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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
さらなる頂を目指すため、まず到達すべき頂は東京の一番上。首都制覇まであと1つに迫った両者が激突する舞台は、東京高校サッカー界の聖地・西が丘です。
堂々たるファイナリストは都立三鷹。後半アディショナルタイムの呪縛に囚われていたのは既に過去。東京実業。駒澤大学。修徳。今大会はいずれも昨年の西が丘を経験している難敵に対し、いずれも先制しながら猛攻にさらされる展開の中、2年分の悔しさを払拭するような粘りの守備を見せ、辿り着いたのはとうとう7年ぶりのファイナル。ここまでのコンペティションでは苦しいゲームが多く、難しいシーズンを強いられた最後の最後で咲かせた大輪。「ここまで来るとも思わなかったですし、やっぱり最後なので楽しんで、決勝も楽しんでやろうというような所ですね」と佐々木雅規監督が笑顔で話せば、「西が丘が目標だったんですけど、ここまで来れたので絶対にしっかりあと1つ勝って、全国に行きたいと思います」とはキャプテンの巽健(3年・SC相模原)。目標修正。一気に頂点まで駆け上がる覚悟はできています。
清冽なるファイナリストは堀越。昨年までコーチを務めていた佐藤実監督の就任を機に、選手の自主性を重んじた"ボトムアップ理論"を実践する中でも、チーム内の序列を取っ払うことで全員に改めて意識改革を促した結果、「自分たちもこうやって踏ん張ったら何とかなるのかなというのを色々な対戦チームに教えて頂いた」と指揮官も言及するT1リーグでの経験を糧にして着実にレベルアップ。今大会は準々決勝で2年連続ベスト4の東海大菅生に1-0で競り勝つと、先週の準決勝でも攻撃が爆発して、東京農業大第一を5-1で撃破。「自分だけじゃなくて周りの部員も、始まった当初から凄く大きくなってきているなという感じがあるので、このやり方は間違っていないなと凄く感じています」と語ったのは、チームの羅針盤とも言うべきキャプテンの石上輝(3年・練馬光が丘第二中)。23年ぶりの優勝を力強く見据えます。東京の高校生を見守り続けてきた西が丘の上空も、この舞台を祝福するかのような素晴らしい快晴。最後の1試合は堀越のキックオフでその幕が上がりました。
わずか1分2秒の衝撃。歓喜の咆哮は都立の雄。左から10番を背負う右SBの傳川祐真(3年・東村山第七中)がFKを蹴り込むと、ボールはこぼれてエリア内で混戦に。「あそこでFKを獲得したら混戦になることは予想していた」という河内健哉(3年・FC駒沢)が少し引いた位置で構えると、「本当に良い所で自分にボールが来た」瞬間を見逃さずに右足一閃。ボールは美しい軌道を描き、ゆっくりとゴールネットへ吸い込まれます。あっという間の先制劇。三鷹が早くもリードを奪います。
次なる衝撃はその1分後。3分、左サイドで巽が縦に付けたパスへ、「巽がボールを持った時は絶対に来ると思っていて、それを信じて走っていた」河内はGKと交錯しながら粘って残すと、ここに3列目から走り込んでいたのはボランチの堀田将弘(3年・FC.GIUSTI世田谷)。「流し込めばいいという感じ」で押し出したボールは、無人のゴールへ飛び込みます。本来は守備で貢献する4番が、「自分でも何であんな高い所にいたのかなと思っている」と笑った本能の一撃。たった3分間でスコアは2点差に開きました。
さて、「最初の立ち上がりで起こり得るようなことがそのまま得点に繋がった」と佐藤監督も振り返ったように、決勝の雰囲気に慣れる間もなく2点のビハインドを背負った堀越。7分には新井真汰(2年・TACサルヴァトーレ)のドリブルで獲得した左CKを田口雄大(3年・TACサルヴァトーレ)が蹴り込むも、DFがきっちりクリア。8分にも富樫草太(2年・FC町田ゼルビアJY)の縦パスから、田口が倒されて奪った右FKを湯浅麗士(3年・NOB)が入れると、ここもDFが確実にクリア。2つのセットプレーもゴールには結び付きません。
12分も堀越。吉田碧橙(3年・FC Consorte)が湯浅とのワンツーでエリア内へ侵入し、放ったシュートは三鷹のボランチ田嶋優也(3年・昭島瑞雲中)がしっかり戻ってブロック。15分も堀越。ここも吉田を起点に、新井が落としたボールを石上はダイレクトで右へ。上がってきた北田大祐(2年)のドリブルシュートは三鷹のGK武田啓介(3年・東村山第二中)が冷静にキャッチ。左右のサイドも使いながら攻める時間が長いのは堀越ですが、決定的なシーンには至らず。
「こんなにうまくいくのかというのが正直な感想」とCFの長島潤也(3年・渋谷広尾中)も話した通り、小さくないアドバンテージを握った三鷹は、押し込まれる展開にも湯浅辰哉(3年・プロメテウス)と金澤宏樹(3年・府ロクJY)のCBコンビを中心に粘り強く対応。25分も堀越。石上が左へ振り分け、湯浅麗士のリターンを受けた吉田のスルーパスは武田がキャッチ。27分も堀越。ロングフィードを粘って収めた新井が、エリア外から狙った鋭いシュートは左のサイドネット外側を急襲。30分は堀越の決定機。相手の連携ミスを高い位置で新井が奪い、抜け出した石上は左足でシュートを打つと、枠を捉えたボールはしかし左のポストを直撃。水際で踏みとどまります。
すると、この試合3本目のシュートも結果に直結。31分、相手の縦パスを最高のタイミングでインターセプトした左SBの安田航(3年・FC.GISUTI世田谷)は、そのまま思い切ってドリブルスタート。左から中央へ潜り、一旦は相手にストップされながらも、粘って自分の足元へ奪い戻すと、エリアの外から躊躇なくトライしたミドルは枠内へ。クロスバーを叩いたボールが落ちたのは、ラインを越えたゴールの中。一瞬間があって、直後に沸騰した三鷹の応援席。どちらかと言えば守備面での貢献度が高かったサイドバックが、この大舞台で披露したゴラッソ。「こういう少ないシュート数で決められるということは、たぶん自分たちはそんなにチャンスを創れないという部分があって、1つ1つチャンスはモノにしようというようなことが働いたんですかねえ」とは佐々木監督。ロースコアで勝ち上がってきた三鷹が、この決勝で今大会初めてとなる3点目を記録しました。
以降は「3点目を取られて、余計に浮き足だってという形」(佐藤監督)という堀越を尻目に三鷹が狙う4点目。33分、平光太一(3年・FC.GISUTI世田谷)の右CKに続き、巽が左から蹴ったCKは石上がクリアするも、平光がバイシクル気味に何とか残すと、最後は傳川が思い切ったミドルを枠の上へ。堀越も34分には1人目の交替として田口を下げ、ルーキーの小磯雄大(1年・ヴィラセーゴ津久井)を投入しますが、38分のチャンスも三鷹。安田が左へ展開したボールを巽が放り込み、ニアへ飛び込んだ河内のボレーはゴール左へ外れるも好トライ。「自分たちでどんどん前に仕掛けられて、点も入ってくれたので良い形で前半は終えられた」と堀田。3-0という意外な大差が付いて、最初の40分間は終了しました。
「もうちょっと冷静にやろうということで、ゲームの最初のプランをしっかり創っていくこと」(佐藤監督)を改めてハーフタイムで確認した堀越。後半は開始から湯浅麗士を下げて、橋本拓巳(3年・FC府中)がそのままトレスボランチ気味の中盤へ。「前に入れるという中でもうちょっとキチッとボールを動かして展開をして、相手のブロックの隙間の所を全部突いてという所でやらなきゃいけない」(佐藤監督)という狙いで残された40分間のピッチへ向かいます。
41分は早速堀越。中盤アンカーの森田大介(3年・FC府中)が右のハイサイドへフィードを送ると、走った小磯のドリブルシュートは武田にキャッチされたものの、まずは後半ファーストシュートを。43分にも石上、北田、吉田とボールが回り、最後はDFのクリアに遭いましたが悪くない形を。46分は三鷹。中央右寄りから巽が蹴ったFKを、平光がバックヘッドで狙ったシュートはクロスバーの上へ。47分も三鷹。巽の左CKは堀越のGK横山洋(2年・TACサルヴァトーレ)がパンチングで回避し、森田が大きくクリア。お互いに繰り出す手数。
「あのまま行っていても膠着状態が続いていたので、ちょっと流れを変えたいなと思って『雄大の裏もあるぞ』と話した」佐藤監督のアドバイスが実ったのは50分。石上が左へ流したパスを、吉田はシンプルに裏へ。ここへ走り込んだ新井が胸で最高のボールを落とすと、小磯が丁寧に蹴ったシュートはゴール右スミへ突き刺さります。途中出場の1年生が期待に応える大仕事。堀越が1点を返してみせました。
勢いは中野の紫軍団へ。52分、吉田が左へ回したボールを新井は素早くクロス。こぼれを叩いた森田のミドルは武田がキャッチしましたが、サイドアタックをきっちりフィニッシュまで。60分は中央左、ゴールまで約25mの位置から石上が直接狙った雰囲気のあるFKは、わずかにクロスバーの上へ。「やっぱり1点入っちゃうと、みんな引いちゃう意識が残ってしまう」とは堀田。変わり始めたゲームリズム。
64分も堀越。右CBを務める東岡信幸(2年・TACサルヴァトーレ)とのパス交換から富樫が右へフィードを蹴り込み、受けた小磯のクロスは湯浅が何とかクリア。65分も堀越。左CBの鳥塚裕仁(3年・板橋桜川中)が縦に好フィードを入れると、新井はダイレクトでヒール。飛び込んだ石上のドリブルシュートはゴール右へ。67分には3人目の交替として北田と谷野大地(3年・ACフツーロ)を入れ替えると、68分は堀越のビッグチャンス。替わったばかりの谷野が右からロングスローを投げ入れ、金澤のクリアを橋本が残し、吉田が枠へ飛ばした強烈なボレーは武田がファインセーブで応酬するも、「3対1になって、より攻撃をやることの色がハッキリしたというか、ボランチから展開していくのか、CFの背後を少し使いながらギャップを創ってそこに侵入していくのかという所が、ちょっとうまく出始めたかな」と佐藤監督も認めたように、堀越の整理されたアタックは迫力十分。
とはいえ、ここまで2回戦からの3試合をいずれも1点差で競り勝ってきた三鷹にとって、「後半に1点取られても、駒大戦、修徳戦と勝ってきていたので、その点で守り切れるという自信はあります」と堀田が話し、「1点決められた後に押し込まれた状況の中で、今まで自分たちが駒大とか修徳とか、凄く強い相手とやってきた部分の経験が今日も出た」と長島も触れたように、このシチュエーションは自らで切り抜けてきた今大会の3試合と一緒。本来のスタイルとは違っても、「徹底してできるというのは三鷹の伝統」(佐々木監督)。時間を追うごとに増していく集中力。
72分は堀越。右から谷野が放り込んだロングスローは混戦を生み出すも、シュートまでは至らずゴールキックに。74分は三鷹。長島の粘り強いドリブルでCKを奪うと、右から平光が蹴ったボールはファーへ流れるも、堀田が粘ってスローインをゲット。直後に堀越は最後の交替カードとして、黒沢周平(3年・八王子FC)が全速力でピッチへ。掲示されたアディショナルタイムは3分。着々と近付く終焉の時。
80分も堀越。橋本からのリターンを受け、谷野が託したクロスは武田が一瞬早くパンチングで回避し、オフェンスファウルに。相手と交錯した武田はなかなか立ち上がることができず、場内は騒然とした空気に包まれますが、ピッチ上の10人全員が集まった三鷹の輪の間から、立ち上がった武田の姿が見えると大声援を送るオレンジのスタンド。「プレッシャーというよりは、みんな応援を受け止めてやれましたよね」と指揮官も言及した大応援団に後押しされ、始まった全国へのカウントダウン。
80+4分、石上、吉田とボールが回り、堀越をここまで牽引してきた石上がエリア内へ飛び込むも、「彼が良く頑張ってくれた」と佐々木監督も名指しで称えた金澤が、決死のタックルでピンチを阻止。直後の左CK。石上が想いを籠めて蹴り込んだボールを、奮闘し続けた湯浅辰哉が掻き出すと、西が丘の綺麗な青空へ吸い込まれたファイナルホイッスル。「『本当に俺ら全国行ったんだ』という信じられない気持ちと、嬉しい気持ちとその2つが混じっていました」(長島)「全国というのは夢の夢だったので、まだあまり信じられていないですよね」(堀田)「自分たちが全国に行けるなんて思っていなかったので、凄く嬉しかったです」(巽)という3人の言葉は偽らざる想い。佐々木監督ですら「今日も勝てるとは思わなかったですから」と笑った三鷹が7年ぶりの東京制覇を達成し、堂々と大旗を掲げる結果となりました。
「立ち上がりの早い段階に2失点してしまって、ちょっと選手の中で浮き足だってしまったかなと思う」と佐藤監督も振り返ったように、開始3分までに喫した2点が最後まで響いてしまった感のある堀越。惜しくも全国の舞台には届きませんでしたが、それでも23年ぶりにファイナルまで勝ち上がってきたことは大いに誇って欲しいと思います。「悔しいは悔しいですけど、このチームが立ち上がってまさかここまで、本当にたくさんのお客さんの中で試合ができるとは思っていませんでしたし、子供たちが自分たちで考えながら本当によく成長してきたということは物凄く評価できるポイントだと思うし、次に本当に繋げられるなという感じはしました」とチームへの評価を口にした指揮官は、基本的に選手たちを信頼し、ここまで辛抱強く見守り続けてきました。そのことに関しては「できるだけ子供たちの眠っている潜在的な力を引き出すということで、何かをやらされているものではなしに、自分たちからやっていくという形の中で、そういう力を本当に彼らに僕は教わったし、彼らも本当に大きくなったかなという感じはしました」と手応えを。強い絆で結ばれた選手とスタッフ陣が共に歩んできた勇敢な冒険に、心から拍手を送りたいと思います。
「ワンチャンスをモノにするという所は、僕はよくわからないんですけど神懸りみたいなものですよね」と佐々木監督も笑ったように、決して多くはないチャンスを驚異的な決定力でゴールに結び付け、とうとう頂点まで登り詰めた三鷹。「本来はああいうサッカーはやりたくないんですけど、ディフェンス陣が本当に耐えてくれるので、前に比べたら守り切れる自信は付きました」と河内が本心を覗かせた通り、攻撃的なサッカーを志向している中でも、ゲームの中で流れを読みながら勝ち切る力をこの最後の選手権で身に付け、一気に優勝まで駆け抜けた姿は痛快ですらありました。「まだはっきり言って今の自分たちでは全国で戦えない部分があるので、これからの1ヵ月半でしっかりもう1回鍛え直して、全国の人たちと戦って勝ちたいなと思っています」と長島が気を引き締めると、「後半のずっと守りに回ってしまうというのが課題だと思うので、そこをこの1ヶ月半で改善して、自分たちのやってきたことを変えずに、全国でもしっかり戦っていけるチームになりたいです」と堀田も言及するなど、彼らの視線は既にその先へ。誰よりも自らの力を冷静に分析し、最善のプレーを選択してきたからこそ辿り着いた栄冠。首都を制したのは全国大会への豊富を問われ、「これから選手もそんなにうまくならないと思いますし、バーンと凄い選手が出るとかないので(笑)、今のチームでどうやっていこうかという所ですね」と相変わらずの笑顔を見せる佐々木監督に率いられた、究極のマイペース軍団とも言うべき都立三鷹でした。 土屋
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