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しかし、川崎はそのあたりを修正せずに後半に臨んだ。
54分に2点目を失うと、川崎の鬼木達監督は交代カードを切った。57分の最初の交代では、左サイドバックの交代とともに、遠野大弥に代えてジョアン・シミッチを入れて、ボランチを1枚増やしたのだ。
最初の交代でボランチのところを修正したのは、鬼木監督もワンボランチの両サイドを使われていることを十分に承知していたからだろう。それなら、なぜ前半のうちに、あるいは後半開始の時点でボランチを増やしておかなかったのか。それは、「ピンチはあるだろうが、なんとか守れるだろう。そして、相手の足が止まればいずれは得点できる」という気持ちがあったからなのではないか。
最近の5シーズンで4度の優勝。しかも、昨シーズンは記録的な勝利数と得点数で圧勝した川崎。今シーズンも苦戦は続いていたものの、それでも首位をキープし、とくに5月に入ってからは4試合を無失点で切り抜けていた。
そうした数々の「成功体験」が川崎フロンターレから危機感を奪っていったのだろう。
もちろん、監督も選手も「油断などしていなかった」と言うだろう。だが、相手が下位に低迷しているチームだったことも含めて、気持ちに緩みが生じていたのは間違いない。
等々力陸上競技場に集まった1万4000人のファンの多くも(湘南サポーターを除いて)そういう気持ちだったかもしれない。いや、僕自身もハーフタイムには「いずれは、川崎が得点してしぶとく勝利するだろう」と思っていた。
だが、試合の当事者はどんな状況、どんな相手であっても危機感を持って、失点のリスクを少しでも減らし、勝利の確率を1%でも上げるためにあらゆる手を打たなくてはならない。
「ボランチの脇を衝かれたこと」は、この試合の直接の敗因ではなかった。実際、シミッチを入れてからも2失点している。だが、守備の問題点は明らかだったのに、何も修正せずに後半に入ったことはやはり問題にすべきだと思うのである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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