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第73回全国高等学校スケート競技選手権大会フィギュアスケート競技 男子シングルレビュー
フィギュアスケートレポート by 中村康一(Image Works)第73回全国高等学校スケート競技選手権大会(インターハイ)のフィギュアスケート競技が、2024年1月18日~21日の日程で、茨城県ひたちなか市、山新スイミングアリーナにて開催された。コロナ禍での無観客、縮小開催が続いていたインターハイだが、実に4年振りの通常開催となり、選手ご家族、ファンが会場で観戦できるようになったことは実に喜ばしいことだ。男子は何といっても三浦佳生が出場してくれたことが大きなトピックだった。既に国際大会で活躍し、今季は世界選手権の代表にも選ばれている。彼の存在がこの大会の格付けをさらに高めてくれた感がある。
1位 三浦佳生
三浦佳生
もはや、世界のトップ選手の一人だ。昨季は四大陸選手権で優勝。今季は初の世界選手権への出場を控えている。今回はパーフェクトな演技ではなかったものの、貫禄の優勝だ。
「年初めの初戦なので、まあこんなものかな、と思います。プログラムも全日本までの構成からかなりいじっていました。フリーの冒頭で4フリップを予定していて、そこからプログラムがどういう風に動いていくのか、今回はシニアの時と曲は違いますが、ジャンプの運びなどは似たような構成なので、試合でチャレンジしてみることを今回は考えてやっていました」
率直に言って、彼の個人戦優勝はよほどのことがない限り堅かった。なので今後の試合に向けて演技構成のテストも兼ねて臨んだようだ。冒頭のジャンプは、結果的に3フリップとなったが、4回転にチャレンジした。この構成が世界選手権でのベースとなるのだろう。「世界選手権では4回転は3種類4本」と明言してくれた。また今回はインターハイの規定に合わせてジュニアプログラムを組む予定があったのだが、今季のフリーの尺を縮めるのではなく、昨季のフリーの曲、“美女と野獣“を久し振りに使用した。
「この曲で四大陸選手権などいい結果を残してきましたし、自分自身、滑りやすい、乗りやすい曲なので、久し振りにお客さんの前で滑れたことは嬉しかったです。(冒頭の4回転)フリップでチャレンジして、それで崩れないかの検証にもなりましたし、試合勘も途切れていたので、ここから集中して、世界選手権にピークを持ってこれるようにしたいです」
全日本選手権からわずかな期間にジュニア課題に合わせる苦労についても語ってもらった。
「特にショートが大変でした。自分は(今回のショートの)スピンでフライングシットとチェンジフット(足替え)のキャメルっていう(全日本のショートと)真逆のことをやっていたので、それを変更するのは大変だったんですけど、3月まで毎月試合をして、試合の感覚を失わないためにも出場しました」
12月の全日本ではフライングキャメル、足替えのシットという構成で臨んでいた。ただジュニアの場合、規定でショートプログラムのスピンの種類が決められている。それに合わせるための練習を短期間にしなければならないのだ。こういったこともシニアに昇格した高校生がインターハイを回避する理由になってきた。ただISUの規定が変更になり、シニア昇格の年齢制限が厳しくなってきているので、今後、高校生はトップ選手も含めてインターハイに出場する傾向が強まることだろう。また彼は、個人戦で2連覇を果たしただけでなく、目黒日大高校としても学校別対抗での連覇に貢献することができた。
「目黒日大の選手が他に二人いて、優勝したいって二人とも言っていたので、自分もその力になれたらな、という気持ちはありました」
そしてさすがトップ選手というべきか、取材の最後にはファンへの感謝の言葉を口にした。
「今回もバナーなどで応援していただきました。応援に応えられるよう、しっかり結果を残せるように頑張りたいです」
2月に開催されるタリンクホテルズカップ(エストニア・タリン)への派遣が決まったというニュースが入ってきた。休む間もないようだが、元来多くの試合を重ねることで試合勘をキープするタイプだ。万全の状態で世界選手権に臨んでくれることを期待したい。
2位 朝賀俊太朗
朝賀俊太朗
2位に入ったのは朝賀俊太朗。3年生、最後のインターハイにして、初の表彰台を勝ち取った。
「ショートもフリーも後半体力が持たなかったんですが、まとめられたと思います。今年は全日本に出ることを目標にしています」
その言葉通り、後半に若干崩れたところが見られたのが残念だったが、全体的に素晴らしいパフォーマンスだったと感じる。彼らしい、ダンサブルで表情豊かな演技で観客を魅了し、トリプル5種類までの構成ながら完成度も高い。高得点が出るのも納得だ。そして彼は、フリー当日の朝の公式練習でトリプルアクセルを成功させていた。試合でも挑戦するのかと期待したのだが、構成に組み入れることはなかった。
「ショートが3位だったので、最後のインターハイなので表彰台を狙ってまとめていこうと考えて挑みませんでした」
よくよく聞いてみると、なんと練習でも今までトリプルアクセルを成功させたことはなく、この日の朝の練習での成功が人生初だったそうだ。雄叫びを上げて喜んでいたが、その理由が良く分かった。それならば試合で挑戦しなかったことも納得だ。ただ彼は1年前のインターハイの取材で「来季はトリプルアクセルを必ず入れます」と言っていたのだが。
「無理でした(笑)」
来季は期待していいのだろうか?
「バッチリです。期待して下さい!」
はい、期待しておきます!
3位 三島舞明
三島舞明
今季、ジュニアグランプリにも出場した期待の注目株だ。その魅力は何といっても高い身体能力を生かしたジャンプ。4回転トウループ、トリプルアクセルも軽々と成功させる。ただ今回は構成上の問題で得点が伸び悩むこととなった。
「四回転をパンクして3トウループになってしまって、そのためにトリプルを跳び過ぎになってしまいました。どうやって直せばいいのか焦って分からなくなったことが悔しいです」
3回転以上のジャンプのうち、同じジャンプを繰り返して2回跳べるのは2種類までだ。本来ならば3ルッツを2回、3アクセルを2回跳ぶ予定のところ、その前に3トウループを2回跳んでしまったために二つ目の3アクセルがノーバリューとなってしまったのだ。これは手痛い失点だった。
「練習から構成を一つに決めずに色々やっているので、一つの構成に決めて練習していきたいと思いました」
構成を固めていなかったことがこのミスの遠因となったと分析しているようだ。ただ、ミスがあったとはいえ長足の進歩を感じさせたパフォーマンスだった。以前の彼は、高難度のジャンプを成功させながらトリプルジャンプやダブルアクセルで失敗するというもったいないことを良くしていた。そういったミスが今回は鳴りを潜めていたのだ。
「高難度のジャンプ以外もやらなきゃ、ということを先生と話して練習してきました」
以前は高難度のジャンプにウエイトを置いて練習していたようだが、その他の要素もバランス良く練習するようになった結果が出始めたのだろう。ジャンプ以外の要素も段々と上達しているのを感じる。初の国際大会出場となった、ジュニアグランプリ大阪大会は良い経験となったようだ。この時はフリーで四回転トウループを成功させることもできた。
「国際大会は初めてだったので、緊張もしたんですがいい経験だったと思います」
今は自信を持って高難度のジャンプに挑めているという。ただ今回四回転ジャンプを失敗してしまったことについては「メンタルの問題だと思います」と分析していた。来季の目標は「全日本ジュニアで3位以内に入り、シニアの全日本に出ること」と話す。十分達成可能な目標、どころかもっと上を目指せるはずだ。これだけのジャンプの能力を備えた本格派。否が応でも期待が高まる。
4位 森本涼雅
森本涼雅
4位入賞を果たした森本涼雅。ノービス時代から活躍している選手だ。昨年のインターハイでも取材をしたのだが、その時気になり、指摘をしたのは技の前後、つなぎの丁寧さが足りないことだった。それが今年は大幅に改善されたことを如実に感じる。本人も手応えを感じているようだ。
「今季は特に近畿ブロックなどで評価されたことを感じます」
トリプル5種類の構成としてはかなりの完成度に達している。そうなると次は大技だ。この日、フリーではトリプルアクセルに果敢に挑戦した。
「練習でもまだクリーンに片足では立てていません。立てても回転不足です。でも挑んでいかなければならないと思っていて、今日は挑戦しました」
この日のトリプルアクセルは失敗したものの、高さ、滞空時間は十分なように見えた。あとはタイミング一つだと思うのだが、本人の感覚はどんなものだろうか。
「先生からも『もう降りれるよ』っていうことは何度も言われているんですが、自分ではまだ降りれる感覚やタイミングが掴めなくて苦労しています」
おそらくだが、一度降りたらすぐに感覚を掴めそうに思う。それぐらいに完成が近いことを感じさせる、“良い失敗”だった。
「今回、順位や点差以上に最終グループの人達との差を感じました。大技やスピードが全然足りていないので、そこを改善していきたいです。そして今年こそは全日本に出たいです。それが来季の一番の目標です」
やはり男子選手としては、大技は避けて通れないものだ。森本選手はそこで躓いているが、この壁を乗り越えられたら一気に上のステージにたどり着けるはずだ。あともう少し。頑張ってほしい。
5位 中村俊介
中村俊介
実力的には三浦佳生に次ぐ2番手だったはず。何が起こったのか、信じられないような崩れ方をしたフリーだった。
「ジャンプがひどすぎて、それを修正しないと、というのがあります。今、先生(佐藤洸彬コーチ)とも話してたんですけど、曲かけの練習をもっと増やしていこうと思っています。今日は調子は良くて、6分間での感覚も良かったんです」
実際、好調に見える練習だった。ところが最初の4回転ジャンプで転倒し、そこから立て直すことができずにミスを重ねる。転倒は実に5回。これでは上位には食い込めない。実は今季、ジュニアグランプリ大阪大会でもフリーで崩れてしまった。あたかもその時の演技のリプレイを見ているような感覚だった。一つミスをするとその後の立て直しがうまく行かないタイプなのだろうか。
「メンタル的なものなのか、技術的なものもあると思うんですけど、立て直しができないことが課題です。普段ミスしないジャンプまでミスしてしまいます。それが練習不足なのか、メンタルなのか、多分両方足りないんだと思います」
自分でも原因をはっきりと掴めていないようだ。何とか世界ジュニアまでには改善を図ってもらいたい。
もう今回のことは忘れたい、と言うので、気持ちを切り替えて世界ジュニアの話題を振ってみたのだが、なかなか切り替えも難しかったようだ。
「今のフリーの後なんで、世界ジュニアが楽しみとは言い難いですけど、初めての世界ジュニアなので、チャレンジする気持ちで行きたいと思います」
台北は過ごしやすいし、食べ物も美味しい。いつも真剣にスケートに取り組んでいる中村選手だが、世界ジュニアは是非楽しんでほしい。目標について聞いてみると。
「もちろん優勝を目指しています」
と力強いコメントが返ってきた。実力を発揮できれば十分達成可能な目標だ。期待を込めて応援しようと思う。
6位 加藤海里
加藤海里
6位に入賞したのは加藤海里。層の厚い目黒日大高校の所属のため、昨年のインターハイには出場できなかったが、今年は初出場で個人戦入賞を果たした。学校別対抗では優勝だ。
「入賞したことはびっくりした気持ちもあるんですけど、8位以内は目標だったので、それを達成できて良かったです。演技内容は、練習の方ができている部分があって、やはり本番で力を発揮するのは難しいんだなと感じました」
幼少時から演技を見てきた選手だが、最近は体が大きくなり、特にスケーティングが向上した印象だ。今回も滑りの伸びの良さが印象的だった。
「今の練習環境(南船橋のリンク)が良くて、上手な人と練習することが勉強になっています。自分の足りないところが分かります。チームメイトの中では北村凌大選手の滑りにあこがれています」
スケーティングが改善したことには北村凌大選手の影響が大きいのだと語ってくれた。チームメイト以外での憧れのスケーターは?と聞いてみると。
「鍵山優真選手を目指しています。鍵山選手で参考にしたいところは全部です。スピンもジャンプも全て揃えられる選手になりたいです」
確かに鍵山優真選手はジャンプ、スピン、ステップ、スケーティング、表現と全て揃った選手だ。彼の滑りに少しでも近づきたいのだそうだ。
「今年は全日本ジュニアでより良い成績を残すことが目標です。そしてトリプルアクセルに挑戦できるように頑張りたい」
来年のインターハイで、トリプルアクセルを成功させる姿を是非見せてほしいものだ。
7位 三原庸汰
三原庸汰
7位には三原庸汰が入賞した。独特の感性を感じさせる表現力が持ち味の選手。過去に全中のコラムのために取材させてもらったことがあるのだが、2年振りの取材となった。
「ジャンプにミスが出てしまったんですけど、いつも練習しているスケーティングやスピンで点数を稼いで、何とか7位入賞できて本当に良かったです。このインターハイは今季初めての全国大会でした。地震があって、インターハイに向けて何かできることはないかとクラブで話し合って、バナーを作りました。大会に出られるだけで幸せだったので、入賞できて本当に良かったです」
彼は東京の高校の所属だが、石川県在住で、クラブはノイエス金沢。夏場は新潟のリンクで練習している。元旦の能登半島地震で大きな影響を受けたが、インターハイに出場することができた。地元を応援したいとの気持ちをバナーに描き、キスアンドクライで掲げてくれた。『いしかわ・にいがた・心をひとつに』との文字とイラストのバナーだった。
「今回はジャンプのミスが多かったんですが、スケーティングの流れの中にジャンプを入れることが課題です。ジャンプも表現の一つとして流れに組み込み、もっとスピードを出したままジャンプを跳べるようになりたい」
彼の演技の特徴、そして大きな魅力なのだが、スケーティングの上に表現が乗っていて、途切れることなく演じられていく。その分、エレメンツの実施は難しくなるのだが、それに挑んでいる様が素晴らしいと感じる。そして2年前に全中で取材した折にも「陸上でのダンスの練習は特にしていない」と聞かされて驚いたことがあったのだが、今も同様の練習内容だという。
「氷の上での練習はしっかりしていますが、陸上で踊りの練習をしているわけではないです」
それでもあれだけ氷上で踊れるのは、スケーティングの中での手先、足先のポジションへの意識の高さ、そしてそれを実現できる体幹の能力によるものだろう。インタビューではさほど話さない選手だが、氷上では実に雄弁だ。まさに表現者。再び演技を観られる日が楽しみだ。
8位 大久保政宗
大久保政宗
8位に入賞したのは大久保政宗。長野県の選手がインターハイで入賞するのはかなり珍しいことだ。そのインパクト大な名前から、以前から知っていた選手だが、今回初めてインタビューをさせていただいた。
「名前がかっこいいとは良く言われます」
やはり想像した通りだった。良く言われているとのこと。今回驚いたのは、トリプルアクセルに挑戦していたことだ。以前はさほどジャンプが得意な選手だとの印象はなかったのだが、いつ頃から上達したのだろうか?
「トリプルアクセルは去年の4月頃に初めて跳べて、最近安定してきました」
今回のフリーでもq(1/4回転の回転不足)がついたもののしっかりと着氷することができた。ただその後のジャンプにミスが多発し、ショートの貯金のおかげで8位に残った形だ。やはり大技を組み入れつつプログラム全体をまとめるのは大変なことなのだろう。
鍵山優真選手がかつて軽井沢をホームリンクにしていたことは良く知られているが、大久保選手は長野市が活動拠点だそうで、冬はエムウェーブがメインリンクだという。スピードスケートのリンクとの印象が強く、フィギュアスケートの練習で使われているとは今まで存じなかった。普段の練習についても尋ねてみた。
「普段は陸上では体力作り、ランニング、体幹トレーニング。氷上では一日に跳ぶジャンプの回数は少なめにして、成功率を上げることを心がけています」
ジャンプの練習回数を減らし、集中して確率を上げることを意図して練習しているそうだ。練習時間の制約、フィジカルへの負担などを考慮した練習方法なのだろう。今後の目標についても尋ねてみた。
「ショート、フリーを揃えることが試合でできていないので、ミスを少なくすること、仮に失敗してもPCSで稼げる選手になりたいです。来季の目標は、シニアの全日本出場です」
今季は東日本選手権を通過できなかった。来季は目標を達成できることを、大いに期待したい。
文:中村 康一 / Image Works
中村康一(Image Works)
フィギュアスケートを中心に活躍するスポーツフォトグラファー。日本全国の大会を飛び回り、選手の最高の瞬間を撮影するために、日夜シャッターを押し続ける。Image Works代表。
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