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野球 コラム 2018年9月10日

トム・ハンクスやジュリア・ロバーツに負けないメジャーリーガー

Do ya love Baseball? by ナガオ勝司
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癌と闘っている人たちがいる。

自分の経験を踏まえて、他の患者を助けようとしている人たちがいる。

2008年に発足したStand Up To(2) Cancer(以下SU2C)は、患者の女性たちが「メディアやエンターテイメント業界が一丸となれば、もっと有効的にこの病と闘える」と立ち上がったのが始まりだったという。

今では米三大ネットワーク(NBC、CBC、ABC)や、「第4のネットワーク」FOX、ケーブル・テレビの有力チャンネルでスポーツ専門のESPNや、音楽専門のMTVや映画専門のHBOなども賛同し、募金活動を主とした関連番組を同時放送するようになった。

今年も現地7日に映画俳優のトム・ハンクスやジュリア・ロバーツなどが集まり、盛大なイベントとして行われた。

SU2Cの発足以来、メジャーリーグはエンターテイメント業界に負けまいと関わってきた。

ワールドシリーズ中には選手だけではなく、野球場にいる全員―そう、観客をはじめ、警備員やホットドッグの店員や清掃員にいたるまで―がプラカードに近しい人々で癌と闘っている人たちの名前を書いて応援するイベントを行っているが、今年は首都ワシントンD.C.で開催のオールスターゲームの際にも同イベントが行われ、スポンサーの協力を得てその時点で総額4,300万ドル(1ドル110円換算で47億3千万円)の基金になったと発表している。

そのイベントに何度か参加した経験を踏まえて言うと、野球場にいるすべての人々が、癌と闘う人々に思いを捧げる時間はとても特別なものだ。

黙とうではないので、目を瞑ることはないが、それぞれの思いを持ってプラカードを掲げると場内が独特の雰囲気になって静寂に包まれる。性別や年齢や人種の違いなんて簡単に乗り越えてしまう。年齢や国籍や言語の違いも簡単に乗り超えてしまう。それは皆の気持ちが一つになっていることを実感できる瞬間だ。

昨年のワールドシリーズで、メジャーリーグのロブ・マンフレッド・コミッショナーはこう言った。

「ファンの人々や球団、選手たちの素晴らしい協力を得て、ベースボールは今まで通り、これからもこの困難な病と闘い続けていきます」

MLBは元々、父の日には「直腸癌」、母の日には「乳癌」と関連付けて癌患者や研究団体を支援してきた。チーム単独、選手単独で行われるイベントも多く、「癌と闘う」ことが他の慈善事業と少し違っているのを実感する。

それは松井秀喜氏のヤンキース時代の監督・ジョートーリや、松坂大輔(現中日)のレッドソックス時代の同僚マイク・ロウェル内野手のように、野球界に「癌から生還した」選手や監督が決して少なくないからだと思う。

今年八月には、史上初めて癌を克服した2人の投手が、メジャーリーグの小石汽船で先発投手として投げ合った。その内の一人で2016年の11月に精巣癌の治療をしたロッキーズの29歳、チャド・べティス投手はMLBネットワークの特集番組でこう話している。

「自分が癌を患っていることを話さない選択もあるけど、むしろ、僕や僕の家族がした経験を積極的に話して、この病と闘うためには周囲の理解とサポートが必要なんだと、患者やその家族に分かって貰うことが大事なんだと思っている」

その中の一人が、2017年の5月に精巣癌の手術をしたパイレーツの26歳、ジェームソン・タイロン投手だった。同じ番組の中で彼はこう言っている。

「チームは違うけれど、同じ野球界という身近な場所に同じ病を患った選手がいるというのはとても心強かったし、彼の経験談を聞くことで、自分がこれからどうなっていくのかを推し量ることができた」

ただし、ベティスの癌はリンパ節に転移していたそうで放射線治療をしなければならず、復帰までに時間(約9カ月)がかかった。切除手術が可能だったタイロンの方は6週間で復帰している。

「僕らは同じことを経験してきた仲間なんだと思っている。2人とも復帰してから、お互いに指に血豆ができて悩まされたこともあって、そんな時にも連絡を取り合って、『どんな風に対処してるの?』なんて話をするようになった」

とべティス。結果はタイロンが10安打2失点で完投勝利。べティスは五回途中8安打9失点と崩れたが、二人とも試合後は異口同音に「特別な日になった」と言っている。

彼らは「Cancer Survivor=癌から生還した人」であり、その連帯感は強い。

タイロンは精巣癌から復帰した2017年、メジャーに昇格した後、悪性リンパ腫の「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」を患ったことのあるカブスのジョン・レスターからヒットを打った。

カブスの一塁手はマイナー時代に「ホジキンリンパ腫」を患って克服したアンソニー・リゾ。リゾはセットポジションに入ったレスターの(ほとんど投げない)けん制球に備えてグラブを構えながら、一塁ベース上に立つ新人にこう話しかけたという。「ヘイ、今、ここに3人の「Cancer Survivor=癌から生還した人」がいるってことだぜ」。

SU2C=癌と闘う人たちとその周りにいる人たちのイベント。それは新政権の誕生後、何かと「分断」や「隔離」がクローズアップされているアメリカが、一つになる瞬間である。

ナガオ勝司

ナガオ勝司

1965年京都生まれ。東京、長野、アメリカ合衆国アイオワ州、ロードアイランド州を経て、2005年よりイリノイ州に在住。訳書に米球界ステロイド暴露本「禁断の肉体改造」(ホゼ・カンセコ著 ベースボールマガジン社刊)がある。「BBWAA(全米野球記者協会)」会員

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