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フィギュア スケート コラム 2014年3月22日

髙橋成美・木原龍一組(フィギュアスケート ペア):これからの4年間を歩むために、ソチオリンピックでスタートを切る新進ペア

それぞれの4年間 ~冬の一瞬に縣ける女性アスリートの肖像~ by J SPORTS 編集部
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ソチオリンピックでフィギュアスケートは新種目の団体戦が行われ、日本は男女シングル、アイスダンス、そしてペアの4種目すべてのカテゴリーにエントリーし、メダル獲得を狙う。昨年1月に結成したペアの髙橋成美・木原龍一組が日本代表として団体戦に出場。また、今年に入って、個人種目でもソチオリンピックに出場することが決まり、2つの種目で五輪デビューすることになった。

髙橋「オリンピックはすごく目標にしていた舞台で、7歳くらいの時にはオリンピックに出たら勝たないと意味がないと思っていました。今はちょっと大人になって(目標が)レベルダウンして、その舞台で活躍できればという気持ちになっているので、初心に戻ってメダルを欲しいという気持ちになれるといいですね」

髙橋はペア選手として2012年世界選手権で、当時パートナーだったマーヴィン・トラン(カナダ)と組んで銅メダルを獲得したが、同年12月にペアを解消。日本のペア不在の危機となったが、翌13年の1月末に、シングル選手だった木原に声がかかり、ペア転向を決意して新パートナーになった。

木原「オリンピックに出たいと思ったのは幼稚園の頃です。人生で最初に目指した夢の舞台で、他の大規模な大会とも違います。(ペア転向は)すごく悩みました。4年に1度しかないですし、言葉でうまく表せないですが、オリンピックは特別な場所ですから」

髙橋成美、木原龍一組は、日本待望の日本人ペアスケーター。日本人同士が組んだペアは実に7年ぶりのこと。しかも、ペア結成から8ケ月で10年ぶりに今季の国際大会に出場する偉業を成し遂げた。しかしその間、自身のケガなどにも見舞われた。

髙橋「バンクーバーオリンピックのときには自分はパートナーとの国籍の問題があったので、あまりオリンピックを意識していませんでしたが、それでも世界一になるという目標は話していました。ソチでもリンピックを目指す思いがなくて、実はバンクーバーの次のオリンピックがどこかというのも知らなかったぐらいです」

髙橋は、その後2010年世界選手権で銅メダルを獲得した。だが、2012年4月、練習中に大怪我を負い、左反復性肩関節脱臼と診断され、以前から右ひざの治療を検討していたこともあり、両方の手術に踏み切った。選手生活も危ぶまれ、復帰まで半年かかるということで、12-13シーズンを休まざるを得なかった。そんな中でのマーヴィン・トランとのペア解消。そして昨年、ソチを前にして木原との新たなペア結成となったわけだ。

ジュニア時代の18歳からの知り合いだった木原と髙橋は相性もよく、波長も合ったようだ。しかし、ペアスケーターとして本当にやっていけるかどうかはやってみないことには分からず、まして、ソチ五輪に出場するという大きな目標を掲げはしたものの、ペアをスタートした当時は、まったく先は見えていなかったと言う。

木原「自分もまさか、ペアでソチ五輪に出られるとは想像もしていなかったし、考えてもいなかった。今こうなっているというのが自分でもびっくりです」

ペア競技歴では先輩の髙橋がシングルからペアに転向したのは12歳のとき。身長146センチと小柄で体重も軽いこともあり、ペアスケーターとしては最適な体型だった。それに、投げ飛ばされることに恐怖心もそれほど感じない強心臓を兼ね備えていたこともペア競技にうってつけだった。いつもリンクの内外で元気印がトレードマークの髙橋にとって、そのあふれんばかりのエネルギーはどこから来るのか。

髙橋「エネルギーだけは人よりもなぜか有り余っているんです。もし時間がなくても人より練習すれば何とかなるという開き直りと、オリンピックに行けたとしても行けなかったとしても、スケートを好きなのに変わりはない。どっちにしてもスケートをしていたいという気持ちがいつもあります」

スケートの楽しさとペアの魅力をリンクいっぱいに表現する髙橋につられ、木原も懸命にペアスケーターへの道を突き進んでいる。シングルとはまったく違う種目であるペアは、持ち上げたり投げ上げたりする男性の負担は大きく、パートナーを安全に受け止めるための責任は重い。

木原「(ペアは)一人じゃないので合わせる大変さはあります。好き勝手なことができないので、責任を持ってやらないといけないし、いい加減な気持ちではできないんです」

いきなりペアの世界に飛び込んだ木原にとって、ペアが大変な種目であることは言うまでもないが、その魅力も感じているはずだ。男子と女子ではその役割が大きく違うペアの魅力、また大変さは一体どこにあるのだろうか。

木原「魅力ですか?いつか答えます。まだ、自信を持って「これ!」とは言えないし、まだ発見できていない。今はただ、必死にやるだけで精一杯です。シングルと違ってダイナミックさはあります。いまはそう思いますね」
髙橋「ペアは誰が見てもびっくりするようなダイナミックな技が多いですよね。長く続けている理由は、体が小さくて怖いものがあまりないのでペアに向いていると思うから。みんなに“恐怖心はないの?”と良く言われるんですけど、私の場合はみんなが怖いというものが怖くなくて、逆にみんなが怖くないというものが怖かったりします」

ペアを結成してから練習拠点を米国のデトロイトに移し、ペア種目の基本の「キ」から始め、ステップアップを目指している二人。一戦ごとに目覚しい成長ぶりを発揮している。そんな二人がソチで五輪のひのき舞台に立つことが決まった。ただ、ここまで必ずしも順調に来たわけではない。昨年9月に初めて競技会に出場し、五輪最終予選会のネーベルホルン杯ではあと一歩のところで自力でのペア種目に出場できる五輪切符を逃し、悔しさも味わった。

その後、出場権を獲得したものの、この時の挫折をバネにして、佐藤有香、ジェイソン・ダンジェンコーチらとともに1つ1つに課題に取り組んできた。まだまだ成長の余地を見せる二人だが、お互いを思いやって信頼し合う姿をリンクの内外で見せる。危険な技を繰り出すペアでは、一瞬の気の緩みが大きなアクシデントにつながるだけに、常に息の合ったパフォーマンスを見せなければならない。ペア結成からの期間が短い分、二人はどんな風にコミュニケーションを取っているのだろうか?

木原「特にないですね(笑)。リンク内でも特に約束事もありません。練習時間にちゃんと間に合うようにするぐらいですね。アップも各自でやっています」
髙橋「私は結構、意見をばんばん言ってしまう性格なんですけど、龍一は言葉をきちんと選んで話してくれるので、私も龍一を見習ってちゃんとパートナーの意見を聞いて納得したうえで意見を言うということを心がけています。だいたい龍一が言うことが正しいので、ちょっと変だなということも聞いています」
木原「五分五分じゃない(笑)」
髙橋「いや、だいたい龍一が合っているので、龍一の意見をきちんと聞くことを心がけています(神妙な顔で)」
木原「何かここだから言えるけど、たまにある機嫌が悪いときは本当にごめんなさい」
髙橋「えへへへっ、それは私もだよ~(笑)」
すでに“夫婦漫才”のように掛け合う二人。お互いを尊敬と感謝をし合い、褒め合うことができる姿に、本当にいいペアができたと確信した。まだまだユニゾンの成熟度は足りないが、少しずつ呼吸も滑りも合ってきており、これからの成長が楽しみなペアであることは間違いない。

新米ペアの髙橋、木原組にとって今回のソチオリンピックは、次回の五輪である2018年平昌オリンピックに向けたスタートラインであり、これからの4年間を迎えるための経験と勉強の場にもなる。この大きなチャンスをどう生かすのかが、二人が今後どういうペアスケーターになりたいかという思いにつながってくるはずだ。

木原「ソチオリンピックでは日本の力に絶対になりたいです。本当に小さな力だと思いますけど、少しでも日本チームに貢献して日本の順位を上げられるように頑張りたいと思います」
髙橋「とにかく自分たちの演技をしっかりして、団体では日本チームの力になりたいと思っていますし、(初めての)ソチオリンピックを楽しみたいという気持ちもあります」

ソチの舞台を経験した二人は、おそらく一番脂の乗った25歳で迎える平昌オリンピックで、日本期待のペアとして多いに活躍する姿が想像できる。

木原「本来はソチではなく、平昌オリンピックを目指す予定だったんです。ソチは団体戦だけは出られたらいいみたいな感じだったのに、いざやってみるとソチが近づいてくるので、(団体だけではなく)ペアの個人種目でも本気で目指したいという気持ちになった。ただ、これからの4年後は正直どうなるか分からないですし、どうなりたいかも分からないですけど、平昌オリンピックは目指せられたら目指したい舞台です」
髙橋「4年後はたぶん4年分の経験値もあって、絶対にもっとうまくなっていると思うし、世界選手権優勝のタチアナ組(タチアナ・ボロソザル、マキシム・トランコフ組)みたいになれたらいいなと思います。けれども、4年分歳を取るので今みたいにぴょんぴょん飛び跳ねてはいないと思いますけど、(25歳で迎える五輪では)しっかりと調整をして最高の状態だといいと思います。(もちろん狙うは?)金メダル!」

髙橋から飛び出した平昌オリンピックでの目標は金メダルという宣言に、隣で澄まし顔の木原はボソッとやる気の一言を口にしたのを聞き逃さなかった。

木原「平昌五輪は25歳で迎えます。そこからですよね、ペアは!」

4年前の五輪は外野で見ているだけだったが、それから激動の4年間を乗り越えて向かうソチオリンピック、さらに4年後、二人がどんな魅力あふれるペアになっているのか、本当にいまから楽しみだ。

TEXT=辛仁夏
PHOTO=ユニコーンフォトプレス

髙橋成美(木下クラブ所属)たかはし なるみ

1992年1月15日千葉県出身。
2004-2005シーズンからペア選手として活躍。2007年からマーヴィン・トランとペアを組み2009-10シーズンのJr.グランプリファイナルで2位。2010年の世界ジュニアで銀メダルを獲得。また、同年マーヴィン・トランとペアを解消。2013年1月、木原龍一と新たにペアを組み、個人・団体ともにソチオリンピック出場を決めた。

木原龍一(木下クラブ所属)きはら りゅういち
1992年8月22日愛知県出身。
2010-12シーズン、全日本ジュニアで総合2位。また、初出場した全日本で12位に入り、新人賞を獲得。2011-12シーズンにはシニアデビューを果たす。2013年1月、ノービス時代から面識のあった髙橋成美と組むために男子シングルからペアに転向。昨年全日本でペア初優勝を果たし、初めてのオリンピックに挑む。

J SPORTS編集部

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