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そんな時だ。残り16km前後で、マイヨ・ロホがバランスを崩し、地面に転がり落ちた。実はカーブの多い下りでは、逃げ集団でも、キャンティがガードレールの外に飛び出している。幸いにもフルームはその場に滑り落ちただけだった。チームカーの到着を待つと、新しい自転車に飛び乗った。ところがほんの数十メートル走ったところで、またしてもフルームはコケた!
「単純に、カーブに入る前に、前輪が滑ってしまったんだ。2度目の落車も同じ状況。残念ながらこういったことは予測できないからね……。大きな怪我はなかった。ちょっと『皮』を失っただけ。そこから先は自分に出来る限りの最善を尽くすしかなかった」(フルーム、フィニッシュ後インタビューより)
少し先ではミケル・ニエベとワウテル・ポエルスが待っていてくれた。痛手を負ったチームリーダーと合流すると、猛烈に前を追いかけ始めた。
もちろん、下り直後からすでにスピードを上げていた「ニーバリ集団」は、フルームの脱落でさらに速度を増した。そもそもコンタドールが飛び出しているんだから、「落車したリーダージャージを待つ」なんていう紳士協定を守ってる余裕はない。アシストを残していたバーレン・メリダ、チームサンウェブ、アスタナプロチームが、それぞれ総合2位ニーバリ、総合5位ウィルコ・ケルデルマン、7位ファビオ・アルのために精力的に牽引した。昨夜に「フルームとスカイを崩す努力を続けていく」と高らかに予言していたニーバリ本人も、ライバルを振り払おうと先頭に立って奮闘した。
前方にコンタドール、その後ろにニーバリ、さらにその後ろにフルーム。クレイジーな追いかけっこは延々15kmも続いた。トインズが惜しみない献身を終えると、最後の3km、コンタドールは単独で努力した。ラインを越える瞬間まで、頭を低く下げ、ペダルを夢中で踏み抜いた。マルチンスキーの独走勝利から7分25秒後、地元スペインファンの惜しみない声援を受けながら、英雄的な1日を終えた。
「期待していた以上のシナリオだった。フルームからはあまりタイムを奪えなかったけれど、正直言って今日何かできるとは考えてもいなかったから満足だ。毎日、少しずつ、差は縮まっている。総合優勝を争える位置まで進めたら嬉しけど、とにかく現時点では、1日1日戦っていくだけ」(コンタドール、フィニッシュ後インタビューより)
その22秒後にいわゆるニーバリ集団、つまり前夜までの総合上位19人から1位フルーム、9位コンタドール、13位ポエルス、17位ニエべを除いた全員が、フィニッシュエリアに雪崩込だ。1位と13位の到着は、さらに20秒を待たなければならなかった(17位ニエベは+7秒)。
「ほっとしている。幸いにも体に異常はないし、もっとタイムを失う可能性だってあったわけだから。たしかに理想的な状況じゃないけれど、分単位で失ったわけではない」(フルーム、フィニッシュ後インタビューより)
フルームは10日連続でマイヨ・ロホ表彰式に臨み、ニーバリは首位との差を59秒に詰めた。コンタドールは順位こそ総合9位に留まったが、表彰台まではぴったり1分差に縮まった。2017年ブエルタも、つまりコンタドールの現役生活も、まだ9日間残っている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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