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ラムズデイルの立場は昨シーズンほど盤石ではない。来年1月の移籍も十分に考えられる
両雄並び立たず──。
フットボールの場合、GKは固定するものと考えられてきた。戦略・戦術の変更に伴う交代はなく、このポジションの特性からもローテーションは難しいとされてきた。
劣勢が予想される試合はシュートストップに秀でた者、ポゼッションで圧倒できる試合は足もとの技術にすぐれたタイプを使い分ける──は、理想かもしれないが、こうしたアイデアにチャレンジしたクラブはない。
この夏、アーセナルはブレントフォードからダビド・ラジャをローンで獲得した。アーロン・ラムズデイルを擁しているにもかかわらず、だ。
「ポジション争いこそチーム活性化の最良手段だ。キーパーも例外ではない」
ミケル・アルテタ監督は、ラジャ獲得の意図を説明した。
気持ちは分かる。レギュラーを固定すると競争意識が薄れ、マンネリを招くと恐れたのだろう。この、GKは固定すべきとの既成概念を打破するかのように、アーセナル内のヒエラルキーは突如として変わった。
9月のインターナショナルマッチ・ウィークが明けると、ラムズデイルはラジャにポジションを譲った。エヴァートン戦、PSVアイントホーフェン戦、ノースロンドン・ダービーと、アーセナルの最後尾にはスペイン代表歴を持つGKが構えている。ラムズデイルは健気にもライバルの好守にサムアップしたり、拍手を送ったり……。
当然、少なからぬメディアが色めき立った。
「バイエルン・ミュンヘンが興味津々」
「チェルシーは来年1月の移籍市場で必ず動く」
この2シーズン、アーセナルの背番号1を担ってきた男が、大きなミスを犯してもいないのにレギュラーから降格したのだから、恰好のネタだ。①監督との不和②早くもエージェントが始動③EURO2024出場のためにはポジション確保が絶対条件などなど、想像力たくましい仮説はいくつでも用意できる。
朗らかな性格のラムズデイルはサポーターに熱く支持され、選手間でも人気があるという。『EVENING STANDARD』のインタビューにも、「気負わずに試合に臨めればいいな。笑顔を忘れず、試合を楽しめたら最高でしょ」と明るく答えていた好漢が、クラブ内に波風を立てる確率は極めて低い。
だが、二番手GKは出場機会が限られ、マッチフィットネスの調整が難しくなる。キャリアの晩年を迎えた者ならまだしも、25歳のラムズデイルはできるかぎり多くの実戦経験を必要としている。
ポゼッション率をさらに高めるため、ショート、ミドルレンジのキックで高い成功率(エヴァートン戦では94.1%)を誇るラジャを重視した公算が大きいとはいえ、GKのローテーションは既成概念の打破というよりも、現時点では危険な賭けに映る。
移籍市場が再開する2024年1月、ラムズデイルのもとにオファーが殺到すれば、アーセナルはシビアな決断を迫られるだろう。イングランド代表の正GKを狙う男が、二番手を甘受するとは思えない。
文:粕谷秀樹
粕谷 秀樹
ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。
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