッチ。有馬監督もフィールドプレーヤーとしてラストカードの青田翔を90+4分にピッチへ解き放ちましたが、最後までゴールネットを揺らすことはできず。「守備の面では体を張って、本当に良くやってくれたと思います。チャレンジもカバーも本当に良くやってくれました」と上野監督も守備面を評価したアウェイチームの粘り勝ち。山口が首位を堅持する勝ち点3を奪い取る結果となりました。
「相手が10人になった中で1点も取れずに、勝ち点を取れないというのは本当にもったいないゲーム」と高橋が悔しそうに振り返った通り、YS横浜から見れば内容と結果が比例しないゲームだったと思います。ただ、1つの収穫は今季初出場となった工藤のパフォーマンス。「今日良かった部分はボールロストが少し減った部分だと思うんですよね。この間のゲームは奪った後にすぐボールを相手に渡してしまう部分が多過ぎて。今日はそこで収まり所が何個かできた」と有馬監督が話せば、「今日のゲームでウチの流れが良くなっていた要因は、工藤由夢が入って彼が前を向けて時間を創れた所」と高橋。当の本人も「緊張感というのはなかなか公式戦じゃないと味わえないので、久しぶりに出て『これのためにやっているんだな』というのは凄く感じました」と定位置確保への意欲は一層増した様子。背番号28が今後のYS横浜の浮沈の鍵を握ってくるかもしれません。
20分以上も数的不利を強いられた苦しい試合を何とか勝ち切り、これで7勝1敗と好成績が続いている山口。「この前の琉球戦も我々は1対3から何とか勝つことができまして、あまり内容は正直良くないですね」と上野監督は苦笑いしながらも、「今日も数的不利になってからもしっかりみんなかブロックを創って、途中から入ってきた選手が役割をしっかり理解してくれて、勝ち切ってくれたと思っています」と選手たちを称えていました。それでも、「自分たちはまだまだここが最終段階ではない」とキッパリ言い切った殊勲の決勝ゴールを叩き出した宮城は、「相手も割り切ってくるチームが出てくるので、そこでいかに崩していけるかだと思います。シーズンも長いですし、そこでやられているようでは上には行けないと思うので、上に上がるためにはそこも崩せるように、もっと練習しなくてはいけないです」とさらなるレベルアップへの意欲を口に。本州最西端から吹き続ける橙の新風の勢いは果たしてどの高みまで到達するのか、今後が非常に楽しみです。 土屋
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