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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
"駒沢フェスタ"のラストマッチは、今節行われるJ2最注目のビッグマッチ。苦手の開幕ダッシュに成功し、3位と好位置に付ける東京Vの"ホーム駒沢"に、ここまでの8試合を7勝1分けで駆け抜け、堂々の首位を快走する湘南が大勢のサポーターと共に乗り込みます。お互いにJ1でも鎬を削り合った名門同士のビッグマッチは14時33分、湘南のキックオフでその火蓋が切って落とされました。
布陣にサプライズを敷いたのは湘南。ここまで3バックの左CBとして全試合に出場していた大野和成を、「やったことのない左SH」(湘南・曹貴裁監督)で起用。その左CBには島村毅をスタートから使ってきました。東京Vの右サイドは森勇介と西紀寛が縦に並んでおり、ここの突破力は間違いなくJ2屈指。このサイドの攻防はゲームのキーファクターになっていきます。
まず、ゲームのファーストシュートは4分の湘南。右サイドから永木亮太の蹴ったCKを、遠藤航は頭でヒット。GKにキャッチされましたが、セットプレーから機先を制します。ただ、東京Vも5分にはFKを、11分にはCKをいずれも右サイドで獲得。11分のチャンスは枠外とはいえ、西のシュートにまで繋がります。さらに、15分にはここも右サイドでうまく裏を取った森がピンポイントクロス。杉本健勇が高い打点から放ったヘディングはクロスバーを越えたものの、上がる右とバランスの左という両サイドの補完関係もハマった東京Vが、まずはリズムを掴んだような格好で序盤は推移していきました。
さて、「不慣れ過ぎです」と苦笑いを浮かべた左SHの大野に、今シーズン初出場の猪狩佑貴が右SHを務めるなど、少しサイドが普段とは違うことからか、特に攻撃でなかなかゲームリズムが出てこなかった湘南。とはいえ、「ウチはレギュラーとサブの棲み分けを一切していない」と曹監督が胸を張るように、15分過ぎからは菊池大介のボールタッチが目立ち始めると、全体の流れがスムーズに。
25分にはその菊池が左へ流すと、いいタイミングで上がってきた大野がリターン。菊池のパスから決定的な古橋達弥のシュートは、東京VのGK柴崎貴広がビッグセーブ。続けて放った馬場賢治のシュートもDFのブロックに阻まれましたが、サイドもうまく機能してきた湘南が押し返すような展開になっていきます。
とはいえ、35分前後からは再び東京Vの右サイドが活性化。36分、小林祐希が右へ展開すると、森はファーサイドへクロス。杉本が頭で落とし、反応した飯尾一慶のシュートは遠藤が体でブロック。同じく36分、再び森が右から上げたクロスは、ファーの高橋祥平がヘディングで狙うも、ボールはクロスバーの上へ。全体的には少し東京Vの方が攻勢に立つ中で、「チームがよくなるためには、色々とチームメイトに要求しなくてはいけない」と語る遠藤を中心に湘南が安定した守備で蓋をするような展開。スコアレスでハーフタイムを迎えました。
後半は先に東京Vがチャンス創出。48分には森の突破から得たCK。小林の入れたボールを、深津康太が叩いたヘディングは枠の右へ。54分、柴崎の正確なパントを阿部拓馬が収めて左へ。飯尾が抜け出しましたが、シュートは戻った遠藤がブロック。湘南の集中は途切れません。
このプレーから10分前後は共に少し雑なプレーが増え、チャンスを創り切れずに膠着状態へ。先に動いたのは曹監督。65分、今シーズン初スタメンのキャプテン坂本絋司とハン・グギョンをスイッチ。川勝良一監督も2分後には杉本を下げてジョジマールを投入。前者は中盤に、後者は最前線に変化を加えてきます。
すると、直後に意外な所から動いたスコア。68分、右サイドで菊池がドリブルを開始すると、3人の間をスラローム。上げた低いクロスが深津の手に当たると、大塚晴弘副審のアピールを受けて、木村博之主審はPKというジャッジを下します。深津におそらくハンドで止めにいった意識はないように見え、やや厳しい判定にも映りましたが、PKはPK。キッカーは「PK獲得の笛が鳴った瞬間で、蹴るモードになった」チーム最年少の遠藤。左スミを狙ったキックは柴崎もわずかに及ばず。「だんだん自信が付いてきた」という遠藤の今シーズン3本目となるPKは貴重な先制点。湘南のスコアボードに1の数字が踊りました。
すると、一気に畳み掛けたアウェイチーム。先制から1分経たない71分、左サイドを大野がロングラン。たまらず森がイエローカードと引き替えに大野を引き倒して獲得したFK。左から古橋の蹴ったキックをニアで島村がうまく左足に当てると、ボールはゴール右スミへ吸い込まれます。曹監督も「いつもあんな風に点は取れないんですけど」と振り返った連続ゴール。点差が広がりました。
また、77分には個人的に目を引いたシーンが湘南に。右サイドをドリブルで駆け上がった猪狩のクロスを、ファーから走り込んでヘディングシュートを打ち切ったのは大野。大野本人は「手応えなんかないです。常に手探り状態でやってますから」と話したものの、この時間帯に初めてSHを務めた2人でフィニッシュまで持ち込んだ事実は、チーム全体にハードワークの意識が浸透していることを、よく現している証明だったように感じました。
さて、「全員が失点に対して過敏に反応し過ぎて、ちょっとの時間に冷静さを欠く。ここ2年間見てきても、なかなかその強さが出てこない」と話した川勝監督。75分には飯尾と小林に替えて、中谷勇介と梶川諒太を投入。2点を追い掛ける姿勢を采配で打ち出します。
79分にはジョジマールを起点に、高橋が中へ入れたボールを西が枠内ボレー。湘南GK阿部伸行がファインセーブで逃れるも、81分には阿部のスルーパスから、ここも西がわずかに枠の右へ逸れるシュート。「プレー以外でもゲーム中のアクシデントに対応できる」と指揮官が名指しで信頼を口にしたベテランが、シュート意識でチームを鼓舞してみせます。
そして、ようやく訪れた緑の歓喜は87分。西からのパスを受けた梶川は右から早めのクロス。落下点にいち早く入った阿部は、最高のトラップから冷静に左スミへ流し込む、何ともストライカーらしいゴラッソ。1-2。1点差。
89分の決断は曹監督。「最後に交替でDFを入れるのはこれが初めて。展開的に前にボールが行くよりも、後ろに来ることが多いなと思ったので」猪狩を下げて、「ディフェンスにパワーのある」(曹監督)山口貴弘を投入。東京VもCBの深津は最前線から戻らず。総力戦は4分のアディショナルタイムへ。
90分、中谷、阿部と繋いで、西のクロスに飛び込んだ深津のヘディングは枠の右へ。92分、梶川のショートコーナーから、西が鋭く枠へ飛ばしたミドルは、阿部伸行が懸命に掻き出します。再び梶川が蹴った左CKも阿部伸行がフィスティングすると、ほどなく鳴り響いたタイムアップのホイッスル。「本当に気持ちが出ていた、この9試合の中でも一番良い試合だったと僕は思っています」と曹監督も言及した熱戦は、湘南が勝ち点3を奪い切り、無敗と首位をキープする結果となりました。
おそらく内容面では「我々も良さを出せない所はあったが、東京Vのストロングも自分たちの良さで消せた」(曹監督)というゲームだったと思います。いわゆるハイライトに出てきそうなシーンは少なかったかもしれません。ただ、そういうシーン以外で両チームが放っていた"勝利を渇望するパワー"は本当に見応えがありました。J2上位対決にふさわしい好バウトだったように、私は感じました。 土屋
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