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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
「俺はこのチームのおかげで今までサッカーが出来ている」(栃木ウーヴァFC・前田和也)。そんな想いを抱えた選手たちで構成される2つのチームが、JFLというステージの"残留"と"昇格"を懸けて戦うサバイバルマッチ。JFL17位の栃木ウーヴァFCと、地域決勝3位のノルブリッツ北海道で争われるJFL入替戦です。
リーグ序盤からなかなか結果に恵まれず、「どういうサッカーをしても勝てない」(濱岡和久・31・鎮西学院→大分トリニータ→愛媛FC→佐川印刷SC→バンディオンセ加古川)状況の中、9月にリーグ戦の9試合を残して横浜誠監督が辞任。後任には井出大介コーチが昇格し、結果としては最下位に終わったものの、「サッカー界にとっても非常に残念」(井出監督)なSAGAWA SHIGA FCのリーグ退会もあって、自動降格を免れて入替戦に回ってきた栃木。「選手の個性が強いことが裏目に出てしまった」(前田)シーズンの最終盤に、"団結力"の問われる180分間を迎えました。
対するは、日本一過酷とも形容される地域決勝の決勝ラウンドで2PK負け1敗(※PK負けにも勝ち点1が加算される)と粘り強く3位に滑り込み、入替戦への挑戦権を得た北海道。道勢初のJFL昇格を達成すべく、本州へ乗り込みます。先週行われた第1戦は、前日入りを予定していた北海道の選手たちが、大雪による出発便の欠航で急遽当日入りに。そんな不測の事態にもかかわらず、ゲームは山田庸介(27・恵庭南→道都大)の2ゴールで北海道が逆転勝利。小さくないアドバンテージを握って、今日の第2戦へ臨みます。会場となる栃木市陸には1445人もの観客が集結。「運命の試合」(前田)は13時ちょうど、栃木のキックオフで時計の針が動き出しました。
いきなりの決定機は開始39秒。左から岩城正明(23・福岡舞鶴→国士舘大)が上げたクロスに、ファーへ走り込んだ高安亮介(28・市立船橋→国際武道大→栃木SC)のダイビングヘッドはわずかに枠の右へ。先制とはいかなかったものの、強い気持ちをいきなり前面に押し出します。
7分にはゲームキャプテンの田村仁崇(24・玉野光南→京都サンガ→栃木SC)が、肩の負傷で早々に岡田祐政(25・ルーテル学院→福岡大)との交替を余儀なくされるアクシデントこそありましたが、ボールを持つのは栃木。「先週やったパワープレー中心はうまくいかなかったので、もっとボールを引き出しながら、サイドを変えることを意識した」という濱岡が下りて捌き、ドイスボランチの上西涼(24・作陽→東洋大)と安間ム月(23・浜松湖東→浜松大→アルテ高崎)が頻繁にサイドチェンジを繰り返しながら、しっかりブロックを築く北海道の穴を探ります。
ただ、北海道も守備対応は万全。「サイドを使われたが、SHとSBでうまく対応できていた」とは左SHに入ったキャプテンの赤坂匡章(30・琴似工業→北海道電力)。上がったクロスもチェ・チュンギ(23・北海道朝鮮→朝鮮大)と倉谷悠太(30・室蘭大谷→札幌大)で組んだCBを中心にきっちり跳ね返し、チャンスまでは創らせません。
28分には左サイドで岩城が1人かわすと、ピンポイントクロス。合わせた齋藤翔太(23・佐野日大→国際武道大)のヘディングはわずかに枠外へ。37分にはゴール左寄りのFK、約25mの距離から濱岡が枠へ収めるも北海道GK山本勇太(27・室蘭大谷→専修大北海道短大→ポテンシャル)がしっかりキャッチ。動かないスコア。
すると、負ければ降格という状況で「前半を折り返した時点で1-0にしておきたい」井出監督は決断。39分に高安を下げて、エースの若林学(33・宇都宮工業→日立栃木→栃木SC→大宮アルディージャ→愛媛FC→栃木SC)を早くも2枚目のカードとして送り込みます。「焦れていたし、正直イライラも募っていた」(濱岡)展開を受け、若林も役割をしっかり把握し、投入直後からさすがの"高さ"で気合いのポストプレーを敢行。短い時間で「高い所で基点を創って欲しい」という指揮官の狙いに応える働きを見せ、以降に期待を抱かせる形でハーフタイムに入りました。
後半がスタートすると、49分に北海道が切った1枚目の交替カード。少し傷んだように見えた赤坂に替えて、相木良介(24・釧路北)を投入します。その直後に訪れたのは栃木の決定的なシーン。50分、左から石川裕之(33・作新学院→流通経済大→栃木SC)が入れたアーリークロスを、若林が折り返すと、齋藤はフリーでボレーを放つも、叩き付け過ぎてクロスバーを越えたボール。絶好の先制機を逃してしまいます。
とはいえ、「(若林)学を徹底して使っていく」というチームの共通意識も明確になり、少しずつ増えてきたチャンス。54分には石川がミドル。58分にも濱岡の左CKから、上西が枠外シュート。61分にも濱岡の右CKを栗原英明(30・船橋二和→作新学院大)が残し、岡田が枠を越えるシュート。ジワジワと北海道ゴールへにじり寄っていきます。
そして62分、北海道の壁をも穿った"若林狙い"。濱岡が素早く始めたFKを受け、石川が上げた左クロスを若林が頭で折り返すと、ボールは北海道DFの手にヒット。前田拓哉主審は迷わずPKのジャッジを下します。キッカーは濱岡。「いつも蹴っているが、アレはさすがに緊張した」というキックは山本も反応したものの、ゴール左スミを力強く捕獲。このゲームの先制ゴールは、すなわち2戦合計の同点弾。すべてが一旦リセットされました。
攻める栃木。耐える北海道。63分に北海道は右SBを長谷川展浩(29・北海→札幌大)から黒谷一世(25・市川南→日本工学院F・マリノス)へスイッチ。71分は栃木。再三オーバーラップを繰り返す川里光太郎(24・流通経済大柏→浦安JSC→アルテ高崎)のクロスから、最後に濱岡が放ったボレーはゴール左へ。73分も栃木。濱岡の左アーリーがこぼれ、拾った安間のシュートはバーの上へ。80分も栃木。齋藤に替わって投入されたばかりの竹内優(28・伊奈学園総合→駒澤大→松本山雅FC→アルドール狭山FC)が左からクロスを放り込み、岩城が狙ったシュートは山本が飛び出してブロック。残り10分間の勝負に。
83分は北海道。「アレだけを警戒していた」と井出監督も語る山田の飛び出しから、前後半通じて初めて獲得したCK。名雪遼平(23・流通経済大柏→流通経済大)のキックは跳ね返され、再び名雪が入れたクロスも中と合わず。86分は栃木。濱岡の左CKから、石川のクロスを若林が落とし、濱岡の叩いたボレーは枠の上へ。87分は北海道に最後の交替。最前線から中盤へ落ち、守備に奮闘した石本学(26・札幌第一→札幌大)を、今季の北海道リーグMVP&得点王の畠山直人(25・北海道栄→札幌大→札大GP)に入れ替えます。
90分は北海道。名雪のパスから、早速畠山が強引なシュートチャレンジ。北海道はこれが後半のファーストシュート。90+4分は栃木。濱岡がゴールまで25m強の距離から直接狙ったFKは山本がキャッチ。90+4分は栃木。川里の右クロスを、濱岡がミドルレンジから狙うも枠を捉え切れず。寒空に響くホイッスル。90分間では1-0。180分間では2-2。未来の行方は30分間の延長戦へ委ねられることになりました。
魂の円陣が解け、迎えた延長前半は先に北海道が好機。93分、土田真也(29・青森山田→札幌大)のFKから、黒谷がボレーで合わせたミドルは枠の右へ。「後半と同じようなサッカーを続ければ点は取れる。これを続けよう」(井出監督)と送り出された栃木は94分に若林、95分に濱岡と立て続けに枠外ボレー。99分にはカウンターから抜け出した竹内のシュートはヒットせず。101分にも川里のクロスを、「いい所にはいる」(井出監督)濱岡がとうとう枠に飛ばすも山本がファインセーブで回避。頭を抱えまくる栃木ベンチ。
最後の15分間はさらなる怒濤。109分、濱岡の右CKを栗原が頭で繋ぎ、岡田が至近距離から押し込んだボールは、ライン上でブロックした土田が懸命にクリア。114分、ショートコーナーから濱岡の上げた右クロスに、栗原が巧みに当てたヘディングは数十センチの差で枠外へ。118分、中央から濱岡が蹴った直接FKは、カベに当たってコースが変わるも、山本は落ち着いてキャッチ。
120分のラストチャンス。濱岡の右クロスをまたも栗原がヘディング。今度は枠内へコントロールされたボールが、フワリとゴールへ吸い込まれるかに見えた瞬間、全身で飛び付いた倉谷の頭に数センチかすった球体の行き着いた先は右のゴールポスト。執念という表現ですら物足りない、北海道の鬼気迫る"鉄壁"は貫けず。210分間の終焉を告げた前田主審の笛。"死守"か"突破"かは、PK戦がそれを決める手段となりました。
先攻は栃木。1人目。試合中にも蹴っている濱岡は、その時と逆にきっちり成功。後攻は北海道。1人目。畠山のキックは無情にもクロスバー。栃木2人目。岡田はGKの逆を突いて成功。北海道2人目。チェ・チュンギは低い弾道で成功。栃木3人目。竹内はど真ん中に成功。北海道3人目。倉谷の右を狙ったキックはGK小林庸尚(29・作新学院→国際武道大→大宮アルディージャ→佐川印刷SC)が完璧なセーブ。
「寿命がかなり縮まった」(井出監督)PK戦も、栃木4人目が決めればフィナーレ。キッカーの安間が蹴ったのは右。山本も同じ方向に飛んだものの、揺れたゴールネット。「全然まとまらないチームだったけど、最後の最後でまとまった」(前田)"勝魂"。「本当にギリギリの所」(井出監督)で、栃木が来シーズンのJFL残留を勝ち取る結果となりました。
試合後の光景で印象に残ったのは2つ。栃木サポーターから送られた"ノルブリッツ"コールに、夢破れた北海道の少なくないサポーターがすぐさま"ウーヴァ"コールを返したシーン。この210分間を共有した者だけが持ち得た絆を感じました。
もう1つは残留を決めたピッチ上で、栃木の選手やスタッフが家族やサポーターと喜びを分かち合っていたシーン。濱岡の「これだけの人が僕らの試合を見ることのできる週末を楽しみにしてくれている。その楽しみを奪わずに済んで本当に良かった」という言葉に、彼らの"戦う意味"が凝縮されていたと思います。 土屋
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