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サッカー フットサル コラム 2019年12月27日

女子プロリーグ創設の行方は。競技レベルの向上は著しいが……

後藤健生コラム by 後藤 健生
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日本サッカー協会(JFA)は、2021年に女子のプロリーグを創設することを決定しているが、具体的なことはまだ何も発表されていない。

ただ、現在のなでしこリーグの注目度や観客動員力などを考えると、プロ化はそれほど簡単なことではない。たとえば、12月22日に行われた皇后杯全日本女子サッカー選手権大会の準決勝。1試合目の浦和レッズ・レディース対INAC神戸レオネッサの試合の観客数が2033人、2試合目の日テレ・ベレーザ対ちふれASエルフェン埼玉の試合はわずか776人だった。

もちろん、この日は1試合目の開始時の気温が8.8度と冷たい雨に見舞われた影響もあるのだろうが、会場はさいたま市のNACK5スタジアム大宮。浦和、埼玉の両チームのホームだったことを考えれば、観客数はあまりに少ない。

もっとも、Jリーグ発足直前の1980年代の後半にも「サッカーのプロ化などうまくいくはずがない」といった悲観論の方が強かったのだ。それを考えれば、女子のプロ化の可能性を全否定する必要はないだろう。なにしろ、2020年のオリンピック聖火リレーの最初の勝者に選ばれるほど「なでしこ」の名前は世間に知られているのだ。

世界的にも、日本の女子代表(なでしこジャパン)は存在感を持っている。なにしろ、「なでしこ」は元世界チャンピオンなのだ。

先日のE−1選手権でも、北朝鮮が不参加だったこともあって日本女子代表は完勝だった。最終の韓国戦では岩渕真奈、長谷川唯という現代表の中心選手2人が故障で離脱して苦戦したが、それでも最後はPKを獲得して1対0で勝利。3戦全勝。得点13、失点0での優勝だった。

2019年の女子ワールドカップではラウンド16で敗退したものの、なでしこジャパンは現在もFIFAランキングでは10位をキープしている。

だが、最近はヨーロッパ各国が女子リーグに力を入れるようになり、スペイン、オランダなどが台頭(オランダはワールドカップのラウンド16で日本を破った)。現状のままでは、今の日本のランキングを守ることは難しくなる。

2018年のU20ワールドカップでは日本がヨーロッパの強豪相手を圧倒しながらの優勝を飾ったように、下の世代の大会では日本は今でも好成績を残している。つまり、日本の女子は選手の素材としては今でも世界のトップなのだ。だが、ヨーロッパ各国には女子選手がプロとして活躍する場が設定されており、リヨン、アーセナル、バルセロナといった各国の名門クラブが女子にも力を入れており、強化のノウハウや資金力が投入されることによってトップチームの実力が上がっていくと予想されるのだ。

日本の女子サッカーが、世界で戦っていくためには、こうした動きに対抗してプロリーグを発足する必要がある。今、手をこまねいていたら日本の女子サッカーはその地位を失ってしまう。つまり、今は多少の無理をしてでもプロ化を推進すべきなのだ。

Jクラブに女子部門創設を促し、Jクラブのノウハウを使って女子チームも強化。そして、各クラブのサポーターを女子リーグにも動員することで観客動員数のアップにつなげたい。実際、浦和駒場スタジアムで行われる浦和レッズ・レディースの試合には熱心なレッズ・サポーターが多く駆けつけて、相手チームに対するブーイングなども含めて、プロリーグ的な雰囲気も生まれている。

プロ化に当たって最も重要なのが競技レベルだ。入場料を徴収して見せるに値する内容の試合ができるのだろうか?

しかし、僕は競技力の部分はそれほど心配していない。

2011年のワールドカップ優勝後に、一度は女子サッカーがブームとなったことがあった。だが、当時は1部リーグでも上位と下位との実力差がありすぎたし、一つのチームの中でもうまい選手とそうではない選手との力の差がありすぎ、下位チームの試合はプロとしては成立しないレベルだった。

だが、今は違う。1部の下位でも2部の上位でも、きちんとした面白い試合ができるようになっているのだ。

たとえば、先日の皇后杯準決勝。なでしこリーグで2位の浦和レッズと3位のINAC神戸レオネッサとの試合は期待通りの熱戦となり、最後は浦和の若きDF、E−1選手権でもMVP賞を受賞した南萌華がCKからのボールに頭で合わせて浦和が決勝進出。

そして、準決勝の2試合目はなでしこリーグ5連覇中の日テレ・ベレーザとちふれASエルフェン埼玉との顔合わせだった。絶対女王のベレーザに対して、エルフェンは2部3位で昇格も逃したチーム。勝敗の行方は決まっていると、誰もが思っていた。

実際、先制点が生まれるのに時間はかかったものの、29分に右からのクロスに若手のホープ、菅野奏音が詰めてベレーザが先制。これで、試合は終わりかと思われた。

ところが、後半に入るとシステム変更によって攻撃の圧力を増したエルフェンがゲームを支配。再三の同点機を逃した後、81分にゴール前の密集の中で短いパスをつないで祐村ひかるが決めて同点。その後も、エルフェンは何度か決定機を作って女王ベレーザを追い詰めた。結局、延長の99分に小林里歌子に決められて、ジャイアントキリングは起こせなかったものの、エルフェンの健闘が光った。

もちろん、ベレーザの選手の多くが代表のメンバーとしてE−1選手権最終戦を戦ってから中3日の、いわゆる「谷間の日程」だったという伏線はあるものの、試合内容を考えても、エルフェンのレベルの高さにはただただ驚かされた。

なにしろ、試合展開に合わせてシステムを次々と変更して、攻守のバランスを切り替えたのだ。システム変更も実にスムースだった。

2011年当時と比べても、女子サッカーのレベルは間違いなく上がっている。プロ化して、チームが再編されて現在のベレーザ程度の実力のチームを3,4チーム作ることができれば、新プロリーグはお金を払ってでも観戦するに値するリーグとなろう。

女子リーグのプロ化。成功のためには困難なことも多いだろうが、成功を祈りながらみまもりたい。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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