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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
Tリーグに残された2ヶ月遅れのエクストラマッチ。8ヶ月に及ぶT1の大トリを飾るのは、カナリア軍団とタイガー軍団。会場は奇しくも両チームが開幕の一歩を記した駒沢第2です。
7年連続2位。究極の"シルバーコレクター"とも称される結果が続いていたものの、今シーズンは既に3位でのフィニッシュが決定している帝京。選手権予選では、準決勝の西が丘でPK戦の末に敗退を余儀なくされたため、この試合が3年生にとっては引退試合。「負けられないプレッシャーは人よりも感じることはあるけど、今はみんなに支えられていいチームになったので、やりがいと楽しさの方が大きい」と名門をまとめるキャプテンの重責を語ったのは小川一矢(3年・FCトッカーノ)。今日のメンバーはベンチも含めて全員が3年生。最高の仲間たちと最後の1試合に臨みます。
インターハイは準々決勝で帝京にPK戦で、選手権は準決勝の西が丘で成立学園に0-2で屈し、全国の舞台にはあと一歩で手が届かなかったものの、掲げた「やっていて面白いサッカー」(川島純一監督)が見る者の共感を呼び、今年の東京を個性豊かに彩ってくれた東海大高輪台。今日の結果次第では入替戦へ回る可能性もありますが、まずは「3年間一緒にやってきて凄く仲も良い」とストライカーの金子真彦(3年・川口戸塚西中)も語るチームメイトとのT1ラストマッチを90分間戦い抜きます。
帝京はエースの柳下大樹(3年・浦和レッズJY)が警告累積で出場停止。しかし、試合前に円陣を作った選手たちが「大樹、大樹」と呼び掛け、その輪がスタンドにいた柳下方向へ移動。「やっぱりみんなアイツのことを思っているので、自然な流れでした」と小川。"絆"の円陣が解けると、高輪台のキックオフでゲームはスタートしました。
「前半の15分は相手がガッと来た」と川島監督も振り返ったように、立ち上がりからラッシュを仕掛けたのは帝京。6分には高い位置でボールを奪った三浦勇介(3年・練馬開進第四中)が左サイドを独走。そのまま切れ込んで放ったシュートは、高輪台のスタメン唯一の2年生となったGKの安齋優太(2年)がファインセーブで凌ぎますが、9分にも"帝京の10番"というプレッシャーと戦ってきたであろう都築洋平(3年・浦和レッズJY)が左へラストパス。「今日は3年分の想いがあった」というキャプテンの小川一矢(3年・FCトッカーノ)がコースを突いたシュートは枠の右に外れるも、この一戦に懸ける想いを前面に押し出します。
すると、歓喜の中心に身を置いたのは荒谷守監督も「彼がいなかったら大変」と認めるあの男。11分、昨年から出場機会を得ており、今日も前線を掻き回していた竜崎廉(3年・FC駒沢)が左から右へピンポイントパスを通すと、受けた武藤はスムーズな反転から縦へ持ち出しシュート。安齋も懸命に触りましたが、「これが高校生活最後なので『最後は勝って終わろう』ということを目標にやってきた」想いがわずかに勝り、ボールはゆっくりとゴールの中へ転がり込みます。これぞ名門の力。完全にゲームの流れを掌握した帝京が、見事に先制点を奪ってみせました。
さて、「俺らが開始15分でやろうとしたことを、そのまま相手にやられてしまった」(荒川真作・3年・FC駒沢)高輪台。17分には都築に枠内シュートを見舞われ、安齋が何とかキャッチすると、直後に訪れたファーストシュートはいきなり決定機。伊藤竜之介(3年・ヴェルディSS調布)が左から右へ糸を引くようなミドルパスを通し、抜け出した荒川はフィニッシュまで持ち込むも、ここは帝京のGK古島圭人(3年・湘南ベルマーレJY)がファインキャッチで応酬。同点とはいきません。
以降は高輪台もようやく少しずつパスワークにリズムが出始めますが、帝京も木村俊輔(3年・AZ'86 tokyo-ome)と増田隆市(3年・横河武蔵野FC JY)という珍しい組み合わせのCBコンビを中心に、バイタル周辺はしっかりと堅固に施錠。30分には武藤からパスを引き出したボランチの小川が裏へ。斜めに走り込んだ三浦のシュートはわずかにクロスバーの上へ外れるも、最近はCB起用が定着していたものの「元々ボランチをやっていた」小川のセンス溢れるパスに、スタンドからも感嘆の声が聞こえてきます。
33分には高輪台に"らしい"チャンスが。右サイドで金子、阿部駿佑(3年・GRANDE FC)が絡み、短いパス交換から最後は伊藤がワンタッチでラストパス。抜け出した荒川の1対1は、ここも古島がファインセーブで回避。40分は再び帝京。右スローインの流れから都築がトライしたカットイン左足ミドルは枠の左へ。「自分たちがやりたい"繋いでいこう"という意識で前半は入ったので、
何本かいい形で崩せたし、やっていて楽しかった」とは武藤。何か吹っ切れたようなプレーを45分間継続させた帝京が1点をリードして、ゲームはハーフタイムを迎えました。
後半はスタートから両チームに交替が。帝京はチーム一のポリバレントさを有し、今日は左SBでの起用となった岩野広基(3年・GRANDE FC)に替えて、スピードスターの阿久津義和(3年・帝京FC)を右SHへ投入。武藤がボランチへ、小川がCBへ、木村が左SBへそれぞれスライドして、最後の45分間を迎えます。一方、川島監督が「ハーフタイムに話した戦術的なことは1つくらい。『おまえらにこのチームの未来を託してるんだよ』と怒った」と話した高輪台は、プレースキッカーを務める右SB小山拡志(3年・インテリオールFC)と竹澤楓(3年・GRANDE FC)を入れ替え、反攻への兆しを窺います。
奏功したのは前者。47分、右SBの島田武虎(3年・レジスタFC)が鋭いドリブルから中へ。シュートレンジにいた阿久津が左へ流すと、ここにいたのは三浦。躊躇なく振り抜かれたボールはゴール左スミへ吸い込まれます。交替で登場した選手がいきなりチャンスに顔を出して大きな追加点を挙げると、圧巻は59分。左から武藤が入れたクサビをしっかり収めた阿久津は、反転するとエリア外からミドルにチャレンジ。スムーズな一連から放たれた球体は、弓矢のごとくゴール右スミを射抜きます。その快足に注目が集まりますが、得点感覚の鋭さも証明する阿久津のゴラッソ。点差は3点に開きました。
60分には竜崎を下げて、岡本岳(3年・塩尻広丘U-15)を最前線に投入した帝京の止まらない攻勢。66分、再三スタンドを沸かせていた古島のキックに都築が競り勝ち、ボールは阿久津の足元へ。抜け出した11番のシュートは安齋もきっちり反応しましたが、ここも執念が乗り移ったボールはゴールネットへ到達。4点目が帝京に記録されました。
このゲームへ臨むに当たり、「『1,2年生に色々な背中を見せてくれ』という話はした」という川島監督。「全員が走るしかなくなった」(荒川)3年生の高輪台がようやく踏み込んだアクセル。66分にアンカーを務めた和田幸記(3年・ヴェルディSS調布)に替えて、右ウイングに島村健汰(3年・GRANDE FC)を送り込み、キャプテンの吉野崚平(3年・川口在家中)と阿部をドイスボランチ気味に並べ、その前に荒川を置く4-2-1-3で勝負に出ると、到来したマジックアワー。
68分、右サイドから竹澤がクサビを打ち込み、受けた荒川は中へ。金子の強烈なシュートは古島が抜群の反応で弾いたものの、右ポストに当たって跳ね返ったボールへ、全速力で駆け寄ってプッシュしたのは阿部。1-4。上がった反撃の狼煙。69分、吉野が得意のドリブルで運んで金子に付けると、「自分もチームも課題なのでチャレンジはしている」というミドルにトライ。左足で叩いたボールは凄まじいスピードと軌道で、左上ギリギリのゴールネットを激しく揺さぶります。「自分でもビックリした」と振り返ったレフティのスーペルゴラッソ。2-4。さらに勢いを増した狼煙。2分間でたちまち点差は2点に。
「守備のバランスが崩れて、人に対して行けなくなった」(武藤)「ちょっと苦しかった」(小川)と2人が声を揃えた帝京が、ピッチ上の全員で集まって創った円陣。実は関東大会予選、インターハイ予選、選手権予選といずれもスコアレスドローでのPK戦で敗退を余儀なくされた帝京が、唯一この3大会で失点を喫したのが東海大高輪台。しかもT1も含めた過去2試合の対戦結果はいずれも2‐2。「結局いつも2点は取られる(笑)」(小川)好敵手の猛攻に、「高輪台には本当の意味で勝っていないので、最後に勝って終わろうと」(武藤)一息付いて11人で整えた心。
82分の咆哮は喜びの歌声を取り戻したカナリア軍団。負傷に泣かされながら、このラストマッチに間に合った左SBの望月雅稀(3年・帝京FC)も絡み、三浦を経由したボールを、直前にボランチから1.5列目へポジションを移していた土井幸大(3年・帝京FC)が左から中央へ最高のラストパス。ここに走り込んでいた岡本が気持ちを込めて蹴り込んだシュートは、ゴール左スミへ吸い込まれます。なかなか公式戦での出場機会を得ることができなかった3年生のゴールに、沸き立つスタンドとベンチとイレブン。「3年生がたくさん試合に出られたし、それぞれが活躍できたので凄く良かった」と笑顔を見せたのは小川。85分には島田に替わって鈴木龍也(3年・FC明浜)が送り込まれ、87分には古島と3年分のハイタッチを交わしてピッチへ飛び出した本山航大(3年・GRANDE FC)がゴールマウスに立ち、迎えたのは別れと旅立ちのホイッスル。「今までにないサッカーができた。最高の終わり方」(小川)。3年生だけの帝京が様々な決着をピッチで付け切り、有終の美を飾る結果となりました。
T1最終戦は悔しい結果に終わった高輪台。これで来月の26日に行われる入替戦に回ることが決まりました。「ウチは今年度のチームでやると思う。このまま尻すぼみで終わりたくないので、最後はバシッとやりますよ」と川島監督。「今は後輩に残せるものが何もないので、チームをT1に絶対に残さなくてはいけない」と決意を口にしたのは荒川。高輪台の3年生たちにとってのラストマッチは、1ヵ月後へと持ち越されることになりました。
「最後は監督からも『楽しめ』と言われた」(武藤)「監督からも『楽しくやろう』と話があった」(小川)と2人が語ったように、厳格な荒谷監督が最後の1試合に向けて、選手に命じたのは「楽しむこと」。試合前からピッチにもスタンドにも弾けていた笑顔は、試合中も継続。それは「帝京はいつもと違った雰囲気で来ていた。最後ということもあって、楽しんでいたような気がする」と対戦していた荒川にも伝わっていたようです。常に勝つことのみを義務付けられていると言ってもいいであろう帝京。それでも荒谷監督が以前、「勝っても負けても帝京に来て本当に良かったと言ってもらえるようにしたいし、卒業していく時には帝京に来たという自信を持って卒業させてやりたいと思っている」と語ってくれたことは鮮明に記憶しています。最後の最後で勝利のプレッシャーから解放され、「今までで一番やっていて楽しかった」(武藤)ゲームを披露してくれた帝京。「本当に仲間や監督、スタッフに恵まれて、一致団結していたからこそここまで来ることができたので、みんなに感謝したい」と語ってくれた武藤が、帰り際に「これからも帝京をよろしくお願いします」と差し出した両手に、彼らが積み重ねてきた本当の意味での"帝京魂"が凝縮されていたような気がしました。 土屋
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