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このブログについて

プロフィール写真【栗村修】
一般財団法人日本自転車普及協会
1971年神奈川県生まれ
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。豊富な経験を生かしたユニークな解説で多くの人たちをロードレースの世界に引き込む。現在は国内最大規模のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」の組織委員会委員長としてレース運営の仕事に就いている。 「栗村修の"輪"生相談」では、日頃のライドのお悩みからトレーニング方法、メンタル面の相談など、サイクリストからの様々な相談にお答えしております。栗村修に聞いてみたい、相談してみたいことを募集中。相談の投稿はこちらから。

2021年09月01日

【輪生相談】何故、地上波でオリンピックのロードレースが放送されないのでしょうか?

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「何故、地上波でオリンピックのロードレースが放送されないのでしょうか?
男子も女子も世界の一流選手に恥じないレース展開をしてたのに。
ニュースにも、ダイジェストにもならないのは何故?
メダルには程遠いから?人気がないから?
新城選手の応援のYouTube動画を見て涙が出ました。
背負うのはメダルや日の丸じゃないと思う。
応援しているみんなの思いと一緒にレースしてるのに、マイナーな種目でも結果ぐらいは放送してほしかった。」

(会社役員 男性)

栗村さんからの回答

おっしゃる通り、今回の東京オリンピックで多くの種目は地上波で放送がありましたが、自転車ロードレースはネット上での配信のみでした。実況も英語だけでしたね。

「人気がないから?」とありますが、そもそもマイナー競技でも地上波での放送がありましたし、日本人選手のメダル獲得の可能性が低くても放映していました。

東京五輪 自転車(ロード) ロードレース金メダル リチャル・カラパス

例えば、自転車ロードレース中継でお馴染みのJ SPORTSで放送できなかった大きな理由の一つはお金です。日本でのオリンピックの放映権の扱いは特殊で、NHKと民放が連合で買っているんですね。だから、もしJ SPORTSが中継したいならその連合に入る必要があるのですが、そのためにはとてつもない金額が必要だったのです。それが一つ。

しかし、理由は他にもあると思います。まず競技時間。6時間を超えるレースでしたから、7時間は放送枠が必要です。まあ、レース終盤だけ放送するやり方もありますが、そのためにはある程度のノウハウが必要ですし、マラソンもスタートから放送していましたから、フルでやることが前提になっていたかもしれない。なら、競技時間で外された可能性はあるでしょう。

それから、「絵」的なわかりやすさ。同じ自転車競技でも、MTBやBMXには絵的な面白さ、わかりやすさがあります。競技を知らない人でも、ぱっと見で「すごい!」と引き込まれるアクロバティックな迫力ですね。もちろん自転車ロードレースにもその魅力はありますが、じゃあ6時間ずっと手に汗握る展開が続くかというと、そんなことはありません。残念ですが。

地上波で放映されなかった理由を推測してきましたが、競技そのものに圧倒的な魅力があれば、競技時間が何時間だろうとどこかの局が手を上げ、放映されたと思うんです。でも、自転車ロードレースにはそれがなかった。食わず嫌いな面が多分にあるとは思いますが、悲しいことに、この事実は一般社会から自転車ロードレースへの重要なメッセージだったと思います。

もっとも、この問題は東京オリンピックになっていきなり浮上したわけではなく、前から海外では言われていました。「ちょっと長すぎない? 退屈じゃない?」と。選手であるペーター・サガン自身が「おれが視聴者だったら平坦ステージは最後の5分しか観ないよ」と言ってしまったくらいです。

東京五輪 自転車(ロード) 個人タイムトライアル金メダル プリモシュ・ログリッチ

そもそも、自転車ロードレースは今のスポーツの楽しみ方にマッチしていない恐れがあります。ツール・ド・フランスが始まったころはインターネットどころかテレビ中継もなく、ファンたちは沿道で、あるいは新聞報道で競技を楽しんでいました。そういう時代に始まったスポーツです。

でも今はありとあらゆる動画コンテンツが世の中に溢れている時代ですよね。その時代に1レースが6時間を超え、しかもグランツールは3週間も続くという競技のあり方は果たして正しいのか?

いや、もちろんJ SPORTSをご覧の皆さんはロードレースの楽しさを理解しているはずです。それは分かるんです。一見レースが動いていないように見える時間も、さまざまなドラマが展開されていますよね。我々実況・解説陣のやり取りも含めて。

でも、その楽しさをはじめて観る人は知らない、そして伝わりにくい。それが問題なんです。東京オリンピックは、僕たちに大きな宿題を残したと考えています。

文:栗村 修・佐藤 喬

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