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柔道ワールドツアー今年2つ目の大会、グランドスラム・テルアビブ2021の開幕が今週末(18日~20日)に迫った。この模様はJ SPORTSで生中継される。
先月ワールドマスターズという大イベントが終わったばかりということもあり、選手のラインナップは全体的におとなしめ。当初出場を予定していた全日本チームも国内の緊急事態宣言延長を受けて派遣を取りやめており、各階級これぞという強豪選手の参戦はあるものの、「粒が揃った豪華階級」とまで言える階級は少ない。今回に関しては、注目階級を挙げるよりも「人」にフォーカスするほうが、大会の俯瞰という意味では妥当である。
初めてイスラエルの地を踏むサイード・モラエイ
男子の注目選手は、まず2018年バクー世界選手権81kg級王者のサイード・モラエイ(モンゴル)。ご存じの通りモラエイはイラン出身、この国は政治上の理由からイスラエル選手との試合を認めておらず、対戦の可能性あるとなればたとえ五輪であっても選手に欠場を強要してきた。そんな中で迎えた2019年東京世界選手権、モラエイは会場に乗り込んだ当局の激烈な干渉を振り切って出場を強行。しかし精神面での動揺大きく、対戦を切望していたサギ・ムキ(イスラエル)との戦いに辿り着く前に敗れてしまい、そのまま母国に帰らずドイツに逃れることとなった。そして2年が経ち、モンゴルに籍を移したモラエイは今大会で生涯初めてイスラエルの地を踏むこととなったのだ。既に14日には現地入り、15日にはムキが「My brother」とのメッセージとともにモラエイと肩を組んだ感動的な2ショットをツイッターに投稿し、2人の直接対決なるかどうかに世界の注目が集まっている。ストーリーとしての興味はもちろん、この大混戦階級にあってまだ対戦のない2人の世界王者の試合の様相がどうなるかは五輪本番を大きく左右する、戦力分析的な観点での一大イベント。組み合わせ抽選は18日だが、シード順通りであれば両者の対決は決勝が濃厚。国際大会再開後はまだベストパフォーマンスを見せていない両者だが、地元のムキ、注目を浴びる立場のモラエイのモチベーションはかなり高いはず。ぜひとも見てみたい一番だ。
男子からはもう1人、2019年東京世界選手権100kg超級を制したルカシュ・クルパレク(チェコ)の名前を挙げておく。クルパレクは10月のグランドスラム・ブダペスト大会寸前に新型コロナウイルスの陽性反応が出、急遽欠場。隔離期間を経て強行出場した11月の欧州選手権では当然ながらベストパフォーマンスにはほど遠く、準々決勝でタメルラン・バシャエフ(ロシア)、3位決定戦でグラム・ツシシヴィリ(ジョージア)に敗れて5位に終わっている。テディ・リネール(フランス)がどうやら完全復活し、有力選手の調整度合いが次々明らかになる中で、ワールドマスターズを見送って力を溜めて来たクルパレクがどのくらいのパフォーマンスを見せてくれるかは、五輪本番の序列を測る上での最後の変数と言っていい。アクシデントがあったとはいえほぼ1年以上成績を残していない恰好のクルパレクがどのくらいの仕上がりを見せ、番付のどの位置に座るのか。注目したい。
女子の注目選手はホマーヌ・ディッコ(フランス)、ダリア・ビロディド(ウクライナ)、サハ=レオニー・シジク(フランス)の3人。
国際大会5連勝を狙うホマーヌ・ディッコ
ディッコは21歳、フランス女子最重量級(78kg超級)の新エース。2017年のブダペスト世界選手権では17歳にして男女混合団体戦代表に抜擢され、同世代の素根輝のライバルとして注目を集めて来たスター候補である。怪我もあって以後は目立っていなかったが、2020年1月のグランプリ・テルアビブで優勝すると一気にブレイク、2月のグランドスラム・パリ、11月の欧州選手権、今年1月のワールドマスターズと超ハイレベル大会を全勝。「五輪に向けて伸びるのはディッコ」という全日本強化陣の警戒を裏付ける格好で急成長を果たしている。かつて巻き込み中心で粗かった柔道も、いまや組み手に足技、投技に寝技といずれも完成度高し。今大会で勝てばついに五輪のシード圏内であるワールドランキング8位に手が届く。
ビロディドは48kg級で世界選手権2連覇中の、いわずと知れた絶対王者。しかし173センチという高身長で最軽量級に留まる減量の厳しさゆえか、コロナ明けのパフォーマンスは悪し。52kg級に参戦した10月のグランドスラム・ブダペストは3位、階級を戻した1月のワールドマスターズではこれまで無敗の渡名喜風南に敗れてこれも3位に終わっており、その絶対性が大きく揺らぎつつある。再び自信を取り戻し、ライバルたちにプレッシャーを与えることが出来るか、そして五輪本番にコンディションを合わせるだけの余裕はあるのか。ライバルの影が薄い今大会、結果はもちろん内容に注目したいところ。
シジクは急成長中の本格派。1月のワールドマスターズでは芳田司の上手さの前に敗れて2位だったが、センス溢れる投技に加えて新兵器の腕挫十字固を極め捲り、もっとも目立っていたと言っても過言ではない。あと半年でどこまで伸びるのか、超激戦区57kg級を勝ち抜くだけのメンタルの強さ(この人の最後に残った弱点はここである)は獲得出来るのか。強豪の影薄い今大会で、しっかりその仕上りをウォッチしておきたい。
文:古田 英毅(柔道サイト eJudo)
※2月15日時点のエントリー情報を基に作成しています
古田 英毅
「eJudo」編集長。国内の主要大会はほぼ全てを直接取材、レポートを執筆する。自身も柔道六段でインターハイ出場歴あり。2019年東京世界選手権から、全日本柔道連盟の場内解説者も務める。J SPORTSワールドツアー中継ではデータマンを担当。
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