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2019年1月12日、第55回大学選手権決勝、明治大学対天理大学、悲願の初優勝を狙う天理大は終了間際に得たチャンスで敵陣深くアタックを繰り返していた。
ゴールラインを背に明治大は気力を振り絞り、前に出る激しいディフェンスで黒い奔流のような攻撃を食い止める展開が続いていた。
この場面を見ていた時、20年以上前のある試合の記憶が脳裏をかすめた。
1997年度全国大学選手権決勝。この試合は大学選手権三連覇に王手を懸けた明治大学と初の大学王者の座を狙う関東学院大学の対戦だった。
関東学院大の主将は箕内拓郎、そして明治大の主将は22年後にこのチームの監督を務める田中澄憲。
前半終了近く、ゴール前で度重なるペナルティを得た明治大は迷わずスクラムを選択した。
幾度も組み直されるスクラム、圧倒的に攻め込まれる中で冷静にプレッシャーをいなした関東学院大は相手の反則を誘いこのピンチをしのぎ切った。
このプレーをきっかけにゲームの主導権を握って勝利をおさめた関東学院大は大学ラグビーの強豪の一角に新たに名を連ね、明治大はこれ以後長い雌伏の時を過ごす事となった。
ラストワンプレー、天理のスクラムから出たボールがパスをつないでチームの切り札にボールが渡った。
抜ければトライで逆転を許す場面、だがボールは彼の手からこぼれてピッチに転がり次の瞬間長いホイッスルが吹かれた。
タイムアップを確かめるような一瞬の静粛のあと、明治の22年ぶりの大学選手権優勝を確信した大歓声がスタンドから沸きあがった。
チームにモラルを取り戻し、社会人の強豪チームで培ったノウハウを伝統の中に取り入れた監督、そして昨年の決勝で1点差で敗れた悔しさを胸に雪辱を期してこの試合に臨んだ福田健太主将らフィフティーンたちによる対抗戦4位からの覇権奪回だった。
紫紺のジャージは彼らの明治ラグビーへの熱き思いとプライドによってこの日再び輝きを取り戻した。
文/写真:井田新輔
井田 新輔
フォトグラファー。1961年東京生まれ。明治大学政経学部卒。 4年間の会社員生活を経て1989年よりスポーツフォトグラファーとして活動を開始し、現在はラグビー、プロ・アマ野球を中心に撮影を行っている。 ラグビーワールドカップは1999年ウエールズ大会より6大会連続でフルカバー。日本スポーツプレス協会(AJPS)、国際スポーツプレス協会(AIPS)会員。
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