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町田樹のスポーツアカデミア 【Dialogue:研究者、スポーツを斬る】 ~スポーツ栄養学~ 早稲田大学 スポーツ科学学術院 田口素子教授:女性アスリートのエネルギー必要量と代謝
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部町田樹
スポーツアカデミアへようこそ、町田樹です。第3回目となる今回は「研究者、スポーツを切る」のコーナーです。今回お迎えしたのは早稲田大学スポーツ科学学術院教授の田口素子先生。長年スポーツ栄養学の学問領域を牽引されているとともに、その学術成果を様々な形で実践現場に還元する社会活動にも取り組まれています。
前回のおさらい
女性アスリートのエネルギー必要量と代謝
エネルギー摂取量は疲労骨折と関連する
田口(以下T):女性アスリート問題に関するデータはたくさん出ていますが、欧米のデータが多かったので、ここ数年私たちの研究室で女性選手を対象とした研究をやってきました。日本人の大学生、全体では1000人を超える大規模調査をやったんです。その中で、生活習慣が一番統一されている大学生を約600名弱選択をして分析をしました。疲労骨折を経験したことがあるかないかという切り口で分析をしてみた結果、BMIとエネルギー摂取量の2つがものすごく関係していました。エネルギー摂取量のところのORが1より大きいということは、そのことが起こりやすいことを示しているので、無月経だと疲労骨折が起こりやすいことなどを意味しています。(エネルギー摂取量と疲労骨折のORは1より小さいので)これは疲労骨折が起こりにくいということなので、保護的に働くということです。骨のことだとカルシウムやビタミンDなどに意識がいきがちですが、そうではないということが、私たちの一番新しい研究で、日本人を対象としたデータで明らかになっています。
簡便な朝食のパターンが多い
さらに、エネルギーという観点でもう一歩踏み込んで見てみますと、この時に参加してくれていた選手の食事のパターンがいくつか見えました。これは簡単な朝食のパターンです。
町田(以下M):これは衝撃です、私も。こんなものしか食べてないのかと。
T:こういう選手が実に多かったんです。
M:どうやって頑張るんですかね、この後1日。
T:本人が頑張ろうと思っても頑張れない。その結果、身体のどこかに異常を起こしてしまう。(減量する選手は)そういうことと心の中で葛藤しながらトレーニングに臨んでいるのだろうと思います。
疲労骨折既往歴のある選手の食事例
こちらはバランスの良いお弁当だと思いませんか?これは長距離をやっていた選手のお弁当ですが、疲労骨折を複数回して、結局最後はそれで引退しちゃったという選手の食事例です。こんなにバランスの良い食事を摂っているのにナゼ?と思うと、太ることを理由にお米を一粒も食べてないんです。
エネルギー不足の主要因は穀類不足
そこで、食品分析をかけてみますと、疲労骨折がある人とない人を比較したデータになりますが、穀類はどちらも足りていません。ということは、今のところ疲労骨折はしていないけど、この後いつするかも分からないということです。野菜や乳製品もどちらのグループも少ないですよね。昔に指導した審美系の選手は、牛乳は太るからと言って一滴も飲んでいませんでした。それがもう何年も続いていた。そうするとやっぱり骨がもろくなっていきますよね。
安静時代謝料の測定
こんな食事をしているとエネルギー代謝が下がってきます。運動するのに体重が減らないという悩みをたくさん受けますが、こちらは安静時基礎代謝量を測る風景です。朝起きたときにこのように吐く息を10分ぐらい集めさせて頂いて、それを分析すると基礎代謝量が出せます。食事が悪いと基礎代謝量が下がってしまい、そうするとちょっとエネルギー制限しても痩せない、痩せてないから食べない、そうなることで悪循環に陥ってしまう。
減量に伴う代謝的適応の理論モデル
エネルギー摂取を減らすと体重が減りますが、エネルギー摂取を減らせばエネルギー不足の度合いは上がります。この二つが相まって来ると、代謝的適応が行われ、安静時代謝量は下がってきて、それ以外のとこも全部下がってきてしまいます。逆に食欲を増進させようとするホルモンはちょっと増えてきて、これ以上エネルギー代謝量が減らないようにと身体がプロテクトしてきます。安静時代謝量が下がってくればトータルのエネルギー消費量も下がってくる。同じ運動をしても消費しないから痩せにくいということです。こんなメカニズムが裏ではありますし、さきほどのように食べないやり方をして減量すると、本当はスポーツ選手は体脂肪を減らしたいわけですが、除脂肪体重の方も絶対に減ってしまいます。除脂肪体重が減るとエネルギー代謝にも影響することは最初に申し上げているので、こんなことで身体組成・内分泌・代謝が一緒になって、エネルギー制限をしても体重が落ちにくくなる悪循環に陥るということです。
町田樹と田口素子先生
M:僕自身が体の中のご主人様だとして、ご主人様が全然エネルギーを送ってくれないから、僕たちはエネルギーをなるべく使わないように抑えようということで、エネルギーを使わないような身体になっちゃうということですよね。逆にどんどんエネルギー送るからどんどん使え!みたいな方が代謝が良いってことですよね。
T:どんどん使おうという方向性だったら、他の栄養素も取れるので体調が良くなりますよね。体調の良し悪しは実際に試合や練習に臨んだときにものすごく大きく影響します。すごく身体が動けばトレーニングを増やして消費量も増やせますし、気持ち的にもすごく前向きになれるということで、トータルですごく良い循環を作ることができます。最初は怖いかもしれませんが、体重が減らずに悩んでいるアスリートの方は、ちょっとだけエネルギーを増やしてみると良いと思います。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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