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サイクル ロードレース コラム 2014年7月16日

「フルーム最強を科学する」VOL.3 オールラウンダーの筋肉とは!?

ツール・ド・フランス by 櫻井 智野風
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ツール・ド・フランス2014、序盤から落車に見舞われたフルームは、第5ステージ途中でリタイア。前年覇者の離脱は残念ですが、8月23日に開幕するブエルタ・ア・エスパーニャでの活躍に期待しましょう。
さてツール・ド・フランスは、よりし烈な総合優勝争いが展開されそうです。そのキーポイントになりそうなのが、常に安定した結果を残すこと。特にフルームのように、山も平地も得意なオールラウンダーであることは、とても重要な要素です。
ただ、フルームのようなオールラウンダーになるのは非常に難しいと言えるでしょう。平地でのスプリント能力を上げるには、ハイパワーな出力が必要となります。そのためには大きな筋肉をつけなければならず、体重も重くなります。山を駆け上がるのに、大きくなった筋肉や体重は逆に不利な要因となってしまいます。筋肉をあまり大きくせず、出力はなるべく落とさないようにする。オールラウンダーになるためには、筋肉の「質」が大きなカギとなるようです。今回はクリス・フルームの筋肉を科学的に紐解きます。

3つのタイプに分かれる筋線維

筋肉に興味のある方は、「短距離選手などスピード/パワー系のアスリートには速筋線維が多く、マラソン選手など持久系のアスリートには遅筋線維が多い」ということはご存じだと思います。私達の筋肉は、何千本も束になった筋線維により構成されており、それぞれ性質が異なる3つのタイプに大別することが出来ます。それが、前述した速筋線維と、遅筋線維と中間筋線維の3つ。筋肉自体の性質は、個々人の筋肉を構成する筋線維タイプの比率により決まります。一般に、自転車ロード競技は長時間にわたる競技時間や、同様の筋活動の繰り返しという活動特徴を持つことから、持久的な活動に優れている遅筋線維を多く持つ選手が、有利であると考えられてきました。

オールラウンドでないデータ

残念ながら最近のフルームの筋線維タイプを調べた報告はなく、フルームの筋肉(特に脚の骨格筋)が持つ特徴に関して、明確なことはわかりません。しかし、フルームについて調べた様々なデータより、彼の筋線維タイプを推測することが出来ます。下の表をご覧ください。

「無酸素性パワー」と「20分間ペダリングにおける出力」の数値において、フルームの能力はツール・ド・フランス歴代優勝者に比べても非常に高い数値を示します。しかし、「60分間ペダリングにおける出力」と「最大酸素摂取量」においては、歴代優勝者達よりも少々優れているレベルにとどまっています。つまり、彼の筋肉は持久的な要素に関して、抜群に優れているわけではないことが言えます。フルームはトップレベルのサイクリストの中では、スピードから持久力まですべてを網羅する、オールラウンドな筋線維タイプを有しているわけではないと言えるでしょう。

注目したいフルームの特異性

ただ、ここで注目なのはフルームの特異性です。他のツール・ド・フランス歴代優勝者のデータを見ると、「20分間ペダリングにおける出力」が高い選手は、「60分間ペダリングの出力」や「最大酸素摂取量」の値も高くなる傾向にあります。また、「無酸素パワー」が高値を示す選手は、それ以外のデータはそれほど高くない傾向を示しています。つまり、フルームの20分間ペダリングにおける能力の高さは、他の選手とは違う仕組みによるものと言えるかもしれません。

リカバリー能力の高さがフルームの武器

この「20分間ペダリングの出力」のデータは、筋肉における乳酸の再利用能力を測る指標とも言われています。自転車競技は、常に脚を動かすと同時に、地面からの衝撃を繰り返し受けるランニングのような運動形態ではありません。ペダリング中も多少の休息を取れることや、筋肉へのダメージが少ないことが特徴と言われています。そのため脚部の血液の流れも比較的スムーズであると言われ、筋肉のハイパワーな出力の際、速筋や中間筋線維で生成された乳酸をスムーズに遅筋線維に運ぶことが容易になります。筋肉自体が、乳酸の再利用能力が高いシステムを持っていれば、エネルギーの枯渇による急激な出力低下を招くことなく運動が続けられます。もしフルームの筋肉の持久的能力に弱点があったとしても、ハイパワーな出力をスムーズなリカバリー能力により繰り返すことが出来れば、これは逆に彼の武器となっているのかもしれません。

自転車ロード競技に最適の筋線維タイプとは

これらのデータより推測すると、フルームの筋線維タイプは、速筋線維と中間筋線維が主となった構成になっていることが考えられます。しかし彼の場合、ハイパワー出力時に速筋および中間筋線維で生成された乳酸を、遅筋線維で再利用する能力が並はずれて優れているのではないでしょうか。つまり、高速でペダルを漕ぐことが重要ですが、それほど筋肉へのダメージが大きくなく、運動中にも多少の休息を作ることが出来るこの競技において、(予測ではありますが)フルームの筋線維タイプ構成がベターと言えるのかもしれません。

今年のチャンピオンに輝くのは、どんな選手なのか。いや、どんな筋線維タイプの選手なのか。そういった様々な面からも、今後のツール・ド・フランスから目が離せません。

またフルームは、ブエルタ・ア・エスパーニャ出場に意欲を見せているようです。そこできっと最強フルームを見せてくれることでしょう!今から楽しみですね。

代替画像

櫻井 智野風

1966年生。神奈川県出身。博士(運動生理学)。現在は桐蔭横浜大学スポーツ健康政策学部教授として指導と研究に取り組んでいる。スポーツ科学、スポーツ生理学を専門分野とし、主な著書に「不調の原因を解消する本」(2014/出版)、「ランニングのかがく」(2011/秀和システム)などがある。その他に日本陸上競技連盟の普及育成委員を務め、東京オリンピックに向けたジュニア世代の育成強化に力を注いでいる。自らも選手として活躍していた十種競技を中心に世界選手権や五輪などに出場する日本代表選手などを強化に関わっている。

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