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5月16日に行われた敵地でのエンゼルス戦で、35歳のベテラン右腕でアストロズのジャスティン・バーランダー投手がその日、「2番・指名打者」で出場した大谷翔平から、史上33人目となるメジャーリーグ通算2,500奪三振を記録し、完封勝利を挙げた。試合後の会見で、彼はこう言ったそうだ。
「彼(大谷)がこのまま健康であり続けて、いつの日か、あの三振を振り返った時、俺が爺さんになった死の床で『そうだよ、俺の2,500奪三振はあいつから獲ったんだよ』ってなるよう期待している」
一流選手らしい、洒落たエールの送り方だと思った。大谷が末永く活躍を続けて、祖父がプレーしているところを知らない孫から「あんな凄い選手から三振を獲ったんだ!」と言われたい願望。たとえ社交辞令だったとしても気が利いている。そして、「健康であり続けること」を口にしたところに、彼自身のプロ野球選手としてのキャリアが反映されていると思った。
バーランダーは昨秋のア・リーグ優勝決定シリーズで、田中将大投手がプレーするヤンキースを相手に第2戦の完封勝利を含む2勝(2試合16回1失点、21奪三振)をあげて、2勝3敗からの逆転リーグ優勝に貢献した。ワールドシリーズでも前田健太とダルビッシュ有両投手がいたドジャースに対して勝ち星こそなかったものの、2試合12回5失点、14奪三振と好投した「アストロズのエース」である。
ただし、去年の夏までは「全盛期は過ぎた」と見られていた元・メジャー屈指の投手だった。
バーランダーは2004年のドラフト1巡目(全体2位)指名でタイガースに入団し、翌2005年、傘下のマイナーA級レイクランドで13試合86.0回で104奪三振、防御率1.67という好成績を残してAA級エリーに昇格。そこでも7試合32.2回で32奪三振、防御率0.28という圧倒的な数字を残してメジャーに昇格した。2年目の2006年、大谷と同じ23歳の時に17勝9敗、防御率3.63でア・リーグの新人王に輝くと、2009年には自身初の最多勝(19勝)と最多奪三振(269三振)タイトルを獲得。2011年には最多勝(24勝)、最優秀防御率(2.40)、最多奪三振(259)とタイトルを総なめにしてサイヤング賞だけではなく、最優秀選手賞もダブル受賞した「メジャー屈指の投手」だった。
バーランダーが「全盛期は過ぎた」という印象を周囲に残し始めたのは、彼が31歳になった2014年のことだった。奪三振率が前年の8.9から6.9へと急降下。32歳になった翌2015年も7.6と苦しんだ。肩肘の大きな怪我こそなかったものの、同年はキャリア最小の133.1イニングしか登板できず、成績の上では「エース」と呼べない存在になってしまった。34歳になった去年も前半は5勝6敗、防御率4.73と苦戦しており、トレードの噂が出始めた7月に1勝3敗ながら防御率3.82、8月に4勝1敗、防御率2.36と調子を上げたものの、8月にアストロズが緊急トレードでバーランダーを獲得した時には疑念の声も上がった。ところが移籍後が無傷の5連勝で防御率は1.06と全盛期のような圧倒的な実力を見せつけ、それは前出のプレーオフでの活躍に繋がった。
もっとも、全盛期を過ぎた元・メジャー屈指の投手が復活するのは、珍しいことではない。
たとえばメジャー通算354勝投手のロジャー・クレメンス。クレメンスは27歳の1990年から3年連続でア・リーグの最優秀防御率タイトル(1991年は自身3度目のサイヤング賞)を獲得した後、バーランダーと同じように「全盛期を過ぎた」と見られるようになった。
デビューからの約9年の平均防御率が2点台後半だったのに対し、30歳になった1993年以降の4年間の同平均は3点台後半まで悪化し、1996年、33歳の時には当時のダン・デュケットGMに「彼(クレメンス)はもう峠を越した投手」などと酷評されて契約延長することなく、フリーエージェントとなったレッドソックスのユニフォームを脱いでしまった。
ところがクレメンスは新天地ブルージェイズ1年目の1997年、34歳の時に21勝、防御率2.05、キャリア最多の292三振を奪って自身4度目のサイヤング賞を獲得した。35歳になった翌年も同賞を2年連続で獲得する活躍を見せ、36歳でヤンキースに移籍(トレード)した1999年からはチームのワールドシリーズ3連覇に貢献。2001年には38歳で通算6度目の20勝を挙げて通算6度目のサイヤング賞を獲得し、41歳でアストロズに移籍した2004年にも同賞を獲得している。通算7度のサイヤング賞受賞はもちろん、史上最多だ。
ただし、クレメンスにはブルージェイズ移籍以降に知り合ったトレーナーとの「黒い関係」があり、今では「PED(パフォーマンス向上薬品)を使用したから復活した」という見方が固定化してしまった。当時のクレメンスが徹底的な自己管理と激しいトレーニングを自らに課していたのは有名だっただけに、(クレメンスの肩を持つわけではないけれど)ただ単にPEDを摂取したから成績が良くなったと考えられているのは残念な気もする。
話をバーランダーに戻そう。今年の彼が空振り率や三振率を劇的に向上させたとか何とかというのは数字が示す通り根拠のある理由だろうが、そのためにはまず何よりも健康でなくてはならないし、コンディショニングが上がってないことにはパフォーマンスも向上しない。今年はバーランダーを直接、取材するチャンスがないので「なぜそうなったのか?」は本当のところは分からないが、一つだけヒントがある。
去年の5月、当時はアストロズでプレーしていた青木宣親外野手(現東京ヤクルト)が、やはり当時タイガースでプレーしていたバーランダーから2安打した。当時、青木は「昔はもっと凄かったんでしょう?」と謙遜して言っていたが、バーランダーとは通算24打数9安打(打率.375)と相性が良かった(マリナーズの会長付き特別補佐イチローは、対バーランダー63打数18安打である)。当時バーランダーはこう言っていた。
「彼(青木)から空振りを取るのはなかなか難しいってのは分かっていたから、インプレーになっても安打にならないような投球をしたつもりだよ」
前出のように当時のバーランダーはまだ調子が上がっておらず、「ついでに」と思って聞いた「今の調子」についてはこう答えている。
「どんな結果になろうとも、投げ続けるしかない。今までがそうであったように、次の登板までにしっかりと準備して、自分の投球を遂行することだけしか、僕らにはできないのだから」
人気漫画の名言ではないが、「あきらめたら、そこで終わり(漫画は「試合終了」だったか?)」である。チームのために投げ続けること。プロ野球選手であり続けること。そのために厳しいトレーニングを自らに課し、なるべく良いパフォーマンスを発揮できるようにコンディションを整えること。その結果が空振り率や三振奪取率の向上であり、プレーオフでの好投であり、「エースの復活」なのだと思う。
ナガオ勝司
1965年京都生まれ。東京、長野、アメリカ合衆国アイオワ州、ロードアイランド州を経て、2005年よりイリノイ州に在住。訳書に米球界ステロイド暴露本「禁断の肉体改造」(ホゼ・カンセコ著 ベースボールマガジン社刊)がある。「BBWAA(全米野球記者協会)」会員
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