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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
この10年のファイナルでは3度目の対戦となるビッグマッチ。9年ぶりの全国を目指す帝京と、2年ぶりの東京制覇を狙う駒澤大学高の対峙は引き続き駒沢陸上競技場です。
最後に全国制覇を達成した第70回大会のチームを、主将として牽引した日比威監督が就任したのは4年前。以降は2度の決勝進出を含め、常に西が丘以上の結果こそ出しているものの、頂点には届いていない帝京。今シーズンは「1年生から出させてもらっているので、自分が引っ張っていかなくてはいけない」と話す三浦颯太(3年・FC東京U-15むさし)を筆頭に、1年時からゲームに出てきた選手を多数擁する中で、迎えた選手権予選は準々決勝で堀越相手に苦しみながらも、2-1で競り勝つと、先週の準決勝では東京朝鮮に2点を先制されましたが、三浦が高校入学後は初となるハットトリックを達成し、4-2で逆転勝ちを収めてファイナルまで。「本当に3度目の正直ですよね」と日比監督も話す決戦に、大きな覚悟を携えて挑みます。
東京勢としては久々に2年連続で冬の全国ベスト8まで勝ち上がり、高校サッカー界でも一躍その名を知られる所となった駒澤大学高。ところが、昨年度は都大会初戦で敗れる悔しさを経験し、今シーズンは新たな決意の1年をスタートさせましたが、「Tリーグでも結果が出ていなくて、関東、インハイでも全然手応えがなかった」とキャプテンの齋藤我空(3年・Forza'02)も口にした通り、苦しい時期が続いていた中で、今大会はクォーターファイナルで夏の全国16強の國學院久我山に2-1で勝ち切ると、セミファイナルでは駿台学園相手に粘り強くPK戦を制して、2年ぶりに決勝の舞台へ。「自分たちに矢印を向けて、良い準備をしてやっていきたいと思います」と話したのはセンターバックの稲井宏樹(3年・FC駒沢)。勝負の80分間へ明らかな上り調子で向かいます。スタンドに詰め掛けた大観衆は、なんと11,644人。正真正銘のラストゲームは帝京のキックオフで幕が上がりました。
いきなりの主役は「予選も1点も取れなくて、フォワードなのに全然仕事をしていないので、決勝ぐらいは点を取って終わりたいなと思っていた」というナンバーナイン。6分に右サイドから山田英夫(3年・三菱養和調布JY)が、自ら「ちょっとビックリするくらい」の飛距離でロングスローを投げ込み、ニアで羽鳥陽祐(3年・フレンドリー)が逸らすと、江藤惇裕(3年・坂戸ディプロマッツ)のボレーは左ポストを叩き、リバウンドに突っ込んだ涌井蓮(3年・国立第一中)のヘディングもクロスバーに跳ね返りましたが、そこにも詰めていた羽鳥のヘディングは必死に反応した帝京のGK冨田篤弘(2年・FC多摩)を破り、ゴールネットへ飛び込みます。「あれはみんなで押し込んだみたいな感じで、もう気持ちで押し込みました」と羽鳥も語ったように、何とも駒澤らしい執念の先制弾。早くもスコアが動きました。
「駒澤の勢いと気持ちの強さであそこはねじ込まれたね」と日比監督も話した帝京は、1点を追い掛ける展開に。11分には右サイドバックの久保莞太(3年・横浜F・マリノスJY)を起点に、中村怜央(3年・FC東京U-15深川)が繋ぎ、三浦が放ったミドルは枠を越えるも、1つフィニッシュを取ったものの、細川竜征(3年・Forza'02)と涌井のドイスボランチを中心に、速いプレッシャーを掛ける駒澤の圧力に中盤でのパスワークも分断されるケースが多く、前進し切れません。
21分は駒澤。ミドルレンジから涌井が狙ったシュートはゴール左へ。23分は帝京。中村のパスを塩入颯斗(3年・横河武蔵野FC JY)が残し、佐々木大貴(3年・FC東京U-15むさし)が左足で打ったシュートは枠の左へ。25分も帝京。右サイドで奪ったFKを、レフティの石井隼太(2年・FC東京U-15むさし)が蹴り込むと、体を投げ出した三浦のダイビングヘッドはゴール左へ。ようやく帝京にも攻撃の手数が。
しかし、次に得点を記録したのも赤黒軍団。28分に右から江藤がFKを蹴り入れると、こぼれに反応した涌井は左足でシュート。この軌道を「涌井のボールが速くて、自分の方向に飛んできたので当てるだけでした」と振り返る齋藤が右足でプッシュ。ボールはゴールネットへ転がり込みます。「準決勝は自分がPKを外してしまって、その中でも礒部が止めてくれて、PK戦で勝つことができて、みんなが自分を決勝戦に連れていってくれた感じで、次は本当に自分の番だという気持ちでやっていた」というキャプテンが攻撃面でも大仕事。駒澤のリードは2点に変わりました。
「駒澤さんのサッカーにお付き合いしちゃって、なかなか自分たちのペースにできなかった」(三浦)帝京は、30分に1人目の交替を決断。塩入を下げて、スピードスターの中島涼太(3年・練馬石神井中)を右サイドへ送り込むと、32分に細川のラストパスに羽鳥が抜け出すも、懸命に梅木遼(3年・ミラグロッソ海南)がシュートブロックし駒澤のチャンスを経て、33分にも2人目の交替として、入澤大(3年・FC東京U-15深川)と石川航大(2年・鹿島アントラーズつくばJY)をスイッチしつつ、三浦を2列目に上げて配し、準決勝で逆転まで持って行った「ウチにとってはかなりのリスクもあったし、賭けにも近い形」(日比監督)を選択します。
35分には帝京も、佐々木のパスを三浦が左へ振り分け、石井のグラウンダークロスへ赤井裕貴(3年・FC東京U-15むさし)が走り込むも、副審のフラッグが上がり、オフサイドの判定。39分は駒澤も、左からサイドバックの島田竜汰(3年・FC川崎チャンプ)がロングスローを投げ入れるも、シュートには至らず。最初の40分間は帝京が2点のアドバンテージを手にして、ハーフタイムに入りました。
後半のファーストチャンスは帝京。45分に佐々木のパスを受けた三浦がスルーパスを通すも、走った赤井にはわずかに合わず。46分は駒澤。10番を背負った原田大渡(2年・FC東京U-15深川)の右クロスから奪ったCK。江藤のキックはニアに潜った齋藤の頭に合いましたが、ボールは枠の右へ。50分も駒澤。島田のロングスローがCKに繋がると、左から江藤が蹴ったキックは混戦からゴールキックに。52分も駒澤。「この選手権に懸ける想いは一番強かったと思います」という齋藤が最終ラインから突如としてドリブルを開始し、ぐんぐん右サイドを運んでクロス。ボールはファーに流れたものの、キャプテンが滲ませる勝利への強い意欲。
54分に帝京は3人目の交替。前線で奮闘した赤井を下げて、入学当初はGKだった萩原颯都(3年・FC東京U-15むさし)を左サイドハーフに投入し、前線に三浦と佐々木を並べるスクランブル態勢で、狙う追撃の狼煙。58分には三浦が左へ振り分け、石井のクロスは中島の元へ届くと、佐々木とのワンツーで右サイドを抜け出し、そのまま打ち切ったシュートは、駒澤のGK宮崎雅崇(3年・Wings U-15)がビッグセーブで弾き出し、こぼれを収めた中村のシュートも宮崎がキャッチ。決定的なチャンスを生かせません。
それでも押し込み切ったカナリア軍団。61分に萩原が粘って相手ボールを奪い返すと、三浦はワンタッチで後方へ。いいったんロストし掛けた佐々木が、懸命にボールを残してエリア外から放ったシュートは、完璧な軌道を描いてゴール右スミへ吸い込まれます。途中出場の萩原が見せた執念と、この3年間の帝京を支えてきた三浦と佐々木で手にした1点。たちまち両者の点差は1点に縮まりました。
「帝京には今年のTリーグで2点差を追い付かれた苦い想いがあって、1点取られた後に『また追い付かれちゃうかな』と思った」と齋藤も素直に口にした通り、帝京は必死の圧力を。駒澤も63分には江藤のパスから、涌井がクロスバーを越える左足ミドルを放ちましたが、65分は帝京にセットプレーのチャンス。左から石井が蹴ったボールは駒澤の左サイドハーフに入った小林蒼太(2年・Forza'02)がクリアしたものの、右サイドで拾った三浦は丁寧にクロス。ファーに突っ込んだ久保はわずかに届きませんでしたが、あわやというシーンにボルテージを上げた黄色のスタンド。「今まで追い付いてきているので、流れはあった」と三浦が話せば、「2点ビハインドでも、今の帝京なら跳ね返せると思っていた」と日比監督。鷲田優斗(3年・FC町田ゼルビアJY)と梅木のセンターバックコンビも、後半は取り戻した高い安定感。いよいよファイナルも10分間とアディショナルタイムを残すのみ。
74分は帝京。石井の左クロスから手にしたCK。佐々木が蹴ったボールは、ファーに走り込んだ久保に合うも、ヘディングは宮崎が丁寧にキャッチ。75分は帝京に4人目の交替。中盤で走り続けた中村に替えて、ルーキーの高木翔青(1年・鹿島アントラーズつくばJY)を送り込んで最後の勝負に。77分も帝京。左サイドで萩原が粘り、佐々木が強引に突っ掛けると、ルーズボールを叩いた萩原のシュートは左のサイドネット外側へ。アディショナルタイムの掲示は3分。齋藤と稲井で組むセンターバックを中心に築く駒澤の堅陣。180秒間で奪い合う、全国への扉を開けるために必要な"勝利の鍵"。
80+4分は帝京に訪れたCKのラストチャンス。左から佐々木が慎重にボールを蹴り込み、ファーに飛び込んだ久保が飛び込むも、シュートには至らず、ボールがエリアを出ると、程なくして吹き鳴らされた試合終了のホイッスル。「とにかく優勝できるかできないかはコイツら次第だなと思って、最後は信じ切りました」と大野監督が笑い、「1点取られて『ヤバいかな』と思ったんですけど、我空を中心に守れて本当に良かったです。今年は『去年の3年生のためにも戦おう』というのが自分の中にあって、それで自分の限界を超えてできたのかなと思います」と山田も胸を張った赤黒軍団の大逆襲が結実。駒澤が2年ぶりの全国切符を力強く手にする結果となりました。
今回のファイナルも頂点にはあと一歩で手が届かなかった帝京。日比監督も「やろうとしているサッカーの完成度は、ここ最近のチームで一番高かった。でも、サッカーは良くても結果が伴わなかったことは、彼らに申し訳ないなと思います。どうにか勝てたんじゃないかなと思うんですけどね」と悔しさを滲ませつつ、「やるだけのことはコイツらもやりましたけど、それはどこの高校のチームも一緒だと思うんですよね、駒澤とやって負けてきた所も、ウチとやって負けてきた所も。でも、駒澤高校さんも帝京もたくさんの応援の人が来てくれて、ああいう良い環境でできたのはこの子たちにとっては良かったことですよね」ときっぱり。「全国に行く力はたぶんあったと思うんですよね。やっぱり1人1人の、この大舞台でもちょっとしたちっちゃくならない精神力とか、たぶん普段の練習の積み重ねがちょっと足りなかったのかなと、終わってから思います。でも、自分としてはいろいろな能力を伸ばしてもらって、良いチームメイトにも囲まれて、3年間充実していました」とは三浦。素晴らしいサッカーを構築し、この舞台で堂々と披露したカナリア軍団にも大きな拍手を送りたいと思います。
「ちょっと"でき過ぎ"かなとは思うんですけど、今年の3年生はいろいろな先生からダメ出しされていて、このまま卒業したら肯定感を全然感じないで卒業してしまうと。それだけは教育者として彼らに申し訳ない気がして、もちろん優しくはしないんですけど、そこだけは思っていて、『何とかコイツらに自信を付けさせるにはやっぱり勝たなきゃダメだな』と。『オマエらで優勝して、それを認めてもらえ。それが最大の恩返しだ』と。それで、彼らもその気になって、少なからず学年とか学校にも影響を与えられるようになって、今日は相乗効果で応援していただいけたので、それを見てもらえて良かったと思います」と大野監督。「今年は正直『全国に行くのは無理なんじゃないかな』って思っていた時期もあった」と齋藤も話した過去を振り切るかのごとく、この大会で見せた駒澤の選手たちの成長は、ある意味で彼ら自身の想像を超えていたのかなと。
その背景には、「私は今年一生懸命になればなるほど、采配が外れてうまく行かないんですよ。2年前はやればやるほど当たっちゃうみたいなのがあったんですけど。だから、今年は黙ってようと思って(笑) あまり言わないようにして。だから、準決勝のPKも今まで全部私が決めていたんですけど、自分たちで順番を考えさせたんですよ。アクティブラーニングじゃないですけど、生徒たちが主体的に考えて、考えてやるとサッカーも楽しくなると思うんですよね」という大野監督自身の変化もあったのではないでしょうか。チームでただ一人だけ、2年前の全国ベスト8をピッチで経験している齋藤は「駒澤の歴史としてベスト4以上には行けていないですし、2年前の苦い経験もあるので、その歴史は絶対塗り替えてやろうという想いはあります」と確かな意気込みを。ピッチでも、スタンドでも、その圧力は破壊的。スタジアムを赤い波で覆い尽くす駒澤が、冬の全国へ帰ってきます。 土屋
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