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「僕はナイロのために働いた。それは誰の目から見ても明らかだったはずさ。僕は強烈なペースを刻んで、ライバルを千切りにかかった。決して後ろを振り返らなかった。ナイロから、リズムを刻み続けるよう、ずっと声をかけられていたから。『後ろにはもう10人か12人しか残ってないぞ』って」(バルベルデ、チーム公式HPより)
チームメートと共に1日中働いてきたマーティンは、瞬く間に犠牲となった。ゴール前2kmでは、グランツール総合優勝経験者としては真っ先に、カデル・エヴァンスが脱落した。バルギルも姿を消した。1.6kmではサムエル・サンチェスが後退し、1.2kmではリゴベルト・ウランさえ振り落とされた。「エル・インバティド」(無敵)の強いる驚異的なスピードで、ラスト1km、集団は10人にまで小さくなった。
「でも、誰かがアタックを仕掛けた場合に備えて、ほんの少しだけエネルギーを残しておいたんだよ」(バルベルデ、チーム公式HPより)
そんな、もしもの事態が、ゴール前700mに訪れた。勾配10%超の難ゾーンで、ロドリゲスが渾身のアタックを打った!「彼には、たとえ1mでも、与えてはならなかった」(チーム公式HP)と、バルベルデはすぐに追走に切り替えた。ほんの一瞬出遅れるも、背後ではフルームが、穴を埋めるために必死にペダルを回した。キンタナとコンタドールは、英国人の後輪にぴたりと張り付いた。
現在の自転車界が誇るグランツールチャンピオンが、ほぼ勢ぞろいした瞬間だった。5人合わせてグランツール総合優勝8回、表彰台11回。この場に足りないのは、2014年ツール覇者の、ヴィンチェンツォ・ニーバリくらいのものかもしれない。そして、本来ならば、「チャンピオンたちの直接対決」は、7月のフランスで見られるはずの光景だった。しかしフルームが第5ステージでリタイアし、コンタドールが第10ステージで去り、ロドリゲスは故障明けで、バルベルデはこれほど調子は上がっておらず、キンタナはそもそも不在で……。
このキンタナが、5人の中で一番に脱落した。2014年ジロ総合覇者のコロンビア人は、ゴール前300mで、ライバルの背中から滑り落ちてしまった。
「調子は悪くなかったんだけど、まだ、リズムが少しつかめていないんだ。いまだトップコンディションではない」(キンタナ、チーム公式HPより)
2013年ツール覇者のフルームは、前ににじり出た。左手首骨折の影響は、もはや感じられなかった。グランツール計5勝のコンタドールは、併走しながら、おなじみのダンシングスタイルでライバルたちの動きに警戒を払った。7月に右脛骨の亀裂骨折し、「激坂だから、今の僕には厳しいだろう。それでも、できるだけ長く、ライバルたちについていきたいものだね」とスタート前にTVインタビューで語っていたのだが。確かに、ラスト200mでバルベルデが切った、切れ味鋭い「十八番」の上りスプリントにはついていけなかった。それでも、先のアタックで力尽きていたプリトとは違って、フルームとコンタドールは、バルベルデと同タイムでゴールラインへ滑り込んだ。三者を分けたのは、ただ、ボーナスタイムだけであった。
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