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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
「私はやっぱり攻撃したいし、ボールを持ちたい」(國學院久我山・李済華監督)。「ボールを持つチームが勝つとは限らない」(修徳・岩本慎二郎監督)。対照的なスタイルを打ち出しながら、共に東京の高校サッカー界をリードしてきた2チームが、全国切符の獲得を巡って激突するのが準決勝第2試合です。
昨年のインターハイ、選手権とここまで2季連続で全国大会を経験しているのは修徳。先週の準々決勝も敗色濃厚の後半ラストチャンスで追い付き、延長で見事に勝ち越してのベスト4進出。現在、インターハイ予選では怒涛の13連勝中。「やられたって一歩も引かずにやりたい」と岩本監督が話せば、「みんな上手いのはわかっているので、修徳らしいあきらめない気持ちでやれば勝てると思う」と佐藤悠輝(3年・FC東京U-15深川)。刺し違える覚悟はできています。
一方、昨シーズンも都内最強との呼び声も高い中で、インターハイ、選手権ともに全国へは手が届かなかった國學院久我山。李監督もその難しさを認めた、"初戦"に当たる先週の準々決勝では都内屈指のフィジカルを有する駒澤大学高相手に、エース富樫佑太(3年・ジェファFC)の決勝ゴールで1-0と勝利。昨年の選手権予選準決勝で敗れた修徳とのリベンジマッチへ、「選手権も逆ブロックになるから借りを返すならここしかない」と意気込むのは、チームの司令塔を務める中盤アンカーの平野佑一(3年・東京ヴェルディJY)。一番負けたくない相手と全国を懸けて対峙します。因縁渦巻く注目の一戦は、朝からの雨もすっかり上がり、夏の陽射しが照り付ける駒沢第2でキックオフを迎えました。
開始4秒、修徳の10番を背負う田上真伍(3年・FC東京U-15深川)のキックオフシュートで幕を開けたゲームは、序盤から久我山に勢い。1分には左FK、直後にも右CKと相次いで獲得したセットプレーから、平野が高精度キックで修徳ゴール前を襲うと、6分には絶好機。富樫がクイックで始めたFKを、キャプテンの渡辺夏彦(3年・FCトリプレッタ)がすぐさま返し、富樫のフィニッシュは修徳GK高橋太郎(3年・すみだSC)がファインセーブで回避しますが、8分にもチャンス。左ショートコーナーから平野が左へ付けると、松村遼(3年・久我山中)はサイドをぶっちぎって中へ。速いクロスは誰にも合わず、ゴールキックになってしまったものの、早くも"らしさ"を前面に押し出します。
さて修徳からすれば、ある程度ボールを持たれることは想定内。ただ、今年の久我山の強さを岩本監督が「ボールを取られた後の回収が速い。ちょっと躊躇しているとボールを繋げなかった」と評したように、奪ったボールもセーフティーに蹴り出すか、相手のプレス網に引っ掛かるかという展開を強いられ、なかなか攻撃面での有効打を繰り出せません。
とはいえ、14分にはアタッカー陣でチャンス創出。田上のパスが加藤禅(3年・柏レイソルU-15)の頭に当たり、雪江悠人(2年・三郷Jr)が繋ぐと、田上のミドルは久我山GK仲間琳星(2年・ジェファFC)が何とかセーブしましたが、この辺りから徐々に相手のパスワークにも慣れ始めた修徳の好リズム。
18分には久保祐貴(3年・習志野第一中)の縦パスを、加藤は反転から枠内ミドル。19分には加藤が高い位置でボールを奪って左へ展開し、田上のクロスはDFが何とかクリア。少しずつ押し返す修徳。21分には久我山も平野を起点に富樫のスルーを挟み、渡辺のラストパスから松村が放ったシュートは、高橋が弾くもDFがすぐさまクリア。時計の針が進んでいく中、「守備の所ではある程度狙い通り」と岩本監督も振り返ったように、田中拓夢(3年・Wings U-15)と渡邊黎生(3年・LARGO FC)の両CBを中心に相手の細かいパスワークにも落ち着いて対応していきます。
この状況を平野は「久我山のいい時は自分がボールを触っていない時。前半は自分がボールを持つ時間が長かった」と冷静に分析。つまりボールを回してはいたものの、基本は内藤健太(2年・Forza'02)と花房稔(2年・横河武蔵野FC JY)の両CBと平野の3人で回す形が多く、その位置が低かったためになかなか効果的なパスワークには昇華させられず、「ガチッと固められた」(平野)相手の守備網へ向けたチャレンジの縦パスも当て切れない流れが、ポゼッションに見合ったチャンスの数を生み出せなかった要因だったように感じました。
25分には久我山にFKのチャンス。中央左、ゴールまで20m強の位置から平野が直接狙ったキックは高橋がキャッチ。27分にも平野のパスから富樫がチャレンジした35m近いミドルはクロスバーの上へ。30分と32分には修徳もそれぞれ左右から田上がFKを蹴り入れ、前者はシュートまで行きませんでしたが、後者は雪江が仲間にセーブを強いるヘディング。37分にも田上が蹴り入れた右CKから、雪江はわずかなズレでシュートまで行けなかったものの、攻守のポイントを押さえていたのはどちらかと言えばディフェンディングチャンピオン。「前半は狙い通り」と岩本監督が話せば、「どっちが攻めているという状況でもない。前半は苦しめられた」と平野。大応援団から「水飲め~」コールを浴びた修徳が思い通りに近いゲーム運びを見せ、最初の40分間は終了しました。
後半はスタートから動いた岩本監督。雪江に替わって投入されたのは、準々決勝の延長後半に決勝ゴールを叩き込んだ佐藤。修徳のスーパーサブナンバーとも言うべき14番を背負い、サイドの活性化という役割を課され、勝負のピッチへと送り出されます。
後半のファーストシュートは44分の修徳。中盤でのルーズボールを収めた田上が、30m近い距離から狙ったミドルボレーは仲間がセーブ。45分も修徳。右でのショートコーナーから、佐藤とのワンツーでゴールラインと平行に抜け出した田上のグラウンダークロスは、無情にも中央の味方に合わず。それでも微かに香り始めた得点への匂い。
ここからは両チームが切っていくカードも攻撃へしっかり関与し、お互いがお互いのスタイルで殴り合う手数。46分は久我山。左SBの加藤寿弥(3年・FC東京U-15深川)が斜めに入れると、「彼は"間"の嫌な所でボールを受けていた」と敵将も評価した小田寛貴(3年・ジェファFC)がバイタルに顔を出し、そのまま30mミドルを枠の上へ。
47分は久我山に1人目の交替。飯原健斗(2年・横浜FC JY)と小林和樹(1年・ジェファFC)をそのまま入れ替える、おなじみのシフト。49分は久我山のチャンス。渡辺と富樫のコンビネーションから、最後はDFに当たったボールを打ち切った松村のシュートはわずかにゴール左へ。
54分は修徳。加藤、池田晃輔(3年・埼玉ユナイテッドFCフェスタ)と回り、佐藤の右クロスへ小野寺湧紀(2年・荒川第五中)が飛び込むもシュートは打てず。直後に2人目の交替。小野寺とスイッチさせたのは藤本優斗(3年・ジェファFC)。同じタイミングで久我山も2人目の交替。小田を下げて、萩原優一(3年・横河武蔵野FC JY)を中盤へそのまま送り込み、ミドルゾーンでの攻守におけるパワー増強を図ると、56分に訪れた決定機。中央でのパスワークから、富樫が丁寧に右へラストパス。後方から走り込んだ渡辺はフリーで抜け出したものの、シュートはわずかに枠の左へ。「後半は前半よりもボールを引き出してくれた」と平野も評価したキャプテンの逸機。両者の"ゼロ"は継続します。
かなりの炎天下が戻ってきたにもかかわらず、給水タイムがないままに差し掛かった60分以降は、「ある程度ブロックを作ればそんなにやられないが、前が疲れちゃった」と岩本監督が話した修徳も、「コンパクトと言ってもどんどん下がってしまう」と李監督が言及した久我山も、運動量の低下は隠し切れずにゲームは膠着状態。お互いにチャンスらしいチャンスを創り切れない中、突如として生まれた修徳の先制機。
67分、右サイドでSBの峰和也(3年・Wings U-15)が付けたボールを、田上はうまくマーカーと入れ替わって独走。エリア内へ侵入すると、ここでも1人をかわしてGKと1対1に。交錯する歓声と悲鳴。左足を振り抜いたシュートの帰結は、懸命にカバーへ戻っていた久我山の右SB鴻巣良真(2年・ジェファFC)が体を投げ出してブロック。「先週も良くなくてずっと怒られていた」(李監督)という2年生が、「遅い時間での失点が東京で戦うときには一番怖い」と指揮官も懸念していた時間帯でチームを救うビッグプレー。逆に形、時間帯ともに勝ちパターンとも言うべきタイミングでの先制機を逃した修徳。ただ、このプレーは岩本監督も「お互い必死に攻めて守っている中で、あそこはさすが」と潔く賞賛しています。
ヒーローは「勉強も一番頑張るし、黙々とやれる」(李監督)途中出場の13番。73分、修徳の最終ラインがやや中途半端な対応になったのを見逃さず、高い位置で萩原が果敢なアプローチからボール奪取。富樫の柔らかいラストパスに、走り込んだ萩原は丁寧な、それでいて力強いインサイドキックでボールをゴール左スミへ送り届けます。1年時から出場機会を得ながら、渡辺や平野の陰に隠れ、なかなか定位置を確保できなかった男がここ一番で見せた集中力。とうとう久我山のスコアボードに"1"の数字が踊りました。
攻めるしかなくなった修徳は75分に2枚替え。両SBの峰と今野尚也(3年・GOODLY)を下げて、沖山正信(3年・板橋志村第四中)と関秀太(3年・スクデットSC)を投入。何とか1点を返す態勢を整えます。78分には久我山も途中出場の小熊悠介(3年・久我山中)が決定的なシュートを放つも、ボールはクロスバーをハードヒット。ここまで何度も奇跡を起こしてきた「どんなに攻められても行くしかない気持ち」(池田)はここでも発揮されるのか否か。
78分、田上のパスは右サイドに開いた関の足元へ。運んで運んで、最後まで声を枯らした応援団の想いも乗せた右足が振り抜いたシュートは、しかしヒットせずに仲間ががっちりキャッチ。「自分の問題だけじゃなくて、コーチだったり先輩だったり、出ていない人たちの分もという所で懸ける想いはあった」と平野が語ったリベンジ完遂。久我山が一昨年の選手権以来となる全国切符を堂々と勝ち獲る結果となりました。
昨年から常に本命視されながら、なかなか全国へと繋がる結果を出せず、苦しい時期が続いていた久我山の戴冠。「タイトルを1個獲ることで、やっと去年の呪縛から解放されたんじゃないかな」と李監督も話した通り、ようやく評価に見合った結果をこの夏で掴みました。「全国の人たちに"久我山"というサッカーを見ていただけるのは楽しみ」と李監督が笑えば、「全国に行ってもやれる自信はある」と平野。福岡の地でも手ぐすねを引いて待っている猛者たちを、"久我山スタイル"で正面突破して欲しいと思います。 土屋
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