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フィギュア スケート コラム 2021年8月16日

町田樹のスポーツアカデミア 【Dialogue:研究者、スポーツを斬る】 ~スポーツ栄養学~ 早稲田大学 スポーツ科学学術院 田口素子教授:理想的な食事

フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部
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町田樹

町田樹

スポーツアカデミアへようこそ、町田樹です。第3回目となる今回は「研究者、スポーツを切る」のコーナーです。今回お迎えしたのは早稲田大学スポーツ科学学術院教授の田口素子先生。長年スポーツ栄養学の学問領域を牽引されているとともに、その学術成果を様々な形で実践現場に還元する社会活動にも取り組まれています。

質の良い食事をとる工夫

ある女性アスリートの食事

ある女性アスリートの食事

田口(以下T):食事改善の例として、こちらは減量をしていないあるボールゲーム系の女子選手の食事です。本当に食に無頓着で、朝ごはんはキウイとお茶。これが当たり前なので、体調が良くなくても、良くない自分が当たり前になってしまっている。ただ、一人暮らしですから、あれこれ作れというのも無理ですよね。練習から帰ってきて疲れて面倒臭いから夕食のおかずも買ってきちゃうってなるので、例えば、朝食では主食をまず増やそうよと。牛乳だったら料理しなくても食べれますよね。これだけでエナジーアベイラビリティーは倍近くに上がってきます。

町田(以下M):ウィンナーとかが挟まってるパンならタンパク質も摂れますし、より良いですよね。

補食のイメージ

補食のイメージ

T:それから、補食も活用していただきたい。私の別の研究で、同じエネルギーだったら何回に分けて摂っても栄養摂取の効果が変わらないという研究結果を出しています。補食としておにぎりや果物、オレンジジュースでもいいし、そういったものを食間で食べられる時に食べてもらえばいいかなと思うんですね。

M:アスリートはハードなトレーニングをすると食欲が減っちゃうこともありますよね。だけど、こまめに摂っても大丈夫ということですね。

T:そうですね。それでも食欲が抑えられちゃったら、市販のゼリーとかでも構いません。スポーツドリンクでも糖の補給はできますしね。そして、やっぱり足りないのが野菜類。これはカルシウムやビタミンや色んな栄養素に関係をしてくるので、例えば簡単な例としては、味噌汁にワカメと高野豆腐を入れてもいいですね。カップ麺も食べていいですけど、食べるときにはそこにちょっと入れて欲しい。それだけで、鉄もカルシウム摂取も良くなります。

M:水に入れておけば戻りますからね。

副菜を意識する

副菜を意識する

T:私は面倒臭いのでパッと入れちゃいます。3分の間にふやけて食べられるようになります。面倒臭いステップは飛ばしても全然大丈夫なんです。夕食は副菜が欲しいけど、自分で作るのがなかなか難しければ、最近は便利なお惣菜がスーパーにもコンビニにもたくさん売っています。そういうものをうまく利用していただくだけで、変わってきます。また、ここまで女子選手の問題を主に取り上げてきましたが、実はこうした問題は女子だけじゃなくて男子にも起こるということが分かっています。

男性にも同じ問題が起こる

相対的エネルギー不足

相対的エネルギー不足

T:2014年にIOCが出した新しい概念で「相対的エネルギー不足(Relative Energy Deficiency in Sport:RED-S)」という状態があります。先ほどの女性アスリートの三主徴というのは、月経機能と骨の健康の箇所です。女性のその部分だけではなく、男性も女性もこれ全部が相対的なエネルギー不足で起こってくる。相対的って何って言うと、例えば一日1000kcalの食事が低いか低くないかってことではなくて、摂った食事とその消費したエネルギーとの関係を見たときの相対ということです。これは男性も同じ事なんだという概念が、2014年に出たんです。

実際に日本人の男性アスリートを測ってみました。こちらは去年出した論文なんですが、対象者は長距離ランナーです。長距離ランナーはエネルギーをたくさん消費するけど、やっぱり食事がちょっと足りない。その結果、基礎代謝とかエネルギー代謝が抑制されちゃっていて、男性ホルモンも良くなかったり、骨吸収といって骨が分解される方向に進むことで、疲労骨折を起こすリスクがものすごく高かった。日本人でもそういうことが起こるということです。

M:よくよく考えたら、女性も男性も人体構造は何も変わらないですからね。

T:ただ、男性は月経が無いから見つけづらいですね。

M:女性がこれだけクローズアップされているのは、問題が表層化しやすいということですよね。

RED-SやFATにならないために

RED-SやFATにならないために

T:あとは男性の方が女性よりもちょっと飢餓に強い。ですが、男性も女性と同じような問題と隣り合わせにあるということです。こうしたことが起こらないようにするためにどうすべきかをまとめると、まずは体重と体脂肪をモニターして欲しい。食事からは欠食はなるべくしないこと、調理しないでも食べられるようなものをうまく活用していただくとか、補食も活用していただきたい。また、スポーツ選手の食事調査を何万件もやってきて、足りない食品は副菜でした。野菜、芋、海藻、きのこ、そういったものを中心にプラスしていただく。或いは、一部の女性選手は乳製品も足りないので、そういったものを摂っていただくと。なかなか一人で地道にやるのは難しいと思いますが、私たちが伴走できますよということで、悩んだときは専門家を遠慮なく訪ねて、問題解決をしていただいた方が良いかなと思います。

理想的な食事

M:今までの話を総合して、理想的な食事がどんなものかを教ええていただきたいです。

アスリートの食事の基本形

アスリートの食事の基本形

T:こちらがアスリートの食事の基本形ということで、全てのアスリートにお勧めしています。5つの色で四角に囲った部分、エネルギー源になる主食、タンパク源の肉とか魚・大豆製品などのおかず(主菜)。それから野菜・芋・海藻・きのこ、或いは豆類、そういったものから作られている副菜。これは2、3品あったら好ましいですね。この3つを揃えるのは一般の方の食事のベストバランスです。アスリートは、足りない栄養素を補うために、そこに毎食ごとに牛乳乳製品と果物をつけてください。この5つを揃えるように意識するだけでエネルギーと栄養素のバランスを整えることは可能です。なので、これをぜひ覚えていただきたいです。

M:まずは自分のエネルギー消費量がどんなもんだろうということも大事ですが、とにかくこのようなバランスの食事を取る。まずはそこが基本だということですね。

T:これはあくまでも質的な基準なので、そこに測ったデータや推測したデータを基に、量的基準を組み合わせて、より良い個人に合った食事にしていっていただけたら良いかなと思います。

スポーツ栄養学とは

田口素子先生

田口素子先生

M:長年スポーツ栄養学を牽引されてきたわけですが、先生にとってスポーツ栄養学とはどんな学問でしょうか。

T:スポーツ栄養学は元々、栄養学から出てきた学問ではありません。元々は運動生理学や運動生化学の中から、どうしたら速く走れるのか、或いはある一定の強度を持続したまま運動を続けられるかという視点で出てきた学問だと思います。栄養学だけじゃなくて、生理学や生化学、スポーツ医学などを勉強していかないと、スポーツ選手をサポートすることはなかなできないと思います。まず現場から、課題を抽出をして、その課題に対して色々と測定したり、分析・解析をすることで、なんらかの解決方法を導き、それをまた現場にフィードバックできるものがスポーツ栄養学だと思うので、メカニズムだけではなくて、現場とサイエンスが融合している学問領域だと思っています。

M:先生、本当に有意義な時間をありがとうございました。

総括

M:今回は田口素子先生にスポーツ栄養学のお話を伺いました。みなさん、よく考えてみてください。アスリートは日々、過酷な練習をして自分の身体をいじめ抜いて強くしていくわけですが、そのときに例えば筋肉は壊れます。壊れた部分を治そうとすることで身体は強くなっていくわけですが、壊れた筋肉を修復するときに必要なタンパク質や色々なものは、全て自分が食べたものから形作られるわけです。ですので、食べないことには良い身体が作られるわけがありません。

そして、女性アスリート問題についてもお話いただきました。低エナジー・アベイラビリティー、骨粗鬆症、無月経、これが女性アスリートの三主徴といわれる問題です。RED-Sという表でも見た通り、良い食事をしないとあらゆる問題が人体に起こります。性別関係なく、アスリートであれば理想的な食事を毎日心がけて、心身共に逞しい形で競技生活を送らなければいけません。

そしてこれはもちろん、アスリートだけではなく、私たちのような一般の人たちにとっても大事なことだったと思います。田口先生が私に話してくださいました、「食」という漢字は人を良くすると書きます。この漢字からも分かる通り、食事は人間にとって最も基本的な営みです。今日学んだことを最大限生かして、みなさんも明日から健康な食生活を送ってみてはいかがでしょうか。

文:J SPORTS編集部

J SPORTS編集部

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