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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
2009年11月8日、等々力。前身の古河電工時代も含め、一度たりとも降格を経験していない名門が、かつてない失意の中で流した涙。2009年10月24日、西京極。その前年にナビスコカップを掲げ、輝かしい未来が約束されているように見えた新鋭が、古都の地で流した涙。あれから3年。奇しくも同じ年月だけ辛酸を嘗めた両者が、聖地で"復帰"の2文字を懸けて激突します。
屈辱の地とも言うべき西京極で、3位の京都相手に森島康仁が爆発。1人で驚異の4ゴールを叩き込み、0-4という衝撃的なスコアで勝ち上がってきた6位の大分。一方、シーズン終盤から好調をキープしてきた4位の横浜FCに、藤田祥史の2発を含めて4ゴールを浴びせる「完璧な試合」(木山隆之監督)を披露し、こちらも0-4の圧勝で勝ち上がってきた5位の千葉。両チームにとって「今シーズンの最終戦で、非常に重要な試合」(大分・田坂和昭監督)の先に待っているのは歓喜か、それとも絶望か。正真正銘、2012年のJ2最終戦は大分の丸谷拓也がボールを蹴り出し、時計の針が回り始めました。
まず勢いを持って飛び出したのは、引き分けでも昇格が決まる千葉。3分に兵働昭弘が右から蹴ったFKはシュートまで繋がりませんでしたが、5分には谷澤達也が右へ振り分けると、DFの前に出て収めた米倉恒貴がカットインしながら、左足でファーストシュートにチャレンジ。7分にも谷澤がドリブルからミドルを放ち、共にゴールとはいかなかったものの、序盤からゴールに対する積極的な姿勢を打ち出します。
対する大分は9分にチャンス到来。チェ・ジョンハンが左からショートで始めたCK。受けた森島は1人かわして左足を振り抜くと、ボールはクロスバーを越えましたが、4得点男が見せた牽制。セットプレーからファーストシュートを放ちました。
先に決定的なシーンを迎えたのは千葉。13分、大分GK丹野研太と土岐田洸平の連携に見えた隙を突いて、渡邊圭二がボールをかっさらうと左からクロス。米倉のヘディングは丹野が辛うじて触り、クロスバー直撃。そのCKを左から兵働が蹴り入れると、ファーでフリーになった山口智が枠へ飛ばすも、ここも丹野がファインセーブ。「ギリギリというよりは、冷静にやれば対応できるボール」と振り返った守護神の奮闘でスコアは変わらなかったものの、黄色のサポーターがボルテージを一段階引き上げました。
以降の前半は結論から言うと、流れの中からクリーンなシュートシーンは1つも生まれません。全体の構図は「相手は予想通りプレスに来ていたが、焦らずにボールを動かそうと話していた」(佐藤勇人)千葉がボールを握り、「しっかり守る時は守って、セットプレーやカウンターを狙う」(丹野)大分が耐えてワンチャンスを狙う形。
大分からすれば、「前からのプレッシャーがかからず、後ろの選手が余ってしまった」(田坂監督)ために、どうしても森島と木島悠が孤立してしまい、攻撃はなかなかいい形ができませんでしたが、守備面では「個人的には今日一番のポイント」と3バックの中央に聳える阪田章裕が言及した、藤田潰しに成功。同時に「相手がマンマークで付いてきて、なかなか思うような形でボールはもらえなかった」と話した兵働も確実に監視下で見張り、中央には基点を創らせず。
その分、サイドでは「自由にやらせ過ぎていた」と宮沢正史は認識していた谷澤の位置する左を中心に、千葉が主導権を奪った中で、ここも「サイドにボールが行っても最終的にはクロスなので、中の対応をしっかりしていれば問題ない」と話す阪田を筆頭に、万全のクロス対応で対抗。シュートでの完結も許しません。
34分は大分。三平和司が右から左足で上げたクロスに、村井慎二はトラップで反転するもシュートはヒットせず。37分は千葉。藤田が獲得したFK。中央、ゴールまで約30m近い距離から、兵働が直接狙ったキックは丹野が三たびファインセーブ。そのCKを谷澤が入れると、山口智渾身のダイビングヘッドはわずかに枠の右へ。
「リズムは悪くなかったし、攻めにも行けていて、主導権は握れていた」と山口智。「自分たちのミスからドタバタしたが、やられている気はしなかった」と阪田。お互いにある程度スタイルをしっかりと表現できた前半は、スコアレスのままでハーフタイムへ入りました。
3960分の45。9ヵ月に及ぶシーズンのファイナルハーフ。意欲は佐藤勇人。47分、ルーズボールを収めて放ったミドルは枠外も、シーズン終盤に来て攻撃へ関与する回数が格段に増えた千葉の"魂"が、昇格への強い決意を球体に乗り移させます。
48分は森島。村井からパスを受けたカウンター。左にチェ・ジョンハンがフリーで走る中、強引な左足ミドルは千葉GK岡本昌弘がキャッチ。選択としては最良ではなかったかもしれませんが、ゴールへの積極性はストライカーの証。やはり漂わせる危険な香り。
57分は千葉に決定機。谷澤が左から蹴ったFKは、ファーへ走り込んだ竹内にドンピシャも、ヘディングは丹野の正面。ゲームは3分の2となる60分間を消化。0-0。依然、このままのスコアなら千葉が昇格。
1点が必要な大分は、「守備の切り替えはできていたし、セカンドも拾えていた」(佐藤勇人)千葉を前に、中央でもサイドでも攻撃の芽をうまく潰され、チャンスらしいチャンスは生み出せず。千葉も「点を取りに行こうといういう姿勢はあった」(山口智)ものの、前掛かって攻めに出るような展開は取らず、さらに10分間が経過。0-0。依然、このままのスコアなら大分は昇格できず。
とうとう先に腰を上げたのは「時間が経つにつれて、向こうにプレッシャーがかかると考えていたので、じっくり待っていた」田坂監督。73分、木島に替えて、「前線に残ってもいいから点を取ってくれ」と林丈統を投入。シーズン総決算の勝負に出ます。そして、この采配を境にして、74分に兵働が放った枠を越えるミドルを号砲に、ゲームの様相も変化。
75分は大分。村井が左へ送り、チェ・ジョンハンが上げたクロスから、こぼれを拾った村井のボレーはバーの上へ。76分は千葉。藤田のスルーパスから米倉が抜け出すと、背後を取られた安川有がエリア外ギリギリで引きずり倒し、吹き鳴らされた西村雄一主審の笛と用意されたカード。掲げられた色は黄色。命拾いの大分。このFKを兵働が直接狙うも、ボールはカベを直撃してしまい、好機は潰えます。
78分は大分。宮沢が左へ鋭いパス。森島は囲んだ2人をものともせず、左足でシュートを打ち切るも、軌道はわずかにゴール右を通過。突如として動き出したゲーム。80分間が経過。0-0。依然、このままのスコアなら千葉が昇格。
80分は藤田。思い切り良くミドルを打ち切るも、丹野が確実なセーブで阻止。81分は谷澤。自ら蹴ったCKのこぼれを拾うと、右サイドを切り裂き、中へ折り返した速いボールは味方に合わず。82分も藤田。左サイドをドリブルで運んだ米倉のクロスは、「かぶってしまった」阪田を越えて藤田へ届くも、フリーで当てたヘディングは枠を捉え切れず。続く千葉のラッシュ。
田坂監督の決断は84分。最終ラインの土岐田に替わって、ピッチへ送り出されたのはクラブ最古参のストライカー高松大樹。「勝ちに行く時はこういう風にするぞと言われていた」(丹野)布陣は、「練習でもやっていた1バック」(安川)。前目の中盤にいた丸谷が最後尾まで下がり、1-2-2-5に近い並びで乾坤一擲の大バクチ。木山監督も米倉を下げて荒田智之を送り込み、前からの守備を増強。85分間が経過。0-0。すべては残り5分間とアディショナルタイムの攻防へ。
86分の閃光。右からのスローイン。宮沢のフィードを安川がヘディング。拾った森島はワントラップから「これやという感じで」浮かせて裏へ。「オフサイドかなと思った」林はオンサイド。独走。独走。1対1。1対1。林対岡本。「本当に無心。何であそこでアレができたのかな」と振り返った林のループがワンバウンドしながら、ゆっくりとゴールへ吸い込まれます。青の狂喜乱舞。遂に動いたスコア。昇格への距離が一瞬で入れ替わりました。
暗転の千葉。木山監督はボランチの佐藤健太郎を下げて、204センチのオーロイを最前線へ。田坂監督は宮沢とスイッチした若狭大志を3バックの右へ配し、右に出ていた阪田が再び中央へ。丸谷をアンカーの位置へ押し上げ、高松は村井と並ぶ中盤のラインに入ります。
アディショナルタイムは5分。焦る千葉。忍ぶ大分。千葉のロングボールを、高くラインを保ち続ける大分が確実に弾き出し、刻々と消えていく時間。焦る千葉。忍ぶ大分。90+5分、千葉は岡本のFK。オーロイが競り勝ったボールは阪田がスネで弾き、若狭がクリア。
90+6分、千葉は渡邊のFK。オーロイが競り勝ったボールから、谷澤の左クロスは安川が頭でクリア。高橋峻希が拾い、竹内彬が右から入れたクロスを、丸谷が蹴り出すと95分24秒、西村主審の全てを解き放つ長い長いホイッスル。勝ったのは大分。昇格したのは大分。6位からの大逆襲。「みんなから凄く信頼されている監督」(安川)が国立の空に3度舞い、大分がJ1復帰を高らかに宣言する結果となりました。 土屋
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