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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
昨シーズンの昇格プレーオフを戦った実力者同士のリターンマッチ。勝ち点33の6位と勝ち点27の15位が対峙する真夏の好カードはフクアリです。
5シーズン目となるJ2を戦うクラブが6月で下した決断。五輪代表を率い、ロンドンの地でベスト4まで勝ち上がった関塚隆監督を招聘し、チーム唯一と言っていい目標であり、ノルマを託した千葉。すると、初采配となった天皇杯ではJ3の長野を何とか振り切ると、リーグ戦でもアウェイの栃木戦で0-2ときっちり勝ち点3を奪うなど、上々のスタートを切って順位も6位まで浮上。今節は谷澤達也、ケンペス、キム・ヒョヌンと3人の主力を出場停止で欠きますが、大混戦のリーグからわずかでも抜け出すために、今季初のリーグ戦3連勝を狙います。
J2参入初年度は誰もが驚く快進撃を続け、昇格プレーオフまで堂々と進出してみせた長崎。今シーズンも序盤は着実に勝ち点を積み重ね、自動昇格圏内も狙える位置に付けていたものの、5月以降の14試合ではわずかに1勝と一気にペースが急落。現在はJ参入以降で2度目となる3連敗中の上、順位も15位まで落としており、一転してここまでは厳しいシーズンに。アウェイで難敵を追い落として、浮上のキッカケを掴みたい90分間です。すっかり真夏の暑さが押し寄せる中、気温は29.2度と多少は和らいだコンディション。双方にとって負けられない一戦は千葉のキックオフでスタートしました。
立ち上がりから飛び出したのはいつもの前半と違い、サポーターで埋まったホームゴール裏へ向かって攻める千葉。3分、前線で森本貴幸がうまく収め、兵働昭弘が狙ったシュートは、これが3試合目のスタメンとなった長崎のGK中村隼がキャッチ。4分、右SBの竹内彬が中央にスルーパスを通し、反応した森本が走るもわずかに届かず。6分にも中村太亮の左CKがゴール前を襲い、DFのクリアに遭いましたが、まずはホームチームが押し気味にゲームを進めます。
ただ、「最初はプレスでワイドが行く部分とシャドーが行く部分の確認で連携が取れなかったけど、誰がどこに行けばいいかというのはすぐに修正できた」(神崎大輔)こともあって、10分以降は徐々に長崎が掴んだリズム。11分には神崎とイ・ヨンジェで獲得したCKを左から岡本拓也が蹴り込み、最後は神崎がクロスバーの上を越えるミドルにトライ。13分には古部健太が右へ振り分け、奥埜博亮のクロスを佐藤洸一が頭で折り返すも、イ・ヨンジェはシュートまでいけず。14分にも黒木聖仁が素早く始めたFKから、佐藤洸一が枠へ飛ばしたミドルは千葉のGK岡本昌弘がキャッチ。16分にもCKのこぼれから、古部が左へフィードを送り、黒木が懸命に足を伸ばして折り返したボールへ、懸命に飛び付いた佐藤洸一のヘディングは力なく枠の右へ外れましたが、長崎が続けてフィニッシュを取り切ります。
長崎がこのゲームでポイントにしていたのは大きく2つ。その内の1つが「中盤の兵働と佐藤健太郎を潰しに行く」(高木琢也監督)ということ。10分以降の守備面を問われて、「守備の部分では前から行って、みんな勢いを持って行けていたので、凄くチームとしてはうまくやれているなという感覚はあった」と話したのはドイスボランチの一角に入った三原雅敏。中盤で相手のドイスボランチを2シャドーとの連携でうまく挟み、セカンドもことごとく回収したことで、一気に引き寄せたゲームの流れ。
18分も長崎。岡本の左CKにイ・ヨンジェが飛び込むも、ボールはクロスバーの上へ。20分も長崎。エリアのすぐ外でルーズボールを拾った奥埜は枠を越える左足ボレーを。22分も長崎。右サイド、ゴールまで約30mの距離から岡本が直接狙った無回転FKは枠外へ。千葉も23分には兵働が、26分には竹内がそれぞれミドルを狙うも、共にやや強引さが目立ち、前者は枠外で後者は中村がキャッチ。長崎の時間が続きます。
27分にはまさに狙い通りのシーンが。中盤でボールを持った佐藤健太郎に、長崎は3人でプレス。囲まれた佐藤健太郎のミスパスを、イ・ヨンジェはかっさらうと、そのまま右サイドをドリブルで持ち込んで枠の右へ外れるシュートまで。「中盤の選手を潰しに行くことが、我々の本当に流れを創るポイント」という指揮官の狙いを、フィニッシュへと繋げる形で見事に表現してみせたワンシーンでした。
また、長崎で積極性が印象的だったのは1トップに入ったイ・ヨンジェ。これがまだ2試合目の出場になりますが、「収まるし、前で基点を創ってくれるので、僕自身はやりやすさを感じている」と三原も言及したように、前線で体の強さを生かして基点創出に奔走。40分には岡本が森本から奪ったボールを付けると、そのイ・ヨンジェは岡本にキャッチされたものの、きっちりシュートを枠内へ。前半だけで両チーム最多となる3本のシュートを放つなど、ゴールへの意欲を前面に打ち出します。スコアこそ動きませんでしたが、「相手の勢いをモロに食らってしまった」(関塚監督)千葉を長崎が圧倒する展開で、最初の45分間は終了しました。
ハーフタイムを挟み、迎えた後半のファーストシュートは千葉。48分、左サイドを独力で運んだ山中亮輔が得意の左足でシュート。ボールはゴール左へ外れましたが、4節以来のスタメンとなったレフティが果敢なチャレンジで、「この勝負、勝とう!どっちが勝ちたいかだ!」と指揮官に送り出されたチームの気合を体現します。
ところが、スコアボードの"0"を先に"1"へと変えたのは長崎。55分、中村隼のゴールキックを左のハイサイドでイ・ヨンジェがキープ。戻したボールを神崎が縦へ運び、そのままクロスを放り込むと、中央でフリーになった奥埜のヘディングはゆっくりとゴールネットへ吸い込まれます。「クロ(黒木)が入り込んでいたので、そこを狙ったつもりだったけど、うまい具合に相手を引き連れてくれたので裏が空いた」と神崎も振り返ったサイドからの流れできっちり成果を。アウェイチームが1点のアドバンテージを手にしました。
関塚体制で臨んだ公式戦3試合目にして、初めて先制を許した千葉でしたが、この窮地を救ったのは「ここで結果を出そうという強い気持ちを持って試合に入った」レフティ。59分、ゴールまで約30mの位置で兵働がFKを小さく出すと、山中はミドルレンジから左足一閃。右スミへ飛んだボールは、中村隼の手を弾いてゴールネットへ到達します。沸き上がるフクアリ。3人の出場停止を受け、久々にスタメン起用となった山中が大仕事。再びスコアは振り出しに引き戻されました。
さらにパワーを出したい千葉は65分に1人目の交替を。大塚を下げて、田中佑昌を右SHへ投入。井出遥也が左SHへ移り、山中が1.5列目にスライドして、狙う勝ち越しゴール。67分には兵働が右へ展開したボールを田中がクロスまで上げ切り、ニアで合わせた山中のボレーは枠の右へ外れるも、攻勢を強めます。
「後半の途中からプレスに行けなくなって、そこで少し動かされた」という三原の感覚は、当然高木監督も把握。69分にまず1人目の交替として佐藤洸一と古巣対決となる深井正樹を入れ替えると、72分にはボランチの黒木と前田悠佑もスイッチさせて、もう一度中盤での強度を高め、奪われたゲームリズムを取り戻しに掛かります。
この前後の時間帯は「しっかりと収める所で収めて、形というものを少し見せられたかな」と関塚監督も振り返ったように、千葉が兵働と佐藤健太郎を中心にボールを左右に動かし、そこに田中と井出がしっかり絡んでいく形が再三。高木監督がもう1つのポイントとして挙げていた「浮き球や切り替えの中の球際勝負で勝つこと」もやや千葉に傾きつつあり、形勢は逆転しつつありました。
ただ、そこは知略を巡らす指揮官だけに的確な楔を既に。76分、前田が鋭い出足でボールを奪い、奥埜を経由したボールからイ・ヨンジェのシュートはゴール左へ外れたものの、「マエちゃん(前田)が入って、ちょっとスピードを持って行けるようになった」とは三原が認めたように、前田の投入で中盤の強度復活に成功。さらに、81分には3バックの中央に位置する山口貴弘を起点に、三原が繋いだボールを深井は左へスルーパス。神崎はわずかにオフサイドラインを出ていましたが、最も運動量を擁するWBの神崎が「オフサイドでも通らなくても、空走りでもやっていけば相手も引いてくると思うし、疲れてくると思うので続けていきたい」と話すあたりに、チームの徹底した"走る"意識を垣間見たような気がしました。
83分には高木監督が最後の交替を決断。奥埜とスティッペを入れ替え、そのスティッペをイ・ヨンジェと並べる2トップ気味の布陣へシフトして、勝ち点3への気概をピッチへ注入しますが、布陣変更で逆にやや守備面が混乱した感のある長崎を尻目に、終盤は千葉がラッシュ。85分、兵働と井出がスムーズにパスを交換し、山中が左足で狙ったシュートはヒットせず。88分、兵働が左へFKを送り、中村太亮が上げたクロスは飛び込んだ3枚のいずれにも合わず。関塚監督も90+3分には奮闘した山中に替えて町田也真人を送り込み、ゲームは最終局面へ。
90+4分は長崎。左サイドでボールを持ったスティッペが強引に狙ったミドルは、大きく枠を外れるノーチャンスのトライ。90+4分は千葉。兵働がここも左への展開を選択し、中村太亮が上げ切ったクロスをファーで叩いた森本のヘディングは枠の右へ外れ、迎えた試合終了のホイッスル。真夏の好ゲームは両者に勝ち点1ずつが振り分けられる結果となりました。
「選手たちは前半少し止まっていた感があったけど、後半盛り返して行けて何とか勝点1を奪えた」と関塚監督が話したように、千葉は前半を考えると勝ち点1を取れたのは大きいように思えます。また、主力の出場停止という事態を受けて、スタートから登場した山中がきっちり結果を出したのは今後に向けても好材料。ルーキーのオナイウ阿道もベンチ入りを果たすなど、山中や井出も含めて若手が突き上げていくことで、チームにさらなるプラスアルファをもたらしていく必要がありそうです。
「我々としては今後の、ある意味スタンダードといったものがまたできたということで、引き分けだったけど非常にプラスになるようなゲームだったと思う」と高木監督も言及した通り、長崎にとっては今後へ向けて大きな勝ち点1になったのは間違いありません。神崎も「切り替えの速さみたいな部分をちょっと忘れていたかなと思って、今日は本当に良かったと思う」と手応えを口に。"球際"や"切り替え"といったチームの生命線を取り戻す上でも、重要な90分間を経験できたようです。まだ上位との勝ち点差は大きく開いていないだけに、ここからの巻き返しが楽しみになるようなゲームだったのではないでしょうか。 土屋
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