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現地1月25日、今年の米国の野球殿堂入り選手が発表された。
結果はともかく、私は写真の通り、(1)マリアノ・リベラ投手(ヤンキース)、(2)ロイ・ハラデー(ブルージェイズ他)、(3)マイク・ムシーナ(ヤンキース他)、(4)カート・シリング(フィリーズ他)、(5)バリー・ボンズ(ジャイアンツ他)、(6)ロジャー・クレメンス(レッドソックス他)、(7)エドガー・マルティネス(マリナーズ)、(8)オマール・ビスケル(インディアンス他)、(9)フレッド・マグリフ(ブレーブス他)、(10)ラリー・ウォーカー(ロッキーズ他)に投票した。
最優秀選手やサイヤング賞の投票ではないので、番号は順位ではないし、ポイント制ではないので、選出にはまったく影響がない。殿堂入りの条件は75%の得票率だ。
この中でもっとも印象深い選手は誰か? と訊かれれば、迷うことなく「ロイ・ハラデーだ」と答える。
とくに仲良くしてもらった記憶はないが、彼の全盛期と言われている2002年から2011年の10年間、直接的、もしくは間接的に取材する機会に恵まれた。
ブルージェイズ時代は、イチロー(通算42打数11安打、被打率.262)や松井秀喜(同63打数14安打、被打率.222)、井口資仁(同7打数1安打)や岩村明憲(24打数5安打、被打率.208)、城島健司(22打数7安打、被打率.318)の対戦相手として。
フィリーズ時代は、松井稼頭央(2打数無安打)や福留孝介(8打数2安打)、青木宣親(3打数1安打)の対戦相手として。
現役時代の彼はとてもストイックで、登板後にジムにこもってクールダウンするのが有名だった。2011年のナ・リーグ地区シリーズでノーヒッターを達成した試合後でさえ、彼は「まだすべてが終わったわけじゃないから」と、普段通りにジムにこもって、会見場に集まった記者たちを苦笑させたこともある。
そんな人だから、急な取材をお願いすると「予定が決まっていて時間が取れないから」と必ず断られる。だが、前もって打診していれば必ず時間を作ってくれる。そして、他の記者にも散々と訊かれたであろう質問(「なぜ、あなたはマイナー降格から復活できたのか?」等々)にも丁寧に答えてくれる人だった。
彼に投票したのは当然のことながら、純粋に彼のキャリアから判断した。「メジャー通」と呼ばれる知人からは「40歳で(飛行機)事故死したから同情票だろ?」と言われたが、そんなことで投票はしない。誰かに1票投じれば、他の誰かが1票失うことになる。実際に投票する責任を感じていれば、そんなことは絶対にできないし、周りの米国人記者にもそういう人はいない。
事実だけを書こう。
ハラデーは同じ殿堂入り候補であるマイク・ムシーナやカート・シリングが獲得できなかったサイヤング賞を、両リーグで獲得(史上6人目)、今ほどではないにしろ、分業制が進んで勝ち星が付きにくい時代に通算3度も20勝投手になっている。
ハラデーの通算勝率.659は、1900年以降に2,500回以上投げた投手の中で史上5番目だった(ハラデーを上回るのはホワイトティー・フォード(ヤンキース)、ペドロ・マルティネス(レッドソックス他)、レフティー・グローブ(アスレチックス他)、クリスティー・マシューソン(セネターズ他)といった殿堂入り選手ばかりだ)。
彼がデビューした1998年以降、史上最多の通算67完投は、2位の殿堂入り選手の左腕ランディー・ジョンソンの同54完投を大きく上回っている。
その内、63完投は彼にとっての全盛期である2002年から2011年の10年間に達成され、その間、73%以上の確率で7回以上を投げ切っていた(同じ時期、2番目に完投が多かったのは、今は田中将大のチームメイトである33完投の左腕C.C.サバシアだった)。
そう、ハラデーに投票した理由は、全盛期の彼が同世代に生きた投手たちを凌駕していたからだ。
取材現場で実際に体験した「ロイ・ハラデー」は、同時期に活躍したサバシアや同じ左腕のヨハン・サンタナ(メッツ他)、ロイ・オズワルト(アストロズ他)を圧倒する存在感を示していたのだ。
想像して欲しい。
ア・リーグ東地区でヤンキースが10度に渡って地区優勝し、レッドソックスが同じ回数だけ2位になる「双頭の竜」だった時代、「良くて3位」*のブルージェイズのハラデーが、ロジャー・クレメンスやペドロ・マルティネスと投げ合いながら、強力打線の前に立ちふさがった姿を。
2010年のナ・リーグ地区シリーズの大事な初戦、フィリーズが4対0とレッズをリードして迎えた九回、ポストシーズン史上2度目のノーヒッターを懸けて、ゆっくりとマウンドに上がる背番号34の雄姿を。
思い出すだけで、身震いする。
「通算2,749.1回や通算203勝は少なすぎる」?
いや、その数字を下回りながら殿堂入りした選手は、左腕サンデー・コーファックス(ドジャース)を筆頭にすでに何人もいる。
殿堂入り選手に大事なのは、「How dominant was he?(どれぐらい彼は凄かったのか)」だ。
そう、ハラデーは凄かった。
それだけで充分に、彼は殿堂入り選手だと思う。
*ハラデーは対ヤンキース戦で18勝7敗、7完投。対レッドソックス戦で14勝15敗、6完投しており、チームは2006年だけ2位になっている。ちなみにハラデーと対戦した日本人選手でもっとも高打率を残したのは、わずか5打数ながら2安打で打率4割を記録した黒田博樹である。
ナガオ勝司
1965年京都生まれ。東京、長野、アメリカ合衆国アイオワ州、ロードアイランド州を経て、2005年よりイリノイ州に在住。訳書に米球界ステロイド暴露本「禁断の肉体改造」(ホゼ・カンセコ著 ベースボールマガジン社刊)がある。「BBWAA(全米野球記者協会)」会員
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