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ビデオ判定は難しい。
どちらが先に土俵を割ったのか、髷を引っ張ったのではないか、大相撲でもビデオ画像を参考にする。しかし、攻めている方の勢いとか、いちばん近くで見ているのは行司だからとか、微妙な一番でも審判が物言いをつけないケースがやたらと多い。なんのために映像をチェックする係がいるんだ。しかも、東西どちらに軍配が上がったのか分からなかったり、力士の四股名を間違えたりする審判もいる。
プロ野球のビデオ判定は、セーフかアウトか、ホームランかファウルか、相撲に比べると分かりやすい。球場のスクリーンに問題となっているシーンが映し出されるので、観衆もストレスがない。
さて、フットボールの世界はVARで大混乱している。ユベントスのクリスチャーノ・ロナウドはサポーターに向かい、「ひょっとするとノーゴールかもしれないから、喜ぶのはちょっと待とうぜ」といった仕草まで見せた。1986年メキシコ・ワールドカップの得点王で、イングランドのレジェンド、ギャリー・リネカーも懐疑的だ。「ジャッジを下すまで時間がかかりすぎて、試合の流れを遮断する」
FIFA U-17ワールドカップ決勝でも気になるシーンがあった。メキシコに1点の先行を許したブラジルは、84分にPKのチャンスを与えられた。そう、まさしくプレゼントされたように見えた。メキシコDFアレハンドロ・ゴメスの右足は、明らかにボールを狙っていた。邪心はどこにも感じられない。
たしかに彼の左足は、ブラジルFWヴェロンに触れていたかもしれない。ただ、あくまでもプレーの流れであり、当事者のヴェロンですらPKをアピールしなかったのだが……。主審のアンドレス・トレイマニスは、VARをチェックした結果、PKを宣告する。カイオ・ジョルジが決めて同点。さらにブラジルは追加タイムにラーザロが加点し、17歳以下の世界を制した。
ゴメスのタックルがPKなら、ペナルティボックス内ではどのように対応すればいいのだろうか。憤懣やるかたない彼は主審に激しく詰め寄ったが、その気持ちは痛いほど分かる。
ラウンド16でも、オーストラリアDFアントン・ムリナリックが同様のプレーでPKを取られ、こちらは退場処分となった。したがって、不可抗力でも相手のからだに少しでも触れればPKという解釈なのだろうが、ムリナリックが一発退場で、ゴメスは警告すらされていない違いがあまりにも不明瞭だ。
いずれにせよ、ペナルティボックス内のタックルがすべてPKになるようだと、守備側はからだも寄せられない。相手の自由をほぼほぼ許し、失点のリスクが高くなる。FIFAにレフェリーのレベルを疑問視されたプレミアリーグでは、PKが増えるのだろうか。
より正確なジャッジを導くために導入されたVARは、いまのところみんなの味方にはなっていない。大多数が満足できるシステムが整うまで、かなり時間がかかりそうだ。
文:粕谷秀樹
粕谷 秀樹
ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。
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