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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
首都と古都の対峙は味の素スタジアム。J1の味を知り、そこへと返り咲くことを渇望している両者が後半戦の初戦で激突します。
今季2度目となる4試合未勝利。特にここ3試合は長崎、栃木、千葉という上位チームとの連戦であり、昇格プレーオフ圏内浮上を考えれば格好のチャンスだったにもかかわらず、1つの白星も挙げられなかった東京V。迎えた上位4連戦ラストゲームのスタメンからは高原直泰と飯尾一慶が外れ、今シーズン初めて巻誠一郎の名前が。「少し荒療治ではあるが、トライしてみた」と三浦泰年監督も話したように、チームの総合力を自ら問うゲームになります。
対するは水戸、栃木と北関東勢に揃って終盤の失点で勝ち点を取りこぼし、やや嫌な流れになりつつある現状を打破したい京都。とはいえ、前節の栃木戦では引き分けたものの、新たに導入した4-3-3のシステムには、「ボールが動かしやすくなったイメージは強い」と中盤のキーマンとなる工藤浩平も話すなど、選手もポジティブな印象を抱いている様子。さらなる成熟度を考える上でも、同じようにボールを回してくる東京V相手の一戦は、今後の試金石にもなり得るゲームです。水曜ナイトゲームは23.3度の好コンディション。東京Vのキックオフでゲームはスタートしました。
先に決定機を掴んだのはホームチーム。4分、中後雅喜の正確な右FKをファーでペ・デウォンが折り返すと、ここにいたのは巻。右足を振り抜いたシュートは、オ・スンフンが足でブロックして先制とはいきませんでしたが、まずはスタメン起用の18番がチャンスに絡んでみせます。ただ、この逸機が結果として大きな代償に。
6分は京都。左サイドでの狭いスペースから右へ展開が移り、安藤淳のパスを受けた駒井善成がクロス。ニアで三平和司が合わせたヘディングは枠の左へ外れたものの、いい形からチャンスを創ると、直後にハマッたのは「ヴェルディみたいに繋いでくるチームに対しては、近い位置でプレッシャーを掛ければ取れるという意識をより持っている」と話す10番の守備。7分、ペ・デウォンの横パスに対し、猛然とプレスを掛けた工藤はボールをかっさらうと、そのままショートドリブルから右へラストパス。駒井はGKの位置を確認してゴール左スミへグサリ。「ディフェンスもパスを出してくると思っていたし、狙っていた」という工藤の"寄せる"判断が奏功。アウェイチームが先制点を奪いました。
以降も「攻撃に切り替わった時に非常にイージーなミスがあった」と三浦監督も嘆いた東京Vを尻目に、続く京都の攻勢。先制直後の8分には、またも工藤とのコンビネーションで右サイドを抜け出した駒井が、東京VのGK佐藤優也を強襲する枠内シュート。15分にも右サイドを複数人の連携で崩してCKを獲得するなど、完全にゲームリズムを掌握します。
この4-3-3という新システムの中で、より積極性が目立ち、得意のドリブルで相手に脅威を与え続けたのは、左FWの位置に入った山瀬。「基本的に前を向いてボールを受けることが多くなったので、そこはやりやすいし、少し緩急が付くようになって来たかなと思う」と言及した通り、スタートポジションが外に開いたことで、対峙する相手から受けるアプローチの位置が変化。駒井も同様ですが、山瀬も前を向けば狭い局面でも容易に打開できるだけに、両ワイドがボールをいい形で受けやすい流れが、京都の攻勢に好影響を与えていた印象です。
加えて、守備面での変化を話したのも山瀬。曰く「基本はボールに行くが、ディレイとの使い分けというか、何でもかんでも遮二無二行くという所はなくなったかな」と。中盤でサイドの守備に掛けられる人数が減った分、サイドチェンジをある程度容認しながら、行く所と行かない所の判断が向上したとのこと。これには工藤も「1人が行って取れなかったら、しっかりカバーというのができていた」と話すなど、ベースは残しつつも守備意識にもポジティブな変化が現れてきたようです。
一方の東京Vは2トップの巻と常盤聡までほとんどボールが入らず、全体の距離感もイマイチ。中盤でも「京都の速いプレッシャーに、自分のプレースピードがついて行けなくてボールを奪われる」(三浦監督)シーンが多く見られ、エリア内へはほとんど侵入できない時間が続きます。
それでも、大木監督が「中島の所は少し気になっていた」と話した通り、2トップ下に入った中島翔哉にボールが入った時にはチャンスの可能性が。21分には西紀寛、中後と繋ぎ、常盤のパスからその中島が枠を越えるミドルにチャレンジ。「このチームは自分たちの形があって、その中で自分は"形"を創らなくてはいけない」と語る18歳が、チームに数少ない推進力を与えていたのは間違いありません。
ゲームをコントロール下に置いた京都もフィニッシュは多くなく、29分に横谷繁が右へ付け、駒井がカットインから狙ったシュートはDFのブロックに遭い、39分に工藤、山瀬と回して横谷が枠へ収めたミドルも佐藤が何とかセーブ。43分には東京Vも、カウンターからやはり中島が持ち出し左へ送ると、しかし前田直輝のクロスはオ・スンフンが難なくキャッチ。京都ペースで推移した前半は、先制以降スコア動かず。1点差のままでハーフタイムへ入りました。
「練習と本番でのギャップが自分の頭にあった」と感じた三浦監督は、後半頭からの2枚替えを敢行。巻に替えて高原を、そして前半は最も"効いていた"ように見えた中島に替えて飯尾をそれぞれ投入。「練習より試合の方がパフォーマンスがアップする選手」(三浦監督)で、劣勢を覆しに打って出ます。
ところが、その目論見はわずか45秒で霧散。京都は左SBの福村貴幸がフィードを送ると、横谷と福井諒司が競り合ったボールは中央へ。反応した三平は「周りを見たら誰もいなかったので『スルー』と声を掛けた」山瀬のコーチングにも反応し、判断を変えてスルー。エリア外とはいえ、まったくのフリーで打たせてしまえば山瀬の照準は国内トップクラス。「早いタイミングで1点2点は欲しかったので、いい時間帯で取れたかな」と自賛するスナイパーの一撃。点差が広がりました。
続く誤算は48分。後半早々の競り合いで右足を傷めた中後がプレー続行不可能となり、鈴木惇との交替を余儀なくされてしまいます。3分間で切ることになった3枚のカード。消えた三浦監督の持ち駒。さらに続く誤算は53分。山瀬の右CKをニアでバヤリッツァがフリックすると、ファーサイドに突っ込んだのは酒井隆介。角度のない所から強引に打ったボレーは、豪快にゴールネットを揺らす自身Jリーグ初ゴール。スコアボードに灯った"3"の数字。大勢は決しました。
55分にも東京Vが自陣深い位置で犯したパスミスから、横谷、三平と繋がり、山瀬が華麗に浮かせたループが右ポストを直撃。止まらない負のスパイラルのトドメは、右足を負傷しながら何とかプレーを続けようと頑張った前田が、ベンチからの指示もあって担架で運ばれピッチアウト。30分近い残り時間を10人で戦うことになってしまいます。
61分には横谷とのパス交換から山瀬が今度は左ポストに当たるミドルを放つと、大木監督も交替カードを相次いで2枚投入。63分には三平と原一樹を、68分には横谷と倉貫一毅を入れ替え、最前線と中盤の顔触れに変化を加えます。ここからは数的不利に加え、小さくないビハインドを負った東京Vが「しっかり閉めてきたし、あまり出てこなかった」(工藤)こともあって、時間が着々と過ぎ去っていく展開。85分には山瀬に替わって、原川力がピッチイン。粛々と向かうファイナルホイッスル。
貪欲な男が諦めていなかったゴールへの強い意欲。89分、またも東京Vは最終ラインでパス回しが乱れると、「かっさらうのが凄くうまい。なんか忍者みたいな感じで」と山瀬が独特の表現で形容した工藤のボールカットが飛び出し、GKを見極めて冷静なラストパス。受けた原もこれまた冷静にGKをかわすと、左ポストにぶつけながらねじ込む4点目。さらに90+2分、左サイドを独走した福村は完璧なピンポイントアーリークロス。走り込んだ原の力強いヘディングが、ゴール左スミに突き刺さって5点目。「僕がどうこうより、チームで点が取れた」と振り返ったストライカーが、15試合ぶりのドッピエッタで復活を高らかにアピール。「今はまたいい方向に向かいつつある」と工藤も一定の手応えを口にした京都が、今季最多の5ゴールを奪って快勝を収める結果となりました。
東京Vは「私としては達成可能な期待をこれから持って行くために大きなトライをしてみた訳なので、すっきり勝点3しか失っていない。1つも取れなかっただけで勝点がマイナスになる訳ではないので、次に繋げていきたい」という三浦監督の言葉を、選手が咀嚼して切り替えるしかないと思います。さらなる苦境に陥るのも、跳ね返すのも自分次第。「選手として替えられることは不本意だし悔しいけど、次のことを考えるしかない。負けて言うのも何だが、もっと高い所を見ていなくてはいけない。そこは変えたくない」としっかり前を見据えて話す中島に、個人的には光明を見た気がしました。
京都は攻守にガッチリ噛み合った印象です。攻撃面ではやはり「今の4-3-3にして、僕とか(駒井)善成の所に入ったりすると、攻撃のスイッチは入れやすい」と山瀬が話すドリブラー2人の生かし方がハッキリしたことで、狭い局面での崩しに一層のバリエーションが出たのかなと。守備面でも「チーム全体として前に行けるだろう、行かないで遅らせようという判断の所は同じ方向を向いてるかなと思う」とこちらも山瀬が言及した部分が、1点目と4点目にゴールという形で直結したのは今後に向けても好材料でしょう。この戦い方を継続するかを問われて、「まったく変えるつもりはない」と即答した大木監督。工藤も「監督の考え方がしっかりしている」と信頼を寄せる指揮官の下、昇格候補と目されている京都の"両輪"がいよいよスムーズに回り始めたのかもしれません。 土屋
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