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アラン・ブセニッツのグラブには、ひらがなで「ぶせにっつ」と刺繍が施してある。
登録名も“ブセニッツ”だが、本人にしたら、“日本ならでは”のニックネームのようで嬉しいのだろう。実際、来日したばかりの彼は「何て呼ばれても嬉しいよ」と話していた。
ただ、日本人がこのとおりに“ブセニッツ”と呼んでも、アメリカにいる「Busenitz」性の人はたぶんわからない。
ルーツはドイツなので、ドイツ語のわかる方なら気づくかもしれないが、英語で発音するのに近いカタカナで起こすなら、“ブーズニッツ”。それを短縮して、アメリカでのニックネームも“ブーズ”だった。
でも彼は言う。「ぼくも日本人の名字が読みにくいから、日本人みんなが言いやすいなら何だっていい」。
◆I’m flexible. 柔軟性がピカイチ、日本食も「これから好きになる確信がある」?
ここまで12試合に登板し、防御率0.75の8ホールド(6/10現在)。その安定感もあって、「勝利の方程式」の一角で投げている。
最大の武器は、時速150キロ台半ばのストレートとパワーカーブのような変化球だ(本人はカーブと言っている)。パワーカーブとは、縦の変化が大きくもスピードも速い、旧来のカーブよりパワフルな球。
ペドロ・マルティネスが投げて、通称として広がっていった。今、阪神のジョンソンが使い手として話題沸騰中だ。
ブセニッツの場合、これにカットボールやチェンジアップも加わるため、ストレートとの区別がつきにくく、三振を誘発しやすい。
ここまで登板回数と同じ12奪三振と順調に量産中だ。なお、6月5日の巨人戦では、来日初勝利もマークした。
これらの絶対的な武器をコントロールよく投げ分け、スカッとする凡退劇を見せても、たいていが派手に喜ぶことはなく、ニコニコとバッテリーを組んだ捕手と話しながらベンチへ戻る。人懐っこい笑顔は、すでにファンの間でも「癒やされる」と話題になっている。
海外での暮らしは、今回の日本が初めて。生まれも育ちもアメリカのジョージア州だ。同州の大学を出て、2013年にエンジェルスにドラフト25巡目で指名されてプロ入り。
その後、交換トレードでツインズへ。2017年にツインズでメジャーデビューした。ちなみに、同年はツインズが劇的に急浮上。
前年に100敗を記録したチームがプレーオフに進出した初のチームとなって話題を呼んだが、彼もまた、チームがワイルドカードに躍進する立役者の1人として活躍。プレーオフ進出のシャンパンファイトも経験した。
日本でも投手としてのポテンシャルを証明しつつあるが、何よりの武器はその“柔軟性”なのかもしれない。海外で暮らし、働き、そして結果を出すには欠かせない資質だ。
まだ、時差ボケも残っているキャンプイン時に話したことが思い出される。
「練習内容は、母国にいた時と違うだろうけど、何でも合わせるよ。ぼくはフレキシブルだからね!」。
「日本食は、まだ慣れないけど好きになれる確信があるよ」。
そんなブセニッツは、春季キャンプでは久米島名物として知られる「とうもろこし畑での坂道ダッシュ」にも時差ボケのまま(?)参加。
ゼエゼエ言いながら、「面白かったよ」と笑っていたし、「やっぱりアメリカのステーキが一番だ」と言いながら、いろんな日本食に挑戦していた(牛タンは感触が独特でびっくりしたそう)。
◆実家はジョージアで自営業「septic tankって知ってる?」
何よりの支えは、やはり家族だろう。ブセニッツの実家は、「septic tank」(腐敗槽)という汚水処理タンクを設置するビジネスをファミリーで代々営んでいる。
北海道の2倍近くの広大な面積があり、歴史や雄大な自然があるジョージア州。下水道が通っていない場所では、こうしたタンクが不可欠となる。本人が「septic tankって知ってる?」と前置き、教えてくれた。
「うちはタンクを作って置くだけ」というその実家には、ずらりとタンクが並んだ場所にブルペン”がある。
地元記事『TwinCities.com』には、動画も紹介されているが、なんと父が、マスクやレガースなどの防具を何一つつけず(ベースボールキャップだけ!)に、ブルペンさながらにブセニッツの鋭いボールを受けている。
「昔からずっと父がブルペンキャッチャーをしてくれたんだ。彼も(自営業で)フレキシブルだからね。一緒にトレーニングをしたり、ブルペンで球を受けてくれたりした」。
タンクを運ぶような重労働をはじめ、よく手伝いもしてきたのだという。大変だったのでは?と尋ねるも、「楽しかったよ!家族やおじさん、兄弟やいとこ、みんなファミリーで営んでいるビジネスだから、お互い気のおけない関係だし、好きなこと(野球)をしているんだから」と笑う。
大切な家族は、この春にも増えた。大学時代からの交際の末に結婚した妻との間に、第1子となる娘が生まれたのだ。
公私ともに海を超えた日本で大きな転機を迎えたブセニッツは、その柔軟性でどんな困難も爽やかに乗り越えていくような雰囲気を持っている。
松山 ようこ
フリーランス翻訳者・ライター。スポーツやエンターテイメント関連コンテンツの字幕翻訳をはじめ、Webコンテンツ、関連ニュース、企業資料などの翻訳や制作を請け負う。J SPORTSでは、主にMLBや侍ジャパンのほか、2015シーズンより楽天イーグルスを取材し、コラムやインタビュー記事を担当。野球の他にも、幅広くスポーツ選手はじめ著名人を取材。Twitter @yokobooboo
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