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【ツールに恋して~珠玉のストーリー21選~】ツール・ド・フランス史上初の5勝男、ジャック・アンクティルが刻んだ伝説
ツールに恋して~珠玉のストーリー21選~ by 山口 和幸写真:2006年大会ステージ15に設けられたボベのモニュメント
若返ったフランスチームでアンクティルはその実力をいかんなく発揮した。第3ステージで優勝し、その2日後に初めてマイヨジョーヌを手中にした。一時は他選手に首位を譲ったが、アルプスでマイヨジョーヌを奪還。得意とする個人タイムトライアルで圧勝し、マイヨジョーヌをパリまで手放さなかった。
ボベは出場6回目でようやく初優勝したのだが、アンクティルは初出場で総合優勝してしまったのだ。
ツール・ド・フランスはその後、国別対抗から企業チーム形式に戻る。アンクティルはさらに1961年から3連覇し、ベルギーのフィリップ・ティス、ボベの持つ通算3勝の最多記録を更新。そして1964年に5勝目をかけて開幕に臨んだ。
この年、フランスにはレイモン・プリドールがいて、国民の人気を二分した。しかもアンクティルはジロ・デ・イタリアを、プリドールはブエルタ・ア・エスパーニャを制して7月のツール・ド・フランスに乗り込んできた。
そして2人は大会史上に語り継がれる激闘を演じるのである。
戦いの舞台は中央山塊。フランスには珍しい旧火山帯で、噴火によって溶岩ドームが形成されたピュイドドームが雌雄を決するゴールだった。
50万人の大観衆は2人がヒジをぶつけ合うように上ってくるのを目撃した。デッドヒートはまったくどちらが勝つとも分からない壮絶なものだった。
プリドールは頂上まで2kmのところでアタックし、アンクティルに42秒差をつけた。
しかしマイヨジョーヌには14秒届かなかった。
アンクティルは最終的に総合成績でプリドールに55秒差をつけて大会史上初の5勝目を挙げることになる。プリドールは1962年から1976年まで合計14回ツール・ド・フランスに出場して、総合2位3回、3位4回。ポディウムと呼ばれるパリでの3位までの表彰台に7回上っているが、総合優勝は一度もできなかった。アンクティルが常に栄冠の前に立ちはだかったからだ。
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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