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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
関西王者と北信越王者が激突する地域決勝の前哨戦。おなじみ"全社"で実現した優勝候補同士の一戦は和歌山、橋本市運動公園多目的グラウンドです。
最終節までもつれたFC大阪との熾烈な首位争いを制し、3年ぶりとなる関西王者に輝いた奈良クラブ。明確な目標としてJリーグ入会を掲げている中で挑んだ今年の天皇杯は、1回戦でJ3の福島ユナイテッドFCを破ると、続く2回戦ではJ1のベガルタ仙台もユアスタで蹴散らし、堂々たる3回戦進出を経験しており、中村敦監督も「僕らは天皇杯で格上の相手と真剣勝負をやらせてもらったおかげで、ちょっとレベルアップした所がある」と手応えを。既に出場権は獲得しているものの、11月に迫った地域決勝へ向けて、この大会の優勝をさらなるステップにしておきたい所です。
対するはJAPANサッカーカレッジと優勝を懸けて争った最終節にホームで競り勝ち、北信越リーグ3連覇を勝ち獲ったサウルコス福井。ここ2年の地域決勝はいずれも1次リーグ敗退という悔しい経験を強いられており、3度目の正直はもはやクラブの悲願。「地域と行政も含めて応援してくれているし、そういう意味で一気に燃える可能性は十分秘めている。今ジワジワ来ているクラブ」と佐野達監督も認める気運を後ろ盾に、11月からの"3度目"に殴り込みを掛けるべく、難敵との一戦に臨みます。実は両者は2009年の天皇杯1回戦でも対戦しており、その時は矢部次郎・現GMの決勝ゴールで奈良クラブが勝利。返り討ちか、リベンジか。大会屈指の好カードは奈良のキックオフでその幕が上がりました。
2分のファーストチャンスは奈良。右サイドへ展開したボールから、野本泰崇(28・アルテリーヴォ和歌山)が放り込んだクロスはDFのクリアに遭うも、3分にもCBの伊澤篤(27・横河武蔵野FC)がロングフィードを送り、裏へ走った鶴見聡貴(27・ガイナーレ鳥取)はわずかに届かず。7分にも馬場悠(27・レノファ山口FC)、桜井直哉(25・横河武蔵野FC)と繋いで鶴見が左へ振り分け、稲森睦(23・関西大)のクロスはここも中と合わなかったものの、まずは「基本的にはサイドを使いたい」(中村監督)という狙い通りのサイドアタックからチャンスを窺います。
一方の福井は5分と9分にいずれも右からCBの亀井拓哉(24・阪南大クラブ)がロングスローを投げ入れるも、前者はオフェンスファウルを取られ、後者は奈良のGKシュナイダー潤之介(37・横浜FC)がパンチングで回避。鶴見のゴール左へ外れる10分のシュートを挟み、同じく10分には1トップに入った阿部優(25・FC刈谷)が強引なミドルを放つと、DFに当たったボールは枠の左へ。流れの中からはなかなかエリア内まで侵入できません。
奈良は右の野本、左の稲森とサイドバックを高い位置に押し上げ、ボランチの志水克行(26・愛媛FCしまなみ)が3バックのラインまで落ちることで、ボールをきっちり回しながらハイサイドは取れるものの、そこからの崩しに精度が伴わず。15分には左から桜井が入れた右足クロスに鶴見が飛び込み、DFに当たったボールはしかしゴールキックへ。18分にも伊澤のサイドチェンジから野本のクロスが引っ掛かって獲得した右CKも、馬場が蹴ったボールはオフェンスファウルに。逆に20分は再び福井のロングスロー。右から亀井が投げ込み、こぼれを坂井優介(29・カマタマーレ讃岐)が残すと、近藤将人(22・産業能率大)のボレーは枠外も、むしろ「我々の守り方もはっきりしたし、逆にそこのサイドを狙おうということで徹底できたんじゃないかな」と佐野監督も話したように、出てくる相手の裏を突いた福井の右サイドに可能性が。
すると、やはり決定機は福井の右。20分に畦地健太(23・駒澤大学)のリターンから、岩崎大輔(25・ヴァンラーレ八戸)が上げるも中央でハンドになった右クロスを経て、25分にも相手の横パスをかっさらった岩崎が右へ流れながらクロスを送り込むと、ボールはマーカーを越えて阿部の頭にドンピシャで合いましたが、その軌道はわずかにゴール左へ。「先制点を奪えるとゲーム内容が全然変わってくるんですけどね」とは佐野監督。千載一遇のチャンスをモノにすることはできません。
29分は奈良。馬場が左CKをショートで蹴り出し、稲森のクロスは伊澤がわずかに触れずゴールキックへ。35分は福井。190センチの阿部が競り合い、こぼれを狙った近藤のミドルは阿部に当たって枠の左へ。37分も福井。近藤が右へ流し、鈴木亮平(31・丸岡フェニックスSC)の素晴らしいアーリークロスは、懸命に飛び付いた岩崎も一歩及ばず。39分も福井。恒例になりつつある亀井の右ロングスローから、ニアで194センチの梅井大輝(24・ツエーゲン金沢)が振り下ろしたヘディングはクロスバーの上へ。「ボールは持てていたけど、あまりウチのペースじゃないかなという気はしていた」と振り返ったのは鶴見。最初の40分間はスコアレスのままでハーフタイムへ入りました。
後半のファーストチャンスも奈良。42分、左から稲森が上げたクロスはファーまで届き、走り込んだ鶴見のボレーは福井のGK伊藤聖(24・環太平洋大)にキャッチされたものの、「クロスはしょっちゅう練習しているんですけどね」と指揮官も苦笑いを浮かべたそのクロスから、しっかりフィニッシュまで。43分は福井の右サイド。亀井のロングスローがDFに弾かれたこぼれを、近藤が叩いたボレーはクロスバーを越えましたが、お互いにストロングからシュートを打ち切る格好で後半が立ち上がります。
ただ、前半に比べると少しずつ福井にも前線でタメができ始め、攻撃の回数も増加傾向に。47分には相手の横パスが乱れると、収めた阿部のミドルはDFが体を投げ出し、シュナイダーが何とかキャッチ。51分にも阿部が体を張って落とし、畦地とのワンツーで前を向いた岩崎のドリブルは1つ大きくなってゴールキックになりましたが、「どうしてもこっちが点を取れなくて間延びとか、間のスペースでちょこちょこボールを収められていたのはわかっていた」と中村監督。福井に出てきた前へのパワー。
52分は奈良にビッグチャンス。右サイドで粘って粘って野本が上げたクロスを、3列目からファーサイドへ突っ込んだ馬場のボレーは伊藤がキャッチするも、やはりチャンスはサイドアタックから。53分は福井のこの日6本目となるロングスロー。連投を強いられる亀井の"6球目"はDFが弾き、こぼれに反応した井筒庄吾(26・アンソメット岩手八幡平)のボレーは枠の上へ。双方が明確なアタックからゴールを狙い合います。
先に動いたのは中村監督。「ポゼッションをもっと高めようかなと」いう狙いから、志水を下げて堤隆裕(24・AC長野パルセイロ)を送り込むと、「どこでもできるし技術も高い」と評価する鶴見をボランチへ落とし、「馬場と2人でゲームを創れ」と指示。堤を前線へ配して「よりこっちが主導権を握ってサッカーをやるための攻撃側へのシフト」を施します。
63分は奈良。瀬里康和(25・FC琉球)が右へ送り、野本がここも粘り強く上げたクロスはDFがクリア。65分は福井。阿部がロングボールに競り勝ち、ミドルレンジから岩崎が狙ったシュートはクロスバーの上へ。66分は奈良。ルーズボールを拾った堤が左へ回し、ワンテンポずらして小野が打ち切ったシュートは、わずかにゴール右へ。69分は福井。坂井の右CKをファーで阿部が合わせるも、シュートなのか折り返しなのかが中途半端になって枠の右へ。「結構相手が食い付いてきていたので1つ外してスルーパスとか、縦パスが前半は少なかったのでそこは意識した」という鶴見の存在もあって、ポゼッションを高めることには成功したものの、福井も阿部の高さを押し出してチラつかせる脅威。ゲームはいよいよ最後の10分間へ。
71分は奈良。馬場の右CKは梅井が執念で弾き返し、今度は鶴見が左から上げたクロスも梅井が執念でクリア。72分も奈良。小野のパスから稲森が左クロスを送るも、飛び込んだ野本は触り切れず。73分も奈良。瀬里が中央で基点を創り、馬場が通したスルーパスは堤に通るも、ここはわずかにオフサイド。75分も奈良。野本の右クロスはファーへこぼれ、拾った小野のシュートは伊藤が丁寧にキャッチ。「向こうの攻撃がわかりやすかったというか分析通りだったので、それで守備は十分対応できた」と佐野監督も語った福井の集中力は途切れず。
79分は福井。坂井が残したボールを、回り込んで受けた鈴木のミドルは枠の左へ。直後も福井。弁慶さながらに体を張り続けた梅井が前に押し返し、DFのクリアへ反応した岩崎のミドルはゴール右へ。「80分以内で勝負を決めたかった」とは中村監督ですが、白熱の80分間プラスアルファでは決着付かず。勝敗の行方は前後半10分ずつの延長戦へと委ねられました。
佐野監督も延長開始から交替を決断。阿部に替えた神谷純平(23・拓殖大)を右SHへ投入し、坂井が最前線へ、畦地が左SHへスライドして、残された20分間へ。「基本的には隙を作らずに、自分らが今までやっていた守備をやっていれば崩されることはないので、最終的にはこっちが決めるか決めないかだけ。しっかりお前らが主導権を持ってやれと」中村監督に送り出された奈良は、87分にサイドアタック。伊澤のパスをCBの三浦修(25・ガイナーレ鳥取)が右へサイドを変え、野本のクロスはゴールラインを割るも、やはり「とりあえず点を取るのはクロス」(中村監督)の徹底。
歓喜の瞬間は意外な形から。延長前半も終了間際に差し掛かった89分、バックスタンドサイドでボールを持った福井の選手は、まだGKまでの距離がかなりあったにもかかわらずバックパスを選択。勢いなく転がるボールへ反応したのは堤。自らの支配下へ収め、飛び出したGKも冷静にかわすと、視界の先に開けたのは無人のゴールのみ。丁寧に、丁寧に、ボールをゴールネットへ送り届けます。「計算通りではないですけど」と笑った中村監督も、「ああいうちょっとした嗅覚的な所はもともとあったので、アイツの抜け目なさが出たのかな」と賞賛を口に。とうとう奈良が1点のリードを奪いました。
佐野監督も「やられる感じはしなかったし、向こうは足が止まっていたと思っていた」中で追い掛ける展開となった福井は90+1分、右から亀井が放り込んだ"7球目"を梅井がニアで合わせると、ゴール方向へ飛んだボールは、しかし右のポストを直撃してシュナイダーが何とかキャッチ。絶好の同点機を生かし切ることができません。
奈良は桜井と塚本翔平(30・AC長野パルセイロ)を、福井は近藤と宮下周歩(19・松本山雅FC)をそれぞれ入れ替え、突入したのは泣いても笑っても最後の10分間。91分は奈良。シュナイダーのキックに馬場が競り勝ち、瀬里のシュートは伊藤ががっちりキャッチ。93分は福井。坂井の右CKを梅井が懸命に頭で触るも、ボールはクロスバーの上へ。95分は奈良に交替。小野を下げて、ベテランの橋垣戸光一(32・FCティアモ)に託したゲームクローズ。95分は福井。伊藤が放り込んだFKを梅井が頭で残すも、飛び込んだ坂井はシュートまで持ち込めず。97分には福井に交替。近藤と内久保亮(24・びわこ成蹊スポーツ大)を入れ替え、前に人数も掛けて最後の勝負に。98分も福井。右から坂井が渾身のCKを蹴り込み、ファーで待っていた井筒のヘディングがシュナイダーの手元に収まると、これがこのゲームのファイナルシュート。「今後もこういう厳しい戦いが続くと思うので、内容には全然満足していないけど結果だけが良かった」とは鶴見ですが、延長で勝負強さを発揮した奈良が次のラウンドへと勝ち上がる結果となりました。
「全体的にはこっちのゲームだったのかなという気はする」と中村監督も振り返った奈良は、確かにボールを保持する時間や攻撃の手数は多かったものの、「ああなっちゃうとウチがいくら攻めているといっても、相手のペースなのかなと思う」と鶴見が話したように、少し嫌な展開を強いられた中でもきっちり勝ち切れるあたりにチームの底力が見て取れます。今回は既に地域決勝への出場を決めて臨む全社ですが、「これが1ヵ月後の地決に向けてまたチーム力を上げることになるから、1個でも多く試合をやろうという話はしてきた」という指揮官は、続けて「この子たちはマジメなので、モチベーションにもちゃんと繋げてやってくれているのかなと思う」とも。色々な意味で注目を集めている奈良の今後にも是非注目していきたいと思います。
「十分勝てるチャンスはあったけど、ああいうイージーなミスからの失点をしたら勝負には勝てないということを、まざまざと見せ付けられたというような試合」と80分間+20分間を総括してくれた佐野監督率いる福井は、"セットプレー"と"高さ"というポイントは「関西のナンバーワンということは優勝候補ナンバーワン」と指揮官も評した奈良相手にもある程度は通用したと言っていいでしょう。「全国を肌で選手が感じられたというのは非常に良かったと感じるし、課題も明確になったのでこの1ヶ月しっかり準備したいなと思う」と地域決勝へ向けての意気込みを語った佐野監督はクラブのGMも兼任しており、「環境とか成績とかを含めて厳しい中で、それをJのクラブに上げていくというのはやりがい以外の何物でもない」と充実した表情を。「"おらがチーム"で今日も遠いのにあれだけサポーターが来てくれて、そういう意味ではスタッフも含めて毎日ワクワクしています。サポーターともいつもコミュニケーションを取っていて、Jリーグのサポーターはどうなんだという話をしていて、『スタジアムに何人集めろ』とかそういう話もしているし、地方の良さはそれだと思うので、福井らしいオリジナルのクラブができたらなと思っているんです」と最後は笑顔。福井の地からJの舞台へ。サウルコスのチャレンジはまだまだ始まったばかりです。 土屋
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