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ラグビーのため大阪の高校へ 早稲田大学で待ち受けていたのは!?
──安藤さんのラグビーとの出会いから聞かせてください。
「父が大阪の高校でラグビーをしていたこともあって、高校でラグビーを始めました。僕は中学まで京都の亀岡市に住んでいたのですが、そこにはラグビー部のある公立の進学校がなくて、大阪に引っ越し、北野高校に入学することになったのです」
──高校でラグビーをすることが前提だったのですね。
「そうなんです。ですから、北野高校がダメだったときのために京都の花園高校の特進も受験していました。北野高校が不合格だった場合は、花園でラグビーをしようと思っていたんです」
──実際にラグビーを始めてみて、いかがでしたか。
「もちろん、練習はしんどかったのですが、1年生の頃から試合に出ることもできて、楽しかったですね。ポジションはずっとセンター(CTB)でした」
──北野高校の戦績はどうだったのですか。
「公立高校の中では強くて、全国大会予選では準々決勝、準決勝あたりまで勝ち進んで、最後は私立の強豪高校に負けて終わるパターンでした。僕が3年生の時は、1年生に東芝、日本代表で活躍することになる廣瀬俊朗がいたのですが、彼が怪我をして、3回戦で四条畷高校に負けて終わりましたね」
──その頃から大学でラグビーを続けることは考えていたのですか。
「もっと勝ち進むつもりだったので、思いのほか引退が早くなってしまったんです。天王寺高校との定期戦が、引退して1カ月後くらいに行われました。久しぶりにラグビーをしたら、一流のところでラグビーをしてみたいという思いが沸き上がりました。中途半端に終わったからでしょうね。それまでは、一浪して京都大学でアメリカンフットボール部に入ろうかと思っていましたが、そこから私立の勉強に切り替えたというわけです」
──そして、早稲田大学ラグビー部に入られるわけですね。入部したばかりの頃、何か衝撃的なエピソードはありましたか。
「衝撃的なことだらけです(笑)。まずはラグビーの実力で圧倒的なレベルの違いを感じました。初めての練習のときのことは今でもよく覚えています。先輩の山崎弘樹さん(卒業後、トヨタ自動車で活躍)が隣にいて、一緒にスタートを切ったら、弘樹さんの一歩目の初速がすごい。あれは衝撃でした」
──部の規律などはどうでしたか。
「当時は1年生にいろんな雑務がありました。僕は上級生の部室を掃除する係になったのですが、先輩の練習が終わらない限り、掃除ができない。個人練習を夜9時、10時までされる先輩もいて、そうなると11時くらいまで帰れないんです。先輩に否定語は使ってはいけないとか、今の世の中では考えられないことが、たくさんありました」
──ラグビーの理論的な部分はどうですか。
「最初に衝撃を受けたのは、シャローディフェンスです。とにかく素早く前に詰めていくディフェンスシステムで、自分がやってきたラグビーの概念にはないものでした。攻撃面では、1年生、2年生の時にワイド戦略がありました。一人一人が立つ間隔を広くとって、ロングパスで攻めるやり方です。とにかく、選手の特徴を生かすにはどうするか、いろんなことを考え、工夫する部でしたね」
──4年生のときに清宮克幸監督がやって来たわけですね。
「清宮さんが監督になって、それまでやってきたことがガラッと変わりました。ラグビーのセオリー通り、FWの強化、基本の徹底などが始まりました。選手の試合ごとの評価をデジタルで出すなどロジカルでもあった。その経験が今の私の仕事に通じている部分があります」
──清宮監督になって、その年に大学選手権で準優勝しましたね。
「春から急に勝ち始めました。いつもは春、夏は弱くて、冬に強くなるのですが、春も夏も、Cチームくらいまで強い。完全に清宮さんが変えたものです。試合中の決め事がかなり細かくなりました。各選手の役割分担、4次、5次攻撃まで誰がどのラックに入るかなど、動きを決めるようになりました。僕は、そういうやり方はプレーが窮屈になるのではないかと思ったのですが、逆に選手に迷いがなくなって、非常に分かりやすくなりました」
自分で努力できたかを決めないでとにかく人より頑張りたい
──卒業後は、ラグビーは続けなかったのですか。
「実は、NTTドコモにはラグビーをする前提で入社しました。当時のNTTドコモは関西社会人Bリーグの下位チームでした。午後6時まで仕事し、週に2回ほどの練習で試合をする。そういう条件で入社したのですが、NTTグループとしてラグビーを強化していくということになって、NTT西日本のラグビー部の人たちが合流し、勤務時間も短くなった。それは僕が望んでいたことではなかったので退部しました」
──そこから起業されるまでの経緯を聞かせてください。
「4年間ドコモで働いた後、当時マザーズに上場したばかりの派遣会社に転職しました。そこで6年半お世話になったのですが、取締役にもなり、企業のトップというものを経験させていただきました」
──その会社では、早稲田でのラグビー経験は生きましたか。
「プレーヤーとしては生きました。伸び盛りの会社で長時間労働は当たり前です。僕は早稲田のときに、理不尽という言葉を使わなくなりました。理不尽というのは、自分の常識と違うだけです。早稲田では、いまいる環境に合わせて、パフォーマンスを上げることが求められました。それが当たり前になっていたので、その環境の中でいかに自分が力を発揮するか、それだけを考えて働きました」
──ラグビーによって、自分が変わった部分はありますか。
「ラグビーでは自分の責任を果たすことを学びました。僕は左目がほとんど見えません。左のタックルが苦手でした。しかし、そんな状況でも責任は果たさなくてはならない。そこは磨かれたと思います。もう一つ。僕は早稲田に入学するまで、努力してできなかったことはありませんでした。スポーツでレギュラーになるとか、受験で合格するとか、努力すればできた。でも、早稲田ではまったくかなわなかった。しかし、よくよく考えてみると、本気で努力した人間はレギュラーになっているのです。自分なりに努力したつもりが、そこは甘かったと思いました」
──そういう選手がいたのですか。
「一年後輩に柳澤というFBがいました。彼はけっして上手くないのに、レギュラーだった西辻という選手について『倒せると思います』と言うのです。何を言っているだろうと思っていましたが、真剣にレギュラーを狙って努力して、彼は試合に出ました。やればできること、一方で努力しないと叶わないことの両方を経験できたのは大きかったです。いま、仕事をするときは、自分で努力できたというのを決めないで、とにかく人よりも頑張ろう、と思っています」
監督や経営者は、チームのために明確な指針を示さなくてはならない──識学に出会われたのはいつなのですか。
「その派遣会社を辞める間際に出会いました。識学が意図している組織運営と、大学4年生の頃の清宮さんの組織運営は似ていました。識学に出会って、なぜチームが強くなったのかが分かった。識学というロジックに有用性があることが理解できたのです」
──具体的に解説していただけますか。
「責任者であるトップが、このチームが勝つために必要なルールはこれです、ということを決め、選手がそれに従う。すると選手たちは迷わずに力を発揮できます。もう一つ、清宮さんは、選手に求める基準を明確に示しました。どういう選手が良い選手なのか、どういうプレーが良いプレーか、どういうディフェンスが良いのか。どこを埋めれば試合に出られるのか明確でした。これもチーム力が伸びる理由でした」
──識学のロジックもそうなのですね。
「識学は組織から誤解や錯覚を取り除きます。ラグビーでいえば、選手としてはしっかりやっているつもりだったのに、監督から評価されないのはなぜか、そのギャップを埋めるということです。良かれと思ってやっている行動が実はチームにためになっていない。こういうことをなくすために、監督や経営者は、何がこのチームのためになるのかを明確に示さなくてはならない。そのあたりが合致していました」
──そこから起業までは早かったのでしょうか。
「識学に出会い、学び、ある会社に常駐させてもらったら、その会社の業績が急速に伸びました。それを経験し、間違いなく行けると思って会社を作りました。現在、株式会社識学は約1000社以上と取引があります」
──株式会社識学では、現在、どんな取り組みをされているのですか。
「識学という独自のロジックを使って、組織運営のコンサルティングをやっています。経営者、管理職の皆さんに、組織を機能的に動かすにはどうすれば良いかを伝えています。それによって伸びている会社は多いですし、スポーツチームにも適用できます。Jリーグチーム、Bリーグチーム、トップリーグチームにも話をさせていただきました」
──最近のスポーツチームはチームビルディングといって、結束力を強くするようなゲームなども取り入れていますよね。これはどう感じますか。
「我々は従業員のモチベーションを上げる、ということは全面的に否定しています。仲良くなるために時間を費やすのは無駄です。ラグビー部の行動でいえば、全員が日本一に向かって一生懸命練習に取り組み、苦楽をともにするから仲良くなるのであって、そのための時間を特別に設けるのは無駄なのです。会社組織は会社の目的を達成するための集団です。そのための時間を費やす必要があります。勝てなければ結果的に誰も幸せになりません」
──今後の目標を聞かせてください。
「識学という考え方をより多くの人に知ってもらいたいですね。株式会社SKEにも識学を導入することになりました。いろんな分野で、識学という考え方が広がる展開を考えていきたいと思っています」
──ラグビーは見ていますか。
「早稲田大学を中心によく見ています。ラグビーワールドカップも日本代表戦はすべてチケットを取りました。最近になってニュージーランド対南アフリカもチケットを取りましたよ。日本代表がどこまで行ってくれるか楽しみにしています」
株式会社識学 代表取締役社長 安藤 広大
1979年大阪府生まれ。大阪府立北野高等学校からラグビーを始め、早稲田大学進学後もラグビー部に所属。卒業後、株式会社NTTドコモを経て2006年ジェイコムホールディングス株式会社に入社。主要子会社のジェイコム株式会社で取締役営業副本部長等を歴任。2013年「識学」と出会い独立。識学講師として数々の企業の業績アップに寄与。2015年、識学を1日でも早く社会に広めるために、株式会社識学を設立。
株式会社識学
「識学を広める事で人々の持つ可能性を最大化する」という企業理念を掲げ、「意識構造に着目した独自の理論である『識学』をより多くの人が知り、活用頂くこと」を目的に設立。
https://corp.shikigaku.jp/
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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