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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
国立に行けるか、行けないか。至ってシンプルな2つの結末。J1へと続く180分間の幕開けは、渦潮の街・鳴門に位置するポカリスエットスタジアムです。
シーズン序盤は苦戦続き。昨年から導入した3バックも機能せず、なかなか順位の上がらなかった徳島。ただ、負傷者が相次いだこともあり、早い段階で4バックへと舵を切った小林伸二監督の決断が結果的に奏功。第22節から怒涛の6連勝を飾ると、二桁順位に低迷していた4ヶ月が嘘のように、あっという間に昇格プレーオフ圏内まで浮上。終盤には3連敗という試練の時も経験しながら、最終節のアウェイ長崎戦を何とか勝ち切り、望外の4位でホーム開催の昇格プレーオフへ。「最後までいい状態でいられるという環境にいるのは幸せなこと」と話すのはシーズン途中からキャプテンマークを託された津田知宏。「2年前の気持ちは徳島にいる限りは忘れられないと思う」と橋内優也も口にした、ホームで昇格を逃したあの日を払拭する意味でも、勝ち上がることのみが求められる90分間に挑みます。
J2での苦闘も早4シーズン目。毎年昇格候補に挙げられながらも、"あと一歩"という魔物に行く手を阻まれ続けてきた千葉。アウェイで迎えた最終節は、最下位の鳥取を相手に2点をリードされる悪夢のような展開を強いられながら、J1のステージを知る森本貴幸と兵働昭弘の2ゴールで何とか昨年と同じ5位へ滑り込むことに成功。これまた昨年と同じアウェイでのプレーオフ準決勝に勝利し、言いようのない失望感に包まれたあの場所へ帰還することを誓います。選手たちがアンセムと共に入場してくると、ホームゴール裏を埋め尽くしたサポーターが創ったのは、瀬戸内海を思わせる青の中に浮かび上がった"J1"の緑。大袈裟ではなく生きるか死ぬかのデスマッチは14時4分、徳島のキックオフでその火蓋が切って落とされました。
ファーストシュートはホームチーム。4分、左SBのアレックスからパスを引き出した大﨑淳矢は、そのままカットインしながらミドルにチャレンジ。ボールはクロスバーの上へ消えましたが、5分には山口智のフィードにケンペスが抜け出しかけたシーンも、「いつもよりは多少緊張というかプレッシャーもあった」と語る今季リーグ戦全試合出場を果たしたルーキーの藤原広太朗が何とか食らい付いてクリア。7分にもアレックスが大﨑とのワンツーで左サイドを抜け出しクロスの一歩手前まで。8分にもアレックスが奪ったボールから濱田武の裏へ落としたパスは津田へわずかに届かなかったとはいえ、徳島がまずはいい立ち上がりでゲームへ入っていきます。
さて、ケンペスの後ろに右から兵働昭弘、町田也真人、谷澤達也と並んだ3シャドーにボールがなかなか入らず、攻撃の形ができてこない千葉は、チームにとって最大の武器でもある右SBの米倉恒貴もそこまで前へ出てくる積極性はなく、比較的シンプルに縦へという狙いで、序盤は安定を重視。13分には佐藤健太郎のクサビをスイッチに、町田とのワンツーからケンペスが狙ったシュートは、橋内が体でブロック。直後のケンペスミドルも枠を外れるなど、まずはこちらも様子見といった感じで、守備を意識しながら無理せずセーフティーな戦い方を徹底します。
19分は千葉。町田、兵働、米倉を経由して、最後はケンペスが頭に当てるも、フィニッシュには持ち込めず。20分は徳島。終盤戦のラッキーボーイとなった宮崎光平のパスから、ドウグラスが浮かせて叩いたボレーはゴール左へ。22分も徳島。宮崎が獲得した右FKをアレックスが蹴るも、キックのフィーリングが悪くDFがクリア。23分も徳島。ボランチに入った柴崎晃誠のフィードは左のハイサイドまで届き、開いた津田のクロスは千葉GK岡本昌弘がキャッチしましたが、「2トップが両ワイドを使い、SHが中へ入ってサイドチェンジ」(小林監督)という狙いがハマりつつあり、勢いはやや徳島に。
26分の悲鳴。兵働の右CKに山口智が力強く競り勝ち、こぼれに反応したケンペスのシュートはわずかにクロスバーの上へ。27分の悲鳴。橋内と大﨑の連携が悪く、中途半端にこぼれたボールへ町田がダッシュ。ここは懸命に飛び出した徳島のGK松井謙弥が間一髪で蹴り出したものの、2つの際どいシーンを経て、にわかに動き出したゲーム。
30分は徳島。柴崎が右へ展開すると、藤原は左足でクロス。収めたドウグラスのワントラップボレーは米倉が何とかブロック。32分も徳島。CBの千代反田充を起点に宮崎が粘って左へ。大﨑を経由して津田が右足で上げたクロスはドウグラスも止め切れず。34分は千葉に決定機。谷澤の左クロスを兵働が極上のワンタッチで落とし、町田がダイレクトで狙ったボレーはわずかにゴール右へ。繰り返される歓声と悲鳴。
2年前を知る2人の輝き。35分、柴崎が当てたクサビをドウグラスが倒れながら粘って繋ぐと、「裏がチャンスだというのはあったし、ずっと一緒にやっているので、プレースタイルも把握していた」という濱田が繰り出したのは最高のスルーパス。「ボールが良かったので、1人の相手とだけ駆け引きすれば良かった」津田が完全に抜け出すと、後追いになったキム・ヒョヌンがたまらずファウル。吉田寿光主審はペナルティスポットを指し示します。この重要なPKを託されたキッカーはドウグラス。「大事な試合なのはわかっていたし、落ち着いてサイドを選んで蹴るだけだと思っていた」ブラジル人ストライカーが選んだサイドは左。岡本も反応しましたが、確実にボールが突き刺さったゴールネット。鳴門沸騰。スコアボードに"1"の数字が灯りました。
「予想外の失点」(鈴木淳監督)を喫したアウェイチームの反攻はすぐさま。39分、右から兵働が蹴り込んだCKを米倉が押し込むも、徳島ディフェンスはライン上でクリア。セットプレーから掴んだ2度目の決定的なチャンスは阻まれたものの、3度目の正直もやはりセットプレー。直後の40分、またも右から兵働が放り込んだCKを山口智が頭で合わせると、左のポストを叩いたボールは跳ね返り、右のサイドネットへ飛び込みます。徳島からすれば「失点を食らう前に2本厳しいリスタートがあった」(小林監督)中での"3度目"。わずか3分間で霧散した両者の点差。スコアはイーブンに引き戻されました。
43分に千代反田のフィードを千葉のCBがお見合いしてしまい、フリーになった津田がコントロールミスで絶好機を逃すと、徳島を襲ったハプニングは45+2分。千葉のビルドアップが乱れ、ルーズボールを追い掛けて山口智とドウグラスが並走。一瞬早くドウグラスがボールをつつき、遅れた山口智が後方から倒したように見えましたが、吉田寿光主審のジャッジはオフェンスファウル。山口智は既に1枚イエローカードをもらっていたため、命拾いする格好になりましたが、倒れたドウグラスは起き上がれません。駆け寄ったドクターは"バツ"の合図。「ギリギリのプレーをしてくれていて感謝している」と労った小林監督が担架で運ばれたドウグラスに替えて、そのまま最前線へ送り込んだのは高崎寛之。様々なことが最後の10分間に凝縮された前半は、お互いに1点ずつを奪い合う格好でハーフタイムへ入りました。
後半のファーストチャンスは千葉。開始1分経たない内に、高い位置を取った町田がCKを獲得。兵働のキックはDFのクリアに遭いましたが、49分にも兵働のFKから町田が中へ送り、こぼれたボールを拾った米倉のシュートはDFが何とかブロック。50分にも兵働のセットしたFKがDFにクリアされるシーンを経て、56分には逆転のチャンス。佐藤のクサビを町田はダイレクトで捌き、谷澤は左へエンジェルパス。ケンペスが確信を持って打ち込んだシュートは、しかしゴールの遥か左へ。「後半はサイドを基点に」という鈴木監督の思惑通り、1点を取らないと"次"はない千葉のラッシュ。
徳島がチームとして考える最優先は当然「失点しないこと」(藤原)。その次は「マイボールになった時に、少しでも時間を創って前へ運ぶこと」(同)。何とか前者は水際で食い止めているものの、後者はドウグラスを失ってからボールを前で収め切れない状況が続き、創れず運べず。57分に藤原のフィードを引き出した津田もシュートへは持ち込めず。65分にここも藤原のアーリークロスから、反応した大﨑はトラップで収めるもシュートへは持ち込めず。20分間が過ぎても遠いファーストシュート。「特殊と言えば特殊なルールなので、変に攻撃に行って失点を食らうよりは我慢して、しっかり守ってカウンターという形になった」と濱田。国立まではあと25分。
69分に兵働の右CKへフリーで飛び込んだ米倉のヘディングがクロスバーの上へ外れると、「全体のやり方は悪くなかったし、ボールも動いてクロスも入っていたが、最後の精度や間でボールをもらって何かをする所に物足りなさを感じていた」鈴木監督が切った1枚目の交替カードは、ボランチの佐藤健太郎に替えて大塚翔平。大塚は1トップ下に入り、兵働がボランチへ落ち、町田を右SHへスライドさせて勝負に出ると、70分にはケンペスとのワンツーでエリア内へ進入した町田が大﨑ともつれて倒れるも、スタジアム中の視線を一身に受けた吉田主審はノーホイッスル。国立まではあと20分。
71分に徳島へ訪れた千載一遇の得点機。信じられないパスミスはハイラインに残っていた宮崎の足元へ。運んで放ったシュートは、それでも諦めずに足を伸ばした山口智がギリギリでクリア。72分にも徳島に好機。右CKを蹴ったアレックスの下にボールが戻り、上げたクロスを千代反田が合わせるも、岡本が正面でキャッチ。ようやく繰り出した2本のシュートも、勝ち越しゴールには結び付きません。
73分の絶叫。中央で大塚からパスを受けた谷澤は、DFラインとGKの間に嫌らしく落とし、飛び出した米倉が松井より一瞬早くボールに触ると、目の前には無人のゴール。ところが、ここに立ちはだかったのは「本当に一生懸命帰った」橋内。「右利きというのはわかっていたので、左足だったら逆サイドには来ないだろうなと思いながらニアの方にスライディングした」というCBが体を投げ出して防いだ絶体絶命のピンチ。「我々がシーズンの後半戦で守備を粘り強くやってきたことが、今日の後半45分に出せるのか、点を取られるのかの勝負」(小林監督)。国立まではあと15分。
両指揮官が同時に下した決断は79分。小林監督は津田を下げて、斉藤大介をボランチへ投入し、「2トップを1トップにしてボランチを把握させるようにした」と話したように、高崎の下に柴崎を置く4-2-3-1へシフト。一方の鈴木監督は町田を下げて、深井正樹を左SHへ送り込み、谷澤が中央へ、大塚が右へそれぞれスライド。国立まではあと10分。
80分は徳島。右サイドで柴崎が粘って1人を振り切り、粘ってもう1人を振り切り、放ったシュートはGKにキャッチされましたが、時間も費やしながらフィニッシュも取り切るスーパーなプレーに沸き立つスタンド。82分も徳島。左サイドでアレックスがボールを奪い、再び柴崎が思い切って狙ったミドルはわずかに枠の上へ。追い込まれた鈴木監督は84分、「ウチの場合は2トップにするとボールが動かなくなることが多いので、そのカードは最後に取っておいた」という森本貴幸を高橋に替えてピッチへ解き放ち、深井を左SBへ移す超攻撃的布陣で挑む最後の勝負。国立まではあと5分。
「ロングボールを使ってセカンドボールを狙う攻め」(鈴木監督)へ明確に舵を切った千葉。「なかなか一発綺麗に決められるというのはないと思うので、最後のパワープレーでもケンペスの競ったセカンドだったりとか、本当に普段伸二さんに言われているような細かいことをやり続けた」と橋内。「ケンペス選手と森本選手は高さもあるしパワーもあるので、クロスも見て上げるというより放り込んでくるというのが一番怖かった」と藤原。
87分は千葉。森本が左へ振り分け、上がってきた深井がしっかりクロスを上げ切ると、反応したケンペスのボレーはゴール方向へ飛びましたが、千代反田が至近距離のシュートにも微動だにせず体でブロック。直後の左CKを兵働が蹴ると、ニアで宙を舞った森本のヘディングはわずかに枠の右へ。所定の90分間はここで終了。提示されたアディショナルタイム。国立までのカウントダウンに加えられたのは4分間。
集中の続く守備陣に、懸命のキープで応えたのは「チームのやるべきことはわかっていた」という高崎。跳ね返すボールを全力で追い掛け、全力で収め、ファウルをもらって着々と潰していく時間。90+2分には橋内が最高のパスカットから左へ蹴り出し、追い付いた高崎は大きな体を使い切って、相手のファウルを誘う100点満点の仕事を披露。「特にヒロくんが体を張って、あそこまでボールを運んでくれていたので後ろとしてはすごい助かったし、ああいうプレーを見ていると後ろも勇気付けられるというか、守り抜きたいという気持ちが強くなるので、出ている選手の一体感はあった」と藤原。小林監督も90+3分に宮崎に替えて、大久保裕樹をクローザーとして投入。千葉の勢いを受け止めて飲み込む渦潮の志士。叫ぶ青のサポーター。叫ぶ黄色のサポーター。力の入る下部組織のボールパーソンと担架隊。
90+5分、千葉を取り巻くすべての人の希望を乗せた谷澤のミドルが枠を外れると、徳島を取り巻くすべての人が聞いたのは、国立で次の90分間を戦う権利を得たことを告げる吉田主審のファイナルホイッスル。「後半については"ホームの力"で守れたと思う。最後の20分くらいは声援に凄く力をもらった」と小林監督も言及した通り、サポーターに捧げる"ホームでの歴史的な勝利。生き残ったのは徳島。徳島がレギュレーションを最大限に生かしたドローで、国立決勝へと駒を進める結果となりました。
「ゲームについては主導権を握れた。ゲームプランも予定通り」という鈴木監督の言葉は、決して強がりではなく本心から口を衝いたものだと思います。「あと何点か失点してもおかしくなかったが、その点ではラッキーだった」と最後尾で橋内と共に存在感を示し続けた千代反田も正直な感想を語っています。シュート数も上回り、攻撃する時間も後半は圧倒的に長かった千葉が、それでも届かなかった"もう1点"。やはり勝敗を分けたわずかな差は、「全員で走って、全員で攻めて、全員で守ってというのがこのチームの強さだと思う」と間違いなく今日のMVPと言っていい橋内も認めた選手の、そして「今日初めて観戦した人が本当のサポーターに変わっていってくれればと思う。このような試合が徳島ではまだまだ多くない。今日は9300人が来てくれたが、このようなゲームができたり、質を上げていくことができれば、サッカーをするとか見るということが根付いて行くと思う」と小林監督も話したように、ホームアドバンテージを創り上げた"伸びしろ"に溢れるスタンドも含めての"一体感"だったのではないでしょうか。 土屋
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