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おなじみの声で毎年大会を盛り上げるマンジャス/写真 Thomas Ducroquet (Own work) [GFDL or CC-BY-SA-3.0-2.5-2.0-1.0] via Wikimedia Commons
フランス語で『la voix du Tour』(ラ・ヴォワ・デュ・ツール=ツールの声)と言ったら、あるひとりの男のことを指す。試しにネット検索してみると分かるはず。ダニエル・マンジャス、という名前がヒットする。1974年以来(公式認定は1976年)、ツール・ド・フランスの総合司会を務める男だ。
生まれた日がパリ〜ルーベの開催日、というロードレースの申し子のような彼は、35年以上もメインスピーカーの座を保持し続けている。そのワケは、よどみなく中継をこなすからだけではない。生き字引と言われるほど、競技に造詣が深いのだ。
レース1時間ほど前に行われる出走前サインの際は、200人近い選手が入れ替わり立ち代わり署名台のあるステージに登壇する。目まぐるしく行きかう選手たちの顔を見るやいなや、名前を即座にアナウンスし、戦歴を短時間で紹介するその技は、まさに芸術的だ。
また、レースが活況を呈する終盤、スピーカー越しに聞こえる彼の実況中継は、実にスリリング。立て板に水で、急き立てるように戦況を伝えていくあの臨場感。独特のしわがれ声を聞くだけで、アドレナリンが出るファンもいるだろう。
ツールだけでなく、年間200日も自転車ロードレースの会場でアナウンサーを務める彼は、選手の顔を覚える機会には恵まれている。しかし、シーズンオフの冬季には、分厚いデータブックを徹底的に暗記し、反射的に連呼できる訓練を徹底的に積んでいる。そんな陰の努力は並大抵ではない。
2009年、60才になったとき、「2013年のツール100回記念を最後に引退しようかな」、などと口にしていた。暗記力の維持は、骨の折れる仕事に違いない。
しかし、とくに最終日、あの声が聞かれなくなるのは実に寂しい。シャンゼリゼ大通りにこだまする彼の「さようなら、また来年!」の声は、哀愁を帯び、3週間の激闘が幕を閉じたことを、しみじみと実感する。
Naco
1999年末、ホームページを立ち上げ、趣味だった自転車ロードレースの情報記事を掲載しはじめる。2000年夏からは、ツール・ド・フランスの現地観戦レポートを開始。同サイトには、ロードレース・ファンたちが数多く訪れている。現在、フリーランスのジャーナリストとして自転車専門誌に記事を寄稿している。
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