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【宮本あさかのツール2020 レースレポート】歴史に刻まれる《世紀の逆転劇》。若者は美しく、そして残酷に、異次元の走りで全てを奪い取る「これがレース。僕らはみんな勝つために走っている」(ポガチャル) / 第20ステージ
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかイエロージャージを失ったログリッチ
ちなみに平坦では1kmあたり0.9秒になんとか食い止めていた損失が、起伏の始まりと共に1.46秒に拡大した。さらにはプランシュ・デ・ベルフィーユの登坂5.9kmだけで1分20秒を落とした。つまり1km登るたびに、ログリッチは13.56秒を失っていったことになる。それでも全体的に見れば区間5位。2位デュムランから35秒遅れなのだから、むしろ好走とみなしてもおかしくない。とにかく、11日間守って来たマイヨ・ジョーヌをあっさり手放さねばならぬほど、酷い成績ではないはずだ。
「コースの隅から隅まで全力で戦った。持てる力の110%を尽くした。自分自身を限界まで押し上げた。ただ純粋にパワーが足りなかった。もしかしたら僕は十分に追い込まなかったのかもしれない。もしかしたら、やるべきことを、やらなかったのかもしれない。でも、自分にできることは、全てやったんだよ」(ログリッチ)
大会の祖国フランスは、さかんに1989年大会の伝説を例に出し、世紀の逆転劇と書き立てる。そう、最終個人タイムトライアルでグレッグ・レモンが50秒差を逆転し、フィニョンからマイヨ・ジョーヌを奪ったと言われる、いわゆる「伝説」である。ただ2011年には今回と同じ57秒差を、カデル・エヴァンスがひっくり返して初戴冠している。そもそもログリッチには、2018年第20ステージの個人TTで、総合3位から4位へと陥落した苦い思い出だってある。
2年前のあの日は、前日の猛攻が疲労として体に残っていた。今回は単純に、相手が強すぎた。「0か100か」を信条に、今ツールを極めて攻撃的に走ってきたポガチャルは、ストップウォッチ相手にもアグレッシブに挑みかかった。デュムランのように決して美しくスマートな走行ではなく、がつがつとがむしゃらさを前面に出すことも厭わない。山頂へ向けて夢中でダンシングし、ライン上では思いっきりハンドルさえ投げた。
「ログリッチは間違いなく今ツールではベストライダーだったし、本当に強いチームに支えられていた。彼らはファンタスティックな仕事をして、素晴らしいレースを作り上げた。僕自身は彼を心から尊敬しているし、とても良い友達だ。だから彼の想いを感じ取ることができる。マイヨ・ジョーヌを最後の最後に失うなんて、すごく難しいこと。彼がどんな気持ちでいるか、手に取るように分かる。でもこれがレース。僕らはみんな勝つために走っている」(ポガチャル)
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