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野球 コラム 2018年8月21日

イチロー・デビュー年以来のポストシーズン進出を狙うマリナーズに足りないもの

Do ya love Baseball? by ナガオ勝司
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阪神タイガースを取り巻くメディアが他球団をカバーするメディアと違っているのは、熱狂的なタイガース・ファンの厳しい視線を常に意識しているからだと思う。

メジャーリーグにもそれに似たような状況がある。

たとえばボストン・レッドソックスを取り巻くメディアは、熱狂的なレッドソックス・ファンを意識した記事を書く。成績不振の選手には容赦なく厳しい論調の記事が書かれるし、その選手を獲得した球団編成部にまで批判の目が向けられる。

それに比べると、シアトル・マリナーズの地元メディアは優しい。

東海岸のボストンに比べれば、西海岸北部シアトルの人々は「寛容」だと言われており、日本人をはじめ数多くの外国人が住んでいるのは偶然ではない。そういう土地柄だからか、マリナーズがア・リーグ西地区3位に甘んじている現状にも、批判めいた「声」が聞こえてこない。

マリナーズが最後にポストシーズンに進出したのは、現在、会長付き補佐役としてチームに残るイチローが、メジャー・デビューを果たした2001年である。

2003年は「マネーボール」全盛のアスレチックスに3ゲーム差まで詰め寄ったが届かず、当時は1枚しかなかったワイルドカード争いでも、若きセオ・エプスタインGM率いるレッドソックスに2ゲーム差でポストシーズン進出を逃した。

2007年は開幕直後の一時期だけ首位に立ったが、残りのシーズンは2位以下に定着。8月には1ゲーム差まで詰め寄ったものの、結局は地区優勝したエンゼルスに6ゲーム差を付けられた。ワイルドカードでも6ゲーム差でヤンキースに軽く逃げられた。

2016年は16勝を挙げた岩隈久志投手や、マイナーから這い上がって例年通りの成績を残した青木宣親外野手(現東京ヤクルト)の活躍で5月のほとんどを首位で過ごしたものの3位まで転落。最後は2位まで追い上げたものの首位レンジャーズに9ゲーム差を付けられ、2枚あるワイルドカードは東地区の2球団(オリオールズとブルージェイズ)に3ゲーム差で持っていかれた。

マリナーズはいつも、何かが足りなかった。
今季のマリナーズも同じだ。

開幕から同地区のライバルで、昨季のワールドシリーズ王者アストロズと「投打二刀流」大谷翔平のエンゼルスの陰に隠れながらも3位をキープ。エンゼルスが失速し始めた5月下旬から2位に繰り上がり、主力選手に怪我人が多発するアストロズがスローダウンした6月2日にはとうとう首位に立った。

それは薬物検査で陽性反応が出た主砲ロビンソン・カノ内野手を出場停止で欠く中、外野から本来の二塁に戻った27盗塁のディー・ゴードンと17盗塁のジーン・セグラ遊撃手に加え、7盗塁のミッチ・ハニガー外野手や6盗塁のベン・ガメル外野手らが「2001年のマリナーズ」のような機動力を発揮。30本塁打の指名打者ネルソン・クルーズ、23本塁打のライオン・ヒーリー一塁手、20本塁打のカイル・シーガー三塁手、19本塁打のハニガーと長打力を織り交ぜる「メジャーリーグらしい野球」を展開した成果だった。加えて守護神のエドウィン・ディアス投手は119試合経過時点で以下の通り、2008年にメジャー新記録となる62セーブを挙げた「K-ロッド」こと、フランシスコ・ロドリゲス投手(当時エンゼルス)に匹敵する数字を残していた。

ロドリゲス  56試合 51セーブ機会46セーブ 防御率2.86 50.1回 55三振29四球
ディアス   59試合 49セーブ機会46セーブ 防御率1.98 59回 100三振15四球

マリナーズは二週間で首位の座をアストロズに明け渡したものの、ワイルドカード争いの圏内に留まった。

しかし、マリナーズのジェリー・デポトGMはこの夏もまた、大きな「補強」をしなかった。前半戦終了時点でチーム防御率4.05は、同地区のライバルであるアストロズやアスレチックスより下のア・リーグ8位だったにも関わらず、彼らは何もしないに等しかった。先発左腕のJ.A.ハップ投手(ブルージェイズ)や先発救援のザック・ブリットン投手(オリオールズ)は、ヤンキースが獲得した。

先発左腕のコール・ハメルズ投手(レンジャーズ)は、カブスが獲得した。
救援左腕のブラッド・ハンド(マリナーズ)は、インディアンスが獲得した。

結果的にノンウェイバー・トレード期限の時点で63勝44敗、勝率.589で4ゲーム差の2位だったにも関わらず、マリナーズはいまだにゲーム差を詰めることができずに首位返り咲きができない。それどころか、いつの間にかアスレチックスに2位の座さえも奪われてしまった(「マネーボール続編」が創造するペナントレース台風の目」参照)。

デポトGMは5月にレイズから救援のアレックス・コロメ投手を獲得して賞賛されたが、ノンウェイバー・トレード期限付近では、ヤンキースから救援のアダム・ウォレン投手、ツインズの左腕ザック・デューク投手、そしてマーリンズのキャメロン・メイビン外野手を獲得したに留まった。それで今の順位だから「批判」が出ても良さそうなものだが、やはり、シアトルからそういう「声」は聞こえてこない。「その内、何とかなるさ」と寛容だ。それは東海岸では「敗者の態度」と呼ばれるし、それが地元ファンの「優しい視線」を反映しているのだとしたら、歓迎すべきことではない。

レッドソックス・ファンのように毎試合、殺伐とした雰囲気を本拠地セーフィコ・フィールドに持ち込む必要はないが、いつまで経っても勝てないチームに、そろそろ「声」を上げてもいい頃だ。マリナーズに本当に必要なのは夏場の「緊急補強」ではなく、「勝者の態度」なのだから―。

ナガオ勝司

ナガオ勝司

1965年京都生まれ。東京、長野、アメリカ合衆国アイオワ州、ロードアイランド州を経て、2005年よりイリノイ州に在住。訳書に米球界ステロイド暴露本「禁断の肉体改造」(ホゼ・カンセコ著 ベースボールマガジン社刊)がある。「BBWAA(全米野球記者協会)」会員

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