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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
華々しく打ちあがったギフ・ドリームのセカンドゲーム。国内屈指の奇才を抱えた北陸の曲者と対峙する『TOP OF 北アルプス』は長良川です。
突如としてスタートした"日本のチェルシー"化。昨シーズンは最終盤まで残留争いに苦しんだチームが、新監督として招聘したのは国内サッカー界において知らない者はいないラモス瑠偉。さらに川口能活、三都主アレサンドロというW杯経験者に加え、宮沢正史、高地系治、難波宏明らの"超"即戦力まで補強し、迎えた開幕戦は秘密兵器のナザリトも1ゴール1アシストでそのベールを脱ぐなど、新規参入の讃岐を3-1で一蹴してみせた岐阜。「生意気な言い方かもしれないけど、今のJリーグで注目を浴びているのは岐阜」という指揮官の言葉を待つまでもなく、今や周囲の耳目を一身に集める存在となっています。
一方、3-3-3-1や3-1-4-1-1といったシステムを考案するなど、既成概念に囚われないアイデアでサッカー道を追求する日本サッカー界の"奇才"安間貴義監督に率いられ、今シーズンのダークホースという呼び声も聞こえてくる富山。安間体制5シーズン目は稀有な才能を有する白崎凌兵と中島翔哉を前線に頂き、J1昇格を経験している水谷雄一や秋本倫孝の両ベテランも加入しており、ある意味では勝負の年。岡山のアウェイに乗り込んだ開幕戦では五分以上の内容で勝ち点1を奪取。サポーターの期待感も高まっているのは間違いありません。試合前には前座として両クラブのスクール生によるゲームも組まれるなど、『TOP OF 北アルプス』感も十分。次代を担い得る"卵"たちも見守る中、岐阜のキックオフでゲームはスタートしました。
先にリズムを掴んだのは富山。3分に内田健太が左から蹴ったFKはDFにクリアされましたが、直後にもキャプテンマークを巻く御厨貴文のフィードに白崎が飛び出し、シュートまでは持ち込めなかったものの好トライ。6分にも右SBに入った木村勝太のクロスを苔口卓也が拾い、中島のシュートはDFが何とかブロック。このCKを右からソ・ヨンドクが蹴ると、内田のヘディングは枠の右へ逸れましたが、まずはアウェイチームが攻勢に打って出ます。
対する岐阜はなかなか攻撃の形ができず、8分に三都主が蹴った右FKは富山のGK水谷雄一にキャッチされ、13分にこれまた三都主が左サイドから投げたロングスローもDFがクリア。逆に14分には富山が中盤アンカーを務める大西容平のパスから、中島がクロスバーを越えるミドルにチャレンジ。18分にはここも三都主が左CKを2本続けて蹴り込むも、いずれもDFのクリアに遭い、フィニッシュへの流れを創り切れません。
そんな中でも、「入りは先週より良かった。完全に崩された訳ではなかったし、コンパクトにもできていたので怖い感じはなかった」と振り返ったのは岐阜のCB木谷公亮。「注目されていて選手たちは本当に大変だと思う」とラモス監督も認める中、「注目は浴びていると思うんですけど、正直浴びている人は数人だろうと個人的には思っているので(笑)、大して気にならないですよ」と笑うベテランCBの下支えもあり、やや押し込まれる中でも一線は超えさせず。
すると、開幕戦でもその威力を発揮したレフティのセットプレーがファーストチャンスを演出。22分、三都主が右から放り込んだFKを、最後はスティッペが頭でジャストミート。水谷もファインセーブで応酬し、先制ゴールとはいかなかったものの、この日も7879人が詰め掛けたスタンドのボルテージを、ようやく一段階上げてみせます。
26分は富山。ソ・ヨンドクが右からFKをクイックで始めるも、シュートまでは至らず。直後の富山はコリアンライン開通。ソ・ヨンドクのパスからキム・ヨングンが放ったミドルはクロスバーの上へ。29分も富山。左のハイサイドを取った内田が戻し、ソ・ヨンドクが狙ったミドルはタッチライン方向へ。手数は繰り出すも、「サッカーは1対1が弱かったらシャレにならない」とラモス監督が話した、ファイナルサードの"1対1"で崩れない岐阜を相手に、富山も決定機は創出し切れず。
長良川沸騰のキッカケは、やはり「キッカーの精度が抜群」とラモス監督も太鼓判を押した11番のセットプレー。33分は左サイド、ハーフウェーライン付近で獲得したFK。三都主がエリア内へ入れたボールにナザリトが頭で競り勝つと、DFラインの裏へ落ちたボールに反応したのは難波。すかさずボレーで叩いた球体はゴールネットへ吸い込まれます。「ゲームが止まった時」「フリックからの難波君」と安間監督も警戒していたと明言する2つの要素の合わせ技。「嫌な時間帯が過ぎて、少しずつ自分たちの時間帯になってきていた」(川口)岐阜が1点のアドバンテージを手にしました。
以降もチャンスを創るのは富山。38分、中島が左サイドから斜めに落としたボールは、白崎がタイミング良く飛び出すもオフサイドの判定。44分、キム・ヨングンを起点に大西が左へ展開すると、ソ・ヨンドクの外側を回った内田はクロス。苔口のヘディングは枠を捉えるも、川口がしっかりキャッチ。45+1分はトリック的なセットプレー。ソ・ヨンドクが右FKを中央に短く出し、白崎が落としたボールをキム・ヨングンが上げたクロスはDFがクリア。うまくいかない中でも「最低でも0-0で前半を終えられればというのはあるし、1-0にはなっていたのでそこまでの焦りはなかった」と木谷。岐阜が1点をリードして最初の45分間は終了しました。
後半もファーストチャンスは"三都主のセットプレー"。49分、右サイドからレフティが魔法の左足を振るうと、自らが獲得したFKだと言わんばかりの勢いで飛び込んだスティッペのヘディングはゴールネットへ到達。ラモス監督も一旦はガッツポーズを見せたシーンの帰結はオフサイドでのノーゴールとなったものの、やはりハーフタイムを挟んでも、その効力は衰えることを知りません。
53分は富山に好機到来。中島、苔口と繋がったボールを白崎は左へラストパス。ソ・ヨンドクのシュートはDFにブロックされたものの、「分析したら富山さんは前の若い選手がなかなか捕まえにくかった」とラモス監督も言及したトライアングルの連携でチャンス創出。56分には中央やや右、ゴールまで約30m近い位置からのFKを内田が枠へ収め、川口にキャッチされるも同点への意欲をワンプレーワンプレーに滲ませます。
長良川再沸騰も結局はあの男の左足から。58分、右サイドで得たFKのキッカーはもちろん三都主。ニアサイドへ落としたボールを懸命に掻き出そうとした苔口のヘディングは、自陣ゴール方向へ飛ぶと必死に飛び付いた水谷も一歩及ばず、痛恨のオウンゴールとなってしまいます。「一番危険だと準備していたので悔しいが、彼らの精度がそこまで高かったのだと思う」と安間監督も認めざるを得ない、世界を知る男の高精度FKが輝きを放ち、岐阜のリードは2点に広がりました。
「流れの中ではしっかり防げていた」(安間監督)にも関わらず、セットプレー2発でさらなるビハインドを負った富山。60分にキム・ヨングンの直接FKが川口にキャッチされると、安間監督は1人目の交替に着手。直前のキッカーを担ったキム・ヨングンを下げて、國吉貴博を投入し、同じレフティに苦境の打開を託します。
62分には三都主の左ロングスローから、最後は右に流れたスティッペのシュートがクロスバーの上へ外れ、66分に右へ持ち出したナザリトの浮き球からワントラップで持ち込んだ難波のシュートも枠を越えましたが、「もう1点取りに行く姿勢を見せないと。そういうチームを創っていきたい」という闘将の想いを体現し、さらなる歓喜を追い求める岐阜のラッシュ。
そして訪れた"3度目"は流れの中から。69分、「たぶん1ヶ月前のヤツの状況を考えたら、今の状況なんて信じられないと思いますよ」とパートナーの木谷も笑顔で評したルーキーCBの阿部正紀は、鋭いパスカットからそのまま持ち出して縦へ。最高のターンで前を向いた高地は「誰も前にいなかったので」運んで運んでエリア内へ。「僕が左利きなのはわかっていたはずなので、自分の中で駆け引きがあった」という6番は、マーカーをワンテンポずらす"駆け引き"で先に滑らせ、GKの脇を抜くパーフェクトなフィニッシュでゴールを捕獲します。「2-0と3-0は全然違う。僕にとってもチームにとっても大きな1点だった」と手応えを語った33歳も2戦連発。2週続けてのゴールフェスタ。スタンドの熱気は最高潮へ達しました。
72分にソ・ヨンドクとのワンツーから内田が左クロスを送り、中島の弱いヘディングは川口がキャッチすると、安間監督は2枚替えを決断。OUTは苔口とソ・ヨンドク。三上陽輔と木本敬介がそのままの位置に入るも、攻勢は完全に岐阜。73分に左サイドから高地がピンポイントフィードを送ると、受けたナザリトのループは枠の上へ。74分にもドイスボランチの一角として攻守に奮闘した水野泰輔が裏へ落とし、抜け出した難波の1対1は水谷が意地のファインセーブで阻止しますが、岐阜がさらなるゴールへの可能性を漂わせます。
実はこれこそが重要なポイント。開幕戦もやはり3-0というスコアを享受しながら、「焦りが出て、逆にカチカチになった」とラモス監督。実際に1点を奪われ、終盤は相手の猛攻にさらされています。ならば、このゲームで克服したい課題の1つは「前節の反省を踏まえた3-0になってからの戦い方」(木谷)。77分には中島にクロスバーをわずかに越えるミドルを放たれたものの、81分には1枚目のカードとして3分前に左SBへ投入されたばかりの野垣内俊がアーリークロスを上げ切り、スティッペはトラップミスでシュートを打てませんでしたが、しっかり披露した追加点を希求するメンタル。これには指揮官も「3-0になっても、もう1点取りに行こうという姿勢を見せ、コンパクトに1つになって走ってくれたのは評価できる」と言及。1週間での修正をピッチ上に反映してみせます。
85分には殊勲の高地と清本拓己を入れ替えると、ゴールまで約30mの距離から内田が枠の上に飛ばしたFKを経て、89分には難波と田中智大もスイッチさせて、ゲームクローズを図るラモス監督。90+4分には右へ開いた田中智大がクロスを上げ切り、ワントラップから右足を振り抜いたナザリトのシュートはわずかに枠の左へ逸れましたが、試合終了のホイッスルを聞くまで攻め続けるのも新生・岐阜。「注目されているので毎試合毎試合が私たちにとって決勝戦」(ラモス監督)という中でも、きっちり抽出した課題の1つにケリを付け、7879人が集結した長良川で開幕連勝を飾る結果となりました。
「雰囲気に飲まれてしまっている感じ。うまくスピードに乗りたい所を経験のある選手たちに止められてしまった」と安間監督も語った富山は、前半こそ何回か良い流れの中からチャンスを創出していましたが、後半はなかなか前への推進力を生み出せず、悔しい黒星となってしまいました。とはいえ、「この世界は言い訳をした分だけ、次への力がなくなってしまう。その壁のもう1つ向こう側に行けるよう努力したい」と安間監督。言い訳を封印した指揮官の下、富山がホームでリベンジを期すべく臨むちょうど半年後のリターンマッチでは、到達しているであろう"1つ向こう側"を楽しみに待ちたいと思います。
開幕連勝。2試合連続3得点。期待以上の滑り出しで、ますます注目度の高まることが予想される岐阜。開幕戦の半分くらいとはいえ、それでも十分な数のメディアが大挙して押し寄せる今日のような環境は、色々な意味での影響を選手にもたらす可能性も否定できません。ただ、「FC岐阜というチームが注目してもらえるのは嬉しいですけど」と前置きしながら、「それによってプレッシャーがどうというのは個人的に全然ないし、さっきも言ったけど本当に注目されるのは数人くらいなので、やれることをしっかりとやれればいいかなと思います」と余裕の表情を浮かべる木谷や、そのベテランに「見て下さい、あのオーラ。サッカー選手じゃないですよ」と笑われながらチームの荷物を真摯に運ぶルーキーの阿部を見ていると、余計な心配も無用な様子。「長いシーズン、いい時も悪い時もありますから」と語る百戦錬磨の指揮官を、木谷や高地のような実力者がしっかり支える"ギフ・ドリーム"の今後から目が離せません。 土屋
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