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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
初のファイナルを目指す都内きっての"お調子者集団"と、2年ぶりの覇権奪還に燃える赤黒軍団の対峙。駿台学園と駒澤大学高の準決勝は、東京高校サッカー界の聖地・西が丘です。
ここ数年は少し苦しい時期が続いていたものの、今シーズンはいきなり関東大会予選で修徳、国士舘、大森学園、帝京と難敵を相次いで下し、準優勝を経験。本大会でも習志野と佐野日大に競り勝ち、最後は桐生第一にPK戦で敗れるも、グループ準優勝に輝くなど、都を超えたレベルで実力を発揮してきた駿台学園。真剣に頂点を狙う今大会も都立福生に4-0、創価に4-1と、持ち前の攻撃力を存分に披露してこのセミファイナルまで。「目標としていた西が丘」(猪田光哉・3年・田口FA)でも、明るく楽しく戦う気概を忘れるつもりはありません。
昨年度の選手権予選はまさかの初戦敗退を突き付けられ、3年連続での全国出場という野望が露と消えた駒澤大学高。リベンジを誓ってスタートした今シーズンも、関東大会予選、インターハイ予選と思ったような結果は得られらませんでしたが、今大会は都立南葛飾に6-0、高輪に4-1と快勝を収めると、クォーターファイナルでは夏の全国ベスト16に入った國學院久我山を2-1で撃破して、西が丘のステージへ。「ここで終わりじゃないので、しっかりと次も勝って、駒陸でも勝って、全国に行きたいと思います」と言い切ったのはキャプテンの齋藤我空(3年・Forza'02)。2年ぶりのファイナルへ向けて、一体感も確実に高まっています。聖地のスタンドは駿台の赤と駒澤の赤が混じり合い、より強烈な彩りに。楽しみなビッグマッチは駒澤のキックオフで幕が上がりました。
「自分たちもこういう大舞台は初めてで、最初は少し心が動いちゃって、テンパっちゃたりした」と駒澤のセンターバックを務める稲井宏樹(3年・FC駒沢)が話し、「意外に緊張しているヤツもいましたね(笑)」と駿台の猪田も笑ったように、ややお互いに硬さの見られた立ち上がりを経て、ファーストチャンスは7分の駒澤。相手DFのクリアミスを拾った池間敦也(3年・宮古島平良中)が左サイドからシュートを放ち、ボールは枠を越えたものの、まずはフィニッシュを取り切ると、駿台も9分には左CKを獲得。布施谷翔(3年・ジェファFC)のキックはニアへ飛び、シュートには至らなかったものの、1つずつチャンスを創り合います。
11分の決定機は駿台。ショートカウンターから右サイドハーフの高根沢翔(3年・田口FA)のパスを、布施谷は絶妙のダイレクトスルーパス。完全にフリーで抜け出した笹本周(3年・S-P FUTE U-15)が迎えた1対1は、うまく飛び出した駒澤のGK宮崎雅崇(3年・Wings U-15)がファインセーブで凌ぎましたが、駿台の11番を背負う鬼才が1本のパスで魅せた煌めき。15分には鮫島貴士朗(3年・足立第十一中)の長いFKに三澤崚太(2年・駿台学園中)が競り勝ち、高根沢のシュートはDFにブロックされたものの、「競り合いとか球際の所では負けないという自信を持っていた」と大森一仁監督も口にした、相手のストロングでも上回った駿台が引き寄せるゲームリズム。
さて、「緊張していたのか一人一人が好き勝手やり出しちゃって」と大野祥司監督も渋い顔を見せた駒澤は、なかなかチャンスを生み出せず。20分に江藤惇裕(3年・坂戸ディプロマッツ)が左から蹴ったFKに、飛び付いた池間のヘディングはゴール左へ。22分に右サイドから山田英生(3年・三菱養和調布JY)が投げ入れたロングスローも、シュートには持ち込めず。逆に24分には駿台も、布施谷が蹴った左CKのこぼれを、高根沢が叩いたボレーは宮崎が何とかキャッチ。直後にもカウンターから布施谷のパスを笹本が運び、右に出したボールは上原飛翔(3年・駿台学園中)がロストしたものの、迫力のあるアタックに意気上がる駿台応援席。
流れに抗う一撃は宮古島出身のナンバー10が。29分に羽鳥陽祐(3年・フレンドリー)が粘って残したボールを、池間は思い切りよくシュート。枠を捉えたボールは左ポストに跳ね返り、詰めた涌井蓮(3年・国立第一中)が右スミへ飛ばした決定的なヘディングは、猪田が驚異的な反応で弾き出しましたが、この一連でノった応援も後ろ楯に、流れは少しずつ赤黒へ。
34分は駒澤。右から江藤が入れたCKに齋藤が競り勝ち、シュートは打てなかったものの、悪くないトライを。36分も駒澤。今度は左から島田竜汰(3年・FC川崎チャンプ)がロングスローを放り込み、こぼれを狙った涌井のミドルはゴール左へ。40分も駒澤。相手陣内で弾んだボールを池間は収めると、少し出ていたGKを見極めつつ、浮かせたシュートはクロスバーを越えましたが、30分前後からボールが収まり始めた池間を基点に、駒澤が押し込み始めた前半は、スコアレスでハーフタイムに入りました。
後半のファーストチャンスは42分の駒澤。島田のドリブルで奪った左CKを江藤が蹴ると、ここは駿台のボランチを務める吉澤翔吾(3年・FCトレーロス)がクリアしたものの、残された40分間への意欲を前面に。43分は駿台に1人目の交替。右サイドバックの三澤に替えて、高橋竜太郎(3年・FC ESFORCO)をボランチに送り込み、田中亮汰(3年・田口FA)が右サイドバックにスライドして、中央とサイドの強度アップへ同時に着手。50分は駒澤も1人目の交替。奮闘した池間を下げて、久我山戦で決勝ゴールを叩き出した原田大渡(2年・FC東京U-15深川)を投入し、一気に押し切る態勢を整えます。
53分は駒澤に絶好の先制機。山田と原田の連携で獲得した右CK。キッカーの江藤は完璧なボールをファーへ届け、齋藤は完璧な折り返しを中へ流し込みましたが、フリーになった小林蒼太(2年・Forza'02)のヘディングは枠の右へ。ピッチもベンチも頭を抱えたものの、「後半は自分たちで立て直せた」(稲井)駒澤が漂わせるゴールの予感。
57分は駿台。左サイドバックの中村海知(2年・駿台学園中)の縦パスから、巧みに反転した布施谷が右足で入れた左クロスに、高根沢が合わせたヘディングは宮崎がキャッチ。58分は駒澤。江藤の左CKから齋藤が頭で打ち下ろすも、鮫島が決死のブロック。60分も駒澤。島田の左ロングスローから、ルーズボールを自ら拾った島田のシュートは猪田がファインセーブ。直後に右から江藤が入れたCKを、ここも齋藤が合わせたヘディングは枠の左へ外れるも、「自分たちはフィジカル面で上回ってるなという自信があった」とボランチの細川竜征(3年・Forza'02)も胸を張る駒澤の続く攻勢。
62分も駒澤。左サイドで粘って中に潜った小林の右足シュートは枠の上へ。「競り合いとか球際の所で駒澤さんの方に若干行かれてるなという状況に持っていかれた」(大森監督)駿台は63分に2人目の交替として、高根沢と鶴岡泰嘉(3年・FC渋谷)を入れ替えましたが、直後も駒澤の決定機。山田の左ロングスローはエリア内にこぼれ、小林が枠へ収めたシュートは、「結構なんか止めていたので、『ああ、当たってんな』みたいな感じでした」と笑う猪田がビッグセーブで回避したものの、駿台にとっては苦しい時間の連続を強いられます。
ただ、布施谷が常に纏う一発の脅威。69分には左サイドで前を向くとアーリークロスを放り込み、上原のヘディングは宮崎がキャッチしましたが、久々のシュートシーンを演出すると、70分に羽鳥がボレーを枠の右へ外した駒澤のチャンスを経て、74分にもセットプレーから決定的なシーンを。左サイドから蹴り込まれた布施谷の正確なFKへ、突っ込んだセンターバックの荻優太(3年・青山SC)は力強くヘディングを枠内へ打ち込んだものの、今度は宮崎が超ビッグセーブで仁王立ち。スコアは動きません。
76分は駿台に3人目の交替。笹本と平田倫太朗(3年・川口幸並中)と前線同士を入れ替え、取り戻したい勢い。77分は駒澤に2人目の交替。羽鳥に替えて、高いキック精度を誇る時田悠人(2年・Y.S.C.C.U-15)をピッチへ解き放ち、セットプレーのさらなる強化を。79分は駒澤。原田のスーパーなトラップから、江藤がストレートボールで右クロスを送るも、小林はわずかに届かず。アディショナルタイムは3分。果たして均衡を破るのは。
80+1分は駒澤。江藤の右クロスから、粘って持ち込んだ小林のシュートはニアを襲うも、猪田が懸命にキャッチ。80+2分は駿台。中盤でボールをカットした田中が右へ振り分け、鶴岡が上げ切ったクロスに上原が飛び込むも、駒澤ディフェンスの前にシュートは打てず。しばらくして西が丘に鳴り響く後半終了のホイッスル。「ホントによく耐えたかなとは思います」と大森監督。0-0。勝敗の行方は、前後半10分ずつの延長戦へ委ねられます。
延長のファーストシュートは駿台。81分に布施谷のパスから、うまくターンした平田の強烈なシュートは枠を襲い、宮崎はファンブルしながらも必死にキャッチ。86分は駒澤。右から時田がFKを蹴り入れましたが、中央でオフサイドの判定。87分も駒澤。時田の左CKはオフェンスファウルで駿台ボールに。89分に小林と山田航(2年・横浜栄FC)を入れ替えると、90分も駒澤。時田の右CKに齋藤が競り勝つも、DFが何とかクリア。90+1分も駒澤。右から山田がロングスローを抜群の飛距離で投げ込むも、DFが懸命にクリア。延長前半を終了してもスコアレス。残された時間はわずかに10分のみ。
94分は駿台。布施谷が右から蹴ったFKは、DFがきっちりクリア。98分は駒澤。左から時田が入れたFKも、掻き出した駿台ディフェンス。98分は駿台に4人目の交替。精力を使い果たした鮫島が下がり、山崎亮(3年・駿台学園中)がこの最終盤にセンターバックのポジションへ。100分に駒澤が切った4枚目のカードは「もう勝つしかなかったギャンブル」(大野監督)。キーパーを宮崎から、「昨日と一昨日の練習で一番PKを止めていた」という礒部幸輝(2年・クラブ世与野)にスイッチする勝負の采配を。100+1分のラストチャンスは駿台。布施谷の左FKは駒澤ディフェンスに弾かれ、100分間でスコアは動かず。ファイナルへの切符はPK戦で争うことになります。
駿台1人目はGKの猪田。都立福生戦では試合中のPKも決めている"駿台のチラベルト"は、完璧なキックを右スミへ成功。駒澤1人目の右スミを狙ったキックは、読み切った猪田が完璧なセーブで弾き出し、早くも両者に点差が付いてしまいます。
駿台2人目の布施谷は、GKを飛ばして中央左へ冷静にグサリ。プレッシャーの掛かる駒澤2人目の江藤は左を選択し、猪田も方向は合っていたものの、揺れたゴールネット。すると、駿台3人目が左へ蹴ったキックは、読みの当たった磯部がビッグセーブ。駒澤3人目の稲井も江藤同様に左スミを狙い、ここも猪田は読んでいましたが、わずかにボールスピードが勝り、ゴールネットへ。3人目が終わって2-2。まったくのイーブンに。
迎えた駿台4人目。少しずつ重圧の増していくタイミングで、蹴られたキックはクロスバーの上へ。駒澤4人目は時田。2年生アタッカーは、この日初めて猪田の逆を突いて成功。外せば終わりの駿台5人目。途中出場の鶴岡は氷の冷静さでGKの逆を突いて左へ成功。そして、駒澤5人目は細川。「2年の時は練習でもいっぱいPKを外していたんですけど、3年になって気持ち的に楽になって、練習でも1回も外したことはないと思う」と言い切った"駒澤のカンテ"は、中央左に思い切り打ち込み、ボールはゴールネットへ突き刺さります。「緊張したんですけど、かなり落ち着いては蹴れたかなと思います」という細川のキックで熱戦に終止符。記憶に残る激闘はPK戦の末、赤黒軍団に揚がった凱歌。執念の駒澤が2年ぶりにファイナルへと勝ち上がる結果となりました。
「ゲームトータルのプランで詰めの甘さが出たかなと思いますね。向こうは徹底しているし、やっぱり凄いなと。PKの所までしっかり準備されていたと思うし、ウチの甘さが出たかなと思いますけど、よく頑張ったと思います」と選手を称えた駿台の大森監督。最後はPK戦での敗退となりましたが、「こればっかりはしょうがないし、外したのは僕が担任の子なので(笑)」と笑顔を見せながら、「まだまだこれから積み上げていかないといけないと思いますし、またここに帰ってきたいと思います。『スマイル・アゲイン』で(笑)」といつも通りの明るさで語ってくれました。
その明るさはキャプテンの猪田も同様。西が丘の雰囲気を問われ、「いやあ、最高っすね。アウェイな感じもそうですけど、全部含めて今までやってきたグラウンドとは違うので、やっぱりいいですね。楽しかったです」と満面の笑顔。「1,2年の頃は全然ダメで、やっと何かいろいろなことが現実的になってきたので、もっとやりたかったというのはありますけど、本当にここまで来れたのもみんなのおかげですし、目標としていた西が丘に立てて、みんなでサッカーができたので、そこは良かったですね」と続けた言葉には充実感が漂っていました。
試合前の集合写真では、メディアの撮影後に全員が思い思いのポーズで"2枚目"を撮ってもらい、円陣時には応援席の歌に合わせて踊ったり、西が丘の舞台でも"お調子者集団"は面目躍如。そのことに関しては「自分たちらしくやるというのは最初から決めていましたけど、少なからず"緊張を隠す"みたいな所もあったと思います。それでも『何でもいいから、やれることを全部やって』というのがウチなので、それも含めて良かったです」と猪田。PK戦が終わった直後。チームで唯一キックを失敗した駒澤の選手が、1人でセンターサークルに突っ伏して泣いていた姿を見て、駿台の選手たちは笑顔でその選手に近寄り、肩を抱いて健闘を称え合っていた光景が、何とも駿台らしくて印象的でした。
もともと今年の3年生は指揮官曰く「どこかで心折れてウチに来た子ばかり」。さらに「技術的には入った時から"最弱学年"って言われていて、1年生の夏ぐらいまでも負けまくっていたので、正直そこでも心は折れているんです」と。そんなチームだったはずの彼らが、ここまで成長して、ここまで辿り着いたことは、大いに評価されて欲しいと個人的には思っています。「本当にみんなとサッカーするのがメチャクチャ好きだったので、もうあんまり一緒にできないというのがちょっと悲しいですけど、全員でやりきったというか、全員で戦えたので良かったです」と最後まで笑顔で言葉を紡いでくれた猪田を筆頭に、2018年の東京高校サッカー界を個性溢れるカラフルな色合いで彩ってくれた、"お調子者集団"に最大限の拍手を。 土屋
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