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千葉県の幕張メッセにて開催されている日本最大のスポーツ自転車フェスティバル「CYCLE MODE international 2019」の最終日に、毎年恒例となっている新城幸也選手のトークショーが開催されました。
プロの自転車選手という職業柄仕方がないのかもしれませんが、ここ数年、新城選手は度重なる怪我によりシーズン途中のレース活動中断を余儀無くされてきました...。にもかかわらず、どんな時での精神的な強さを維持し、すぐに怪我を克服して(実際はものすごい努力をしているはずですが...)プロの一線級のレースにカムバックしてきます。
新城選手の精神的&肉体的な強さを見ていると、なんというか、本能的に「惚れる」に近い感情を抱いてしまう自分がいます。もちろん同性ですから、異性に抱く感情とは全く異なりますが、それでもなぜその様に感じるかは自分なりに理解しているつもりです。
それは、私自身もかつて「ツール・ド・フランス」を目指して欧州に渡り、欧州の中でも「最も過酷なスポーツ」と認識されているスポーツのプロを本気で目指した時期があったからです。
そして、現在で言うところのプロコンチネンタルチームとの契約まではなんとか辿りつきましたが、そこで自分自身の「DNAレベルでの限界(人間としての性能の低さ)」というものを完膚無きまで思い知らされました。心肺機能とかそういうスポーツっぽい運動能力の問題ではなく、人間としての性能の低さを突きつけられたわけです(言い訳ではないですが普通の日本人の中ではこれでも体力はある方だとは思いますが...)。
きっと、この感覚を共感できる人というのはそう多くはないと思います。
「おまえの努力が足りなかった言い訳だろ!」というお叱りをいただいてしまうかもしれませんが、「農耕民族」が「狩猟民族(の中でも更に体が強い人たちの集まり)」の中に間違って入り込んでしまい、そこで体力の限界に挑むデスゲームに参加することになってしまった感じです。
氷点下に近い冷たい雨の中のベルギーのレースに出場して指がかじかんで落車をして更に風邪をひいて高熱がでて、でもそのレースに勝った選手は最後フィニッシュ時には半パン半袖に指切りグラブで笑顔でガッツポースを決めていて、「ああ、これは先祖からやり直さない無理だ」とベッドの中で思ったことを今でも覚えています。ヨーロッパで自転車選手としてやっていくということは、それくらいの覚悟と強さが必要なのです。
だからこそ、何度も怪我を乗り越えて更にグランツールを12回完走した新城選手に対しては、なんというかDNAレベルでのリスペクトを感じてしまうのです。今日も控え室でバイクウェアに着替えた新城選手のカラダをマジマジと見入ってしまいました...。
新城選手の強さの秘訣を「才能」という一言で片付けてしまえばそこまでなのかもしれませんが、一方で、新城選手には持って生まれたフィジカルの才能を生かすための後天的ないくつかの能力も備わっています。
それを言葉で表すと「努力」「洞察力」「逆境力」といった感じになるでしょうか。
単に「一生懸命練習ができる選手=努力できる選手」というのは、実はそれなりたくさんにいると思います。
しかし、これに「洞察力」「逆境力」という項目を追加すると、全てが備わっている選手の数は一気に減ってしまうと思います。そして、更に「優れたフィジカル」を付け加えると、もはや現役の日本人選手の中では数人という感じになってしまうでしょう...
新城選手の「逆境力」についてはすでに皆さんもご存知の通りですが、もう一つの「洞察力」についてはあまり語られることがないと思います。むしろ、自然体で感性に任せてやっているイメージがあるかもしれませんが、実は「自転車で強くなること」に対する「洞察力(研究欲)」は半端ないものがあります。
動作研究、食事、日常生活(で影響するもの)などなど、24時間常に「速くなること」を探求し続けているようにみえます。
新城選手が優れたフィジカルを持っているのは間違いありませんが、仮に20代だった頃の私が新城選手のカラダを手に入れられたとして、じゃあ、今の新城選手と同じ経歴をつくれていたかと問われれば、正直、無理だと感じてしまいます...。それくらい新城選手はメンタル面でも高い能力を兼ね備えているのです。
なんにでも言えることですが、「ある成果」を挙げるには、そこに向かう過程でいろいろなものを積み上げていく必要があります。
スポーツ選手に於ける肉体的な才能というのは、遺伝子レベルで考えると、自分の祖先たちが、どういう環境で、なにを食べて、どの様に生きてきたか、というのが少なからず影響しているのかもしれません。それこそ先祖レベルからの積み上げになります(隔世遺伝含め)。
「才能」という言葉は、なんとなく努力せずに手にしたもの、という印象を与えがちですが、DNAレベルで考えると、世代を超えて努力をしてきた結果、と捉えることもできます。
新城選手自身が語っているように、日本人の中にも新城選手と同等のフィジカルの才能を持った個体は必ず存在しています。そういった才能を開花させるために、一世代のなかでやるべき(積み上げていくべき)こと、その順番などを体系化していかなくてはなりません。
栗村 修
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。
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