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町田樹のスポーツアカデミア 【Dialogue:研究者、スポーツを斬る】 ~スポーツ栄養学~ 早稲田大学 スポーツ科学学術院 田口素子教授:推定エネルギー必要量の見積り方と女性アスリート問題
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部除脂肪量(FFM)が重要な数値となってくる
スポーツアカデミアへようこそ、町田樹です。第3回目となる今回は「研究者、スポーツを切る」のコーナーです。今回お迎えしたのは早稲田大学スポーツ科学学術院教授の田口素子先生。長年スポーツ栄養学の学問領域を牽引されているとともに、その学術成果を様々な形で実践現場に還元する社会活動にも取り組まれています。
推定エネルギー必要量の見積り方
田口(以下T):(推定エネルギー必要量は)体重と関係があることが分かって、日本人の食事摂取基準という大元のデータは体重あたりになっていますが、私の研究ではそれよりも除脂肪量(FFM)というものがすごく効いてくることが分かりました。
町田(以下M):文字から連想すると自分の身体から脂肪を抜いた体重ですか?
T:そうですね。Fat Free MassでFFMになります。身体組成を定期的に測って、体脂肪率が減った増えたでみんな一喜一憂しますが、それはあくまでも率ですから、そのときの体重に体脂肪率を掛けて、除脂肪をちゃんと求めていただく。除脂肪というのが、基礎代謝量とも非常に良く相関します。アスリートは体重よりもそちらを使う方が良いことも分かったので、式を作りました。除脂肪量1kgあたりでおよそ27kcalぐらい消費をするので、まずその27という数字にFFMを掛けると基礎代謝量が計算できます。
身体活動レベル(PAL)
T:そこに身体活動レベル(PAL)を掛けると1日の総エネルギー消費量が分かるということで、そのPALを求めるのにこの方法を使うわけです。PALと言うのは基礎代謝の何倍の消費を1日でするのかを数値化したものです。そうすると、一般の方はせいぜい基礎代謝の1.5から2倍なんですけど、アスリートは最低でも2倍で、3倍とか4倍近く消費をする選手もいるので、種目によってこのくらいの消費量がありそうだという数値は今論文をまとめているところになります。
M:選手というのは体重はもちろんのこと、除脂肪量というものを毎日管理して、それにプラスして身体活動レベルがどれだけあるのかということも理解をした上で、食事管理をしていくことが理想だということですね。
自分の除脂肪体重が分かって、身体活動レベルも分かって、1日に必要なエネルギー摂取量も分かったとしても、肝心のお食事がちゃんと出来なかったら意味がないですよね。なかなかアスリートって、自炊してる人も少ないのではないかなと思います。ご両親に作っていただくパターンもあると思うんですけれども、良い食事をしてエネルギー取らないと意味がないと思うんですが、その辺でアドバイスをいただけないでしょうか。
T:私の持論としては、当たり前ですけど、知識が上がるだけでは身体は変わらない。口に入れないことには何も変わってこないので、やっぱり口に入れることで、どのように整えたらいいのかという事をみなさんに発信していきたいと思っています。町田さんの選手時代はどうでしたか?
M :選手時代はちゃんと三食食べていました。ただ、バランスを気をつけていたかと言われたらそうでもないので、ちょっと反省ですけど。アスリートであるか否かにかかわらず、学生と毎日接していますが、結構朝食抜いてきたという学生が多くて、朝食大事ですよね。1日の初めに食べるご飯って、1日頑張って行くためのエネルギーを得るための大事な栄養素じゃないですか。人間って超能力者ではないので、自分の中から勝手に物質を作って、自分の肉にすることは無理ですもんね。食べたものが自分の骨肉になっていく。自分を食べているようなものですもんね。
You are what you eat.
T:「You are what you eat(あなたはあなたの食べたものでできている)」。良いものを食べれば良い身体ができます。食べなければ、見た目は良くても、欠陥住宅のような身体になってしまいます。アスリートに限った話ではなくて、一般の人も全く一緒なんです。スポーツ栄養学という切り口はアスリートのためのものだけではないので、一般の人たちにも是非分かって、実践をしていただきたいと思います。
女性アスリート問題
M:先生の観点からどのような問題でそうした現象が起こってくると考えられるのでしょうか。
女性選手の三主徴
T:女性アスリート問題は日本に限ったことではなくて、国際的にどの国の女性アスリートもみんな悩んでいます。アメリカスポーツ医学会が2007年にポジションスタンド(共同声明)を出しました。それによりますと、「適切なエナジー・アベイラビリティー」という、エネルギーの状態が良い状態だと、女性なので正常月経も維持されますし、骨折したりすることがないと。良い状態はこの三角形を保っていますが、この三角形が歪んできてしまうと無月経になったり、骨粗鬆症になったり、疲労骨折とかもすごく起こしやすくなったりします。
EBとEAの違い
エナジーアベイラビリティー(EA)が何かと言うと、私たちが食事から取ったエネルギー摂取量(EI)から、運動で消費したエネルギー(EEE)をまず差し引きます。人によって体格が違うので、先ほどの除脂肪量で割り算をして標準化をします。これは日常生活で利用可能なエネルギー量なんですね。これが下がってくると色々な問題になるということが分かってきて、日本人選手の状態を測ってみることになっていくわけです。
まずエネルギー摂取量の方は、選手に何を食べたか食事記録用紙に書いてもらいます。そのときに、ご飯とかお肉とか、測れるものは測っていただく。同じ茶碗一杯でも、人によって全然違っていてエネルギーに違いが出ちゃうので、計りを貸し出したり、写真も撮っていただいて、間食したもなども袋に入れていただければ、そこまで細かく分析します。写真を見ながら選手に聞き取りをして、例えばサラダが写ってるけど何かかけましたか?ドレッシングはどういうものでしたか?と聞いていく。そうやって分析すると、エネルギーの摂取量が出てきます。
今度、運動の方はどうするかと言いますと、心拍数法というものを使用しています。運動すると心拍数が上がります。運動強度が高くなればなるほど高くなる。それに伴って酸素摂取量もたくさん使われていく。運動量が高くなればなるほど心拍数と酸素摂取量が高くなります。しかし、個人によって状況が違うので、個別に関係式を求めます。その後は心拍計を胸と手首に付けてもらって運動をする。そうすると運動した時にどのくらいの心拍数だったかを後で拾って、酸素摂取量を出して、運動中のものを全部積算していくと、運動中のエネルギー消費が求められます。除脂肪量に関しては、DEXA法と言う身体をスキャンする方法で測定して、エナジー・アベイラビリティーを求めます。
慢性的なLEAの影響
そうすると、健康な身体を維持するのに、45kcal/kgあると良いと国際的に言われていて、30kcal/kgを下回ると要注意です。これが低くなってくるとどんな問題が起こってくるかと言うと、まず色々なホルモンが乱れてきます。エネルギー代謝を活発にしようとするものが低下してきたり、糖代謝に関わるものや食欲に関係するものなど、全部乱れてきます。そうすると摂食障害であったり、月経障害だったりが起きます。女性は骨にカルシウムを取り込むときにホルモンの助けが必要になりますが、骨が脆くなりやすい状態にもなります。こうしたことを測定しながら、その成果を現場の方に発信もさせていただいております。
M:ちょっと乱暴にまとめると、そうした女性アスリート問題も、食べれば解決するということですか?
女性アスリート問題
T:理論的にはまさにその通りで、エナジー・アベイラビリティーが低いから、それを上げてあげればいいじゃないかと思いますよね。確かに理論的にはそういう面はあります。ただ、今日食べなかったから明日問題が起こるわけではなくて、長期にわたる食事の悪さによって問題は起こってきます。既に代謝が低下してきている選手もいるわけです。そういう人がいきなり食べる量を増やせば、体重が増えるというリスクもありますし、その辺は私たち専門家と一緒にアセスメントもしながら、ちょっとずつ一緒にやっていけたらいいのかなと思っています。
M:大事なのは、女性アスリートの三主徴という問題が起こる前に、スポーツ栄養士などに相談に行って、健全な食生活を営むことが大事ということですね。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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