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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
3年ぶりに聖地で実現した因縁の"十条ダービー"。初の東京制覇へ機は熟した東京朝鮮と、9年ぶりの全国出場を目指す帝京のセミファイナルは、引き続き味の素フィールド西が丘です。
3年連続の西が丘となった昨年度の準決勝では、関東第一に2点をリードされる展開の中で、ラスト5分で追い付く劇的な展開に。最後は延長戦で敗れたものの、素晴らしいゲームを披露した東京朝鮮。ただ、「もう駒沢競技場に目を向けないと、いつまで経っても西が丘止まりだと思うので、西が丘よりもっと先の目標を見つめることにしました」とキャプテンのムン・ヒョンジョン(3年・埼玉朝鮮中)も話した通り、決意を新たに挑んだ今大会では関東大会予選4強の都立狛江を3‐1で下し、修徳にも2‐1で競り勝って、4年連続での西が丘まで。"4度目の正直"とその先を真剣に狙います。
こちらも3年連続で西が丘まで勝ち上がりながら、準優勝、準優勝、3位となかなか久々の全国切符を掴み取るまでには至っていない帝京。迎えた今シーズンも、関東大会予選では成立学園に、インターハイ予選では東京朝鮮に揃って1点差で敗れるなど、悔しい結果を突き付けられた2つのコンペティションを経て、今大会は初戦で都立高島を5‐0で、準々決勝では粘る堀越を2‐1で振り切り、今年も聖地へ登場。2年ぶりのファイナルへ王手を懸けるべく、目の前の80分間へ向かいます。注目の"ダービー"ということもあって、スタンドには5,426人の大観衆が。避けては通れない大一番は、帝京のキックオフでスタートしました。
お互いにやや慎重な立ち上がりを経て、ファーストチャンスは東京朝鮮。13分に左サイドで1トップのキム・チャンミョン(3年・埼玉朝鮮中)が粘り、リ・チャンギ(3年・東京朝鮮中)が放ったシュートは、「自分にできるのは体を張ってチームのためにゴールを守ること」と言い切る、この夏からセンターバックにコンバートされたばかりの梅木遼(3年・ミラグロッソ海南)が体でブロック。直後にホン・リジン(3年・東京朝鮮第一中)が蹴った左CKは、帝京のGK冨田篤弘(2年・FC多摩)がパンチングで回避したものの、まずは東京朝鮮が帝京ゴールを窺います。
さて、少し耐える時間の続いた帝京も手数を。16分に左からレフティの石井隼太(2年・FC東京U-15むさし)が蹴り込んだFKはDFのクリアに遭うも、その流れから石井は縦に付け、佐々木大貴(3年・FC東京U-15むさし)がドリブルから放ったシュートは、ムン・ヒョンジョンが体でブロック。直後に入澤大(3年・FC東京U-15深川)が左から蹴ったCKはゴールラインを割ったものの、ようやくカナリア軍団にも出てきた反撃の萌芽。
ところが、先制ゴールは唐突に。20分の東京朝鮮は左サイドへの展開から、サイドバックのパク・チュンボム(3年・東京朝鮮中)が丁寧なグラウンダークロスを送ると、エリア内でDFがクリアし損ね、ファーで待っていたキム・チャンミョンのシュートはゴールネットを鮮やかに揺らします。この夏からフォワードにチャレンジしていたストライカーが、この大舞台で一仕事。東京朝鮮が1点のリードを手にしました。
「魔物がここにはいるんだよね」と日比威監督が表現したように、ややアンラッキーな形でビハインドを追い掛ける形となった帝京。33分には左サイドから入澤がドリブルで仕掛け、右へはたいたボールを塩入颯斗(3年・横河武蔵野FC JY)が左足で打ったシュートはゴール左へ。34分にも佐々木が粘り強いドリブルから右へ振り分け、塩入の折り返しを三浦颯太(3年・FC東京U-15むさし)が狙ったミドルは枠の左へ。35分にも三浦のパスを受け、右サイドからカットインしながら左足で打った佐々木のシュートはゴール右へ。「仲間で声を掛け合って、どうにかミスした子のモチベーションを上げようとしてやっていました」とは中村怜央(3年・FC東京U-15深川)ですが、同点とは行きません。
36分は東京朝鮮。左サイドで獲得したFKをセンターバックのチョン・ユギョン(3年・東京朝鮮第一中)が蹴り入れ、キム・チャンミョンが高い打点で合わせたヘディングは冨田がキャッチ。39分も東京朝鮮。中盤で前を向いたユン・チス(3年・東京朝鮮中)が枠へ飛ばしたミドルは冨田が丁寧にキャッチ。「前半も1点は取ったんですけど、勝負はやっぱり後半だと思っていました」とは姜宗鎭監督。最初の40分間は東京朝鮮が1点のリードを手にして、ハーフタイムに入りました。
後半もファーストチャンスは東京朝鮮。42分にホン・リジンがヘディングで残し、ユン・チスがボレーで狙ったミドルはクロスバーを越えましたが、44分には決定機。キム・チャンミョンが粘り強くキープし、右からリ・チャンギが枠へ収めたシュートは冨田がファインセーブで回避したものの、追加点への意欲を前面に押し出すと、たまらず帝京も1人目の交替。塩入を下げて、ジョーカー的な役割を任されている中島涼太(3年・練馬石神井中)を送り込み、流れを押し戻すべくサイドの推進力アップに着手します。
47分に飛び出したゴラッソ。高い位置でプ・リョンス(3年・東京朝鮮第五中)がボールを奪うと、リ・チャンギはエリア外から思い切りよく左足一閃。右スミを襲った軌道はポストを叩いて、ゴールネットへ転がり込みます。9番を背負ったアタッカーが、この大一番で見せたスーパーな一撃。東京朝鮮のリードは2点に広がりました。
49分にもホン・リジンがルーズボールを拾い、プ・リョンスのリターンを打ち切ったミドルが枠を越えると、帝京は2人目の交替を決断。日比監督は入澤と石川航大(2年・鹿島アントラーズつくばJY)をスイッチし、ボランチに中村と石川を並べ、三浦を2列目に配する勝負の采配を振るいますが、51分に左サイドから中村が右足で入れたアーリークロスに、「夏にチームに迷惑を掛けたので、今日はやらなきゃという気持ちは強く持っていました」と話す右サイドバックの久保莞太(3年・横浜F・マリノスJY)がボレーで合わせるも、ここは東京朝鮮のGKカン・ブラマ(3年・東京朝鮮第一中)がビッグセーブで応酬。追撃の一手を打ち込めません。
執念を見せたのは「たぶんあのポジションに送られたってことは、点を決めろという指示なので、全力でプレーするだけでした」と話す絶対的な司令塔。54分に久保のパスを受けた石川は、右サイドからアーリークロス。ファーへ潜った三浦はトラップでうまく収めながら、利き足とは逆の右足でボールをゴールネットへ流し込みます。今大会は常に気合を全身から発している三浦の反撃弾。両者の点差は1点に縮まりました。
55分にもショートカウンターから中島が右へ流し、久保の折り返しは三浦に届くも、懸命に戻った東京朝鮮の右サイドバックを務めるチェ・テソン(3年・埼玉朝鮮中)が間一髪でクリアしましたが、56分には東京朝鮮も2枚替え。ユン・チスとプ・リョンスを下げて、「このまま終わらないという気持ちはあったので、切り札として」(姜監督)キム・ヒョンジュン(3年・東京朝鮮第一中)とパク・スンテ(3年・東京朝鮮中)を投入して、全体の運動量の底上げを。59分も帝京。久保、佐々木、三浦とボールが回り、石井のミドルは枠を越えたものの、完全にゲームリズムは帝京へ。
60分の主役もカナリア軍団のナンバーエイト。左サイドでボールを持った石川は、中央を確認しながら右足でアーリークロス。ここに走り込んだ三浦が「目が合って、あそこにピッタリ来たので」ヘディングで合わせたボールは、ゴール右スミへゆっくりと吸い込まれます。「石川が入って全然変わったかな」と指揮官も称賛した石川の連続アシストから、三浦もこれでドッピエッタ。スコアは振り出しに引き戻されました。
「2点目が入って、そこから5分か10分をどうやれるかという所だったんですけど、逆に点数が入り過ぎちゃったんですかね」と姜監督が話し、「2点目が入った時に、チーム全体がいつも通りにやっておけば良かったものの、もっともっととイケイケになっちゃって...」とムン・ヒョンジョンも言及した東京朝鮮。63分にはキム・チャンミョンのポストプレーから、チェ・テソンのクロスにホン・リジンが飛び込むも、シュートには至らず。67分は帝京。カウンターから佐々木とワンツーを交わした三浦が右へ流すも、キャプテンの赤井裕貴(3年・FC東京U-15むさし)はフィニッシュまで持ち込めずにオフェンスファウル。70分は東京朝鮮。パク・チュンボムの左クロスへ、果敢にニアへ突っ込んだハ・ジュノン(3年・東京朝鮮第一中)のヘディングはヒットせず。時間を追うにつれて、集中力の増す梅木と鷲田優斗(3年・FC町田ゼルビアJY)の帝京センターバックコンビ。2-2のまま、ゲームは残り10分間とアディショナルタイムへ。
西が丘に刻まれた新たな伝説。74分に赤井が懸命に頭で残すと、「自分は点を取ることしか考えていなくて、『行こうかな』と思ったんですけど、凄い颯太が呼んできて、相手も自分の所に寄ってきたので」佐々木は丁寧にラストパス。完全に一人旅となった三浦は、飛び出したGKを左へかわし、無人のゴールへボールを送り届けます。「ずっと一緒にやっているので、『大貴が良い所に出してくれるかな』って信じて走りました」という三浦は、この重要な舞台で驚異のハットトリック達成。2-3。とうとう帝京が逆転に成功しました。
このゲームで初めて追い掛ける展開を強いられた東京朝鮮は、74分にアン・ジュノ(2年・東京朝鮮中)を、76分にリャン・ユンデ(2年・東京朝鮮第一中)を相次いでピッチへ解き放ち、昨年のこの舞台でハットトリックを決めているチョン・ユギョンを最前線に上げて最後の勝負へ。77分に右からホン・リジンが蹴り込んだFKは、そのままゴールキックに。78分に左サイドからリ・チャンギがクロスを上げ切るも、チョン・ユギョンのヘディングは枠の上へ。80分に帝京は石井に替えて、山本乾太(2年・FC東京U-15むさし)を投入し、取り掛かるゲームクローズ。アディショナルタイムは5分。最終盤。最後の声を振り絞る両チームの応援席。
80+1分は東京朝鮮。キム・ヒョンジュンが右からロングスローを投げ込み、キム・チャンミョンのヘディングからリ・チャンギが枠内シュートを放つも、冨田が丁寧にキャッチすると、試合を決めたのは「去年はここで負けを経験しているので、今回は自分が決めたいなと思って、ちよっと空回りしていましたね」と笑った10番。80+3分に赤井が粘って左へ付けたボールを、石川はそのまま中央へ。「『スルー』って言おうとしたんだけど、『ス...』しか言えなくて、でも、『ス...』って言ったら颯太がスルーしてくれて、自分も『えっ?』てビックリしちゃって、『来た!』みたいな感じでした」という佐々木は、冷静に右スミのゴールネットへボールを蹴り込みます。ファイナルスコアは2-4。「本当に嬉しかったですけど、自分はこんなに大事なゴールを決めたのは初めてだし、ハットトリックも高校に入って初めてです! 」と笑った三浦の大車輪と言っていい活躍で、帝京が9年ぶりの全国を懸けたファイナルへと勝ち上がる結果となりました。
初めてファイナルへ進んだのは第76回大会。以降で数えると、7度目の西が丘セミファイナルもあと一歩で勝利には届かず、21年ぶりのファイナル進出とはならなかった東京朝鮮。「勝たせてあげたかったなと思いますけど、相手の方が上だったということですね。それは素直に認めないといけないです」と話した姜監督は準々決勝終了後に、「日比さんと僕は同級生なんですけど、日比さんが国立競技場で優勝した時に僕は観客席で見ていましたし、高校サッカーと言えば帝京高校で、僕も子供の頃に憧れていたので、やっぱり絶好の相手だなと思います」と明かしてくれましたが、日比監督も「ウチはインターハイで負けてますから、東京朝鮮も凄く良いチームだし、お互い良い刺激を与えられるのは良かったと思います。こういうゲームができるのは相手あってのことなので、感謝したいですね」と相手へのリスペクトを口に。"十条ダービー"は最後までフェアな好ゲームであったことは記しておきたい所です。
これで日比監督就任後は、3度目のファイナルを戦うことになった帝京。「この5年で3回も決勝まで行っているので、本当に3度目の正直ですよね。ここでダメになると学校自体もサッカー部自体もテンション下がるので、もう一気に行くしかないですよね。勢いに任せて」と口にした指揮官も、間違いなく今年のチームには成長の跡を感じているようです。「最後の最後に決められたから良かったですけど、ちょっと悔しいですね。主役を颯太に持ってかれちゃったので(笑)」と笑った佐々木が、「全国に帝京が出ないと面白くないと思うので、自分たちが出て盛り上げたいと思います」と続ければ、久保も「本当に強く全国に行きたいと思っている人たちが揃っているので、メンバーに入れなかった人の分も、メンバーに入っている人たちが強い気持ちを持って、みんなで全国に行きたいと思っています」と確かな決意を。駒澤大学高とのファイナル決戦は11日。13時15分に駒沢陸上競技場でその幕が上がります。 土屋
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