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モーター スポーツ コラム 2023年6月6日

ル・マン24時間で成功した元F1ドライバーたち。レッドブルのマルコ博士もル・マンウイナーだった | FIA 世界耐久選手権(WEC) 2023 第4戦 ル・マン24時間レース(フランス) プレビュー

モータースポーツコラム by 辻野 ヒロシ
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戦いの舞台、サルトサーキット

戦いの舞台、サルトサーキット

2023年6月10日(土)〜11日(日)にフランスのル・マン市で開催される、伝統の「ル・マン24時間レース」。今年は1923年の第1回大会から100年という節目を迎え、そのアニバーサリーイヤーに総合優勝を狙おうと、日本の「トヨタ」に加え、「フェラーリ」「ポルシェ」など各国の自動車メーカーがチャレンジしてきました。

そんな盛り上がりもあり、今年はジェンソン・バトンやロバート・クビサなど元F1ドライバーたちが15人以上参戦することになり、ドライバーラインナップも例年以上に華やかになっています。

10年ほど前、ハイブリッドのLMP1カーで「トヨタ」「ポルシェ」「アウディ」などが総合優勝を争っていた時代もマーク・ウェバー(ポルシェ)、アレクサンダー・ブルツ(トヨタ)など数多くの元F1ドライバーが起用されていた時代がありました。しかし、近年はメーカーワークスチームの撤退により、F1まで行ったキャリアの持ち主たちの仕事は減少していました。

近年のル・マンで最も成功したF1ドライバーといえば中嶋一貴(トヨタ)、小林可夢偉(トヨタ)、フェルナンド・アロンソ(トヨタ)、セバスチャン・ブエミ(トヨタ)ら「トヨタ」と共に優勝を勝ち取ったドライバーたちでしょう。しかし、彼らが優勝したのは「ポルシェ」や「アウディ」が撤退してしまった後でした。

「ポルシェ」や「アウディ」が居た頃に輝いたF1ドライバーと言えば、今季も「ハース」でF1を走るベテランのニコ・ヒュルケンベルグが真っ先に思い浮かびます。彼は2015年のル・マンに「ポルシェ」からスポット参戦し、アール・バンバー、ニック・タンディというポルシェのGTカー育ちのドライバーと組んで総合優勝を成し遂げています。しかも、F1をフォースインディアのレギュラードライバーとして闘いながらのル・マン優勝でした。

ヒュルケンベルグのように現役のF1ドライバーがル・マンに助っ人として参戦するケースは近年ではかなり稀なことになっていますが、ル・マンの歴史を振り返ってみると昔は当たり前にあることでした。特に第二次世界大戦後の1950年代から60年代はウイナーの名前だけを見ても当時の現役のF1ドライバーの名前がたくさんあります。

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小林可夢偉&平川亮が語る今年のル・マン24時間

50年代や60年代は「F1世界選手権」のシリーズが今ほどブランド化されておらず、公式戦のレース数も年間7戦〜10戦程度。F1ドライバーたちはル・マン24時間などの耐久レースやミッレミリアなど今でいうラリーに近い競技など様々な自動車レースに挑戦するのが当たり前だったのです。今ほどF1とスポーツカーの性能が極端にかけ離れていなかったため、自動車メーカーお抱えのワークスドライバーたちはドライビングの専門家としてありとあらゆるジャンルの競技に出場していたわけです。

当時は24時間レースでもドライバーは2人ですし、パワステもABSも電子制御も十分な安全装備もなし。車内のエアコンやスポーツトレーナーによる身体コンディショニングケアなども全く概念がない時代ですから、寝ずに走り続けた当時のドライバーたちは本当にタフですね。腕一本で勝負できた時代ですし、マシンに性能差があってもクルマが24時間を耐えて走り切ること自体が難しかった時代ですから、運が回ってきてウイナーになれることも。だからこそ当時のドライバーたちは過酷すぎるレースでも参戦するモチベーションを保てたのかもしれません。

60年代には「モナコGP」で通算5勝を飾り、モナコマイスターと呼ばれたグラハム・ヒルが「インディ500」「ル・マン24時間」の世界三大自動車レースに挑戦しました。3つとも出ていた時代にル・マンでは優勝できませんでしたが、ヒルは1972年にマトラ・シムカに乗って悲願の優勝を成し遂げ、世界でただ一人の世界三大自動車レース優勝(トリプルクラウン)を達成。1970年代まで、レーシングドライバー達はまさにオールマイティに活躍していました。

そんな70年代にル・マンで優勝した人の中に、F1ファンにもお馴染みの人物がいます。1971年のル・マン24時間でマルティニカラーのポルシェ917Kを駆り総合優勝を果たしたのが、ドクター・ヘルムート・マルコです。「レッドブル」F1チームのご意見番お爺ちゃんとして、角田裕毅らの記事にも度々登場し、その発言がニュースになるF1界の重鎮ですね。

マルコ博士も元F1ドライバーであることは有名ですが、実は彼のF1デビューはル・マン24時間レースのウイナーとなった後のこと。ル・マンで勝って、F1に乗るチャンスをつかんだのです。マルコ博士は翌1972年にはレーシングドライバーを引退し、同じオーストリア出身のゲルハルト・ベルガーらのマネージャーを務め、後にレッドブルの若手育成のプロフェッショナルとしてマーク・ウェバー、セバスチャン・ベッテルら数多くの優秀なドライバーを見出すことになりました。まさにル・マンに勝ったからこそ今があると言えます。

1970年代には「フェラーリ」のF1ドライバー、ジャッキー・イクスがル・マン24時間にも参戦していました。イクスはフェラーリがル・マンから撤退した後はポルシェから参戦。80年代までに6度のル・マン優勝を達成し、耐久王と呼ばた名ドライバーです。ル・マンの印象が強すぎて、F1での活躍はあまり語られませんが、実はイクスはフェラーリ時代にF1で8勝もマークした凄い人なのです。

1980年代になると、現役F1ドライバーがル・マン24時間のドライバーを兼任する二刀流の時代は終焉を迎えました。グループCカー規定が導入され、耐久レースのシリーズ戦がスタート。1000馬力を誇るプロトタイプカーで強烈な予選アタックを行い、決勝では燃費を考えながらエネルギーマネージメントして走るという、スプリントのF1とは異なる技術が求められる時代になりました。時を同じくして「F1世界選手権」もバーニー・エクレストンの手によって興行としての整備が進められ、レース数も増加。F1と耐久レースはそれぞれの餅屋に頼る時代になっていったのです。

そこで白羽の矢が立ったのが、才能がありながらもF1ではチーム体制に恵まれずになかなか成績が残せなかった元F1ドライバー達です。70年代にF1を走った元F1ドライバー達がベテランとしての実力を頼りにされ、耐久のスペシャリストになっていきました。「ポルシェ」「メルセデス」「ジャガー」「トヨタ」「日産」「マツダ」などF1ではなくスポーツカー耐久レースに価値を見出したメーカーが元F1ドライバー達を雇い、鎬を削ったのが80年代でした。

90年代になると、今度は逆にF1に行けそうな若手や、F1の有力シート獲得のチャンスを逃した若手の起用が目立つように。スポーツカーレースの最高峰クラスがF1と同じ3.5L NAのエンジンを積むレギュレーションに変わり、燃費を競う耐久レースから距離が短めのスプリント耐久に変貌したからです。「メルセデス」は今でいう若手育成プログラムを実施して、才能ある若手を青田買い。その中に居た一人が後のF1ワールドチャンピオン、ミハエル・シューマッハでした。そう、実は1度だけ、シューマッハもル・マンを走っています。

1991年のル・マン24時間に旧タイプのターボエンジン・グループCカー「メルセデスC11」でシューマッハは出場。マツダの優勝が印象的な年ですので忘れられがちですが、実は22歳の若さで24時間レースに挑戦し、5位完走という好成績を残しています。その2ヶ月後にジョーダンからデビューし、ベネトンに移籍し、F1でサクセスストーリーを刻んでいったのは皆さんもご存知の通りです。

時が経ち、ル・マン24時間レースにはまた自動車メーカーが勢揃いしました。来年は「アルピーヌ」「BMW」など総合優勝を狙うメーカーがさらに増え、戦いは激しいものになるでしょう。来年はデータも出揃い、性能は拮抗してくるでしょうから、ドライバーの速さ、実力、安定性がより重要視される時代になります。時代は繰り返すと言いますが、また80年代のように元F1ドライバーというキャリアの持ち主に白羽の矢が立つ可能性が高くなるでしょう。もしかすると、今F1を走っているドライバーやウイナー、元チャンピオンが出場してくるかもしれませんから、F1ファンの皆さんもぜひ今年は元F1ドライバー達の活躍を応援しながら楽しんでみてください。

文:辻野ヒロシ

辻野 ヒロシ

辻野 ヒロシ

1976年 鈴鹿市出身。アメリカ留学後、ラジオDJとして2002年より京都、大阪、名古屋などで活動。並行して2004年から鈴鹿サーキットで場内実況のレースアナウンサーに。
以後、テレビ中継のアナウンサーやリポーターとしても活動し、現在は鈴鹿サーキットの7割以上のレースイベントで実況、MCを行う。ジャーナリストとしてもWEB媒体を中心に執筆。海外のF1グランプリやマカオF3など海外取材も行っている。

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