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2019年ワールドツアー最初のビッグイベント、グランドスラム・パリ大会がいよいよ今週末(2月9日~10日)に迫った。この大会の模様はJ SPORTSで生中継される。
グランドスラムは年6回(※2019年度)行われる最高配点大会であるが「パリ大会」はその位置づけを飛び越えたオンリーワンのイベント。男女合わせて14階級、どの階級もスター選手が密度高く参戦し、パリ国際大会から続く伝統と文化に対する業界全体のリスペクトは今大会も衰えていない模様。会場のエコーホテルズアリーナ(旧ベルシー体育館)の観客席は柔道好きのパリっ子たちに占拠され、選手の国籍に関わらず良い技には拍手、盛り上がればウェーブ。視聴される日本のファンには、試合ばかりでなくこの豊かな観戦文化もぜひ堪能してもらいたい。
しかしエントリーリストを見る限り、今大会の重心は間違いなく、地元開催の東京世界選手権を控える日本勢。この欧州シリーズは世界選手権日本代表の第3次選考であり、2週間後のグランドスラム・デュッセルドルフと合わせた2大会がその山場である。現状の最強国日本が全ての階級に、それも世界選手権の代表争いの核となるエース級を送り込んでいるのだから、このハイジャック状態は当然といえば当然だろう。
というわけで観戦の中心は日本勢。これに例えば男子81kg級のモラエイ(イラン)、女子63kg級のアグベニュー(フランス)ら現役世界王者、世界王者経験者らの強豪を絡めてトーナメントを俯瞰するというのが今大会の見方としてわかりやすいのではないかと思われる。
要は全階級で日本代表選考会が行われているということであり、常の大会のように注目階級を挙げるのは逆に難しい。例えばグランドスラム大阪の強行出場による敗戦を経た60kg級現役世界王者藤直寿と、同じく大阪でライバル丸山城志郎に敗れた66kg級王者阿部一二三の「出直し戦」、今回も凄まじいメンバーに囲まれた2017年世界王者ウルフアロンによる「地固め」、12月のワールドマスターズで自身のフォロワーというべき柔道を繰り広げる若手バシャエフ(ロシア)に敗れた100kg超級影浦心のリベンジマッチと、各階級各人それぞれ語るべき熱い事情があり、短い字数でこれと1つ挙げることはできない。
それでも敢えてと言われれば、81kg級の佐々木健志に注目したい。この階級は全体のレベルが高く、リオ五輪以降ここまでの2年間は競技史上稀に見る大混戦。ワールドツアーの上位入賞者も「日替わり」が常態となりつつあったのだが、ここに来て日本の佐々木が11月のグランドスラム大阪、12月のワールドマスターズとビッグゲームに2連勝中。今大会も勝てば世界的に見ても永瀬貴規以来久々の「81kg級の本命」という存在の誕生がありえる。あまりの攻撃衝動の強さゆえ昨年「自爆」負けを繰り返した佐々木だがこの2大会はセルフコントロールを利かせ、一皮剥けた落ち着いた柔道を披露。王者への階段を上りつつあるとも観察されるさなかにあって、徹底マークを受けるはずの今大会でどんな戦いを見せてくれるか。
海外勢からは90kg級のチェン・シュンジャオ(中国)を挙げたい。リオ五輪では古風な「一本大外」一本槍で優勝候補を次々撃破して見事3位に入賞、翌2017年のグランドスラム・パリでは一転豪快な担ぎ技で「一本」を量産して優勝をかっさらった、あの選手である。実はチェンの国際大会出場はこの時以来。81kg級同様大混戦のこの階級にあっていまだあの爆発的な力を発揮出来るのか。若手ではグランドスラム大阪で飯田健太郎を破って決勝まで進んだカナダの至宝、100kg級のシャディ・エルナハスに注目。世界的にはまだ無名だが、これから必ず出てくる選手である。
ドラマが多すぎて追いかけきれないのは女子も同様。昨年の世界選手権で7階級中5階級を制した日本は全てが注目階級ゆえ、ここは敢えて地元フランスをフィルタとして大会を俯瞰したい。注目は絶対王者アグベニューが大会連覇を狙う63kg級、日本首脳陣が「最大の難敵」と規定するマリーイブ・ガイがワールドマスターズを圧勝した新添左季と対決する70kg級、チュメオとマロンガの新旧エース2人が日本の牙城に挑む78kg級、こちらもルスヴォとオトーヌ・パヴィアの新旧エース共演の57kg級。この中ではクリムカイトと出口クリスタのカナダ勢に、玉置桃、シウバと役者が揃った57kg級が熱い。
個のドラマとしては78kg超級の素根輝とオルティスの対決に注目。素根は世界王者朝比奈沙羅に3連勝しながらグランドスラム大阪決勝でオルティスに敗れ、課題であった海外勢への適性にひとつ疑問を残した。ワールドマスターズではきっちりリベンジしたが、今回連勝となればあの傷は完全払拭、むしろ「海外の強豪に強い」というところまでステージを上げられる可能性がある。
※2月7日時点のエントリー情報をもとに作成しています
古田 英毅
「eJudo」編集長。国内の主要大会はほぼ全てを直接取材、レポートを執筆する。自身も柔道六段でインターハイ出場歴あり。2019年東京世界選手権から、全日本柔道連盟の場内解説者も務める。J SPORTSワールドツアー中継ではデータマンを担当。
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