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サイクル ロードレース コラム 2022年7月9日

【ツール・ド・フランス2022 レースレポート:第7ステージ】プランシュ・デ・ベル・フィーユでの怪物伝説は最新章へ 激坂グラベル制したポガチャル「僕には勝つべき理由が存在した」

ツール・ド・フランス by 福光 俊介
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レース後にインタビューを受けるポガチャル

レース後にインタビューを受けるポガチャル

駆け引きなど必要なかった。激坂のグラベルに入って集団の先頭に立ったマイヨ・ジョーヌは、先に仕掛けたライバルを執念で封じ込み、前日に続いて一番にフィニッシュラインを通過した。2年前の第20ステージで「世紀の大逆転」を演じ、モンスターストーリーを本章に突入させたあの、プランシュ・デ・ベル・フィーユの上りで。

「今日の最大目標はステージ優勝だった。チームのみんなが1日を通して働き続けてくれたんだ。確かにヨナス(ヴィンゲゴー)のアタックはとんでもなく強かったけど、仲間に報いるためにフィニッシュまで全力でプッシュするんだと自分に言い聞かせたんだ」(タデイ・ポガチャル)

ここ10年で6回目の登場となるプランシュ・デ・ベル・フィーユ。ツールではすっかりおなじみとなった1級山岳は、もれなく激闘が演じられてきた。2012年にはクリストファー・フルーム(当時チーム スカイ)が勝ってその存在を確かなものとしたし、2014年にはヴィンチェンツォ・ニバリ(当時アスタナ プロチーム)がこの山で得たマイヨ・ジョーヌをそのままパリまで運んだ。2017年にはファビオ・アル(当時アスタナ プロチーム)がイタリアチャンピオンジャージを輝かせ、2019年にはディラン・トゥーンス(バーレーン・メリダ)が直前に亡くなった祖父に勝利をささげた。

この山を語るうえで外せないのは、2年前のポガチャルのが大激走だ。プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)のウイニングライドになると誰もが思っていた山岳個人タイムトライアルで、小説でも、漫画でも、ドラマでも、そして映画でも描かれないであろうシナリオを完成させてしまったのだ。もっとも、プランシュ・デ・ベル・フィーユがツールにおいて大きな意味合いを持つ区間であることは、過去5回中4回、ここでのマイヨ・ジョーヌ着用者がそのまま大会を制している点で明白だ。

運命めいた1日であることは、逃げグループのメンバーからも感じられた。最大11人がレースを先行した中に、2019年にステージ優勝とマイヨ・ジョーヌ着用を分け合ったトゥーンスとジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)が含まれたのだ。ただ、結果的に3年前の再現とはならなかった。チッコーネは早々にメイン集団に戻ってしまい、今回は妻がフィニッシュで待っていたトゥーンスも一番に駆け上がることはできなかった。

逃げメンバーがリードを保ったままプランシュ・デ・ベル・フィーユへと先乗りすると、山岳逃げ職人のレナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ)がスピードを上げて人数を絞り込む。続いてシモン・ゲシュケ(コフィディス)がアタックすると、反応できたのはケムナだけ。この日は2カ所の3級山岳をともに1位通過していたゲシュケだが、上りが進むとともに勢いを失い、ケムナだけが逃げ切りのチャンスを有した。

メイン集団はUAEチームエミレーツが長くコントロールを続けたが、最後の上りに向かってはイネオス・グレナディアーズが前方を固めた。ただ、リーダーチームはそうやすやすと指揮権は与えない。ブランドン・マクナルティ、ジョージ・ベネットときて、ラファウ・マイカが集団先頭に立つと、30人ほどいた集団はあっという間に10人程度に。UAEチームエミレーツの優勢が色濃くなっていく。

先頭を走るポガチャル

激坂を脅威的速度でよじ登るポガチャル

そして残り1km。引きに引いたマイカがゼスチャーでポガチャルに後を託すと、マイヨ・ジョーヌは迷うことなく集団の先頭に立った。牽制なんかしない、ライバルの顔色もうかがわない。その姿は、自分の力を信じた現役ツール王者の猛進だった。

それでも、先に勝負に出たのは前回大会から続く“対抗馬一番手”のヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)だった。グラベルに入って最も勾配が厳しくなる残り400mでアタック。24%もの激坂での仕掛けには、一瞬ポガチャルも揺らいだように見えた。それまでどうにかこうにか逃げてきたケムナを残り100mでパスすると、前に見えるのはフィニッシュラインだけ...のはずだった。

たとえ揺らいだとしても、崩れない。王者の執念がそこにはあった。最後の直線に入ってシッティングからダンシングに切り替えて踏み直すと、数メートルあったヴィンゲゴーとの差を詰めて、フィニッシュ手前でついにトップへ。右手を高らかに掲げて勝ち名乗りを上げた。

「このステージ...特に最後の上りは困難を極めていた。もう限界に達していたんだ。だけど、どうしても勝ちたかった。僕には勝たないといけない理由があったんだ」(ポガチャル)

いつだって勝つことにこだわる彼だけど、今回ばかりはエモーショナルな要素が存在していた。ガールフレンドで自転車選手でもあるウルスカさんがプランシュ・デ・ベル・フィーユの頂上で待っていて、両親は上りの入口で彼の走りを見守っていた。また、この日は自身によるがん研究財団が設立され、それを記念してスペシャルシューズが足を包んでいた。

「2020年にここで勝ったときのことを思い出したよ。久々の感触だ。ヨナスが僕にとって最大のライバルになりそうだね。彼は最高のクライマーの1人だし、チームも強力だ。でも、僕だってここまでうまく走れているよ」(ポガチャル)

絶対王者にライバル指名されたヴィンゲゴーは、ポガチャルに土こそつけられなかったが充実感を漂わせた。フィニッシュ直後はその場に足をついてしまうほど消耗しきっていたが、それは力を尽くした証拠である。

ポガチャルにフィニッシュ直前でかわされたヴィンゲゴー

ポガチャルにフィニッシュ直前でかわされたヴィンゲゴー

「良いクライミングができて満足しているよ。最後に追い抜かれてしまったのだけが残念だけど、僕にとって大事なのはプリモシュ(ログリッチ)とトップ3に入ったことなんだ。チーム状態が上向きであることを表しているし、この先の山岳ステージへの弾みになると思う」(ヨナス・ヴィンゲゴー)

2日前のパヴェステージで落車し左肩を痛めたプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)も、2年前の悪夢を振り払うように上りを攻めてステージ3位。まだまだ、白い旗は挙げない。

「上出来だったと思うよ。一昨日の落車負傷は言い訳にならないと分かっている。僕はタオルを投げるつもりはない。それだけは絶対に嫌なんだ。」(プリモシュ・ログリッチ)

プランシュ・デ・ベル・フィーユを上り終えたところで、マイヨ・ジョーヌはポガチャルが着続けることになった。この地でイエローだったら...と前述したけど、今年はどうなるだろう。怪物伝説に新章を追加した勢いのまま突き進むのか。

ユンボ・ヴィスマの2人もまだまだやれると分かって、双頭体制を強化している。個人総合トップ10に4人を送り込んでいるイネオス・グレナディアーズ勢も、フランス人選手による37年ぶりのツール制覇を期待されるダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ)とロマン・バルデ(チーム ディーエスエム)だって...。ポガチャルのレース後の言葉を借りるなら、「1秒ごとに状況が変わるのがサイクリングというスポーツ」である。

審判団と話すワウト・ファンアールト

審判団と話すワウト・ファンアールト

ちなみにこの日は、UCIのジュリー(審判団)が各チームのパドックを回って、レース中のボトル投棄に関して注意を喚起した。特に厳しいチェックをされていたのがワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)で、ときに強い口調で異議を唱える様子も見られた。彼はすでに第3ステージで500ユーロの罰金を科せられていて、次の警告ではUCI規則に基づいて1000ユーロの罰金と1分のペナルティタイム、さらにもう一回でレースからの除外と1500ユーロの罰金となる。

もうひとつ...。現在負傷で戦線を離脱しているナセル・ブアニ(チーム アルケア・サムシック)がスタート会場に姿を現し、チームを激励。実は関係者パスを持っていなかった彼なのだけれど、大勢の人だかりの中から現れるや警備のスタッフに「ナセル・ブアニです。通してほしい」とひと言。それでチームパドックに入れてしまうのだから、いかにこの国でロードレース競技と選手が市民権を得ているか...という話なのである。

●ステージ優勝、マイヨ・ジョーヌ、マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル コメント
「ヨナスがアタックしたタイミングは、僕にとって一番苦しい局面だった。だけど、今日は特別な日でガールフレンドも家族も観に来ていて、がん研究の基盤を開いた大事な1日なんだ。それを祝うためにスペシャルシューズも用意していたんだよ! 勝つことができて本当にうれしいよ。

このステージで成功することは、2022年大会のコースが発表になってからずっとイメージしていたんだ。ライバルとの差は広がっているけど、世界でもトップクラスのクライマーであるヴィンゲゴーのような選手が対戦相手となると、このタイム差ではまだ十分だとは言い難いね。」

●フィニッシュ前で逆転されステージ2位 ヨナス・ヴィンゲゴー コメント
「上っているときの感触はとても良かった。結果にも満足しているよ。もう少しで勝てていたのだけどね…残念なのはそこだけさ。今日はチームで2人がトップ3入りした。これはチーム状態の良さを表しているといえるし、自信にもなる。今後の山岳ステージで勝負に参加するには、これくらいの結果は今のうちに出しておかないといけない。プリモシュ(ログリッチ)と一緒に戦える状態をキープしていきたいね。」

●ステージ3位 プリモシュ・ログリッチ コメント
「この順位は喜んで良いものだよ。一昨日の落車で背中に刺すような痛みがあるんだ。だから今日第一の目標は無事に走り切ることだったし、回復に充てることでもあった。思っていた以上の走りと結果になったね。」

●個人総合5位に浮上 ダヴィド・ゴデュ コメント
「総合表彰台を意識して走っているので、今日はまず最初の関門を突破した気分だ。ベストな結果とは思えないけど、チームメートに助けられて良いレースができたと思っている。ここで気を抜かずに、集中力を維持していきたい。ツールはまだ始まったばかりで、今日は1つ目のテストに過ぎないんだ。観る側にとっては楽しいステージだっただろうけど、僕にとっては本当に難しい1日だったんだよ(笑)」

●ゴデュを献身的にサポート ヴァランタン・マデュアス コメント
「ダヴィドは喜んでいたよ。彼は僕たちのチームリーダーなんだ。とても強いことはみんな分かっていると思うし、僕は彼を成功に導きたい。具体的には総合表彰台だね。達成可能な目標さ。

まだ大会第1週だ。チームは良い方向へ進んでいるし、みんなハイパフォーマンスを示している。プレッシャーを感じるけど、やりがいはとてもあるね。」

●個人総合3位に浮上 ゲラント・トーマス コメント
「最後の上りの入口で集団内のポジションを前に移したんだ。それが良い結果に結びついたと思う。ステージ3位までもう少しだったけど、ログリッチに抜かれてしまい、ケムナには追いつけず...残念だけど、勝負に参加できたことがうれしいよ。

(イネオス・グレナディアーズは個人総合トップ10に4人を送り込んでいる)これは良いことだよ。誰でも仕掛けられるメリットがあるからね。ただ、うまく立ち回らないといけない。数的な優位を無駄にしないよう心掛けたい。これから何が起こるか楽しみにしていてよ。」

●ステージ26位で個人総合12位にランクダウン アレクサンドル・ウラソフ コメント
「腰が痛くて最後の上りは我慢ができなかった。最善を尽くしたけど、あれが精いっぱい。正直自分自身に失望しているけど、いまは回復に充てることが最優先だ。」

第7ステージ結果
1 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)in 3h58'40"
2 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)ST
3 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア/ユンボ・ヴィスマ)+0'12"
4 レナード・ケムナ(ドイツ/ボーラ・ハンスグローエ)+0'14"
5 ゲラント・トーマス(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)ST
6 ダヴィド・ゴデュ(フランス/グルパマ・エフデジ)+0'19"
7 エンリク・マス(スペイン/モビスター チーム)+0'21"
8 ロマン・バルデ(フランス/チーム ディーエスエム)ST
9 アダム・イェーツ(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+0'29"
10 セップ・クス(アメリカ/ユンボ・ヴィスマ)+0'41"

個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)
1 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)in 24h43'14"
2 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)+0'35"
3 ゲラント・トーマス(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+1'10"
4 アダム・イェーツ(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+1'18"
5 ダヴィド・ゴデュ(フランス/グルパマ・エフデジ)+1'31"
6 ロマン・バルデ(フランス/チーム ディーエスエム)+1'32"
7 トーマス・ピドコック(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+1'35"
8 ニールソン・ポーレス(アメリカ/EFエデュケーション・イージーポスト)+1'37"
9 エンリク・マス(スペイン/モビスター チーム)+1'43"
10 ダニエル・マルティネス(コロンビア/イネオス・グレナディアーズ)+1'55"

ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)

山岳賞(マイヨ・アポワ)
マグナス・コルト(デンマーク/EFエデュケーション・イージーポスト)

ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)

チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ in 74h13'25"

敢闘賞
シモン・ゲシュケ(ドイツ/コフィディス)

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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